IoTとは? 意味から仕組みや技術、事例、セキュリティまで、企業が知っておきたい知識
スマートシティやDX推進など、企業や組織を含めた社会全体の大きな取り組みが進んでいることを背景に、IoTの価値がさらに高まってきています。IoTという言葉もずいぶんと定着してきており、実際、すでに生活やビジネスの多様なシーンで導入・活用されています。そして、今後、さらなるIoT化による未来の利便性向上や効率化が期待されています。
ここで、改めてIoTとは何かという基本的な意味をおさらいしておきませんか? 仕組みや技術、事例、セキュリティまで、今、企業として知っておきたい知識をご紹介します。
IoTとは?意味、事例、セキュリティ事情について
IoTとはどのようなものなのでしょうか。まずは概要を解説していきます。
IoTの意味
IoTとは「Internet of Things」の略で、日本語では「モノのインターネット」と訳されます。これは、従来のコンピュータやスマートフォンだけでなく、自動車、家電製品、センサーなどあらゆる「モノ」がインターネットに接続され、相互に通信を行うことを指します。この技術により、物理的な世界とデジタルの世界が融合し、新たな価値やサービスが生まれています。
IoTはビッグデータの収集源としても非常に重要で、集められた膨大なデータは分析され、消費者の行動パターンの理解、製品の改善、新たなビジネスモデルの創出などに利用されます。しかし、セキュリティの問題やプライバシー保護、データ管理の課題も存在し、これらを解決するための技術開発と法的枠組みの整備が求められています。
IoTの普及は、スマートシティ、スマート農業、ヘルスケアなど、さまざまな分野で革新をもたらし、私たちの生活をより便利で効率的なものに変えていくことが期待されています。
IoTの仕組み
IoTの仕組みは、センサーやカメラによるデータ収集、データの無線通信を介した転送、インターネットを通じたデータの集約・分析、そしてその結果に基づくアクションの実行という一連のプロセスを通じて、効率化、自動化、最適化を実現します。
身近な例では、スマートホームシステムが挙げられます。家庭内の照明、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などがインターネットに接続され、スマートフォンアプリで遠隔から制御できるようになっています。また、セキュリティシステムでは、ドアや窓に取り付けられたセンサーが不審な動きを検出し、所有者に通知すると同時に警備会社にも情報を送るなど、安全性の向上にも寄与しています。
IoTゲートウェイとは
そしてもう一つ、IoTを実現するのに欠かせないのが、IoTゲートウェイです。IoTを稼働させる際に、センサーなどの端末と遠隔地にあるクラウドサーバがインターネットを介してデータのやりとりを行いますが、その通信の中継する役割を担うルータのような機能を備えた機器をIoTゲートウェイと呼びます。
IoT機器の例
先ほどご説明したようなIoTの仕組みが搭載されたIoT機器について、ある程度イメージが湧いたかもしれません。具体例として、次のようなものがあります。
・スマート家電
家電分野の中で、スマート家電はすでになじみ深いものとなっています。例えばスマートフォンに専用アプリをインストールし、スマートフォンをリモコンとして家電を操作したり、家電の運転状況やデータをアプリ上で管理・確認したりできるものです。
・自動運転車
スマートカーなどとも呼ばれる近未来型自動車の代表的な技術が自動運転です。その自動運転にもIoTが使われています。車にセンサーやAIなどを搭載し、センサーが収集した走行状況や位置情報のデータをAIが分析。その分析結果を車に伝送することで、データに基づいた運転を自動で行うという仕組みとなっています。
・ネットワークカメラ
IoT技術を利用した有名な機器としてはネットワークカメラが挙げられます。ネットワークカメラでは、カメラをインターネットに接続することができるため、遠隔地からスマートフォンなどでカメラを操作したり、映像を確認したりすることが可能となります。防犯や子ども・ペットの見守りなど、さまざまなシーンで既に活躍している IoT 機
器と言えるでしょう。
・産業用機器
産業分野でもIoTはすでに多く活用されています。機器にセンサーを搭載し、取得できる周辺情報や稼働状況のデータをセンサーによって取得、送信することで検査や観測、検知を行います。これにより、人手による定期的な確認作業を削減します。
IoTの機能
IoTは、具体的にどのようなことができるのか、その機能を見ていきましょう。主に4つのことを行うことができます。
モノを操作する
例:エアコンの電源のON・OFFをスマートフォンから行う
離れたところにあるモノを遠隔から操作する機能です。例えば、外出先から電源をON、OFFを切り替えたり、動作状況を確認し、適切な状態に設定するなど、その場にいなくとも操作をアプリ上でインターネットを介して実施できます。
モノの状態を知る
例:カギが締まっているか外出先からスマートフォンで確認し、施錠、解錠を行う
モノに搭載されたセンサーが情報を取得し、インターネットを経由してデータを送信することで、モノの状態を遠隔地から知ることのできる機能です。
スマートホームなどでは玄関のカギをスマートフォンで制御できますが、カギがかかっているかという状態の確認もスマートフォン上から行うことができます。
モノの動きを検知する
例:人感センサーによって高齢者を見守る
モノや人の動きから、状況の変化を確認する機能です。
先ほどの「モノの状態を知る」は「状態」を検知する機能でしたが、この機能は動きを検知するものです。検知にはセンシング技術を用います。産業分野では人が立ち入るのが危険、もしくは困難なエリアにIoT機器を設置し、遠隔から変化を把握することは広く行われています。
異常が見られた場合に、自動で環境を調節する仕組みにすれば、人員削減にもつながることが期待できます。
モノ同士で通信する
例:信号機からのデータを自動車が受信し速度を自動調整する
モノとモノの間でインターネットを経由し、データを送受信し合うことで、複数の電子機器を自動的に動作させる機能です。
例えば、自動運転車では、信号機からのデータ受信により、自動的に速度を落として安全運転を促すといったことが可能です。
また、エアコンと照明を連動させ、就寝時に部屋の電気を消すと、エアコンも自動OFFにするといった設定を行うこともできます。
IoT市場の今後について
現在、IoT市場は目覚ましい成長を遂げており、「スマートシティ」の構築から「自動化」の推進、「リモートモニタリング」の実現に至るまで、社会のあらゆる側面でその影響力を拡大しています。
スマートシティでは、街のインフラをインテリジェントに管理し、交通流の最適化やエネルギー消費の効率化などを図ることができます。自動化の分野では、製造業をはじめとする多くの産業で、作業の自動化によって生産性の向上が実現されており、リモートモニタリングによっては、遠隔地からでも設備の状態を監視し、迅速な対応を可能にしています。
またリモートワークの急速な普及により、自宅での効率的な仕事環境を整えるために、IoTデバイスへの需要が大幅に増加しました。企業はオフィスだけでなく、従業員の自宅においても生産性を維持、向上させるためのソリューションを模索しており、IoT技術がその鍵を握っています。例えば、スマートスピーカーやコネクテッドデバイスを通じて、在宅勤務者のコミュニケーションやタスク管理がより容易になります。
企業がIoT技術の進化に適応し、競争優位を維持するためには、市場の動向を常に注視し、戦略的な投資を行うことが必要です。IoTへの投資は、単に既存のプロセスを改善するだけでなく、新たなビジネスモデルの創出や市場での差別化を実現する機会を提供します。
その他にもIoTは、ビジネスの効率化だけでなく、顧客のニーズに応える新しいサービスや製品の開発、さらには完全に新しい市場の創出にも寄与する可能性を秘めています。このように、IoTは今後のビジネスランドスケープを形作る重要な要素であり、その可能性を最大限に活用することが、持続可能な成長とイノベーションへの道を切り開く鍵となるとされています。
IoTの活用事例・分野
IoTは、多様な機能を持つことが分かりましたね。では、それらの機能は、実際、どのように使われているのでしょうか。現在、次のようなさまざまな業界・分野・シーンで活用されているのです。
物流
物流業界においては、IoTによるトラックの自動運転技術やドローン活用などの取り組みが進められています。また倉庫業務の効率化として、「RFタグ」という商品情報が書き込まれたタグを専用の機械で読み取るシステム「RFID(※1)」の利用が進んでいます。無線通信利用によってある程度離れている場所からもタグを読み取ることができるため、業務効率化が期待できます。
また、物流現場においては、IoTのセンサーによる位置情報とカメラ映像を連動した、クラウド型IoT監視も行われています。工場全体の統括管理や現場監視の資産・文書管理、製造現場の材料・製品のトレーサビリティ(※2)向上など、倉庫・物流の業務効率化に活用されています。
※1 RFID:Radio Frequency Identificationのこと。電波を用いて、専用タグの情報を非接触で読み書きできる自動認識技術。
※2 トレーサビリティ:商品の原材料の調達から生産、消費、廃棄までのすべての過程を追跡可能な状態にすること。もしくはその技術。
製造業
製造業においては、工場内でIoTやAIを活用し、機械や生産工程をインターネットで遠隔管理する方法が導入されています。現状把握が遠隔から行えるため、機械の故障・在庫不足・発注ミスなどを未然に防ぐことができます。また、エネルギーの使用状況を可視化する手段としてもIoTは活用されています。
農業
農業では、IoTセンサーで日射量の測定や水や肥料の供給タイミングや量の調整などを行うことができます。また、ビニールハウス内の温度管理などにも利用されています。
医療
人体に身につけるウェアラブルデバイスにより血圧や脈拍などのデータを収集し、医療機関に送信することで異変時に迅速なケアが受けられる仕組みが開発されています。
交通
道路状況や電車などの運行状況をIoTによって検知し、生活者や事業者が活用することで、利便性向上を目指す取り組みも進められています。
小売
在庫管理の自動化、顧客行動分析、スマートシェルフなど、データ駆動型の意思決定を支援し、効率化と顧客満足度の向上を実現します。またリアルタイムでの情報共有により、売り場の最適化とコスト削減が可能となります。
IoTセキュリティ事情
さまざまなシーンで大活躍中のIoTですが、実は課題もあります。
その大きいものがセキュリティです。近年、IoT機器におけるセキュリティの脆弱性が問題視されています。データの盗聴や改ざん、乗っ取りなどの脅威が年々増えており、ニュースでも多く報じられているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。IoT機器はパソコンやサーバーなどと異なり、セキュリティ上、無防備な状態でインターネットに接続されているケースが多いため、狙われやすいという欠点があります。
また、IoT機器は、ライフサイクルが長い傾向があることもセキュリティを強化しなければならない理由です。
このことから、IoT機器自体とクラウドへの接続を含めたネットワーク環境全体における強固なセキュリティ対策が必要となっています。
具体的な対策としては、例えば、IoT機器自体の重要データを保護する組み込み型ICチップを利用することや、IoT機器がクラウドへ接続するための暗号鍵・証明書の配信を一括管理し、ライフサイクル全体で、通信環境におけるセキュリティを高めるサービスなどを導入することなどが考えられます。
いずれにしても、IoTは今後も導入が進んでいくと考えられることから、よりセキュリティについても強固にしていく必要があります。
企業におけるIoT導入のステップ
IoT技術は、ビジネスの効率化とイノベーションを推進する鍵です。しかし、その導入は計画的なステップを踏む必要があります。以下、法人向けにIoT導入のためのステップをご紹介します。
目的と目標の明確化
IoT導入の最初のステップは、目的と目標を明確にすることです。何を達成したいのか、どのような問題を解決したいのかを定義しましょう。これが、効果的なIoT戦略を策定する土台となります。
現状分析と要件定義
現在のビジネスプロセスやシステムを分析し、IoTソリューションが満たすべき要件を定義します。データの種類、量、セキュリティ要件などを考慮に入れることが重要です。
プラットフォーム選定
多様なIoTプラットフォームから、ビジネスのニーズに合ったものを選定します。スケーラビリティ、互換性、コストなどを検討し、将来的な拡張性も見据えた選択が求められます。
パイロットプロジェクトの実施
大規模な導入前に、小規模なパイロットプロジェクトを実施することで、リスクを最小限に抑えます。実際の運用を通じて、問題点の洗い出しや改善策を見つけることができます。
実装と評価
パイロットプロジェクトの結果を踏まえ、全体への実装を進めます。その後は、定期的な評価を行い、IoTシステムの最適化を図りましょう。
IoT導入は、これらのステップを踏むことで、ビジネスの持続的な成長を支える強力なツールとなり得ます。効率的な運用と継続的な改善により、企業は競争優位を確立することができるでしょう。
IoTの活用事例
最後に、IoTの実際の活用事例を見てみましょう。オフィス、スマートシティ、農業の分野におけるTOPPANのご支援事例をご紹介します。
オフィス
社員の働きやすさを実現するために、IoTを活用して便利で快適なオフィス環境をつくる取り組みが、多くの企業で行われています。
ある企業では、オフィスにおいて共有スペースや会議室の利用状況の確認や、消灯・施錠管理の煩雑さや座席ごとの気温調整などの課題があり、打ち合わせスペースに人感センサー、会議室に照度センサーやドアセンサー、フロア各所に温度・湿度・CO2といった室内環境を検知するセンサーを設置し、オフィス環境を見える化しました。
各センサーがキャッチしたデータをサーバーに送信し、フロアに設置した大型モニターや個人のPCでいつでも閲覧できるようにしたことで、社員からは「打ち合わせスペースや会議室の状況を確認、利用しやすくなった」という反響が多く寄せられました。
スマートシティ
ある市では、野生のイノシシなどが農地を荒らす被害が増えており、捕獲の際に広範囲を定期的に人が見回るのは大きな負担となっていました。
そこで捕獲実績のある場所3カ所に罠を設置。罠はイノシシが檻に入ると扉が閉じるようになっており、安定した通信環境の整備と共にIoTセンサーを設置しました。扉に反応したアラートをPCやスマートフォンで受け取ることができる仕組みを構築した結果、見回りの人的負担の軽減が図れるとともに、捕獲時の迅速な連絡と回収が可能になりました。
農業
ある農場では、気象や空気・土壌・水の状態を15種類のセンサーで計測し、クラウドに集積されたすべてのデータをスマートフォンやPCなどにより、手軽に手元で管理できるIoTソリューションを導入しました。農作業の計画や作業実績などの記録も行うことで、関連する情報を一括管理することに成功。データを活用した、より効率的で生産性の高い農業を実現しています。蓄積されるデータは、栽培や営農の貴重なノウハウとなり、情報資産の蓄積ともなります。
まとめ
IoTの基本的な知識をご紹介してきました。
IoTは、近年需要が高まっている分野であり、大いに注目されています。まだまだ開発途上の分野も多くありますが、未来のスマートシティやスマート工場、スマートホームを実現するために欠かせない存在となっています。
これを機に、IoTへの理解をさらに深めて、事業活動に役立てていきましょう。
2023.04.21