自治体ができる民間委託業務とは?
業務の委託方法やメリットを解説
近年、自治体では自治体内の業務を外部の民間事業者に委託することで、効率化やコスト削減を図る動きが加速しています。人手不足や業務効率化、DXなどさまざまな課題がある中で、一つの課題解決策として役立てられています。
今回は、自治体が業務を委託する背景や委託できる業務内容と委託方法、実際の民間委託を行った事例、民間委託のメリットをご紹介します。民間委託をご検討の際には、役立つ情報です。ぜひご覧ください。
■自治体における業務の民間委託とは
自治体における業務の民間委託とは、地方公共団体が担う事務・事業のうち、一定範囲を外部の民間企業や団体に任せる仕組みを指します。近年は地方分権の進展や財政制約の強まりを背景に、全国の自治体で幅広く導入が進んでおり、公共サービスの提供体制を再構築する有力な選択肢として定着しつつあります。
具体的な対象業務は、公共施設の維持管理、ごみの収集運搬、道路や橋梁の維持補修、上下水道の運転管理、さらには保育所や放課後児童クラブ、障がい者福祉サービスといった住民生活に密着した分野まで実に多岐にわたります。これらの業務を民間事業者に委ねることで、高度な専門知識・ノウハウ、最新設備の導入、柔軟な人員配置といった民間側の強みを活用し、行政サービスの質向上を図ることが可能になります。
導入に当たっては、まず自治体内部で「委託の目的」「想定する業務範囲」「成果指標」を整理・明文化したうえで、公募要領や仕様書を作成し、競争性・透明性を確保したプロセスで受託者を選定するのが一般的です。契約締結後も、業務の遂行状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて仕様変更や指導を行うなど、継続的なマネジメントが欠かせません。こうした一連の流れを適切にデザインし運用することで、自治体と民間企業の建設的なパートナーシップが実現し、地域社会の発展につながることが期待されます。
■自治体が業務を民間委託する背景
まずは近年、自治体が業務を民間事業者に委託する背景と、現在の状況を確認しておきましょう。
●コスト効率化の必要性
自治体が業務を委託する必要性として、コストの効率化が挙げられます。人手不足による業務効率化の必要性から、いかにリソースをうまく活用するかが問われています。
政府が行政業務の外部委託を推進していることも背景に、民間委託による効果が期待されています。特に成功しやすいのは、業務負荷削減によるコスト効率の向上だといわれています。実際に、年間で2,000万円以上ものコスト削減を実現した事例もあります。
●住民ニーズの多様化に伴う柔軟な対応の必要性
近年は、少子高齢化に伴う介護ニーズや女性活躍推進による子育て支援ニーズなど、住民ニーズは多様化および個別化しており、住民一人ひとりに合ったサービスを提供する必要が生じています。その分、柔軟で細かな対応が必要になることは言うまでもありません。自治体職員だけではまかなえない業務を民間委託することが、一つの解決策となり得ます。
●効率性の向上の必要性
職員の働き方改革、人手不足による業務負荷増大などの課題に対応すると共に、民間委託事業者の専門スキルとテクノロジーを利用することの必要性が生じています。
例えば、ある民間委託事業者が、AI-OCRを活用して帳票類の手書き文字を高い精度でデータ化し、従来の業務の生産性を大幅に向上させることができた事例もあります。
■自治体の民間委託で委託できる業務内容と委託方法
自治体が民間委託する際に、委託できる業務内容にはどのようなものがあるのでしょうか。また、具体的な委託方法についてもご紹介します。
●自治体が民間委託できる主な業務の種類
自治体が民間委託できる業務には、主に窓口業務や公金債権回収、施設管理、公物管理、総務業務が挙げられます。
特に多く活用されている窓口業務は、住民からの申請や届出の受付や住民への証明書や通知などの交付、その他の付随する処理などが該当します。具体的には、ワクチンなどの予防接種関連、マイナンバー関連、給付金、助成金、子育て支援事業の申請窓口業務などがあります。
●民間委託する方法
自治体が民間委託するときは、公平性と秘匿性を重視する入札方式で行われています。まず事前に委託したい業務内容を自治体ホームページに掲載し、公募を行います。それを見た民間企業のうち、対応できる企業はエントリーを行い、入札を行います。
選定方法は複数あり、最も低い価格を提示した企業が落札する「価格競争入札」、企画内容と提示金額の両方が選考材料となる「企画競争入札」、企画内容を確認した上で数社に絞り込み、限定された企業の中で価格競争入札を行う「総合評価落札方式」から最適な方法を選定します。
■自治体の民間委託の事例
自治体が民間委託を成功させた事例を3つご紹介します。
●行政事務センターのノンコア事業の委託
ある自治体は、就学援助申請受付、医療費助成年次更新、奨学金申請受付、敬老保持乗車証新規申請受付といった行政事務センターが担うノンコア業務を民間委託しました。
具体的には、各種帳票類や告知ツールの印刷、申請書のセット封入などのアナログ配布業務、コールセンターによる問い合わせ対応や郵送受付などの事務局業務、住民の声や業務効率に対する課題収集などの企画・設計・調査業務などを委託しました。
委託先は、これらの業務を高セキュリティな環境下で個人情報を管理しながら遂行しました。
さらに、現状フローの分析により職員の作業時間を算定し、委託効果を試算。OCRやAI、RPAのDXサービスなどを組み合わせ、フローを見直し、改善後のフローのご提案および改善活動のPDCAも継続実施しました。
これによって、職員は相談や企画といったコア業務に集中できるようになり、市民サービスの品質向上につながりました。
●市民課窓口業務の委託
ある自治体は、市民サービスの向上と行政コストの削減を目的に、市民課の窓口業務を民間委託しました。具体的な業務としては、住民異動届の受付、住民票の写し等の交付、戸籍の附票の写しの交付、地方税法に関する各種証明書等の交付、戸籍謄抄本等の交付など市民課の多様な業務です。
フロアマネージャーの設置や申請書などの記入補助員の常設などが功を奏し、市民サービス向上につながりました。さらに、職員がコア業務に集中できるようになったことで、効率化につながりました。
●特定健診・がん検診の受診勧奨業務
ある自治体では、特定健診・がん検診の受診勧奨業務を民間委託しました。健診受診率の目標値60%に対して35%と低い状況だったことや、受診勧奨の電話アプローチも平日日中の時間帯に限られるため、接触率が低いなどの課題がありました。
民間委託を行った結果、コールセンターを通じて毎月500件のリストから対象者に電話をかけ、受診勧奨および健診予約の受付を行うことができました。土日を含めた朝から夜までの実施で電話がつながりやすくなり、接触率も向上しました。
■自治体の民間委託のメリットとは?
コスト削減や人手不足の解消などの目的を果たすことの他に、ベネフィットとしてのメリットについて、次のことが挙げられます。
●コストパフォーマンス向上
同じ業務を自治体職員が実施するケースと比べて、コスト効率が向上するというメリットが得られる見込みがあります。例えば窓口対応のプロが担うことで、サービス品質の向上や改善、住民満足度の向上につながります。ただの業務代行だけではない、長期的な視点でもメリットがある効果が期待できます。
●災害時のリスク分散
民間委託の際には、業務を民間事業者の施設やセンターで実施することも多くあります。その場合、大規模災害などが発生して、役所や自治体施設が損害を受けたりした際に、業務がストップしてしまうリスクを減らすことができます。業務の継続性という意味でリスク分散につながります。
●サービス品質・住民満足度の向上
民間事業者は、専門的なノウハウを蓄積しており、応対マニュアルや教育プログラム、などの仕組みが整備されています。このような民間事業者が窓口・コールセンター・オンラインチャネルを担うことで、応対スピードの短縮、問い合わせ一次解決率の向上、待ち時間の削減など、住民にとって分かりやすくストレスの少ないサービス提供が可能になります。
また、定期的な顧客満足度調査を通じて継続的な業務改善が図られ、住民の要望を政策やサービス設計に還元できる点も大きな利点です。結果として、「行政サービス=複雑・時間がかかる」という従来のイメージを払拭し、自治体への信頼感・満足度を高めることが期待できます。
●DX・イノベーションの加速
委託先の民間事業者は、クラウドサービス、AIチャットボット、RPAなど最新のデジタルソリューションを多数の自治体・民間企業への導入実績を通じて熟知しています。こうした技術やノウハウを取り込むことで、紙中心だった手続きのオンライン化、データ連携基盤の構築、分析結果に基づく施策立案など、自治体内部のDXを短期間で大きく前進させることができます。
また、外部の新しい視点やアジャイル開発手法が持ち込まれることで、「まず小さく試し、成果を基に改善を重ねる」というイノベーションサイクルが根付きやすくなるのもメリットです。行政サービスのデジタル化が加速することで、住民は場所や時間に制約されずに手続きを行えるようになり、職員側もデータを活用した政策立案や業務効率化に注力できるようになります。
■自治体の民間委託のデメリットとは?
一方で民間委託には、以下のようなデメリットも伴います。
●ガバナンス・責任所在の複雑化
業務を外部に委ねることで、自治体と事業者の間に複数の契約・指揮命令系統が生じ、トラブル発生時の責任範囲が曖昧になりがちです。仕様書に盛り込めなかった業務や想定外のケースが発生すると、追加費用や調整に時間がかかるだけでなく、住民への説明責任も重くなります。委託を進めるほどガバナンス体制やモニタリング手法を高度化しなければならず、管理コストが膨らむリスクがあります。
●ノウハウ流出・内部人材育成の停滞
業務を外部に任せる期間が長くなると、職員が現場感覚や専門知識を蓄積できず、自治体内部のノウハウが薄れていきます。結果として、委託契約の見直しや新たなサービス設計を行う際に、自治体側が適切な要件定義や価格交渉を行えなくなる恐れがあります。長期的には“ベンダーに頼り切り”の体質となり、職員の育成機会やキャリア形成を阻害するデメリットが生じます。
●ベンダーロックイン・長期的コストの上昇
初期導入時にはコスト削減効果が得られても、システム仕様や業務プロセスを委託先に合わせて最適化すると、契約更新時に他社へ切り替えにくくなります。再入札や移行費用、データ変換コストが高騰し、結果的に長期総コストが上振れする例も少なくありません。価格面だけでなく、機能改修の優先度やタイムラインを事業者に依存してしまう点もロックインの一種と言えます。
■成功する民間委託のポイント
自治体が業務を民間委託する際、成功の鍵となるポイントを押さえることが重要です。
まず、明確な目標設定が必要です。自治体が求める成果を具体的に定義し、それを達成するためのKPI(重要業績評価指標)を設定することで、民間企業とのコミュニケーションがスムーズになり、業務の進捗管理が容易になります。
次に適切なパートナー選びが成功の要です。自治体が業務の民間委託を行う際には、企業の実績や専門知識をしっかりと確認し、信頼性の高いパートナーを選定することが求められます。過去のプロジェクト事例や顧客の評価をチェックし、企業の能力を見極めましょう。
また、契約内容の詳細な確認も不可欠です。業務範囲や報酬、納期などを明確にし、双方の責任範囲を明示することで、トラブルの発生を未然に防ぐことができます。特に、自治体の規制や法令に準拠した契約書を作成することが重要です。
最後に、定期的な進捗確認とフィードバックが成功の鍵となります。定期的なミーティングを設け、業務の進捗状況を共有し、必要に応じて改善策を講じることで、プロジェクトの成功率を高めることができます。
自治体が民間委託を成功させるためには、これらのポイントを押さえた戦略的なアプローチが不可欠です。しっかりとした準備と管理を行うことで、効率的で効果的な業務委託が実現できます。
■まとめ
自治体の民間委託の必要性が増している中、いかに効果やメリットを得られる有益な民間委託を実施するかが重要になっています。
効果が期待できると同時にセキュリティの確保や信頼性の高さなど、安心して委託できる民間事業者を選定することをおすすめします。
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2024.10.07