コラム

保守点検とは?
基礎知識と効率的な実施方法を解説

日々、製造業やインフラ業界などを中心に行われている保守点検業務は、事業やインフラを止めないために重要な取り組みです。近年では、人手不足や効率化などの課題も多く、解決策の一つとしてデジタル化が進んでいます。
そこで今回は、保守点検の基礎知識とよくある課題、保守点検を効率的に実施する方法と先進事例をご紹介します。


保守点検とは?

保守点検とは、主に製造業やインフラ業界などにおける機器や設備の点検業務を指し、日常的に行われる簡易的な日常点検と、定期的に詳細を確認する定期点検に大別されます。現場に設置された機器・設備の稼働状況をチェックし、異常がある場合は続けて修理や部品交換などのメンテナンス作業を行い、生産やサービス提供、ひいては事業継続に対してできるだけ影響を及ぼさないように処置を施します。

保守点検の目的は、事業をストップさせないため、また影響を最小限に留めるために、設備や機器に生じた故障の早期発見や安全性の確保することです。製造業の場合の生産設備の点検においては、不良品の生産を予防することも目的のひとつです。

保守点検が行われている産業や分野の例

保守点検が行われている産業や分野の例は次の通りです。

・製造業における生産設備・ロボットなど
・インフラ業界(鉄道・航空機、道路、河川、下水道、港湾)における設備、機器など
・医療分野における医療機器など
・家庭用・法人用の石油・ガス機器など

保守点検がもたらすメリット

保守点検を実施することで、次のようなメリットが期待できます。

1. 火災・情報漏洩などの事故を防止できる
設備によっては故障により火災や爆発などが生じるリスクはゼロではありません。また近年は、ネットワークにつながっている機器が増加しており、情報漏洩などのネットワークセキュリティのリスクも増大しています。保守点検を定期的かつ適切に実施することで、これらの事故防止につながります。

2. 品質安定化に寄与する
製造業の場合、保守点検対象が生産設備であれば、生産物の品質の安定化が見込めます。

3. コスト削減につながる
日ごろからこまめにメンテナンスしておくことで、機器の寿命を延ばし、標準的な耐用年数を超えても継続して使用ができます。管理コストは発生しますが、長期的に見ると故障による買い替えや事業への影響による損失などを未然に防ぐことができるため、コスト削減につながります。

4. トラブルへ迅速に対応可能
日々のメンテナンスにより機器や設備に対する知見が深まり、万が一、トラブルが起きた場合も、早期に原因の発見と迅速な対応が可能です。

5. BCPの一環になる
BCPとは「Business Continuity Planning=事業継続計画」のことを指します。企業が自然災害や大火災、パンデミックなどの緊急事態に直面した場合に、事業資産の損害を最小限に留めながら、中核事業の継続・復旧を早期に行うための活動全般です。平時の保守点検は緊急事態への備えにもなり、事業継続にとって重要な要素となります。

保守点検のよくある課題

メリットの大きい保守点検ですが、実際に行う際には、次のような課題を抱えることが多くあります。

人手不足・負荷増大

国内における少子高齢化による労働力不足は深刻化しており、特に製造業は人手不足に悩まされています。保守点検業務を担う人材が不足し、対応しきれない、点検現場での作業で負荷がかかっているという課題があります。

異常発見の遅れによるリスク

保守点検業務を定期的に実施していても、人が行う作業であるため、見落としなどのヒューマンエラーは起こり得ます。万が一、異常を発見するのが遅れることで、事業への影響や事故などの安全面のリスクもあります。そのリスクへの対応策を練ることは重要な課題といえるでしょう。

点検記録の手書きの手間・ミスのリスク

保守点検を実施する際は、多くの場合、記録を残します。今ではデジタル化も進んでいますが、紙による点検簿に手書きをするケースも残っており、手間がかかるという課題があります。また転記ミスなどのヒューマンエラーも起こり得ます。

点検技術の属人化

保守点検は適切かつ定期的に継続して実施して初めて意味を成します。優れた点検技術を持つ人員が定期的に保守点検に当たる仕組みがあることは喜ばしいことではありますが、属人化するリスクもあります。対応する人員によって保守点検結果にバラつきが生じると保守点検を安定的に実施できているとは言い難くなります。

保守点検を効率的に実施するには?

上記のような課題を解決する方法の一つとして、効率的に保守点検を実施する方法を二通りご紹介します。

1. デジタル化

保守点検業務のデジタル化は、人手不足への対応や負荷軽減、異常の予測や自動検出、ミスのない正確な点検結果の提供、属人化の解消などにより、多くの課題の解決につながります。保守点検のデジタル化には、例えば、次のようなアプローチ方法があります。

・ モバイル端末への点検記録入力・点検結果のデータ化
点検簿への手書き業務をデジタル化する方法です。点検担当者が直接モバイル端末へ、その場で入力します。現場での保守点検後に、手書きメモをもとにPCへ入力作業を行う場合は転記もれや入力ミス、作業負荷の増大などの課題がありますが、はじめからデータ化してしまえば、それらの課題を解決できます。

・遠隔・リモート化
点検現場によっては人員が現場に赴くことができなかったり、万が一、故障が見つかり早急に対応しなければならない場合に技術者がすぐに駆けつけられなかったりするリスクがあります。その場合、対応の遅れは致命的となる可能性がありますので、技術者や管理者のいる遠隔地と通信を行い、コミュニケーションを取りながら保守点検を行う方法は有益です。

・IoTやAI(人工知能)などを活用した保守点検自動化
設備をネットワークにつなげ、機器の稼働状況や不具合の情報をデータとして遠隔でキャッチする仕組みを構築します。また現場に設置したカメラを通じて撮影した映像をAIを用いて解析を行うことで保守点検業務が遠隔から自動で行える仕組みもあります。

なお、これらを組み合わせることで、点検の自動化が可能になります。普段は無人で運用し、何か不具合が発見され次第、人が駆けつけるようにすることで、大幅な効率化が可能です。

AIが熟練点検者の技術やノウハウをデータとして学習すれば、AIが一部であっても点検業務を人の代わりに行うことも可能になるでしょう。また、AIが学んだデータを標準化した後、可視化すれば、新人への教育ツールにもなり得ます。難しいとされていた熟練点検者の技術伝承も容易になります。

2. 外部専門スタッフへの委託

自社でデジタル化が難しい場合や、急な人員欠如などの関係で早期に課題に対応したい場合、高度な技術力を持つ外部の専門スタッフに任せるのも一案です。専門のスタッフによってデジタル化された保守点検を実現できることもあります。

ケースバイケースですが、自社で対応するよりも外部委託したほうがコストパフォーマンスが高く見込めることもありますので、状況に応じて検討いただくことをおすすめします。

保守点検のデジタル化事例

保守点検のデジタル化は、すでに多くの現場で進んでいます。そこで実際にデジタル化による保守点検を行った事例をご紹介します。

手書き点検表のデジタル化事例

あるガス供給会社は、ペーパーレス化の一環としてガスの保安業務で扱っていた紙の点検表を廃止しました。
これまで紙の点検表は、帰社後にPCで転記しなければならず、手間や転記ミスのリスクなどの課題もありましたが、紙の点検表を写真撮影してデジタル帳票へ挿入する仕組みを導入したことで、ミスの低減や作業時間の約50%削減を実現しました。

メーター巡視・点検業務のデジタル化事例

ある化学工業会社は、装置のメーターの数値を確認すべく、人が巡視して保守点検業務を行っていましたが、デジタル化によって作業の効率化を実現しました。

メーターの数値を高い頻度で取得し、どのような推移で変化しているのかの傾向分析を行いたいニーズがありましたが、従業員の高齢化に伴って、作業の省力化が求められており、巡視回数を増やすのは困難でした。

そこで、人による目視確認をIoTとAIを用いたカメラシステムに置き換えました。カメラでメーターを撮影し、その画像からAIが数値を読み取ってデータ化する仕組みです。数値のデータ化と、数値変化に対する分析を自動的に行うことで、現場に行かなくても異常の把握等ができるようになり、業務負担の軽減を実現しました。

スマートグラスを用いた遠隔支援の可能性

デジタル化の方法として、スマートグラスを用いたものもあります。
現場での保守点検業務を遂行する現場作業員がカメラ付きのスマートグラスを身に着け、現場の様子を映像として遠隔地にいる作業支援者や管理者に共有することで、保守点検業務を省力化・効率化することができます。

例えば、日本全国、各所に現場作業員が巡回する必要があるケースでは、保守点検中に何か不具合が発生し、現場作業員一人では対処方法がわからないことは往々にして起こり得ます。そのようなときでも、スマートグラスからの映像をもとに作業支援者が遠隔支援を行えるため、適切な指示のもとで保守点検を遂行することができます。

映像を用いた遠隔コミュニケーション方法としては、スマートフォンでWeb会議ツールを用いる方法もありますが、現場作業員の片手がふさがってしまい作業に支障が出るケースも少なくありません。スマートグラスであれば、ハンズフリー対応が可能になるため、効率的かつ安全に作業を行うことが可能です。

まとめ

保守点検は、製造業やインフラ業界の会社にとっては事業を問題なく継続するために重要な取り組みであると同時に、私たちの生活にも欠かせない社会的にも重要な取り組みです。

その保守点検業務の数ある課題を解決するのがデジタル化です。TOPPANは、今回ご紹介したスマートグラスを用いた遠隔支援の例を実現するソリューション「RemoPick®(リモピック)」をご提供しています。

現場の作業者が装着するスマートグラスで撮影した映像(作業者の視界)を、遠隔地にいる指示者との間で共有することが可能です。指示者は、ポインターを用いて現場作業員に細かい指示を図示できるため、わかりやすく作業内容を伝えることが可能です。

詳細はぜひサービス紹介ページをご覧ください。

2024.05.22