コラム

LPWAとは?
話題のIoT向け通信規格ZETAも解説!

LPWA(Low Power Wide Area)とは、Low Power (省電力)+Wide Area(広いエリア)の略で少ない電力で広範囲に通信可能な仕組みのことです。特定の通信規格を表した言葉ではなく、このような特徴を持っている無線ネットワーク通信方式の総称として用いられています。この技術は、現在のビジネスにおいてIoTに使用されるセンサー等の活用に無くてはならない通信技術と言われており、注目度が高まっている技術です。
通信速度は100bps〜数十kbps程度と、あまり速くはないというデメリットはある一方、電池だけで長時間稼働が可能でコストも安いというメリットがあります。本記事ではLPWAの基本的な特徴と、特にIoT分野で注目を集める「ZETA」について、活用事例等詳しく解説します。


「LPWA」の市場動向

IoT(Internet of Things)デバイスの増加に伴い、LPWAの市場は急速に成長している状況にあります。2020年時点での世界のLPWA接続回線数は約3.7回線でしたが、2024年では約12億回線と大幅に増加すると見込まれています。※1

IoTデバイスの普及は今後も続いていくことが予測されており、LPWA市場についても比例するように拡大すると見れられます。
また、NB-IoT(Narrowband IoT)やLoRa(Long Range)などの新たな通信技術の開発により、より広範囲をカバーし、より多くのデバイスを接続することが可能になっていることもこの市場の拡大の要因のひとつです。

使用分野も、もともとは通信分野のインフラ等の使用割合が多かったものが、工場のオートメーション・スマートシティ・スマート農業など、さまざまな分野でLPWAの活用が進んでいます。特に産業分野ではDX推進の流れもあり、IoTデバイス数が大きく増加しています。さらに今後はスマート家電の普及にともなうコンシューマ分野の拡大も予想されています。

地域別の使用格差も縮小傾向にあります。初期のLPWA市場は、主に北米やヨーロッパが中心でしたが、最近ではアジア太平洋地域でも市場が拡大しています。特に中国では、政府のIoT推進政策によりLPWAの普及が進んでいます。
また、世界的に導入のハードルを下げるための環境も整ってきており、3GPP(3rd Generation Partnership Project)などの国際的な標準化団体により、LPWAの技術標準が策定され、各通信事業者がそれに準拠したサービスを提供するようになっています。

以上のように、LPWAの市場は急速に成長し、多様化しています。しかし同時に、セキュリティ問題やプライバシー保護、通信規格の互換性など、解決すべき課題も存在しているといえます。

※1 出典:「令和4年版 情報通信白書|データ集(第3章関連データ)」(総務省)より
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc133220.html


「LPWA」の特徴と5Gとの違い

LPWAは、低消費電力、長距離通信、低コストが特徴です。メーターやセンサーなど、大量の端末から少量のデータを取得するIoTなどに向いています。

①低消費電力
5Gは大容量のデータを超高速で通信するため、消費電力が大きくなる傾向です。一方でLPWAは乾電池程度の電力で3~5年程度での通信を可能にします。

②長距離通信
5Gは超高速通信が可能になった一方で、届く距離が短いといったデメリットがあります。加えて電波の直進性が強いという特性があります。それ故建物の壁や雨などといった遮へいに弱く、コンクリートの建物などに入ると電波が届きにくくなってしまいます。
LPWAの場合、20km程度の通信が可能になります。

③低コスト
LPWAは長距離通信を可能にするため、基地局をたくさん設置する必要もなくなり、通信のための運用費を削減します。

長距離通信では、今後LPWAと5Gの2極化になっていくことが予想されています。


「LPWA」の種類

LPWAには複数の規格が存在していますが、通信方式により大きく以下の2つに分けられています。

①アンライセンスバンド(周波数帯:Sub-GHz帯 920MHz)
国際電気通信連合(ITU)が定めた免許は不要で使用できる帯域となります。特定小電力無線として、電波が微弱な通信局が該当し、広範囲の通信が必要である場合に利用されます。

②ライセンスバンド(周波数帯: 700MHz~3.5GHz)
無線局の免許および登録が必要な帯域です。主に携帯キャリア会社等の基地局が該当し、一から免許を取得するためには非常に多くの手間がかかるため、既存の基地局を使用する場合が多くなります。この場合、ゲートウェイの設置は不要です。


日本において利用されている主なLPWAは以下となります。

・アンライセンスバンド
ZETA(通信速度:300~2.4kbps、最大伝送距離:10 km)
Sigfox(通信速度:100bps、最大伝送距離:約50km)
Wi-SUN (通信速度:50~300kbbs、最大伝送距離:約3km)
LoRaWAN(通信速度:250kbps、最大伝送距離:約15km)
ELTRES(通信速度:80bps、最大伝送距離:約100km)

・ライセンスバンド
NB-IoT(通信速度:1Mbps、最大伝送距離:約20km)
LTE-M(通信速度:150kbps、最大伝送距離:約10km)

このように様々な規格がありますが、実現したいサービスやビジネスプランによって適切な規格を選択することが重要です。


LPWA通信「ZETA」とは

ZETAはWi-FiやBluetoothのような通信規格の一つで、ZiFiSense社によって開発され、LPWA(Low Power Wide Area)のグループに属します。

ZETAは、他のLPWAの通信規格(LoRa、Sigfox、NB-IoT)などと比較して、「超狭帯域(UNB: Ultra Narrow Band)による多チャンネルでの通信が可能」、「メッシュネットワークによる広域での分散アクセスが可能」、「双方向での低消費電力通信が可能」などの特長を持つ、IoT向きの通信インフラとして最適な技術です。


他のLPWAと比較してZETAの最大のメリットは?

ZETA最大のメリットは「メッシュアクセス(マルチホップ)型」のネットワークです。スター型のネットワークとは異なり、たくさんの中継器を設け、網の目のように通信を繋げることで「建物の物影や地下など通信しにくい場所に、低コストで通信エリアを拡げられる 」「途中の中継器との接続が切れても、迂回することで通信を保てる」という二つの大きなメリットを実現しています。

メッシュアクセス(マルチホップ)型

センサーが複数の中継器を経由(ホップ)し、メッシュ状に無線ネットワーク(メッシュネットワーク)を構築します。見通しのいいエリアに加え、室内、市街地、山奥でも利用したいシーンにおいて、低コストでネットワーク構築可能になります。

スター型

AP(アクセスポイント)を介してセンサーをスター型に無線ネットワークを構築します。室内、市街地やLTEが届かない山奥での利用に課題があり、範囲を広げるにはAPを増設しなければなりません。


LPWA通信「ZETA」はどんなことに使えるの?

ZETA(低消費電力で長距離の通信)は具体的にはどんなシーンで活用できるのでしょうか。山間部や建物内など、電波が届きにくい場所と通信を繋げられる特徴を活かし、獣害被害対策やオフィスや商業施設の環境センシングなどに活用いただけます。

ZETAが得意なこと

❶遠くを見守る
遠くの状況をいろいろなセンサーで確認できるため、用途に合わせて、温度、湿度、水質など、遠くの場所のセンサーデータを取得できます。

❷どこでも繋がる
山間部や地下など、電波が届きにくい場所と通信を繋げられるため、中継器でネットワークを構築することで、電波が届きにくい場所との通信を確立できます。

❸いつでも繋がる
電波障害など万一のときも別の中継器を通して、通信を確保できます。メッシュアクセス型なので、途中の中継器に不具合があっても、代替ルートで通信を確保できます。

たとえば、こんな活用方法があります。

移動時間の削減や状況確認の自動化等による効率化、状況判断を早くして改善スピードをアップしたり、事前に状況を把握・分析することで危険を回避します。
また、蓄積したデータを活用し作業を最適化したり、情報を共有することで、稼働率を向上します。


LPWA通信「ZETA」の活用事例

IoT活用による狩猟者の負担軽減
遠隔獣害対策「リモワーナ®」

リモワーナ®は罠検知センサーを設置することで、獣害対策用罠を遠隔で監視することができるサービスです。ZETAを活用し、電波の届きづらい山間部でも安定した通信を確立できます。また、Webアプリケーションでデバイスの管理やメールでの通知などが可能となり、有害鳥獣捕獲業務の効率化に貢献します。
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【背景】
農作物被害に加え集落宅地への被害も増加している中、鳥獣被害対策実施隊員の高齢化による狩猟者の減少が予測されており、IoT活用による狩猟者の負担軽減が急務になっています。リモワーナは既設の罠にセンサーを取り付けるだけで罠の遠隔監視が可能になり、見回り業務負荷を軽減します。

【導入効果】
❶山岳・丘陵地が多く起伏の激しい地域でも中継器を活用したメッシュネットワークで安定した通信を実現
❷罠にかかったらリモワーナ®による通知メールが届くため、捕獲から害獣止め刺しまでの時間を最短化

大型施設・広域向け 混雑状況可視化サービス
「nomachi®」ZETA版

「nomachi®」は、施設の空席/混雑状況をリアルタイムで表示するサービスです。センシングした情報を活用することで、施設の混雑緩和や効率化をサポートします。「nomachi®」とZETAの通信モジュールを使用することで従来よりも大幅に通信距離が長くなります。双方の利点を活かし、商業ビルや大規模施設において1台のアクセスポイントでの対応が可能となりました。
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【背景】
大型施設や商業ビルの全フロアなどの広域で「nomachi®」のセンシングをするには、通信のために基地局を多数設置する必要があり、また高層施設では階層ごとに基地局を設置する必要がありました。課題を解決するために開発されたのがZETA通信モジュールを組み込んだ「nomachi®」ZETA版です。

【導入効果】
❶長距離伝送が可能
通信距離が延長したことで、商業ビルや大規模施設にも1台のアクセスポイントで使用可能です。従来より、数多くの店舗や施設で使用できます。
❷中継器(Mote)を使って距離の延長/迂回が可能
ZETAの中継器の活用により、距離の延長や迂回が可能になります。

「nomachi®」のセンシングサービス以外にも、温湿度やCO2濃度の測定などZETAセンサーが持つ従来機能の活用が可能。施設内の環境・設備をセンシングすることでスマート化を推進します。


■ ZETAの主な仕様

低消費電力:バッテリー寿命5~10年(通信頻度に依存)
双方向通信:アップリンクデータ
      ダウンリンクコントロール
周波数とデータ転送速度:920MHz(認証済)300bps/600bps/2.4kbps
長距離通信:UNB超狭帯域(2KHz)2~10km(屋外)
メッシュアクセス:マルチホップ(最大4ホップ)
         ネットワーク自動接続
セキュリティ:ネットワーク認証
       データ暗号化

2023.08.03