遠隔臨場とは?
推進される理由やメリットを解説
近年、人手不足などの課題が大きく働き方改革やDX推進の必要性がある建設業では、業務効率化への取り組みが進められています。
中でも、建設現場の建設生産システム全体の生産性向上を目指す取り組み「i-Construction」が国土交通省主導で進められおり、そのうち「遠隔臨場」の試行は大きな業務効率化の一助となると考えられています。遠隔臨場とは何か、そのメリットと活用方法をご紹介します。
遠隔臨場とは
遠隔臨場(えんかくりんじょう)とは、遠隔から「臨場」を行うことです。臨場とは「場所に赴く」という意味があり、建設現場において、従来、場所に赴かなければ行えなかった業務を遠隔から行うことを指します。
遠隔臨場を行う手法として、ウェアラブルカメラやネットワークカメラといった機器を活用する方法が一般的です。
国土交通省がi-Constructionを進めるにおいては、遠隔臨場を推進していますが、その定義によると、ウェアラブルカメラなどの機器を用いて「段階確認」「材料確認」「立会」を遠隔で行うこととされています。それぞれの業務の意味を確認しておきましょう。
1.「段階確認」
段階確認とは、設計図書に示された施工段階、または監督職員の指示した施工途中の段階において、監督職員が臨場などにより、出来形、品質、規格、数値といった事柄を確認することを指します。
2.「材料確認」
材料確認とは、材料の品質や現物を確認する作業を指します。
3.「立会」
立会とは、監督職員などが臨場を通じて、契約図書との適合を確かめることを指します。
いずれも、ウェアラブルカメラといった動画撮影用のカメラなどの機器を用いて確認作業を行います。
国土交通省策定の実施要領によれば、ウェアラブルカメラといった動画撮影用のカメラとWeb会議システムといったシステムを利用することにより、監督職員が確認するのに十分な情報を得ることができた場合に、従来の現場臨場の代わりに遠隔臨場を利用することができることとされています。また実施要領では、対象工事や撮影に関する仕様、配信に関する仕様、費用負担などが示されています。
遠隔臨場の仕組み
遠隔臨場では、主にウェアラブルカメラやネットワークカメラが用いられます。現場作業員がウェアラブルカメラを装着したり、現場にネットワークカメラを設置したりすることで、その映像を、システムを通じて遠隔地にある本部などに届けます。それを閲覧することで、責任者や監督者が遠隔地からリアルタイムに現場の状況を確認することができます。
遠隔臨場において、現場の様子を映し出す動画撮影用のカメラとして主に使用される機器は、次の4種類があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
ウェアラブルカメラ
ウェアラブルカメラとは、身体に装着することで撮影するタイプのカメラです。ヘルメットに装着するもの、身体に装着するものなどがあります。いずれもハンズフリーで両手がふさがらないため、作業しながら安全に撮影が可能です。
スマートグラス
スマートグラスとは、メガネ型のウェアラブル端末です。ウェアラブルカメラと同様にカメラの機能があるのに加えて、コンピュータを内蔵しているため、資料の確認や通話なども可能です。ハンズフリーで作業ができるので、作業の自由度が高く、安全性も高いのが特徴です。
ネットワークカメラ
ネットワークカメラとは、インターネットに接続して映像情報を通信できるカメラです。クラウドカメラとも呼ばれます。通常は現場に設置して撮影するため、撮影可能な範囲も限られます。
スマートフォン・タブレットのカメラ
スマートフォンやタブレット端末のビデオ通話アプリを利用する方法です。内蔵カメラで現場を撮影しながら映像を送信します。ウェアラブルカメラやスマートグラスと比べて、手に持つ必要があるため、撮影できるシーンが限られます。
遠隔臨場を導入するメリットとデメリット
建設業が遠隔臨場を導入することは、次のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
・移動時間や待機時間の削減
遠隔臨場の一番のメリットは、遠隔から臨場できる、つまり移動しなくて済むという点です。移動時間を減らし、複数の現場を回る必要もないうえに、現場に赴いた後に待機する時間も含めて削減できるため、大幅な業務効率化につながります。他の業務に時間を割くこともできるため、生産性向上も期待できます。
・人手不足への対応
建設業では人手不足が深刻になっていますが、遠隔臨場により現場と責任者の情報共有がスムーズにいき、責任者の移動時間の削減や業務効率化などにより、人手不足への対応も期待できます。
・若手人材育成と研修用の教材の利用
ウェアラブルカメラやスマートグラスなどを通じて若手作業員の人材育成を遠隔から行うことも可能です。また研修用の教材を、スマートグラスを通じて確認しながら現場作業員が業務を行うことも可能です。
・安全性の向上
ウェアラブルカメラなどを用いれば、安全性を保った上で本部とのコミュニケーションが可能になります。またネットワークカメラを固定設置することで、危険な場所に人が行かなくても良くなる点も、安全性が向上するメリットといえます。トラブルや災害予防にもつながります。
デメリット
・機器の導入コストがかかる
ウェアラブルカメラなどの動画撮影用機器やWeb会議システムなど、一連の機器・システムの導入コストがかかります。
・利用機器の操作に関する研修が必要
ウェアラブルカメラやスマートグラスなどは、一般にそれほど普及しているものではないため、ほとんどの人が利用したことがない機器でしょう。そのため、現場作業員が取り扱う際には操作方法などに関する研修の実施やマニュアル作成が必要になります。教育時間やコストも加味する必要があります。
・プライバシー保護への理解が必要
遠隔臨場を行う際には、頻繁に映像を扱うことになります。映像にはプライバシーを保護する必要のある個人が映っていることもあるため、管理については注意が必要です。個人情報保護法などの正しい理解が必要になります。
遠隔臨場の活用方法
建設現場における遠隔臨場は、すでに導入が進んでいます。2つの事例を通して活用方法を確認しておきましょう。
ネットワークカメラ活用の事例
橋台コンクリートを打設する工事の際に、ネットワークカメラを活用して遠隔臨場を行った事例です。
設置が容易な定点監視カメラを3台設置し、リアルタイム映像配信によってコンクリート打設箇所全体を確認できるようにしました。
これにより、コンクリート品質の確認、運搬状況、打設順序、天候などの確認が可能になりました。
定点カメラのため、現場作業員は両手が使えることから、安全確保をしながら撮影が可能になりました。監督員は、執務室において施工状況の確認が可能になったため、監督行為の負担軽減につながりました。
ウェアラブルカメラ活用の事例
建設工事の際に、ウェアラブルカメラを活用して、遠隔臨場による材料確認、立会を行えるようにした事例です。
映像と音声をクラウドに自動保存することで、後日も立会内容の確認と資料の整理が可能になりました。
監督員は往復の移動時間が削減できるとともに、所内にて複数名での確認が可能になりました。
さらに、確認時の映像などがパソコン・スマートフォンに残せることから、資料作成時に必要となった場合に容易に取り出すことができるようになったことも大きな効果でした。
まとめ
遠隔臨場は、建設現場の業務効率化と生産性向上に直結する有効な施策といえます。
今回ご紹介した事例のように、遠隔臨場を実施するには遠隔作業支援システムの活用が有効です。
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2024.05.22