事例紹介

まちの情報集約・発信サービスが
防災や業務効率化に貢献!
「PosRe®」が自治体DXを牽引

長野県の北部に位置する飯綱町。主要産業は農業で、りんごやお米などを中心に行われているが、特に高品質のりんごが採れる町として古くから知られている。りんごの国内生産の内1%を占めると言うから量的にも相当なものだ。また、飯綱東高原の日帰り温泉を中心に、スキー場、ゴルフ場など年間を通じて多くの観光客が訪れる。

同町では、主要産業としてのりんご栽培やさまざまな観光資産を最大限活かしながら、同時に町内の課題解決やさらなる活性化、住民サービス向上などを目的としたDX推進にも積極的だ。そのような飯綱町が自治体DX向けのツールとして今回採用したのが、TOPPANが提供するまちの情報集約・発信サービス「PosRe®(ポスレ)」だ。PosRe®によって何を実現し、どのような課題を解決しようとしているのか、同町 企画課 企画係 DX推進室長 笠井 竜介氏にお話を伺った。


飯綱町 企画課 企画係 DX推進室長 笠井 竜介氏

自然豊かな町の安全と安心を守るために

日本一のりんごの町を目指し、官民挙げてユニークな取り組みにチャレンジ

飯綱町は、2005年(平成17年)に牟礼村と三水村の2村の合併により誕生。江戸時代には武州(江戸)と加州(金沢)とを結ぶ宿場町として栄えた。豊かな自然と水資源を活かし、りんごやお米をはじめとする農業が基幹産業だ。

「飯綱町では、後期基本計画(第2次飯綱町総合計画後期基本計画)において、同町を『日本一のりんごの町にする』ことを表明しています。その実現のために、りんごを活用したさまざまな施策を進めている最中です。りんごの残渣を原料とした『りんごレザー』という革製品を開発したり、町内で栽培する40~50種類余りのりんごがプリントされたTシャツを商品化したりするなど、官民挙げてユニークな取り組みにもチャレンジしています」と笠井氏はりんごのまち飯綱町ならではの取り組みを紹介した。

住民の安全のため毎日欠かさず町内各所の見守りを続ける職員の負担が課題に

同町は長野市から約30分で移動できるにもかかわらず、田園風景が広がるのどかな町だ。しかし、自然環境に恵まれているが故の悩みもある。

「中山間地域ですので、山中に配水池が多く存在し、また、猪や鹿などの獣が多く出没するため罠なども設置されています。それらを町としてもしっかり管理しなければなりません。しかし、周辺に電源が確保できなかったり、携帯電話の電波も通じにくかったりするところも多いため、職員が現地まで赴いてそれらの状況を確認しています。相当の時間をかけて現地に行き、配水池の水位や水の流入状況などを目視するわけですが、毎日となるとさすがに負担が大きく、それが大きな課題でした。また、山中に設置した罠の見回りも同様にすべてを見回る必要があり、猟友会の皆さんの負担は大変大きなものでした。」と、笠井氏はそのように中山間地域ならではの課題を説明した。

実際の水位の確認は、平日は町の職員が、土日は外部の人材センターに依頼して365日欠かさず見回っていた。水位だけではなく、配水池に異常がないか、水が正常に流れているかなども確認する。違和感があれば上流の状況も見る。また、罠の確認は、見回りの手間ももちろんだが、相手が獣だけに危険も伴ってくる。

臨機応変な対応力と住民向けスマホアプリへの連携の容易さからTOPPANのPosRe®を採択

住民向けスマートフォンアプリ「iなび いいづな」を先行開発

実は飯綱町では、住民へのサービス向上施策の1つとして、住民向けスマートフォンアプリ「iなび いいづな」の開発を2022年(令和4年)度から別途進めていた。

「他社のアプリでも我々が考えるような機能を実現することはできたのですが、一から作ったほうが細かな要望を実現できることや、個人情報流出の懸念などもあり、独自のネイティブアプリを開発することにしました。しかしPosRe®とAPI連携することで、これまで検討したさまざまな課題の解決が見込まれたため、PosRe®導入を進めました」と、笠井氏はTOPPANのソリューション導入検討の経緯を話した。

iなび いいづなとPosRe®とのAPI連携による情報集約でポータルサイト化を目指す

そして、TOPPANに前出の課題について相談して実現したのが、今回導入した自治体向けソリューションだ。情報集約・発信サービスであるPosRe®に、IoTセンシングサービスなどを統合。「iなび いいづな」とAPI連携した。TOPPANのソリューションを採択したのには、その他にも理由がある。

「まず、町内にTOPPAN様がサテライトオフィスを設けていただいたおかげで、もし何かイレギュラーなことが発生しても即座に対応いただけるのではないかという期待がありました。また、まだリリースして間もないサービスだということもあり、我々のさまざまな要望に対して臨機応変かつ迅速に対応していただきました。これから先、当町と一緒になって成長していけるサービスなのでは? と感じ今回のソリューションを採択したわけです」と、PosRe®採用の理由を笠井氏は述べた。

サービスイン後の話も含まれるが、河川の水位情報に加えて雨量の情報をセンサーで取得し、住民にもその情報を開示できる環境を整えた。さらに、獣等が出没した場所を職員が簡単に地図上にプロットして公開できるような改修を行った。実際先日「iなび いいづな」でアンケートを取ったところ、防災情報を見ている方が予想以上に多かった。大雨などの際に住民の方が河川の状況を見に行くと、大きな危険にさらされることになる。加えて、消防団員は河川の水位を見回らなければならないので、さらに危険だ。

「今回開発した『iなび いいづな』の開発コンセプトは、住民アプリをポータルサイトとして位置づけて、そこを起点にさまざまな住民サービスにつないでいきたい、というものでした。必要に応じていろいろな情報が閲覧できたとしても、見たい情報があちらこちらのサイトに分散していたのでは非常に手間がかかり、判断も難しくなります。PosRe®とAPI連携することで、さまざまな情報を集約してアプリ上またはアプリを通じて提供することができるので非常に利便性が高く、それがPosRe®採択の大きな決め手になりました」と、笠井氏は今回のPosRe®採用時のポイントを挙げた。


さまざまな情報を統合し、住民サービス向上と業務効率化に貢献

情報集約サービスとIoTセンシングソリューションをワンストップソリューション化

住民からの通報、河川・危険箇所の見回りの情報をPosRe®で一元管理

今回TOPPANが飯綱町に提供したソリューションは、元々リモート水位監視システム「スイミール®」や遠隔獣害対策「リモワーナ®」などの形で提供していた遠隔地の水位情報や罠情報などを、まちの情報集約・発信サービス「PosRe®」に集約してそれらの情報をワンストップで利活用できるようにしたものだ。上記の他にもさまざまなデータを集約/統合できる。

スイミールやリモワーナは、IoT向けの低消費電力広域ネットワークLPWA規格の「ZETA」を利用し、携帯電話の届かない場所や人があまり踏み入れない場所に設置した多地点のセンサーなどのデータをローコストで取得できるのが特徴だ。地方自治体のDXを推進するためのソリューションと言っても良い。もちろんPosRe®でもこれらの特徴をそのまま継承している。飯綱町では、前出のような水位や罠などデータに加えて、雨量や温湿度などさまざまなセンシングデータの活用に挑戦し、可能性を広げつつあるのが特に注目されるところだ。

住民からの通報に素早く対応、安全で適切な災害対策も実現

サービス開始から1年と3カ月余り(2024年7月時点)。実際には次のように利活用されている。まず、町役場の係ごとにアカウントを付与して、そのアカウントから直接センサーデータを閲覧できる環境を整えた。加えて、住民アプリ経由で住民の方から寄せられるさまざまな通報や情報に対しても、各担当から状況に即して直接返信している。

「住民からの通報・情報提供で一番多いのが、倒木による道路の通行止めです。PosRe®導入により、スマートフォンなどで撮影した画像に位置情報を付加して情報が送られてくるようになりました。これによって事前に詳しい状況が把握でき、例えばどのような道具を持って行けば良いのかが通報時点で判断できます。以前のように現場と役場間を何往復もするようなことがなくなることで迅速に対応できるようになり、同時に我々の労力も半減しています」、笠井氏はPosRe®による情報集約の効果をこのように感じている。

その他にも、町内各所から収集したさまざまなセンシングデータの活用も進んでいる。例えば職員だけではなく、住民の方も水位や雨量データにアクセスできるようにした。これにより、主要な用水路を管理している住民の方が、水位データを見ながら水門を開け閉めし、細かな水の量を調整。安全なやり方で災害を未然に防ぐことができている。
「国庫補助で災害復旧を行うためには、災害基準を満たす雨量の観測が広範囲で必要となります。近年の豪雨は、短時間で局所的な傾向にありますが、これまでは町内に雨量計が2カ所しか設置されていなかったため、基準を満たすための観測データが不足し、国庫補助対象とならないケースが多くありました。PosRe®導入後は、町内広域に雨量センサーを設置できたため、観測データを十分に取得することができ、財政面の負担軽減に大きく貢献しています。」と、PosRe®導入にはこのような効果があることも笠井氏は説明した。

町と共に成長し、なくてはならないサービスに

防災の観点からは、大きな災害が発生する前にその予測ができたり、被害を最小限に抑えて減災したりすることが可能だ。遠隔からスマートフォンやパソコンで情報の整理や予測ができることがポイントとなる。例えば、大雨発生時に町内各所の雨量や河川水位の全体像を把握して、それに基づいて具体的にどの地域にどのタイミングで避難指示等を出すべきなのか、より的確に判断できるようになる。

「現在は当町で独自設置したセンサーのデータを集約していますが、将来的には国や県が設置している河川水位計などのデータも取り込んで、災害時に役立つ情報すべてをPosRe®上に集約できれば、非常にレベルの高いサービスが提供できるのではないかと考えています。さらにハザードマップなどを必要な時に重ねてみたり、災害情報をプロットしていけるようになれば、災害対策本部などでの活用も見込めます」、このように笠井氏は防災・減災へのPosRe®のさらなる貢献を期待している。

「現在でも、サイコロセンサーによる店舗の営業・混雑状況の共有や、マルチ環境センサーなどを活用したスマート農業の推進など、 PosRe®の活用領域を広げつつあります。これからも町と一緒になって成長し、飯綱町になくてはならないサービスになってくれればとてもうれしいですね」と、笠井氏は話を締めくくった。

2024.07.22