“かんたん・低コスト”での温度計測を実現
「温度ロガーラベル」開発の舞台裏
地球温暖化による異常気象の影響や、グローバル輸送の拡大を背景に、「温度管理」の重要性はこれまで以上に高まっている。医薬品や化学品にとどまらず、品質や安全性を担保するための温度記録は、さまざまな業界で不可欠な要素となった。
一方、温度ロガー機器※(以下、温度ロガー)は高機能である反面、コストや運用負荷が導入の壁になることも少なくない。すべての製品や輸送に本格的な機器を使うのは、現実的でないケースもある。
こうした課題に対し、“温度管理をもっと簡便に出来るようにしたい”という発想から開発されたのが、TOPPANの「温度ロガーラベル」※である。温度管理の“新常識”となるべく、開発時にこだわったことは何だったのか。デバイスとアプリ開発の担当者に話を聞いた。
※本コラムでは、温度ロガー機器を「温度ロガー」
TOPPANが開発したラベル型温度ロガーを「温度ロガーラベル」で記載しております。
【登壇者プロフィール】
| IoTソリューション事業部 IoT本部IoT開発二部 仁瓶 広誉 氏 TOPPANに入社以来、ICカードの発行管理からキャリアをスタートし、現在は複数のICや部品を組み合わせた新規デバイスの開発に従事。回路・基板・筐体設計といったハードウェア領域から、組み込みソフトウェア開発まで、製品化における全工程(フルスタック)での開発経験を持つ。 技術者として現場を牽引する傍ら、販促、商流構築、契約関連といったビジネススキームの構築にも深く携わり、モノづくりの「上流から下流まで」を体現し続けている。 |
| IoTソリューション事業部 ICT本部IT二部 石井 万琴 氏 TOPPANに入社以来、デジタルキー領域における特許調査および出願業務を通じ、最先端技術の権利化・知財戦略に携わる。その後、IoTプラットフォーム担当として、先行調査やパートナー企業の選定に従事。 現在は温度管理ロガーのプロジェクトにおいて、ベンダー管理から仕様策定、テスト、アプリリリースまで、温度ロガーアプリ開発・運用の全工程を牽引している |
温度ロガーとは?TOPPANの「温度ロガーラベル」の特徴
温度ロガーとは?
温度ロガーとは、一定時間ごとに温度を自動で記録し、その履歴をデータとして保存できる装置のことを指す。あらかじめ設定した間隔で温度を測定し、内部メモリに蓄積することで、輸送や保管の過程でどのような温度変化が起きたのかを、後から確認できるものだ。「いつ・どこで・どういった温度変化があったか」を可視化することで、製品の品質管理を可能とする。
※温度ロガーに関する詳しい説明は、「温度管理の必須ツール!『温度ロガー』活用の基礎知識」をはじめ過去公開したコラムをご参照ください。
TOPPANの「温度ロガーラベル」の特徴
TOPPANが開発した「温度ロガーラベル」の特徴はなにか。デバイス開発に携わった仁瓶氏は次のように話す。
仁瓶氏「当社の『温度ロガーラベル』は、スマートフォンをかざしてデータを素早く簡単に取得できる点が特徴です。グローバル輸送が当たり前になった現代において、輸送先でデータを取得するためのインフラ構築が不要な点は、大きな導入メリットになると考えています」
データ取得のしやすさに加えて、薄型であることもポイントだ。厚さはわずか1.0mm。名刺サイズで、シール面がついているため、輸送用の箱などにも貼りやすい。
なぜ今、「多機能」よりも「導入しやすさ」なのか
「温度ロガーラベル」が開発されたきっかけには、地球温暖化による異常気象や活発になるグローバル輸送が背景にある。これまでは化学品や医薬品といった、いわば温度管理が必須だった業界で使われてきた温度ロガーが、酒類や食品などのさまざまな業界で求められるようになったのだ。しかし、従来の温度ロガーでは市場が求める新たなニーズに対応できなかった。
仁瓶氏「これまでは比較的高単価な商材に温度ロガーが使われてきたため、高機能で高性能な機器が主流でした。そうなると、もちろん温度ロガーの機器自体も高価になります。しかし、温度管理を必要とする業界が中〜安価な商材へと裾野が広がったことで、“低コスト”での温度管理が求められるようになってきたのです」
そこでTOPPANは、RFIDを使ったラベル製造技術を応用し、“かんたん・低コスト”な温度管理ツールの開発に乗り出した。
RFIDとは、電磁波を使いICタグの情報を非接触で読み書きする技術で、在庫管理などに多く使われている。TOPPANではすでにRFID製品を複数開発しており、この技術に温度管理機能を合わせることでコストを抑えた温度ロガー製品ができると考えた。
仁瓶氏「コストを抑えるには、既存のRFIDタグの製造ラインを利用しなければなりません。そこで課題となったのが、電池部分です。製造ラインに組み込みやすく、かつ“低コスト”な電池を探す中でたどり着いたのが「印刷電池」でした。印刷プロセスで成形されるため、非常に薄いのが特徴です。この印刷電池を使ったことで、薄くて“低コスト”の温度ロガーの実現に大きく前進しました」
“かんたん”を実現すべく、使いやすさを徹底的に追求
温度ロガーラベルの開発では、その操作性にもこだわったという。まず前提としたのはスマートフォンでの操作だ。従来の温度ロガーは、データを収集する際にパソコンなどの外部機器にUSBや有線で接続するタイプが多い。多くの情報量をやり取りする場合はそうした方法が有効だが、TOPPANがめざすものはあくまでも“かんたん・低コスト”なデータ収集。そこで、NFCという通信技術を採用し、スマートフォンで読み取れる機能を搭載した。
NFCとはRFIDの一種で、近距離での通信を得意とする技術。身近なものでは交通系ICカードやスマートフォン決済に使われている。この技術を使うことで、専用の機器やパソコンを使わずに、現場で簡単にデータの収集が可能となった。
データ収集の次に取り組むべきは、データの表示方法や活用部分の使い勝手だ。スマートフォンで簡単に収集できるからには、アプリ操作も易しくなければならない。そんなアプリ開発に起用されたのは、 IoTプラットフォーム担当として、先行調査やパートナー企業の選定に従事していた石井氏だった。
石井氏「右も左もわからない状況で、先輩に助けられながら開発を進めました。もっとも気を使ったのは、いかにわかりやすく表示するかという部分です。もともとこの製品は機能が絞られていて、測定開始と測定終了、温度ロガーの状態確認、測定データの読み取りの4項目しかありません。そのため、それらをさらに使いやすく見せるデザインを考えました。具体的には温度経過をグラフで表示したり、データをメールに添付できる機能などを備えています」
実際に温度ロガーラベルをスマートフォンで読み取ると、すぐに温度経過がグラフで表示され、特別な操作を必要としない。また、管理者にデータを共有する際も、「メールを送る」をタップするだけでデータが添付された状態でメール画面が開かれる。この操作性ならば、時間に追われる物流現場での導入もスムーズだろう。
量産化に立ちはだかる品質の壁と計測精度への挑戦
順調そうに見えた「温度ロガーラベル」の開発だが、そこにはいくつかの壁があった。
仁瓶氏「いよいよ工場での量産へ、という段階になって問題になったのは、品質の均一性です。海外の工場で製造しているため、日本との品質感覚に違いがあります。私たちが求める水準に到達するまでには、困難がありました。たとえば、『温度ロガーラベル』は表面が白いので、小さな汚れでも目立ってしまいます。『それだけ』と言えばそれまでですが、そうした外観の細部にもこだわることが、製品管理の維持には重要なことと考えました」
アプリ開発では、スマートフォンの機種による違いに苦戦したと石井氏は振り返る。
石井氏「ご利用いただく現場では、さまざまなスマートフォン が使われています。スマートフォンごとにNFCアンテナの位置が異なるため、読み取りテストに苦戦しました。最終的に、市場で多く使われている機種に絞って検証することに。表示される画面サイズも機種ごとに微妙な差異があるため、そうした部分の調整も一定の範囲に限って対応することに決めました」
温度ロガーにとって、温度そのものと同じくらい重要なのが「いつ、その温度になったのか」という時間情報だ。しかし本製品は常時通信を行う仕組みではないため、内部時計の精度には限界がある。そのまま使用すると、計測時間が少しずつずれてしまうという問題があった。
石井氏「『温度ロガーラベル』では、測定開始時と終了時にスマートフォンをかざしたタイミングの時刻を基準とし、内部で記録されたデータを補正する仕組みを採用しました。この補正作業が私のなかでは最も大きな改修でした。スマートフォンの時刻情報を基にすることで、より正確な時間軸での温度履歴が表示できるようになったと思います」
ただし、使い切り型である本製品には記録回数の上限がある。測定回数が上限に達し自動停止した場合は、時刻補正が行えないという課題は残されたままだ。
仁瓶氏「こうした仕様については、ご利用方法を一緒に検討していくことが必要」
“低コスト”を維持するための取捨選択
2023年4月に販売が開始されて以降、さまざまな企業に活用いただいている「温度ロガーラベル」。シンプルな機能で低単価を実現した本製品に寄せられるお客様からの期待は大きい。仕様に関するご意見も多数いただき、その都度アップデートを重ねてきた。
石井氏「アプリの仕様上、画面を遷移させると取得したデータが消えてしまいます。お客様からこの仕様に関するご意見を複数いただき、画面遷移の前に注意書きのポップアップ表示を行う変更をしました。初めてアプリを使う人も同じエラーを起こさないよう、こうした細かい配慮は必要だと感じています」
実際の現場で使われて初めてわかることも少なくない。「温度ロガーラベル」の需要が広がれば広がるほど、製品自体の機能やアプリの使い勝手についていただく声も増えた。「スタンバイ機能」は、お客様の声をもとに追加されたものの1つだ。
物流現場では、測定開始の操作から実際の輸送開始まで待機時間が発生することがある。ラベルの設定を行ってから荷物に貼付する場合などだ。この場合、実態とデータにズレが生じてしまう。そこで一定時間後に計測をスタートする「スタンバイ機能」を追加した。
一方、従来の機器の10分の1の価格を実現するため、ある種の割り切りも必要だ。一定の事象については、運用面での工夫も避けられない。
温度管理の“新常識”へ。広がる活用の可能性
温度ロガーはこれまで、限られた場所でしか使われてこなかった。しかし「温度ロガーラベル」によって“かんたん・低コスト”な計測が実現したことで、活用の幅が広がっている。その一例が、製品開発時のテストでの利用だ。
「温度ロガーラベル」は薄型のため、機械部品の一部に貼り付けて温度の計測ができる。スマートフォン1つでデータ取得が可能なため、作業場所も選ばない。こうしたこれまでにはない活用例が、今後も増えていくと仁瓶氏、石井氏は期待する。
仁瓶氏「製品としてまだまだ多くの可能性がある『温度ロガーラベル』ですが、まずは導入企業様に喜んでいただけていることを嬉しく思います。“かんたん・低コスト”を優先させ、機能を絞り込むことで、従来品の10分の1という価格帯を実現しました。結果として『このシンプルさで十分』という評価をいただけたことに、手応えを感じています。これまで温度ロガーを導入できなかった企業様にとって、満足いただけると思います」
石井氏「『温度ロガーラベル』はBtoBだけでなく、BtoCにも活用の機会があると考えます。アプリをダウンロードして温度ロガーラベルをスマートフォンで読み取るだけなので、誰でもすぐに利用できるからです。通販で食品を購入したときに、しっかり温度管理されているのがわかると、消費者の立場としても安心感があります。将来的には商品や製品の付加価値として『温度ロガーラベル』が活用されることを願っています」
さいごに
温度管理における具体的な課題は業界や現場によって異なりますが、共通して言えるのは「記録と検証」が必要なこと。
TOPPANの温度ロガーは、輸送・保管中の温度管理を簡単にするICラベルです。
一定時間ごとに温度を自動で記録し、その情報をICチップ内に蓄積、スマートフォンの専用アプリ(TEMPROGⓇ)で簡単に読み取ることができます。
ご利用中の現場からは、「薄型・小型で扱いやすく、発送先からの返却も不要なため、運用が非常に楽になった」と、高く評価されています。
詳しい使い方や導入方法については、ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
2026.08.07
