コンタクトセンターにおけるCX課題と改善の進め方
設計のポイントと運用の注意点も解説
コンタクトセンターは、企業と顧客をつなぐ重要な接点であり、CX(カスタマーエクスペリエンス)を大きく左右する存在です。しかし、応対品質の改善やツール導入に取り組んでいるものの、思うようにCX向上の成果が見えないと感じている方も多いのではないでしょうか。
CX向上は個別施策の積み重ねだけでは実現が難しく、設計や運用、評価の考え方そのものを見直す必要があります。この記事では、CXとCSの違いを整理したうえで、コンタクトセンターが直面しやすい課題とCX向上を成功に導く実践ポイントを解説します。
<目次>
1.コンタクトセンターにおけるCXとは
2.コンタクトセンターにおけるCX上の悩み
3.コンタクトセンターにおいてCXが向上しにくい要因
4.コンタクトセンターにおけるCX向上を成功させる実践ポイント
5.CX向上を実現したコンタクトセンターの取り組み事例
6.コンタクトセンターでCX向上を進める際の注意点
7.まとめ
1.コンタクトセンターにおけるCXとは
コンタクトセンターの改善を進めるには、CX(カスタマーエクスペリエンス)とCS(顧客満足度)の違いだけではなく、両者の関係性を正しく理解することが重要です。本章では両者の役割を整理し、なぜCX視点がCS向上や現場改善につながるのかを解説します。
CX(カスタマーエクスペリエンス)とは
CX(カスタマーエクスペリエンス)とは、顧客が企業と関わるすべての過程で得る体験です。コンタクトセンターにおけるCXには、以下のような体験が該当します。
●問い合わせ先や方法が分かりやすく、迷わず連絡できる
●IVRや自動音声が用件に合っており、ストレスなく案内される
●オペレーターが顧客の状況を理解し、話を丁寧に聞いてくれる
●専門用語を使わず、分かりやすい説明がされている
●問い合わせ内容がその場で解決、または次の対応が明確に示されている
●応対スピードと応対品質のバランスが取れている
●応対後に不安や疑問が残らず、納得感が得られる
●過去の問い合わせ履歴が活かされ、継続した対応が受けられる
問い合わせ前の期待からオペレーターとのやり取り、対応後の印象までが一連の体験としてCXを形成します。重要なのは、CXは単発の応対品質ではなく「体験の流れ」で評価される点です。どれほど丁寧な対応でも、つながりにくさや説明の重複などがあれば体験全体の評価は下がります。
そのため、CXは業務設計・システム・情報連携・運用ルールといった、コンタクトセンター全体の仕組みによって左右されます。
CS(顧客満足度)との違い
CS(顧客満足度)は、特定の対応や結果に対して顧客が「満足したかどうか」を測る指標です。一方でCXは、問い合わせに至る背景や対応中の感情の変化、対応後の印象まで含めた総合的な体験という概念です。
たとえば、問題自体は解決できたとしても「待ち時間が長かった」「たらい回しにされた」と感じた場合、CSは一定でもCXは低下します。現場で「対応は間違っていないのに評価が上がらない」と感じるケースの多くは、この違いに起因している可能性が考えられます。
CS改善は部分最適、CX向上は全体最適の取り組みであるため、個人の応対品質ではなく、導線設計や運用ルール、評価の仕組みそのものを見直す視点が欠かせません。
2.コンタクトセンターにおけるCX上の悩み
コンタクトセンターでCX改善に取り組もうとしても、以下のような課題に直面するケースがあります。
●CX改善の効果が見えづらい
●現場の取り組みが継続的なCX向上につながらない
●CX改善の進め方が定まらない
この本章では、CX改善がうまく進まない現場に共通する悩みを整理します。
CX改善の効果が見えづらい
CX改善は成果が数値として表れにくく、取り組みの効果を実感しづらい点が大きな悩みです。CSアンケートや応答率、平均処理時間などの指標を追っていても「本当にCXが向上しているのか」が判断できない場合があります。
その背景には、CXが複数の体験要素の集合体であり、単一のKPIで測りきれないという特性があります。また、改善施策と評価指標が結びついていないため、現場の努力が成果として可視化されないことも要因の1つです。結果として、CX改善が表面的な取り組みにとどまり、次の施策につながらない状態に陥ってしまいます。
現場の取り組みが継続的なCX向上につながらない
現場の努力によって一時的にCXが向上しても、個人の判断や経験に依存した対応では、改善は継続しません。ナレッジ共有や標準化の仕組みが十分に整っていない状態では、取り組みが属人化しやすいためです。
そのため、オペレーター教育や応対品質の向上に力を入れても、体験全体の質は思うように改善しないケースが少なくありません。待ち時間の長さや導線の分かりにくさ、情報共有の不十分さといった構造的な課題が残ったままでは、どれほど丁寧な応対を行っても顧客の評価は上がりにくくなります。
さらに、現場に過度な努力を求める改善はオペレーターの負担増加や疲弊を招き、結果としてCX低下を引き起こす悪循環につながります。
CX改善の進め方が定まらない
CX改善の重要性は理解していても「何から着手すべきか分からない」という悩みを抱える責任者は少なくありません。CXは業務、システム、評価、人材育成など複数領域にまたがるため、全体像を描けないまま部分的な施策に終始してしまうからです。
CX改善には、現状把握から課題整理、優先順位付け、効果測定までを一貫して設計する視点が欠かせません。CX改善の設計が不十分なままでは、取り組みそのものの方向性を見失ってしまいます。
3.コンタクトセンターにおいてCXが向上しにくい要因
CX改善が思うように進まない背景には、以下のような要因が考えられます。
●人手不足や属人化による業務負荷の増大
●システムやテクノロジーの分断
●組織や評価基準のミスマッチ
ここで、CX向上を阻む構造的な課題を理解しておきましょう。
人手不足や属人化による業務負荷の増大
多くのコンタクトセンターでは、人手不足や業務の高度化により、オペレーター1人あたりの負荷が高まっています。その結果、対応品質にばらつきが生じ、顧客体験に差が生まれる状況が発生します。
また、経験や個人スキルに依存した対応が増えると、ノウハウが属人化しやすくなるのも特徴です。こうした状況では、安定したCXの提供が難しくなり、現場の疲弊や品質低下につながる場合があります。
システムやテクノロジーの分断
問い合わせチャネルの多様化に伴い、顧客情報や対応履歴がシステムごとに分断されてしまう場合があります。過去のやり取りが十分に共有されないと、顧客に同じ説明を繰り返させてしまい、手間やストレスを与え、CX低下ならびに自社の信頼低下につながりかねません。
また時間帯や曜日による繁閑差、突発的なトラブルやキャンペーンなどによる問い合わせ集中に対応しきれず、応答率が低下するケースもあります。状況をリアルタイムで把握・調整できないままでは、つながりにくさや待ち時間の長期化を招き、CX低下の要因となります。
組織や評価基準のミスマッチ
CX向上を掲げていても、評価基準や業務KPIがそれと連動していないケースは多くあります。応答時間や処理件数など効率指標が重視されすぎると、CXとのズレが生じやすくなります。CXをどの指標で測定・改善するのかが曖昧なままでは、取り組みの方向性が定まりません。
定量的な指標と定性的な評価が整理されていないと「CXが向上しているのか」「どこに課題があるのか」を判断できず、取り組みが場当たり的になってしまう傾向があります。組織としてCXをどのように捉え、評価するのかを明確にしなければ継続的な改善は難しいでしょう。
4.コンタクトセンターにおけるCX向上を成功させる実践ポイント
CX向上を実現するためには現場の努力に頼るのではなく、顧客視点に立った設計と取り組みを支える運用・仕組みづくりが欠かせません。本章では、コンタクトセンターでCX向上を継続的に進めるための実践ポイントを整理します。
顧客視点でのカスタマージャーニー設計
CX向上に取り組むうえで重要なのは、顧客視点でカスタマージャーニーを可視化することです。問い合わせに至る背景から、チャネル選択、応対中の体験、対応後の印象までを一連の流れとして捉えることで、どこにストレスや不満が生じているのかが明確になります。
多くの現場では応対品質やKPI単位での改善にとどまりますが、顧客は体験全体を通して企業を評価しています。カスタマージャーニー設計を行うことで部分的な最適化ではなく、CX全体を高める視点で改善施策の検討が可能です。
AIと人の役割分担を前提にした運用設計
CX向上を持続させるには、AIと人の役割分担を前提とした運用設計が重要です。問い合わせ対応のすべてを人手で担おうとすると、業務負荷が高まり、品質のばらつきや疲弊を招きます。定型的な問い合わせ対応や一次対応、情報検索などはAIが担い、人は判断や共感が求められる対応に集中することで、体験全体の質を高めることができます。
この際、AIで効率化できる領域と、人が対応すべき領域を明確に分けることが大切です。役割分担が明確でないとAI導入が単なる効率化にとどまり、CX向上につながらない場合があります。AIと人を対立させるのではなく、互いに補完し合いながら価値を生み出す共創関係として運用することがCX向上への鍵です。
応対品質を仕組みで安定させる
CXを安定して向上させるには、個人のスキルや経験に依存しない応対体制づくりが必要です。そのためには、ナレッジの整備や情報共有、業務フローの標準化といった仕組みづくりが欠かせません。属人化した対応が続くと、品質のばらつきが生じ、顧客体験の一貫性が失われます。
ナレッジや応対ルールを明確化し、誰が対応しても一定の品質を担保できる環境を整えることで、CXの底上げが可能です。仕組みで支えることで、現場の負担を増やすことなく、安定したCX向上を実現できます。
VOC(顧客の声)の活用
CX向上には、VOCを継続的に活用する視点が欠かせません。アンケートや通話内容、問い合わせ履歴などに含まれる顧客の声は、改善のヒントが詰まった重要な資産です。
VOCは、内容を分析し「どの体験ポイントに課題があるのか」を把握し、改善施策につなげることが重要です。VOCを現場改善に活かす仕組みを整えることで、顧客視点に基づいたCX向上のサイクルを回すことができます。
CXを意識した教育の実施
CX向上を定着させるためには、顧客体験を意識した教育が欠かせません。応対スキルだけではなく「顧客はどのような体験をしているのか」「自分の対応が体験全体にどう影響するのか」を理解することが重要です。
CX視点を共有することで、現場の判断基準が揃い、現場の対応に一貫性を保てます。また、教育を通じてCXの目的を明確にすることで、現場の納得感や主体性も高まります。CXを理解した人材を育成することで、継続的な改善を支える基盤づくりが可能です。
5.CX向上を実現したコンタクトセンターの取り組み事例
株式会社ファイントゥデイは、シャンプーやスキンケアなど日常的に使うパーソナルケア製品を取り扱う企業です。コンタクトセンターを単なる問い合わせ対応の場ではなく、顧客との関係性を深める重要な接点と捉え、電話やメール、チャット、SNSなど複数チャネルを統合し、顧客情報や対応履歴を一元管理することで、一貫性のある対応を実現しています。
また、FAQやナレッジ整備による自己解決支援も進め、顧客体験と業務効率の両立を図っています。こうした設計と運用の成果は「HDI三つ星評価の獲得」という外部評価にも表れており、CXを仕組みとして高めた好事例です。
具体的な取り組み内容や、CX向上を実現するための設計・運用のポイントをより詳しく知りたい方は、以下の資料をご覧ください。
6.コンタクトセンターでCX向上を進める際の注意点
CX向上は正しい方向で取り組まなければ、現場の混乱や負担増加を招く恐れがあります。この章では、CX向上を進める際に押さえておくべき注意点を解説します。
現状把握と課題整理を行う
CX向上施策を検討する前に、現在のCXや業務状況を正しく把握することが重要です。応答率や処理時間などの数値だけではなく、顧客の体験や現場の運用実態を把握することで、どこに本質的な課題があるのかが見えてきます。
現状把握が不十分なままでは課題と施策が噛み合わず、改善の効果を実感しにくくなります。CX向上の施策を進める際は、顧客視点と現場視点の両方から現在の状況を整理することが大切です。
改善施策を実施する目的を明確にする
改善施策を成功させるためには「何のために実施するのか」を明確にすることが重要です。目的が曖昧なままでは、施策の優先順位や評価基準が定まらず、十分な成果につながりにくくなります。
たとえば、応答率を改善したいのか、顧客の不満を減らしたいのかによって、取るべき施策は異なります。目的を明確にすることで、一貫した施策選定や効果測定が可能です。
現場の負荷や不安を事前に考慮する
CX向上の取り組みは、現場の協力があってこそ成立します。新たな業務フローや改善施策が、現場の負担増加や不安につながると、定着せずに終わる可能性があります。
新しい施策やツールの導入に対して、オペレーターは「業務が複雑になるのではないか」「評価が厳しくなるのではないか」といった不安を抱きがちです。事前に目的や背景を共有し、現場の声を取り入れながら進めることで、改善を前向きな取り組みとして浸透させることができます。
CX指標と業務KPIを連動させる
CX向上を継続的に進めるためには、CX指標と日々の業務KPIの連動が欠かせません。処理件数や応答率といった効率指標のみを重視すると、顧客体験の質が後回しになる恐れがあります。
CX指標を業務KPIと結び付けることで、現場は「どの行動がCX向上につながるのか」を理解しやすくなります。評価軸を揃えることは、CXを一過性の施策ではなく日常業務に定着させるための重要なポイントです。
7.まとめ
コンタクトセンターにおけるCX向上は、応対品質の改善や新たなツールの導入といった個別施策だけで実現できるものではありません。顧客は一つひとつの対応ではなく、問い合わせ前から対応後までの体験全体を通して企業を評価しています。そのため、CX向上を継続的な成果につなげるためには、現状把握と課題整理を起点に、設計・運用・教育・評価指標までを一貫して見直す視点が必要です。
CX向上に向けた設計の進め方が定まらない、AI活用やデータ活用をどう業務に落とし込めばよいか分からない、といった課題を抱えている場合は、専門的な知見を有するパートナーの活用も有効な選択肢です。現場の負荷を抑えながら、CX向上を仕組みとして定着させたいとお考えの方は、ぜひ一度、TOPPANまでお気軽にご相談ください。
2026.05.19



