コラム

環境配慮型建築とは|現状の問題とサステナブル社会実現に向けた対策、環境に優しい建材についても

「環境配慮型建築」普及の動きが世界中で活発になっています。

そこで本記事では、建築が地球環境に与える影響と問題点から、「環境配慮型建築」の定義や関連する法律・補助金、実現に向けた取り組み、日本と海外の事例を紹介します。環境に優しいおすすめの建材も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。


<目次>

■ 建築が地球環境に与える影響と現状の問題点
■ 環境配慮型建築の定義と重要性
■ 環境配慮型建築に関連する法律・制度・補助金
■ 環境配慮型建築実現に向けた方法|設計・施工・運用
■ 環境配慮型建築の取り組み事例|日本・海外
■ “TOPPAN”のSDGsに向けた取り組み
■ 環境と人に優しい建築材料
■ まとめ


■ 建築が地球環境に与える影響と現状の問題点

日本において全ての二酸化炭素排出量のうち約2%、産業廃棄物に至っては全産業の約20%が建築分野からのものであるとされています。

建設業が建物の建設及び運用において排出する二酸化炭素量は年間5億トン(総排出量12億トンの約36%)を超えているのです。

また、日本のGDPにおける建設業が占める割合は約5%(約30兆円)を超えていることからも、建築分野の取り組みが地球環境へ与える影響は決して小さくありません。

事実、「材料生産・施工・建物運用」における問題点はまだまだ多いのが現状です。

材料生産

鉄筋コンクリート造の材料となる鋼材やコンクリート、窓にはめられるガラスは、製造過程で膨大なエネルギーを必要とします。
また、一部の化学物質が森林汚染・土壌汚染・海洋汚染を引き起こしている現実も無視できません。
そんな中、木材は成長過程で多くの炭素を固定して酸素を排出するため、地球温暖化に歯止めをかける材料として再び注目されており、オレフィンなど焼却しても有害ガスを出さずLCCO2(※)を抑えた物質を活用した人工建材の開発も進んでいます。

※LCOO2:ライフサイクルCO2の略で、「製造・輸送・販売・使用・廃棄・再利用」全てにおける二酸化炭素発生量を評価する指標

施工

建築現場への資材運搬や施工時の重機使用によって、二酸化炭素や排気ガスが発生しています。
大手ゼネコンをはじめとして、運搬車両や重機のEV化が進んでいるものの、まだ実験的な範囲を脱していません。

また、ある程度の現場規模になると、工事に伴って周囲環境へダメージを与える可能性や、残土や端材の発生、材料ロスによって廃棄エネルギーが増加する可能性をはらんでいます。

建物運用

1997年に締結された京都議定書の目標達成計画によると、建築分野における二酸化炭素排出量減少への対策として、特に建物運用の省エネ化が重視されています。

ところが、建物運用段階における二酸化炭素排出量は増加し続けており、当初設定した目標を達成するのが困難なのが現状です。

また、建物のZEH(※)・ZEB(※)事例は増えているものの、主に大型プロジェクトや実験的な事例、公的施設が中心で、建築コストの高さから費用をかけても建物運用におけるメリットに繋がらない点も問題とされています。

※ZEH:ネットゼロ・エネルギー・ハウスの略で、省エネと創エネにより消費エネルギーを正味ゼロ(±ゼロ)にすることを目標とした住宅

※ZEB:ネットゼロ・エネルギー・ビルの略で、基本的な考え方はZEHと同様

太陽光発電や地熱利用設備を導入する事例もありますが、100%自家発電できるレベルに至っている事例はあまりありません。

解体・再生

建物を解体すると、重機が必要とするエネルギーに加えて産業廃棄物処理にも膨大なエネルギーを要し、多くの二酸化炭素を排出します。

日本における廃棄物総排出量のうち、リサイクルできるものを除いた最終処分量の約30%が建築分野に関連するものなのです。

そのため、建築資材・建設廃棄物の3R(※)が重要課題とされています。

※3R:リデュース(製造時の省資源化と省廃棄物化)・リユース(同じ製品を何度も再使用)・リサイクル(廃遺物を再資源化・再エネルギー化)することの総称

■ 環境配慮型建築の定義と重要性

建築分野が抱える地球環境に関する問題点を解決するために普及が進められているのが「環境配慮型建築」です。

環境配慮型建築とは、「設計・施工・運用・解体・再利用」全ての段階において、様々なアプローチで地球環境に優しい仕組みを取り入れる建築を指します。

メリットは地球環境に優しい点だけではありません。

・建物や企業のGX(※)化実現
・企業の社会的責任(CSR)の実現
・企業価値や企業イメージのアップ
・総合評価落札方式や工事成績評定におけるインセンティブの付与
・競合他社との差別化
・デカップリング実現

※GX:グリーントランスフォーメーションの略で、再生可能エネルギーへ転換するための取り組み

デカップリングとは、これに対して一定の経済成長や便利さを維持しつつも、エネルギー消費を減らしていく、即ち両者を「切り離す」という考え方です。例えば、資源の再利用・循環利用を行う、エネルギー多消費の産業構造を改める、これまでにない手法で省エネすることにより、デカップリングは可能です。

特に、GX化は国が多額の予算を充てて積極的に取り組んでいます。

■ 環境配慮型建築に関連する法律・制度・補助金

国土交通省は環境配慮型建築普及を進めるために、関連法規や制度の見直しや補助事業を行っています。

改正建築物省エネ法

2021年に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(通称:建築物省エネ法)」が改正され、以下の内容が盛り込まれました。

・大規模非住宅建築物に対する省エネ基準適合義務及び適合性判定義務
・中規模以上の建築物に対する省エネ性能届出義務
・小規模建築物に対する建築士による省エネ性能説明義務
・省エネ向上計画の認定と容積率特例
・エネルギー消費性能の表示

改正省エネ法制定

2023年に「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する基本方針(通称:改正省エネ法)」が制定され、建築分野を含む全てのエネルギーを使用する事業者に対して、エネルギー消費効率の高い設備や太陽光発電や蓄電池など化石燃料に頼らない設備を導入することが推奨されています。

建設リサイクル法

2002年に「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(通称:建設リサイクル法)」が制定され、コンクリート・アスファルト・木材などの特定建設資材にかかわる解体工事や新築工事について、受注者が分別解体や再資源化などへ具体的な対策をとることを義務付けています。

建築環境総合性能評価システム(CASBEE)

建築環境総合性能評価システムは、新築建築物・既存建築物・既存建築物の改修において、その環境配慮や快適性、景観への配慮などを総合的に評価する仕組みで、建物の環境配慮性を個別に判断する目的で利用されています。
主な評価のポイントは以下の通りです。

・建築物ライフサイクルにおける環境負荷低減性(エネルギー・資源およびマテリアル・敷地外環境)
・室内環境・室外環境・サービスの快適性

CASBEE以外にも、いくつかの官民団体による環境性能評価システムが構築されており、複数を取得する事例が増えています。

・LEED(非営利団体USGBCによる評価システム)
・BREEAM(英国建築研究所による評価システム)
・BELS(一般社団法人住宅性能評価・表示協会による評価システム)

各種補助金

環境省・経済産業省・国土交通省を中心に、環境配慮型建築物を対象に以下の補助事業が実施されています。

※これらの補助事業は予算が無くなり次第終了しますので、詳細は各窓口へお問い合わせください。

■ 環境配慮型建築実現に向けた方法|設計・施工・運用

建築物の「設計・施工・運用・解体・再利用」における環境配慮の方法はいくつかあり、それぞれ段階によって実践できる取り組みは異なります。

CO2・廃棄物排出量削減

(高効率設備機器の選定・材料ロス削減・作業の効率化)

設計

施工

運用

再利用

周辺環境及び建物利用環境への配慮

設計

施工

再生資源および再生可能資源の利用

設計

運用

地域の持続可能性向上

設計

運用

省エネ化とエネルギー消費の高効率化

(高断熱・高効率照明及び設備機器の選定)

施工

運用

自然エネルギーの活用

(太陽光・地熱利用)

運用

水資源の確保

(節水型設備の導入や雨水利用など)

運用

これらのキーワードをプロジェクトコンセプトの軸におくことで、環境に配慮した建築を実現できます。

■ 環境配慮型建築の取り組み事例|日本・海外

ではここで、国土交通省が公表しているカーボンニュートラル建築の事例を紹介します。

日本国内の事例

【内幸町一丁目南地区計画】
千代田区におけるオフィス・ホテル・商業施設を含む都市再開発計画で、延べ床面積25万㎡もの大規模プロジェクトです。

・オフィスのZEB化
・断熱性・遮光性の高いファサード(正面デザイン)の採用
・外壁太陽光パネルの設置
・既存建物の構造躯体の一部再利用

【東京工業大学(大岡山)附属科学技術高等学校】
丘陵地形を生かした高等学校校舎新築プロジェクトで、地球環境だけではなく周囲の自然環境や健康的で快適な学習空間を実現しました。

・自然の地形を尊重した配置計画
・環境教育にも活用できる省エネルギー設備
・平時のエネルギーマネージメント及び非常時のエネルギー自立
・自然通風を可能としたファサードデザイン
・大空間の木質仕上げによる輻射空調システムの導入
・ZEB Ready取得

海外の事例

2014年に完成した集合住宅で、高さ111mと76mのツインタワーで構成されています。「垂直の森」を意味する名前の通り、建物からはみ出すようにおよそ800本の木々が植えられており、遮熱効果や調湿効果、二酸化炭素吸収などの効果をもたらしています。

■ TOPPANのSDGsに向けた取り組みと環境・人に優しい建築材料

環境配慮型建築に向けた方法はいくつかありますが、TOPPANは「環境に優しい建築材料の開発・製造」を通してサステナブルな社会実現へ貢献しています。

【環境】
地産材利用・リサイクル資源の活用を通じて、サステナブルマテリアルの開発・製造に取り組んでいます。

【まち】
Erhoeht-X(エルヘートクロス)技術の活用によって、人々の暮らしにおける安心安全と空間演出を両立できるサポートをしております。

【ひと】
様々なニーズに対応できるヘルスケア・ワーカーケア・コミュニティーの活性化を実現するサポートをしております。

おすすめの環境配慮型建築材料

■ まとめ

環境配慮型建築は、脱炭素化・カーボンニュートラルの実現に欠かせません。建築分野が変わることで、確実に二酸化炭素排出量や廃棄物量は減らせます。また、「設計・施工・運用・解体・再利用」におけるポイントを踏まえたコンセプト設定も重要です。

TOPPANでは、環境に配慮したデザイン性を豊かにする建材を開発・製造しております。「環境に優しい建築」を目指している方や、材料選定でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

2024.09.17

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