コラム

自治体DXとは?
目的や必要性、取組事例を解説

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術の活用により、ビジネスや生活、文化をより良くすることを指します。このDXを、自治体の運営にも適用したものが自治体DXです。

自治体DXに取り組むことで、行政サービスの利便性や、住民満足度の向上が期待できます。
本記事では、自治体DXの意味や目的、推進する際のポイントを解説します。自治体の取り組み事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。


自治体DXとは

自治体DXとは、自治体がデジタル技術やデータを活用することで、住民の利便性や行政サービスの質を高めるとともに、行政職員の業務効率化を図る取り組みを指します。

具体的な取り組みとしては、次のようなものが挙げられます。

● 行政手続のオンライン化
● SNSを用いた問い合わせ業務の効率化
● 自治体業務でのRPAやAI技術の活用

少子高齢化により行政職員の慢性的な人手不足が深刻化すると、従来のアナログシステムではスムーズな行政手続きができなくなることが見込まれます。また、新型コロナウイルスの感染拡大によって急激に加速したDXへの対応が、地方行政では十分に進んでいないのも課題です。

そこで総務省は2018年に、地方行政が立ち行かなくなるリスクを懸念し、「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会(スマート自治体研究会)」を立ち上げました。

自治体DXについては、同研究会が発表した報告書のなかで言及されています。つまり、自治体DXは、将来的に地方行政が陥るであろう課題を、未然に防ごうとする取り組みともいえるでしょう。

参考:
地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会(スマート自治体研究会)|総務省
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/process_ai_robo/index.html

自治体DX推進の目的とメリット

自治体DXを進めるメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

● 少子高齢化と人口減少への対応
● 多様化する住民ニーズへの迅速な対応
● 住民の利便性の向上
● 行政サービスの質の向上
● 職員の生産性向上や働き方改革

それぞれ見ていきましょう。

少子高齢化と人口減少への対応

少子高齢化の影響で予測される人手不足の課題に対処するには、デジタル技術を上手く活用した業務効率化が重要です。

たとえば、近年注目を集めるAIは、チャットボットによる電話応答件数の削減や、エンタープライサーチによる情報収集の手間抑制といった効果をもたらします。そのほか、定型業務を自動化できるRPA(Robotic Process Automation)も、代表的な業務効率化ツールの一つです。

このようなデジタル技術が組織へと浸透すれば、少ない人員でも効率的な住民対応が可能です。

多様化する住民ニーズへの迅速な対応

地域住民のライフスタイルが多様化した昨今では、自治体に対する住民のニーズも多岐にわたります。その結果、行政手続きが煩雑化し、対応に遅れが生じれば、満足度の低下や、地域からの離脱などのリスクが高まります。

DXの一環として、情報システムの標準化や、行政手続のオンライン化といった取り組みを進めると、住民ニーズが多様化する環境下でも、より迅速な対応が可能です。

住民の利便性の向上

自治体DXを推進すれば、住民にとっての利便性も向上します。たとえば、オンライン上で行政手続きを行えるようになれば、住民は役所に出向く必要がなくなります。「役所で長時間待たされる」「手続きのために有給を取らなければいけない」といったフラストレーションを抱える住民も少なくなるでしょう。

利便性を向上させる取り組みは、後述する行政サービスの質の向上とともに、住民の満足度を高めるための欠かせない要素だといえます。

行政サービスの質の向上

デジタル技術を最大限に活用すれば、そこから住民に関するさまざまな情報を収集できます。住民の属性や行動履歴といったデータをもとに、より正確なニーズを捉えられるため、多様化する需要に即した行政サービスの提供が可能です。

的確な行政サービスの提供は、自治体に対する信頼度向上に寄与します。前述した行政手続の利便性とともに、行政サービスの質が向上すれば、地域に対する定着率を高められます。

職員の生産性向上や働き方改革

さまざまなデジタル技術の活用により、組織内での業務効率化が進展します。効率化により余った時間はコア業務に割り当てられるため、生産性の向上につながるのも利点です。

また、モバイル端末やクラウドシステムを活用すると、テレワークも柔軟に実施できるでしょう。行政職員が場所を選ばず働けるようになれば、重大な感染症や災害発生時にも、行政機能を停止させずに済みます。

このような取り組みは、行政から民間へと発展する可能性も考えられます。地域社会全体へとDXが波及することで、地域経済の発展につながるでしょう。

自治体DX推進計画の重点取り組み事項

総務省は自治体DXの取り組みを加速させるために、2020年に「自治体DX推進計画」を発表しました。そのなかでは、DX化を成し遂げるために必要な、以下の6つの事項が記載されています。

1. 自治体の情報システムの標準化・共通化
2. マイナンバーカードの普及促進
3. 自治体の行政手続のオンライン化
4. 自治体の AI・RPA の利用推進
5. テレワークの推進
6. セキュリティ対策の徹底

参考:
自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画|総務省
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei07_02000106.html

それぞれの事項について、詳しく見ていきましょう。

自治体の情報システムの標準化・共通化

自治体が利用している情報システムは、組織ごとに基準が異なるほか、同じ組織でも体系が共通化されていないケースが少なくありません。業務効率化やコスト削減を図るには、共通ルールにもとづく情報システムの標準化や共通化が必要です。

そのためにも、共通化されたデータモデルを確立したうえで、システムの統廃合を検討することが重要です。その一環として国は、住民記録や税務処理といった基幹系17業務における標準仕様システムとして、「Gov-Cloud(仮称)」への移行推進を検討しています。

マイナンバーカードの普及促進・利用の推進

マイナンバーカードが普及すれば、添付書類の削減などにより、行政手続きの簡素化が期待できます。住民だけでなく、自治体にも生産性向上をはじめとする恩恵が生まれるため、重要な取り組みの一つです。

そこで国は、マイナンバーカードの普及促進のために、交付体制の充実化を図っています。たとえば、交付促進に要する人件費や窓口増設のための経費支援、電子申請システム・出張申請サポートの導入などが代表的です。

自治体の行政手続のオンライン化

行政手続をオンラインへと移行するためには、現行の業務内容や業務プロセスの抜本的な見直しが必要です。なかでも対面での書面や押印などの手続きは、オンライン化を進めるうえで大きな障壁となります。

このような課題を見越し、マイナポータルを利用した行政手続を可能にする、国による取り組みが進められています。構想が実現すれば、マイナンバーカードを用いて申請する31種類の行政手続きが、マイナポータル経由で実行できます。

自治体のAI・RPAの利用促進

自治体DX推進計画のなかで、国は特にAIやRPAに着目しています。両者の技術を活用すると、業務効率化が実現され、行政手続きの簡易化や、それに伴う住民の満足度向上が期待できるためです。

自治体のAI・RPAの利用促進に向け、総務省では、活用事例の紹介や業務プロセスの標準モデルの構築などに取り組んでいます。

テレワークの推進

国は自治体DX推進計画のなかで、行政職員一人ひとりの多様な働き方を実現するための切り札として、テレワーク制度を挙げています。さらにテレワークの推進に向け、自治体向けの導入事例の紹介や、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改定などに取り組んでいます。

参考:
地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン|総務省
https://www.soumu.go.jp/denshijiti/jyouhou_policy/

セキュリティ対策の徹底

自治体では住民の個人情報を取り扱っているため、万全なセキュリティ対策が欠かせません。特に、DXの推進によってオンライン手続きやクラウドシステムの利用が進むと、ハッキングやマルウェア感染などのリスクが高まります。

そこで国は、マイナンバー関連システムや社内システムをはじめ、セキュリティレベルの高いクラウドシステムへの移行を支援しています。

自治体DXの実際の取り組み事例

徐々にではありますが、DXに取り組み始める自治体も現れています。このような自治体の事例を参考にすることで、これから取り組む施策のヒントが得られるでしょう。

ここでは、以下の3つの自治体におけるDXの取り組み事例を紹介します。

● 長野県飯綱町(情報収集・発信システムの導入)
● 兵庫県姫路市(消防指令業務におけるAI支援システムの導入)
● 宮崎県都城市(LINEの公式アカウントの作成)

順番に見ていきましょう。

長野県飯綱町(情報収集・発信システムの導入)

長野県飯綱町では、独自の住民アプリ「iなびいいづな」の機能を拡張するため、TOPPANの自治体DXソリューション「PosRe®(ポスレ)」との連携を行いました。

PosRe®は、各チャネルから収集した地域の情報を一元管理できるシステムです。「iなびいいづな」のような住民アプリから、道路・施設の状況や住民の意見などを1ヶ所に集約できます。
災害情報や道路の破損状況などが写真と位置情報付きで投稿されるため、同自治体では、電話で対応していた従来よりも、対応スピードが向上しました。また、住民の安全安心なくらしにつながる河川水位・雨量・獣害の情報をLPWA ZETAでセンシングしPosRe®で遠隔監視しています。これにより現地確認の手間が削減され、山間部等、見回り業務の効率化にもつながっています。

兵庫県姫路市(消防指令業務におけるAI支援システムの導入)

兵庫県姫路市では消防指令業務において、紙ベースの資料をもとに口頭指導や問い合わせ対応を行っており、資料検索に膨大な時間と手間がかかる課題を抱えていました。また、消防指令業務の質が指令員のスキルレベルによって異なるのも、課題の一つでした。

そこで、マニュアルなどの資料をデータベースに登録できる、AI支援システムを導入します。同システムを活用すると、通報者との会話内容やその対処法が自動的に画面上へと表示されます。その結果、指令員の対応スピードの向上や、業務の均質化が実現しています。

宮崎県都城市(LINEの公式アカウントの作成)

宮崎県都城市は、LINEの公式アカウントを作成し、総合政策課における問い合わせ対応に活用しています。

LINEのチャット機能を利用することで、住民は開庁時間を気にせず、24時間いつでも質問できるようになりました。また、折り返し電話の機会が減ったことから、自治体側の業務効率化にもつながっています。

同自治体の公式アカウントでは、問い合わせ以外にも、防災情報の受信やごみ分別に関する情報収集などが可能です。

自治体DXを成功させるポイント

自治体DXを成功させるための、以下の4つのポイントを紹介します。

● DXの必要性を十分に伝える
● 職員の意識改革
● デジタル人材を確保する
● 住民と十分なコミュニケーションをとる

一つずつ見ていきましょう。

DXの必要性を十分に伝える

行政職員がDXの必要性を十分に理解していないと、施策を推進するのは困難です。DXの取り組みでは、さまざまなデジタル技術を駆使する必要があるため、その重要性が組織に浸透していないと定着は望めません。

そのため、施策を実施する前に、DX推進の目的や方向性、効果に関しての周知徹底が必要です。残業時間の削減や柔軟な働き方の実現など、職員にとってのメリットも同時に伝えると、よりスムーズな理解促進につながります。

職員の意識改革

自治体DXの本来の目的は、住民を起点とした行政サービス改革と、地域社会の発展です。そのため、業務プロセスの効率化のみに終始しないよう、行政職員はより広い視点で自治体DXを理解することが大事です。
行政職員に幅広い視点に立って取り組んでもらうことで、自治体DXによって住民が得られる恩恵について、より正確な説明が可能です。
こうしてDXの考え方が普及すると、民間企業でもDXが意識されるようになり、地域社会の発展につながります。

デジタル人材を確保する

自治体DXを推進するには、専門的な知識を持つ人材が欠かせません。DX専門の人材としては、データ活用の基盤構築に欠かせないデータサイエンティストや、システムの設計に携わるエンジニアなどの種類があります。そのほか、サイバーセキュリティの影響を抑制できる専門人材も、重要な役割を果たします。

また、特定分野の知見に優れるスペシャリストだけでなく、チーム全体を統括できる、知識・統率力のいずれにも秀でたリーダーも必要です。

住民と十分なコミュニケーションをとる

住民の利便性を考慮せず、行政側だけの都合でDXを進めてしまうと、住民の混乱を招き、かえって行政サービスに対する満足度が低下する可能性があります。このような事態を避けるためにも、住民と十分なコミュニケーションを取ったうえで、適切な施策を考えましょう。

住民の意見を汲み取るには、アンケートや意見箱の設置などの施策が効果的です。また、この機会に住民アプリを開設し、効率良く意見を汲み取る仕組みを構築するのも良いでしょう。

自治体DXソリューションならPosRe®

少子高齢化や住民ニーズの多様化といった問題に対応するなら、自治体DXの考え方が重要です。デジタル技術の活用や行政手続きのオンライン化などの取り組みにより、行政サービスの利便性が高まり、地域経済の発展につながるでしょう。

自治体DXを推進する際は、TOPPANが提供する「PosRe®」を活用してみてはいかがでしょうか。PosRe®では、住民アプリなどから収集した要望や地域データを、システム内で一元管理できます。住民に向けての情報発信もワンストップで行えるため、住民との関係性強化や業務効率化に最適です。

以下で詳細を紹介していますので、DX推進を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

2024.03.26