コラム

果物狩り、買い物支援、
古墳発掘などスマートグラスで
遠隔支援ニーズを掘り起こし

  • ICT開発センター
  • サテライトオフィス戦略部 長野サテライトオフィス
  • 藤川 頌太

感染症対策で急遽導入したテレワークが定着しつつあるなか、移動をともなわない遠隔ソリューションの市場が急拡大しています。代表的なものとしてWeb会議やライブコマースを思い浮かべる方も多いと思いますが、より業種や用途を限定する形でオンライン授業やオンライン商談などのサービスも登場。業務効率化や高齢者の生活支援、ベテランの技術継承などさまざまな目的に活用できると期待されています。今回は、TOPPANの次世代遠隔コミュニケーションサービス「RemoPick®(リモピック)」を取り上げ、開発を担当した藤川頌太に、数々の実証実験を通じて確認してきた多様なニーズと可能性について聞きました。


RemoPick®で使用するスマートグラスの例

「RemoPick®(リモピック)」は、スマートグラスやタブレットなどで、離れた場所の送信者と視聴者を1対1でつなぎ、スムーズなコミュニケーションを可能にする遠隔コミュニケーション支援サービス。視聴者が画面にタッチすることでポインター付きの映像が送信者に共有されるため、深く詳細な映像&音声コミュニケーションを実現します。


りんご農家の課題解決に向けて
遠隔コミュニケーションサービス開発をスタート

TOPPAN SECURE編集部(以下編集部):まずは、RemoPick®開発の経緯からお聞かせください。

藤川:現在私は、長野県北部の飯綱町にある サテライトオフィス「ICT KŌBŌ®︎ IIZUNA」で、ニアショア開発の傍ら地域の様々な課題解決に向けたソリューション開発にあたっています。実はRemoPick®も、地域のりんご農家さんとの交流のなかから誕生したソリューションです。当初は、ベテラン農家の技術継承とそれによる新規就農者支援に向けて、スマートグラスを介してりんご農家の作業を遠隔地で見ることができる動画配信の仕組みを開発しました。そのプロトタイプを農家の方に見ていただいたところ、「これを使ってりんご狩りができない?」と、逆提案いただきました。

当時、コロナ禍の影響でりんご狩りのお客さまが激減していたので、この仕組みでなんとか苦境を打開できればということで、急遽、リモートでりんご狩り体験ができる仕組みにターゲットを変更し、2020年秋以降開発を進めました。

1~2ヶ月ほどでバーチャルりんご狩りシステムが完成し、同年11月15日に大阪で開催されたイベント「りんごマルシェ」にて実証実験をおこなったところ、「バーチャルりんご狩り」として大きくメディアに取り上げられ、「ウチでも是非やってみたい」など問い合わせが殺到しました。結果的に、2021年以降、20弱の実証実験を継続実施するなかで、通信の安定性強化や機能追加など、1年以上アジャイルで開発を進め、2022年5月の製品版リリースに至りました。

ポインター機能や色調調整機能は「見る側中心」を実現

編集部:実証実験を重ねながらのアジャイル開発について、もう少し詳しく教えてください。

藤川:遠隔コミュニケーション支援サービスというと、Web会議をイメージする方も多いと思いますが、RemoPick®は、送信者と視聴者が1対1でコミュニケーションをすること、送信者はスマートグラスを装着して利用することなど、Web会議とは異なります。そして、「バーチャルりんご狩り」を実現するために実装したのがポインター機能です。スマートグラスのディスプレイには、視聴者の顔ではなく、スマートグラスのカメラが捉えた映像(=送信者の視界)が表示され、大阪のイベント会場の視聴者がその映像にタッチして収穫したいリンゴを選ぶと、スマートグラスのディスプレイに視聴者がタッチし、押したポインターが表示されます。このポインター機能によって、送信者は視聴者が指定したリンゴを確認でき、音声会話をしながら収穫して後日お届けすることになります。

下図はポインター機能の仕組みです。

編集部:リモートで映像を見てりんごを選び収穫する「体験価値」を提供する訳ですね。

藤川:はい、モノではなくコトを提供するという点はECにはない魅力だと思います。農家の皆さんにとっても、丹精込めて育てた果物を通じて消費者とふれあうことができる、貴重な機会になったのではないでしょうか。その後、イチゴなどほかの果物でも同様の実証実験をおこないましたが、ちょっと変わったところでは、大阪府藤井寺市文化財保護課様の協力で「古墳発掘調査」の実証実験を実施しました。スマートグラスが映し出す発掘現場の映像を見て、遠隔地の専門家が作業員に細かく指示するのですが、適切な指示を出すために、発掘現場の地層や遺物の色合いを正確に映し出す必要がありました。

使用するスマートグラスや同日の天候などによって色合いが微妙に異なってくるため、視聴者側で色調を補正できるようにしました。正しいカラーバランスを再現して的確な指示が出せるようになり、ポインターとあわせ、RemoPick®ならではの遠隔コミュニケーション支援を支えるユニークな機能となっています。

【ICT KŌBŌ®︎ IIZUNA

ICT KŌBŌ®︎ iizuna現在、TOPPANでは、“DXを推進する新たな開発拠点”として、サテライトオフィス「ICT KŌBŌ®︎」の全国展開を進めています。地域の人々や企業との交流のなかから新規事業を創出し、それによって各地域が抱える課題の解決を目指すICT KŌBŌ®︎は、地域社会への貢献と、自社の開発体制強化、デジタル人材育成が一体化したユニークな取り組みです。その第一弾として、2020年4月、長野県飯綱町に開設されたのがICT KŌBŌ®︎ IIZUNAであり、藤川を含む東京など首都圏からの移住者や長野県出身者の計9名が、小学校の建物を再活用した複合施設「いいづなコネクトEAST」の一角で生き生きと働いています。

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https://note.erhoeht-x.jp/n/nfcd1128cb72e

遠隔コミュニケーションの新しい形を追求し開発を継続

編集部:実証実験について、その他実績や、ユーザの評価などお聞かせください。

藤川:前段で紹介した古墳発掘調査以外では、観光業での果物狩りや産地見学ツアーなどのほか、教育機関での体験授業、建設業での遠隔作業指示、流通・小売でのバーチャル商談会や買い物代行、不動産業での中古物件買い取り査定などがあり、業種も活用シナリオもさまざまです。最初のバーチャルりんご狩りに参加したお客さまからは、
「本当に自分で収穫している気分が味わえました」
「農家の方と直接会話でき色々勉強になりました」
「車椅子で生活をしている自分がりんご狩り体験できるなんて夢にも思いませんでした」

などの声が寄せられました。

ほかの実証実験についても、高齢化や就労人口減少、業務効率化・働き方改革など、これからの日本が直面する社会課題の解決に向けた取り組みとなっています。意外だったのは、RemoPick®の実証実験全体を通じて否定的な声がほとんど聞こえてこなかったことです。皆さん興味津々、試行錯誤を楽しんでいた印象で、今後の可能性を感じました。今後も開発を進め、製造・物流業界を対象とした生産現場での利用を見込んだ「1対複数人」対応や、RemoPick®らしい機能の追加など、魅力向上に努めていきたいと思います。


藤川頌太
2014年4月、凸版印刷株式会社に入社。東日本エリアで企業様向けの印刷物関連業務などに従事。2016年4月より情報コミュニケーション事業本部に異動し、化粧品や飲料、食品メーカーのマーケティング領域の営業を担当。2020年4月、DXデザイン事業部長野サテライトオフィスに異動し、現在は地域課題解決に向けたソリューション開発を推進している。

2024.05.22

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