コラム

SDGs視点で考える建築デザインの革新と未来展望|“今”の課題と取り組み事例

様々な業界・産業でSDGsへの取り組みがなされていますが、その中でも社会へ大きな影響を及ぼすとされているのが私たちの生活と密接にかかわる「建築・建設業界」です。しかし、具体的に建築・建設業界でSDGs実現に向けてどのような変化が起こっているかはあまり知られていません。

そこで今回は、SDGsと建築の関係性やメリット、設計手法の具体例、現在抱える問題点まで詳しく解説します。TOPPANが手がけるSDGs建築におすすめの建築材料も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。


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<目次>

■ SDGsと建築の関係とは|概要と重要性
■ SDGs建築に取り組むメリット
■ SDGsが建築の設計デザインに及ぼす影響と具体的な取り組み例
■ SDGs建築の抱える問題点と課題
■ SDGsを達成するための建築デザイン戦略
■ 今後のSDGsを意識した建築デザイン
■ TOPPANの環境配慮型建築材料
■ まとめ


■ SDGsと建築の関係とは|概要と重要性

SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略称で、日本語にすると「持続可能な開発目標」を意味します。

外務省では、SDGsを「貧困・不平等な格差・気候変動などの影響を解決して、すべての人と地球がこれからも良い状態で存在し続けるための目標」と定義づけており、2000年9月に国連ミレニアム・サミットで提唱されたMDGs(Millennium Development Goals)の後継目標です。

SDGs5つのテーマ

SDGsは具体的に以下5つのテーマをもちます。

1. 普遍性(先進国と発展途上国が協力して世界全体の継続性・永続性実現に向けて取り組む)
2. 包摂性(人間の安全保障を原則として「誰一人取り残さない」世界を目指す)
3. 参画型(すべての利害関係者が役割を持つ社会を目指す)
4. 統合性(社会・経済・環境すべてにおいて統合的に理念を持ち、それを実現できる世界を目指す)
5. 透明性(不平等さをなくすための取り組みを世界に発信できる社会を目指す)

この5つのテーマを踏まえて、SDGs実現に向けて17の目標と169のターゲットを設置しています。

SDGsにおける建築の重要性

SDGs実現に向けて多くの産業がそれぞれの活動を行う中、特に重要度の高い産業のうちの1つが「建築・建設業」です。近年は、SDGs建築やサステナブル建築に当てはまるプロジェクトは少なくありません。

SDGs建築やサステナブル建築とはSDGs実現につながる工夫が施されている建築物を指し、重要視されている理由は主に3つあります。

・建物は人々の生活との関係性が深いため(必要不可欠であるため)
・GDPランキング上位のアメリカ・中国・日本・ドイツ・イギリス・フランス・インドにおいて、建築・建設業が国内総生産の6%以上を占めているため。
・建物は「建材の製造・建設・建物運用(利用)・解体・建材の廃棄及びリサイクル」とライフサイクルが長く、各段階で多くのエネルギーを消費し二酸化炭素を排出するため

建築はSDGs 17の目標すべてに広い意味でかかわりますが、特に関係性の高い項目は以下のとおりです。

・【目標1】貧困をなくそう(すべての場所・形態における貧困を終わらせて平等な住環境を確保する)
・【目標3】すべての人に健康と福祉を(すべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)
・【目標5】ジェンダー平等を実現しよう(ジェンダーによる不平等さをなくす)
・【目標6】安全な水とトイレを世界中に(すべての人々の水と、衛生利用・持続可能な管理を確保する)
・【目標7】エネルギーをみんなに、そしてクリーンに(すべての人々が安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへアクセスできる環境を確保する)
・【目標8】働きがいも経済成長も(すべての雇用者に適切な給与を支給する社会づくり)
・【目標9】産業と技術革新の基盤をつくろう(強靭なインフラの構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進)
・【目標11】住み続けられるまちづくりを(包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市および人間居住を実現する)
・【目標12】つくる責任つかう責任(持続可能な生産消費形態を確保する)
・【目標13】気候変動に具体的な対策を(気候変動及びその影響を軽減するための対策を講じる)
・【目標14】海の豊かさを守ろう(持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する)
・【目標15】陸の豊かさも守ろう(陸域生態系の保護・回復・持続可能な利用を実現し、森林経営や砂漠化・土地の劣化阻止、生物多様性の損失を止める)

建築・建設業はこれらの目標と関連性があることから、様々な観点よりSDGs実現へ貢献できる数少ない産業とされています。

■ SDGs建築に取り組むメリット

企業がSDGs建築へ取り組むメリットは、環境への配慮だけにとどまりません。SDGs建築は、経済的な側面でも利益をもたらす可能性を持ちます。

・企業イメージの向上(SDGs実現に向けた取り組みによって社会的評価が向上し、CSRをアピールする上でも重要)
・投資家や顧客からの評価向上(GX投資やESG投資につながる)
・社会の抱える課題が明確になり、その解決に向けたビジネスアイデアの発見や技術開発につながる(同業他社や同用途の建築プロジェクトとの差別化につながる)

これらのことから、大型建築プロジェクトだけではなく中小規模の建築物にもSDGs実現に向けた工夫が取り入れられており、SDGsは建築業界のトレンドワードと言っても過言ではありません。

■ SDGsが建築の設計デザインに及ぼす影響と具体的な取り組み例

SDGs建築やサステナブル建築というキーワードだけ聞くと漠然としたイメージを持つ方も多いでしょう。ここではSDGs建築に関する具体的な取り組み例を紹介します。

建設現場の工程効率化

2024年問題や2025年問題など国内では建設業界における人手不足が深刻化していることから、建設現場における働き方改革は急務に取り組むべき課題とされています。そして、重機の消費エネルギーや二酸化炭素排出は決して少なくありません。

そのため、工程の効率化による「適切な人事評価と適正な報酬を実現できる予算組み」と、「過重労働を防ぐ適切な工程組み」の両方が求められます。

建物の高断熱化

建物の総消費エネルギーにおける空調エネルギー消費量は、建物用途に関わらず30%を超えており、学校などでは50%近いというデータが出ています。

そのため、建物を高断熱化して空調効率を高めることは、消費エネルギー量・二酸化炭素排出量の削減につながり、気候変動の抑制に大きく貢献できます。

また、建物の高断熱化によって空間ごとの室温ムラがなくなり、ヒートショックや屋内熱中症などの健康リスク防止につながることから、利用者の快適性向上も大きなメリットです。

パッシブデザインの採用

パッシブデザインとは、太陽光や日射熱、自然風、雨水などの自然エネルギーを活用して、快適な室内環境を整える設計手法です。機械・電力に頼らないため、省エネ建築へ多く採用されています。

具体的なパッシブデザインの採用例は以下のとおりです。

・太陽高度や方角を踏まえた窓計画により、冬は日射熱を取り入れて暖房エネルギーを削減する
・夏は庇によって日射熱を遮り、冷房負荷を軽減する
・ルーバーなどで太陽光を取り入れたり調節したりして、照明にかかるエネルギーを削減する
・地熱利用によって冷暖房効率を上げる

スマートビルディング化

近年、AI技術やIoT(※)などのデジタル技術を活用して建物のシステム管理を自動化するスマートビルディングの事例が増えています。
※IoT:Internet of Thingsの略称で、日本語にすると「モノのインターネット」。具体的には設備機器や家電製品などをインターネットに接続して管理・制御する技術。

スマートビルディングは照明・空調・防犯・防災などにかかわるシステム設備を効率的に管理・制御できます。そのため、消費エネルギーの最適化や削減につながることから、省エネ建築に必要とされています。

国土交通省では、スマートビルディングに加えてさらに規模の大きいスマートシティ構想も進めており、今後は建築の“スマート化”がより求められると言って間違いありません。

再生可能エネルギーの導入・GXの推進

再生可能エネルギーとは自然界に存在するクリーンで枯渇しないエネルギーを指し、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスエネルギーなどが当てはまります。これら再エネを積極的に導入し、GX(※)を進める動きが活発化しているのが現状です。

※GX:Green Transformationの略称で、化石燃料からクリーンエネルギーへ転換するなどの環境配慮活動と経済成長を両立する取り組み全般を指す。

再エネの採用やGX化に取り組む企業は、社会的評価が向上しGX・ESG投資の対象になるなど業績を伸ばしているのが世界の潮流です。

建物の長寿命化

建物の長寿命化は、建て替えサイクルを延ばし、建材の製造・解体による廃棄物処分にかかわるエネルギー消費を減らせる点が重要なポイントです。

最近ではLCM(ライフサイクルマネジメント)という言葉もトレンドで、建築プロジェクトの「企画・設計・施工・建物運用・維持・解体・廃棄・リサイクル」まで、生涯にわたる計画を最適化することを意味します。設計時から中長期的に環境へ配慮することで、建物の価値向上につながります。

周辺と調和するランドスケープ・壁面屋上緑化・ビオトープの採用

サステナブル(持続可能性)と聞くとまず温暖化対策を連想しますが、SDGsにおいては地球環境よりもミクロな周辺環境や建物利用者への配慮も欠かせません。

人間の快適な環境づくりを目的に、自然を取り入れたランドスケープ計画(壁面屋上緑化や植栽計画)や、その地域に生息する生態系を保全するビオトープ(※)を取り入れる建築プロジェクトが増えています。

※ビオトープ:動植物が生きやすい環境を指し、建築においては小川や人工池、緑地帯などの自然環境を計画に取り入れる設計手法

国産資源の活用

日本は国土の約67%を森林が占めており、そのうち林業を目的とする人工林の割合は約40%です。

国産材や地域材の利用によって建築材料の運輸にかかる消費エネルギーを大幅に削減でき、ヨーロッパ産木材と比べると輸送過程における二酸化炭素排出量は1/9まで抑えられます。

また、労働環境の充実や地方での人材不足・高齢化、過疎化などの解決にもつながるとされており、地方創生における重要なキーワードです。

低汚染型建築材料の利用

製造・使用・廃棄すべての段階において、大気・水源・生物などを汚染しない建築材料の採用が進んでいます。例えば、TOPPANの内外装用オレフィンシートは、以下の観点から“環境にやさしい”建築材料として注目されています。

・オレフィンの製造過程で排出されるCO2量は、対塩ビ製品と比べて大幅に削減される
・オレフィンは塩素を含まないため、燃焼時に塩化水素が発生しない
・オレフィンはVOC(揮発性有機化合物)の発生要因とされる可塑剤を含まない

リサイクル建築材料の利用

建設業に由来する廃棄物は全廃棄物の20%を占めており、建築材料のリサイクル率を100%に近づけることは早急に取り組むべき課題のうちの1つです。

そのため、各建材メーカーでは廃プラスチックの活用などに取り組んでいます。TOPPANでは、廃木材と廃プラスチックから耐腐食・耐虫性が高く安定した品質の再生複合建材「トッパンマテリアルウッド」を製造しております。

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■ SDGs建築の抱える問題点と課題

SDGs建築が社会に与える影響力は大きく、カーボンニュートラルや脱炭素社会実現に向けて多くのプロジェクトへ採用されています。しかし一方で、中小規模建築物までSDGs建築が広く普及しないのも現実です。

SDGs建築のデメリットは主に以下のとおりです。

・中短期的な成果が見えにくい(評価されにくい)
・建設コストが高くなる
・環境配慮と経済成長が連動しにくい

これらのデメリットを解消するために、炭素税による消費エネルギー削減が正当に評価される仕組みづくりなど、政府主導によって社会が徐々に変わり始めています。

また、建物運用段階における経済面での費用対効果の観点から、建築プロジェクト全体で環境配慮にコミットするのではなく、“無理のないところから取り入れる”設計デザインも珍しくありません。例えば、パッシブデザインや環境配慮型建築材料の採用だけであれば、大幅な建築コストアップを防げます。

■ SDGsを達成するための建築デザイン戦略

SDGsを建築で達成するためには、プロジェクトの初期段階から押さえるべきポイントがあります。

プロジェクト起案段階

建物利用者や周辺住民へのヒアリングを徹底し、建物の必要性や存在意義を認識しましょう。また、公共的な施設においては、建物運用時の生産性(収支)をシミュレーションし、長期間経営を持続できるかを確認することも重要です。

設計段階

設計プロセスにおける持続可能性の組み込み方を検討しましょう。以下のような方法によって建物の持続可能性や省エネ性を高められます。

・BIM/CIMを活用した日照シミュレーションや省エネ計算
・再エネ設備(太陽光発電など)の採算性シミュレーション
・構造計画・内装デザインにおける環境配慮型建築材料の採用
・解体時のリサイクル率を想定した建材の選定
・LCMを踏まえた中長期的な運用・維持計画の検討(メンテナンスサイクルのシミュレーションとコスト試算)

施工段階

施工においても省エネへの配慮は欠かせません。具体的な取り組みの例は以下のとおりです。

・作業効率向上を実現できる工程組み
・無理のない工期・予算設定
・重機などの定期点検・整備の徹底
・工事現場における照明のLED化
・省エネ・低燃費型建設機械の導入
・クールシェア・ウォームシェアの実践
・DX 化(デジタル化による紙資源の削減と工程管理効率化)
・現場事務所への太陽光パネル設置

運用段階

建物の寿命は施工技術や建材の進歩によって年々延びています。そのため、運用段階への配慮も欠かせません。

・設計時に想定したエネルギー効率に沿った建物運用への努力(空調・給湯・照明の管理や制御)
・消費エネルギー量の把握・管理と改善
・適切な建物メンテナンスの実施によるさらなる長寿命化の実現
・SDGsに関する取り組みのアピール(周辺からの理解獲得)

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■ 今後のSDGsを意識した建築デザイン

これまで、環境にやさしい建物を実現するためには、設計者の“妥協”や建物利用者の“我慢”が伴っていましたが、施工技術や建築材料の進化によってSDGsに配慮しつつ経済成長を遂げられてさらに快適な室内を生み出せる時代に突入しつつあります。

SDGs建築はGX・ESG投資を受けられるチャンスが高まる点からも、経済的なメリットを得られる可能性もあるのです。実際に政府は補助金・助成金などの形で、2033年までに150兆円超の官民GX投資を実現することを目標にしています。

建築コンペでもSDGs実現に向けた工夫が高く評価される傾向が強まっていることから、これからの建築にSDGsは欠かせないキーワードと言って間違いありません。

■ TOPPANの環境配慮型建築材料

TOPPAN(トッパン)は1900年の創業以来、SDGs実現に向けた社会的課題の解決に寄与してきました。

【資源の効率的・循環的な利用を可能とする「環境配慮型製品」】

【健康・快適・安心をプラスできる「抗ウイルス・抗菌製品」】

【廃材削減や自然の持続可能性を高める「リサイクル建材」】

これらの製品を通じて、SDGs建築を実現するお手伝いをしております。

■ まとめ

SDGs建築は、気候変動の抑制や人々の健やかで快適な環境づくりを実現する上で重要なキーワードです。そのメリットは、環境配慮の側面だけにとどまらず、企業の成長や受注拡大をもたらす可能性も秘めています。

ただし、建築プロジェクトの大部分をSDGsに振るプランは、コスト面の観点から実現可能性が低いと言える点は否めません。そのため、予算の範囲でSDGs実現につながる材料や設備を取り入れる設計もおすすめです。

TOPPANでは、施工性・デザイン性の高い環境配慮型内外装用建材を開発・製造しております。「人に長く愛される建物」や「環境に優しい建築」、「街のシンボルになる建築」の材料選定でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

2025.06.24

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