ICT活用による
鳥獣被害防止対策省力化実証試験で
成果の手応えを得る
有害鳥獣被害対策を進める宮城県加美町では、2021年末から2022年2月にかけて、TOPPANの「リモワーナ®」を利用した実証実験をおこないました。様々なソリューションがあるなか「リモワーナ®」が実証試験対象に選定された理由や、実際に利用してみての効果やメリット、今後の導入計画などについて、加美町鳥獣被害対策実施隊の皆さんや、加美町産業振興課 鳥獣対策係長 の大場 政之輔 氏にお話をお聞きしました。
【リモワーナ®導入のポイント】
1.LPWAの独自規格「ZETA(ゼタ)」を用い、比較的低コストで運用できる
2.罠による捕獲状況監視以外に、河川氾濫や土砂災害の予兆監視などでも使える
イノシシによる農作物被害が5年間で9倍に
宮城県北西部、山形県との県境に位置する人口約28,000人の加美町。近年、農業・林業を担う人材の減少や高齢化とともに、野生鳥獣による農作物の被害が増加、対策に頭を悩ませています。特に、生息地を町全域に拡大しつつあるイノシシの被害額は、平成28年度の277万円から令和2年度は1,268万円と、5年間で約9倍に急増。有害鳥獣被害額全体の8割強を占めるに至っています。
町では、農地への侵入を防止する電気柵や防護ネット、爆音機の設置支援や、銃器や罠による捕獲など、有害鳥獣被害防止対策事業に力を入れておられますが、下の図の被害額の推移からも見て取れるように対策が追いつかない状況です。捕獲については、地域の狩猟免許取得者の協力を得て鳥獣被害対策実施隊を結成。報酬・手当の予算を確保したうえで、罠の設置や見回り、周辺パトロールなどの活動を委託しているが、隊員数は38名(2021年4月1日現在)に過ぎず、新規免許取得者の伸び悩みもあり、大幅な増員は見込めない現状です。「狩猟者はリタイアしてから“第二の人生”としてはじめる方が多く、高齢者が中心となります。体力的なこともあり、限られた人数でエリア内をすみずみまで目配りできなくなっています」と語るのは、加美町鳥獣被害対策実施隊 副隊長の高橋 照幸 氏です。
下記図:5年間の推移(全体被害、イノシシ被害、イノシシ捕獲頭数)
低コスト運用や汎用性の高さを評価し「リモワーナ®」を選定
「リモワーナ®」は、次世代LPWA規格「ZETA(※)」を活用し、くくり罠や箱罠の捕獲状況を遠隔で監視するサービスです。罠センサー、基地局および中継器、クラウド型の監視システム(SaaS)などで構成され、罠による捕獲(の可能性)をメール通知することができます。
ZETAについてはこちら
比較的低コストでの運用が可能なことや、罠による捕獲状況監視以外に、河川氾濫や土砂災害の予兆監視などでも使える汎用性が評価され、実証実験対象ソリューションに選定されました。「現在加美町ではDX事業に取り組んでおり、リモワーナ®については、今回の用途以外にも、農地や直売所など様々な場所での監視システムなどでも活用できるのではと考えました(加美町産業振興課 鳥獣対策係長 大場 政之輔 氏)」
罠見回りの省力化“以外”において様々な効果(メリット)を確認
今回加美町では、対策実施隊のアドバイスにもとづき途中で罠設置場所を追加するなど試行錯誤の結果、実証実験期間内に100kg超のイノシシを捕獲しています。県全体のデータと比較して捕獲効率の低下など機器設置による影響は確認されませんでした。一方リモワーナ®の作動状況ですが、未捕獲での通知が複数回あったものの、上記2頭についてはメール通知がありスムーズな捕獲につながりました。
Mapion(マピオン)
©ONE COMPATH 地図データ ©GeoTechnologies, Inc.
なお、今回のリモワーナ®の実証実験では、罠の見回り回数削減には至っていません。その理由として、対策実施隊の皆さんは下記3点を挙げておられます。
【理由①】安全を維持・確保するうえで、毎日の見回りが欠かせない
設置した罠によって、あるいは罠にかかった獲物によって、山菜採りで山に入った人が怪我をするなど、万が一事故が発生した場合、責任を問われるのは罠を設置した狩猟者である。このため、罠を設置していることを明示する看板を設置するなど、細心の注意が求められる。罠に獲物がかかっているかどうかの確認だけでなく、こうした周囲の安全を維持・確保するためにも、毎日の見回りは欠かせない。
【理由②】状況変化にあわせ、罠の設置場所を臨機応変に変更する必要がある
特に、意図せず熊が罠にかかってしまった場合、罠を見回る狩猟者の安全が脅かされるだけでなく、罠にかかった熊を放したり捕殺したりする負担が大き過ぎるため、罠に熊が近づいた痕跡がないか日々目を光らせる必要がある。また同時に捕獲対象のイノシシについても、罠に近づいた痕跡がないかを日々確認して、一定期間そのような痕跡がなければ罠を移設するといった判断も必要になる。
【理由③】正しく作動するよう罠センサーの状況を確認する必要がある
リモワーナ®は、獲物がかかった(可能性がある)場合メールで知らせてくれるが、それはあくまで捕獲センサーなどが正しく設置・設定されている場合。木の枝が落ちてきてぶつかったり、鳥や猿などが触れたりすることで、罠にかかっても作動しなくなる可能性もあり、日々の見回りでチェックする必要がある。
導入効果
このような理由から、加美町の場合、リモワーナ®導入前後で見回りの工数負担に変化はなかったものの、それ以外について、下記のような導入効果(メリット)が対策実施隊から報告されました。
【効果 1 】捕獲~止め刺しまでの時間を最短化
加美町の対策実施隊では、毎日、朝7時前後からお昼過ぎに駆けてすべての罠を見回っているが、見回り直後に罠に獲物がかかった場合、翌日見回りに行った際に止め刺しすることになる。だが、リモワーナ®導入によって、日没前であれば再出動して速やかに止め刺しができるようになる。捕獲後迅速に対応することで、罠にかかった大型のイノシシが暴れて、ワイヤーが切れたり、足が千切れたりして逃げてしまうリスクが減る。
【効果 2 】通知のあった罠に向かう際の安全確保
リモワーナ®による通知メールが届いた場合は、獲物がかかっていることを想定し用心して罠に近づくようになる。不用意に獲物を刺激して攻撃されたり、獲り逃がしたりを回避するのに役立つ。
TOPPANではさらなる機能強化を目指して開発を進める計画
今回の実証実験を経て、対策実施隊の皆さんからは「捕獲通知のメールだけでは、本当に捕獲されたのか確証が得られないだけでなく、捕獲された獲物の種類やサイズが分からないので、画像や映像で確認できると嬉しい」といった要望もありました。たとえば、狩猟者が罠を見回る際の銃所持は銃刀法で認められていないが、獲物が罠にかかっていることが確実で種類や大きさまで特定できれば、必要な手続きを踏んだうえで銃を所持して向かうことができます。目視で確認してから銃を取りに戻るムダがなくなり作業の効率化が期待できます。開発元のTOPPANでは、こうした現場の意見や要望を踏まえ、機能強化を図ることで、より現場の助けとなりつつ成果の上がるサービスを目指してまいります。
<ご担当者の声> 宮城県加美町産業振興課 鳥獣対策係長 大場 政之輔 氏 【有害鳥獣被害防止対策の柱としてICT活用を積極的に進める計画】 長期的に人口が減り続け、狩猟者の高齢化も進むなか、増加傾向にある捕獲頭数(計画)を達成するには、こうしたICTの活用が欠かせないと考えています。加美町としても、今回の実証実験での捕獲実績や、実際に利用いただいた対策実施隊の皆さんの評価を踏まえ、平成4年度以降ICT機器の本格導入を進める計画です。 <取材協力> 宮城県加美町役場 加美町産業振興課 鳥獣対策 所在地:宮城県加美郡加美町字西田三番5番地 公式サイト:https://www.town.kami.miyagi.jp/ 加美町鳥獣被害対策実施隊 |
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2024.07.05