コラム

防災DXとは?
防災対策に必要となるデジタル化の事例と課題を解説!

大規模な自然災害が相次ぐ中、各地で被害への対応や復興が進められています。自然災害は、いつ何時、どの地域に起きるかわかりません。こうした中、国や自治体はもちろん、企業においても防災対策を進める必要性が高まっています。そして、さらに防災対策を加速させるために、「DX」をかけあわせる取り組みも推進されています。
今回は、防災DXの概要から防災DXが求められる背景、推進するメリット、取り組み事例をご紹介します。


防災DXとは?

防災DXとはどのような概念なのでしょうか。DXの意味から確認していきましょう。

DXとは

DXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」を略した言葉で、「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」を意味します。

DXは、ただ単に紙の書類をデジタル化したり、システムで業務を管理したりするだけに留まらず、製品やサービス、ビジネスモデルを変革すると共に組織や業務プロセス、企業文化・風土を改革し、顧客ニーズを満たしながら、競争優位性を確立する取り組みです。

DXには次の3段階で進められるべきとされており、単純なデジタル化の「デジタイゼーション」から始まり、業務プロセスのデジタル化である「デジタライゼーション」を経て、最終的な「デジタルトランスフォーメーション」となる変革を目指して取り組んでいきます。

【DXの構造】
1.デジタイゼーション(Digitization)
アナログ・物理データのデジタルデータ化

2.デジタライゼーション(Digitalization)
個別の業務・製造プロセスのデジタル化

3.デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)
組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革

防災DXとは

防災DXとは、防災分野のDXを進める取り組みを指します。デジタル技術を用いて防災を強化することを意味します。

具体的には、AI(人工知能)やビッグデータ、センサー技術、IoT、ロボティクス、ドローンなどの最新テクノロジーを、災害の予測や早期警戒、被災地の状況把握、救助活動の効率化、復興支援などに役立てます。

2022年12月にデジタル庁が、官民連携による防災DXを推進するために「防災DX官民共創協議会」を発足させ、民間企業にデジタル技術の提供を仰ぎました。また同年、内閣府は「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」にて民間企業とのマッチングを行い、積極的に防災にテクノロジーを活用する取り組みを進めています。


防災DXが求められる背景

防災DXが求められる背景としては、次のことが考えられます。

大規模災害の教訓・経験による防災意識の高まり

2011年に発生した東日本大震災を契機に、近年、大震災などの大規模災害が各地で立て続けに起きています。こうした大規模災害の教訓をもとに、防災意識が高まり、防災対策を強化する取り組みが推進されています。そのような中、DXでさらに防災を効率的で迅速なものにする取り組みが加速しています。

2024年1月に起きた能登半島地震においては、被災した市町と、県や国などの関連機関との情報共有がうまくいかず、データ収集からシステム構築までの仕組みの再構築が検討されています。今後、こうした教訓を生かした防災DXが求められています。

近年の気象災害の頻発化と大規模地震の懸念

近年、世界では気候変動に伴う気象災害が激甚化・頻発化しているのに加えて、2017年1月時点では、南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震、中部圏・近畿圏直下地震の4つの大規模地震が起きることが想定されています。いずれも被害想定が大きく、南海トラフ巨大地震が起きれば、死者・行方不明者数は約32.3万人、住宅全壊戸数は約238.6万棟とされており、住宅全壊戸数については東日本大震災の約20倍にも上ると想定されています。

防災の担い手である自治体の人手不足・財政不足の深刻化

地域の防災を担う自治体では、人手不足や財政不足が深刻化していることも、防災DXを急がねばならない大きな理由です。防災DXを推進することで、職員間の災害情報の共有を迅速にしたり、作業負担を軽減したりすることができ、重要な業務や判断に注力できるようになります。

これらの背景から、防災DXが求められています。


防災DXを推進するメリット

防災DXを推進することには、さまざまなメリットがあります。

災害時の情報収集・伝達手段を確保することで、被害を最小限に抑えられる

防災DXを進めることで、緊急情報の共有が迅速かつスムーズに進み、被害を最小限に抑えられるというメリットがあります。災害発生時には、正確な情報をいかに速く収集し、適切な判断ができるかどうかが重要です。日本にはJアラート(全国瞬時警報システム)が整備されていますが、このようなシステムによって緊急情報が即時発信されることにより、速やかな避難が可能になり、人的被害を最小限に留めることが可能です。

能登半島地震において、石川県は被害の状況や被災者の数、避難所の情報などの収集のためにシステムを利用しています。地震発生後には、避難所の情報を網羅的に把握するために、避難所データを可視化するアプリを開発しました。避難場所や人数を迅速に確認できるようになれば、避難所に必要な物資や支援が届けられます。こうしたシステムを平常時から備えておくことが求められています。

自治体の住民サービスの迅速化・均一化につながる

防災DXが進むことで、例えば自然災害による住家の被害程度などを証明する「罹災証明書」の手続きなどがシステム化され、迅速化や均一化が実現すれば、住民サービスの質が向上することが期待できます。

防災DXを推進するメリット

防災DXの取り組み事例

防災DXの取り組み事例をご紹介します。

【内閣府・デジタル庁】

防災デジタルプラットフォーム

内閣府はデジタル庁の協力のもと、災害時に国と自治体が情報共有するための「防災デジタルプラットフォーム」の構築を進めています。従来は2つのシステムを併用する必要がありましたが、このプラットフォームでは一元化できます。さらに耐久性も期待できるとされており、スムーズな情報収集や共有が実現します。

防災DXサービスマップ

デジタル庁は、「防災DXサービスマップ」という防災DX分野の民間サービスやアプリを迅速に検索できるツールを公表しています。災害の局面ごとにサービスを分類してマッピングすることで、緊急時にもわかりやすく迅速な検索が可能になります。サービスには個別のページが用意されており、詳細を確認できるので、利用しやすいのも特徴です。このサービスマップに登録されるサービスが増え、利活用が進むことで、防災DXも推進されていくことが期待されています。

【自治体】

地方都市におけるDX戦略内の防災DXプロジェクト

ある地方都市はDX戦略の一つとして防災DXをプロジェクトとして推進しています。デジタル技術を活用して、迅速・確実な情報提供や避難誘導などにつなげ、地域の安全・安心を創り出すと宣言しています。
具体的な取り組みとして、災害時における防災の情報収集の強化や初動迅速化のために、SNS上にあふれる情報をAIなどを用いて自動で収集・解析する仕組みを構築するなどしています。

【企業】

小中学生向けデジタル防災教育教材「デジ防災」

TOPPANは、小中学生向けデジタル防災教育教材「デジ防災」をある市内の小中学校全26校に導入しています。これは児童・生徒がデジタルデバイス上で防災を学習できる教材で、1回10~15分の短時間で防災の知識を段階的に深められる、専門家の監修による80コンテンツを提供するものです。また学習結果のデータを蓄積し、防災レベルを管理できるので地域の防災計画にも役立てられます。デジタル教材とシステムの活用により、小中学生の防災知識の均一化と底上げにつながります。


防災DXの課題

自治体や企業が防災DXを推進するにあたっては、まだまだ課題があります。主な課題をご紹介します。

自治体ごとの防災情報システムの標準化

各自治体においては防災情報システムが導入されており、被害情報や対応状況の情報などを一元的に管理し、災害の全体像を把握するために運用されています。しかし国のシステムや自治体同士の連携や標準化がまだ十分ではありません。今後、解決に向けて取り組みを進めていくべき課題といえます。

DX人材不足

人手不足の課題がある中で、DXを推進するスキルに特化したDX人材不足については特に深刻化しています。今後、専門的な知識やスキルを備えた人材の確保や教育がさらに進むことが期待されています。

システム・ツール導入によるコスト増し

DXに欠かせないシステム・ツール導入ですが、初期導入コストや運用コストが必要になることから、いかにコストパフォーマンスを高いものにするかが重要になってくるでしょう。

大規模システム開発・維持の困難さ

新たなシステムを開発するのにはコストや時間がかかります。また防災時に役立つような大規模システムの開発や維持は自治体の財政やリソースをより圧迫することになるでしょう。このことからも、国や自治体、民間企業は連携を強化させ、災害に強い体制づくりをDXで積極的に進めていくことが求められます。


まとめ

防災DXの概要から背景、メリット、事例、課題をご紹介しました。今後も国・自治体・民間企業が手を取り合って、課題を乗り越えながら推進していくことが求められます。

TOPPANでは、自治体や企業の防災DXをお手伝いするサービスやソリューションを多数ご提供しております。ぜひご活用ください。

2024.04.12

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