LPWA通信「ZETA」の
活用事例と未来像
- 超スマート社会の実現 -
~多様な連携でIoTサービスを提供~
- ビジネスアーキテクトセンター
- 事業企画本部 スマートシティ推進部
ZETA IoTプロジェクト - 部長 諸井眞太郎
超スマート社会という言葉をご存知でしょうか。超スマート社会とは、仮想空間と現実空間を融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する新たな社会を指します。日本が目指すべき未来=Society 5.0*の形として、政府による第5期科学技術基本計画の中で提唱されました。
超スマート社会の実現に向け、Society 5.0では、IoT、AI、ロボット、教育ICTといったさまざまなテクノロジーの研究や活用が欠かせません。
その中でも、急速に普及が進むIoT(Internet of Things:モノのインターネット)。
インターネット技術や各種センサー・テクノロジーの進化等を背景に、パソコンやスマートフォンなど従来のインターネット接続端末に加え、家電やクルマ、ビルや工場など、世界中のさまざまなモノがインターネットへ接続され、情報のやり取りが可能になっています。これまでとは異なる新たな生活様式が求められている昨今、より便利で快適な社会の実現に向けて、TOPPANでは、半導体設計技術を活かしたデバイス開発から情報セキュリティ技術や、メディア開発技術を活かしたシステム開発まで「印刷テクノロジー」としてこれまで培ってきた「モノづくり」と「サービス設計」のノウハウを融合させ、LPWA通信ZETA(ゼタ)を活用したサービスを提供しています。IoT、そして超スマート社会を支える新たな通信ネットワークとして期待される「ZETA」の特長や有効性、活用事例などを、「ZETAアライアンス」の代表理事でもある事業企画本部 スマートシティ推進部 部長 諸井眞太郎が展望します。
*Society5.0とは
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。
諸井眞太郎 2001年4月、凸版印刷株式会社に入社、エレクトロニクス事業本部に配属となり、米国駐在中IBM社との共同開発プロジェクトなどに従事。 2018年よりIoT向けLPWA通信技術ZETAの事業を立上げ。2020年4月、DXデザイン事業部に異動し、現在はスマートシティ事業を推進している。 |
LPWA通信「ZETA」との出会い
編集部:ZETAに取り組むようになったきっかけを教えてください。
諸井:今から3年前、「IoTの技術を用いて社会課題を解決したい、そして世の中の暮らしを豊かにしたい」そんな想いを抱きながら、新規事業の構想に考えを巡らせているときに出会ったのが「ZETA」です。ZETAは、英国ZiFiSense社が開発したIoTに適した「低消費電力で長距離の通信」ができるLPWA(エル・ピー・ダブリュー・エー)通信規格です。
マルチホップ型の通信形式により、ほかの規格と比べ、電波が届きにくい山間部や地下などの超狭帯域でも、通信環境を構築できます。人手不足に悩む農業や獣害対策、ビルや工場での業務効率化など、幅広い分野でさまざまな課題を解決できる可能性をZETAに感じました。
IoTを支える新たな通信技術 「LPWA(Low Power Wide Area)」
編集部:IoTを支える通信インフラの重要性が高まり、中でもLPWAへの注目が集まっているようですが。
諸井:IoTを支える通信インフラとして5G(第5世代移動通信システム)とともに期待されているのがLPWA。名前のとおり、低消費電力で広範囲をカバーできる無線通信技術です。高精細な映像など大容量データの送受信や、自動運転などリアルタイムな遠隔操作が必要な5Gに反して、LPWAは、少ない消費電力で広範囲の通信をカバーできるのが特長です。
IoTの用途を考えると、必ずしも5Gのようなハイスペックな通信を必要とするものばかりではありません。通信速度が遅く、扱えるデータ量は小さいものの、広範囲に点在するセンサーから定期的にデータを集めるような用途にLPWAは適しています。
ZETAの魅力 「マルチホップメッシュネットワーク」
諸井:LPWAには複数の規格がありますが、ほかのLPWAにはないZETAの最大の魅力は「マルチホップメッシュネットワーク」にあると思っています。他の主なLPWAは、センサーと基地局が直接通信するスター型であるのに対し、ZETAはセンサーと基地局の間に中継器を設けてメッシュ(網の目状)型のネットワークが構築可能です。これにより、通信がつながらない場所でも中継器を使って代替経路が確保できるほか、センサーから基地局へ通信が届かない場合でも、中継器を介して伝送距離を延ばすことができます。また、この中継器は電池で駆動するため、電源の有無を気にすることなく、場所を選ばず自由に設置でき、低コストで通信エリアの拡張、ネットワークが構築できるのがZETAの利点です。
多様な連携でIoTサービスを「ZETAアライアンス」
編集部:TOPPANが参画し、代表理事も務めている「ZETAアライアンス」について教えてください。
諸井:ZETAアライアンスは、ZETAの普及を推進することで、Society5.0で掲げられている超スマート社会やスマートシティに貢献することを目指し、2018年より始動しました。
当初は、国内企業4社でスタートした当アライアンスも、現在の参加組織数は280組織(日本120、中国160)。社会実装に向けた調査や研究、実証実験からセミナーなどによる情報共有を通じて、ZETAの活用と普及促進に取り組んでいます。
ZETAアライアンスでは、ZETAを活用した新たなビジネス創出に向け、4つのワーキンググループを発足しています。TOPPANでは、その中のひとつ「ZETag(ゼタグ)WG」で主査を務めています。ZETag®は、ZETAの長距離伝送の特長を活かし、物流に特化して開発されたデバイスです。電池を内蔵して自らID情報などをZETAで発信するので、リーダーを使った読み取り作業が不要。また、市街地でも1km以上の長距離通信が可能で、小型・軽量、電池で約4年使えるといった特長を備えている次世代タグです。
今後、ZETag®によって在庫管理の効率化や物流プロセスの「可視化」が図れるうえ、その情報をもとにした物流責任の明確化から、物流IoTの加速に寄与すると期待されています。
分野を超えてひろがるZETA~IoT向けLPWA通信「ZETA」活用事例
オフィスIoTより~便利で快適なオフィスを目指して
CASE1:スマートオフィス・スマートビルディング
医療や介護、農業・水産業から物流、社会インフラの監視など、すでにさまざまな分野でZETAを活用したサービスの開発や実証実験が進んでいます。TOPPANは獣害、防災、モビリティ、オフィス、製造や物流などの領域でのZETAサービスを開発し、2021年度より順次提供開始します。それでは活用事例の一部をご紹介します。
働きやすい環境を実現するために、IoTを活用し、便利で快適なオフィス環境をつくりあげるとともに、ZETAの有効性や優位性を実際のオフィスで検証し、オフィスIoTのショールーム構築を目指しています。
【課題】
●フロアをまたいだ共有スペース・会議室の利用状況確認
●消灯・施錠管理の煩雑さ
●エリアによって暑い・寒いといった温度調節の問題
【対応策】
●センサーの設置
打合せスペース:人感センサー/会議室:照度センサー・ドアセンサー/フロア各所:温度・湿度・CO2といった室内環境を検知するセンサー/カフェサーバー:電流・漏水センサー/そのほか:花粉・ハウスダストを検知するホコリセンサー
●プライバシーに配慮した低解像度のカメラ
●人感・照度センサーと連動した自動消灯スイッチ
【 ZETAの優位性 】
各LPWAの通信可能範囲の比較検証では、基地局をフロアの見通しの良い場所におけば、どの規格でも性能に大きな差はみられませんでした。しかし、フロアがL字に折れ曲がったエリアで電波の回り込みが必要な場所では、ZETA以外の規格では通信範囲に限界がありました。
また、複数階利用の場合も、中継器を介して通信エリアを拡張できるZETAの強みが活きました。ほかの規格では電波が届かず、基地局を各階に設置しなければならなかったのに反して、ZETAは基地局を2階の窓際に設置し、4階に中継器を置くことで、フロアをまたいだ通信も問題なく行えました。
獣害・水害の実証実験~異常検知をいち早くキャッチ
CASE2:スマートシティ
地域の課題解決に向け、IoTを活用し、誰もが快適で便利に暮らせるまちづくりを進めています。ZETAを活用した取り組みとして、獣害対策および小規模河川の水位監視のサービスを提供しています。
【獣害の課題】
●野生のイノシシなどが農地を荒らす被害が増大
●イノシシの捕獲を行っているが、広範囲を定期的に見回るのは負担が大きい
●捕獲用のワナを仕掛ける場所は、通信ネットワークの構築が難しい山間部
【対応策】
●複数台の中継器により、電波をつなぎ、安定した通信を確保
●センサーからのアラートを市役所のモバイルで受信し、ワナの場所と状態を確認できる仕組みを構築
【 ZETAの優位性 】
実験により、見回りの人的負担の軽減が図れるとともに、捕獲時の迅速な連絡と回収が可能であることが検証できました。
【水害の課題】
●近年多発している豪雨災害
●水位の急激な上昇に対して、迅速にアラートが届く仕組みを構築したい
●小規模河川への水位センサーの設置にはコストがかかる
【対応策】
●既設のシステムとZETAでの比較検証を実施
【 ZETAの優位性 】
導入・運用コストが抑えられるZETAのシステムでも、既設のシステムと同じ効果が得られ、低コストでも必要な情報を把握できる仕組みであることが実証されました。
次世代監視システム~物流管理の自動化・省人化の実現へ
CASE3:ZETag®
従来のICタグには通信距離や使い勝手の面で課題が多い中、小型・軽量で長距離通信が可能なZETag®※が物流IoTの加速に拍車をかけると期待されています。情報通信事業を展開しているエネコム株式会社様ご協力のもと、資材管理現場での有効性の実証実験を行いました。
※「ZETag®」はTOPPANの登録商標です。
【物流業界の課題】
●人手で管理しているドラムの所在や利用状況など、リアルタイムでの情報把握が難しい
要因:確認すべき内容を現場に人が出向いて確認、確認後事務所に戻ってデータ入力している
●人が現場に出向く非効率な工程にRFIDの活用を検討したが、通信距離が短く、人が現場に出向いて専用リーダーでタグの読み取り作業が必要なため、省力化にならない
【対応策】
●エネコム株式会社様と施工会社、2つの資材置き場に基地局を設置
●20個のドラムにZETag®を付けて直線距離約600mの資材置き場間を移動させ、通信データを分析
【 ZETAの優位性 】
ZETag®を持って2つの資材置き場間を徒歩で移動。電波強度の値を検証した結果、基地局とZETag®の距離が近いほど電波が強く、離れるほど弱くなることが明確に表れ、電波強度による所在判別の実用性が確認できました。
また、複数のZETag®をまとめて近距離で同時に使用する実験なども試みましたが、データの欠損や減衰はみられず、実用に十分耐え得ることが確認できました。
このほか、規格違いのLPWAでも検証したところ、消費電力が大きく、長期間の利用には不向きとの結果に。また、測位誤差が1㎞程度あり、今回のような600m程度の距離では2地点間の識別が困難であり、活用は難しいとの結論に達しました。
IoT向けLPWA通信「ZETA」を通じ、社会が抱える課題解決へ取り組む
今後の取り組み
編集部:締めくくりとして、ZETAの今後の取り組み方針、抱負などを教えてください。
諸井:IoTが生活の中で身近な存在となりつつある現在、さまざまな領域での導入が進むことで、社会が抱えている労働力不足や高齢化といった課題への取り組みもますます進み、社会全体に大きな変革をもたらしています。
同時に、SDGsの実現に向けたサステナビリティ経営への取り組みが欠かせない時代となりました。これらの大きな変革を支える技術の1つとして、ZETAを含むIoT通信ネットワークの発展はますます重要となり、社会実装の加速が期待されていることを実感しています。
私たちは、これまでの知見を活かし、またZETAアライアンスの皆さまと連携しつつ、サステナブルな社会の実現に貢献していきたいと思っています。
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2024.07.03