コラム

サステナブル建築とは?
メリットやデメリット・日本の事例を解説

現代において、サステナブル建築は単なる環境に優しい設計を超え、地球全体や地域特有の持続可能性を高める重要な役割を担っています。

この記事では、省エネルギーや再生可能エネルギーの活用、地域社会への貢献など、サステナブル建築のメリットや課題、日本における実際の事例を詳しく解説します。


<目次>

■ サステナブル建築とは
■ サステナブル建築が注目される理由
■ サステナブル建築の基準
■ サステナブル建築のメリット
■ サステナブル建築のデメリット
■ サステナブル建築の課題
■ 日本のサステナブル建築の事例
■ まとめ


■ サステナブル建築とは

サステナブル建築とは、環境負荷を抑えつつ、人々が利用するのに快適な空間を目指して設計された建築物のことです。資源の有効活用やエネルギー効率の高い設計、環境に優しい部材の使用などを重視しています。

日本建設業連合会は、サステナブル建築を以下のように定義しました。単に環境への負荷を抑えるだけでなく、地域の伝統や文化との調和を図ることも重視しています。

設計・施工・運用の各段階を通じて、地域レベルでの生態系の収容力を維持しうる範囲内で、(1)建築のライフサイクルを通じての省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質排出抑制を図り、(2)その他地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和しつつ、(3)将来にわたって人間の生活の質を適度に維持あるいは向上させていくことができる建築物を構築することを指します。

サステナブル建築は、自然環境を守りながら、長期的に経済的にも持続可能な社会を実現することを目的としています。

■ サステナブル建築が注目される理由

サステナブル建築が注目される理由は、地球温暖化を始めとする気候変動や資源の枯渇が問題となっているためです。

温室効果ガスの排出による地球温暖化を止めるため、2050年までのカーボンニュートラル達成を世界で目指しています。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの「排出量=吸収量+削減量(プラスマイナスゼロの状態)」にすることで、地球温暖化を防ぐものです。

また、石油や木材といった資源の減少も懸念されています。もし森林が減少すれば、温室効果ガスの吸収量が減り、地球温暖化に拍車をかけることになるでしょう。

国立研究開発法人森林研究・整備機構が2023年2月に発表したところによると、過去60年間で世界の森林面積は1960年の41億8,766万haから2019年の41億593万haに純減しました。差分の8,173万haは、日本列島2つ分に及びます。

このような世界的な環境問題を踏まえ、建築分野でも持続可能な開発を求められるようになりました。その中で、省エネルギー・省資源・リサイクルといった環境負荷を減らすサステナブル建築は、重要な役割を果たしています。

■ サステナブル建築の基準

日本建設業連合会では、サステナブル建築を実現するために以下3つの視点から基準を設けています。

・地球の視点
・地域の視点
・生活の視点

それぞれの特徴について解説します。

地球の視点

この視点では、地球全体の環境を考慮した建築設計が重要視されます。具体的には、CO2排出量の削減、再生可能エネルギーの促進、建物長寿命化などが挙げられます。
日本建設業連合会が紹介する主な配慮項目は以下の通りです。

項目

概要

1.省CO2、節電

化石エネルギー消費が最小となるような設計及び運用、省CO2と節電・ピークカットの両立

2.再生可能エネルギー

再生可能エネルギー活用を推進する設計及び運用(ex 固定買取制度活用を含む)

3.建物長寿命化

長持ちし長く使い続けられる建物の設計及び運用

4.エコマテリアル

二酸化炭素排出や環境負荷の少ないリサイクル材等の利用を推進

5.ライフサイクル

設計・施工・運用・改修・廃棄プロセスを通じ、一貫したライフサイクル・マネジメントを可能にする

6.グローバル基準

グローバルな性能評価基準への適宜対応(ex LEED、Energy Star 他)

いずれも環境負荷の低減につながる項目です。節電や建物長寿命化といった項目は、利用する人や企業にとって経済的なメリットのある項目ともいえます。

地域の視点

地域の視点では、その地域特有の気候、伝統、文化、自然環境を考慮した建築が求められます。地域に根差したデザインや、自然災害に強い構造などが重要です。
日本建設業連合会が掲げる配慮項目は以下の通りです。

項目

概要

1.都市のヒートアイランド抑制

外構・屋上・壁面の緑化、保水床、散水・打水他

2.生物多様性への配慮

既存の動植物に対する生態系ネットワークへの配慮

3.自然・歴史・文化への配慮

景観配慮、歴史・文化配慮、地域コミュニティ配慮

4.地域や近隣への環境影響配慮

土壌汚染、大気汚染、水質汚染、交通量配慮、日影、騒音、振動、臭気、廃棄物等の配慮

5.エネルギーネットワーク化

CEMS,スマートグリッド等の地域に最適なエネルギーネットワー化への配慮

6.地域防災・地域BCP

自然災害の防災及びライフライン確保等、事業継続性計画(BCP)への配慮

地域の視点では、その地域に生息している動植物の生態系ネットワークを守り、景観や歴史にも配慮し、水質汚染や産廃棄物がもたらす災害を防ぐような建築物が求められます。

生活の視点

生活の視点では、建築物が居住者や利用者の健康や快適性にどのように寄与するかが重視されます。
この視点における主な配慮項目は以下の通りです。

項目

概要

① 安全性

平常時安全性(防犯、事故防止、弱者安全、他)、非常時安全性(地震安全・BCP、火災安全、他)

② 健康性

CO2濃度、化学汚染物質、感染症対策、清浄度、臭い、他

③ 快適性

温熱環境、光環境、音環境、他(ex 輻射空調等)

④ 利便性

ELV待ち時間、モジュール、動線、オフィススタンダード、IT環境他

⑤ 空間性

眺望、広さ、色彩、触感、コミュニティ、緑化、アメニティ他

⑥ 更新性

可変性、拡張性、冗長性、回遊性、収納性他

いくら環境的、経済的にメリットがある建築物だったとしても、その空間にいる人々を危険にさらしたり、不自由さを感じさせたりするのは避けたいところです。犯罪や災害、感染症、騒音などから守り、移動や居住に使いやすい建築物にすることなどを重視されます。

■ サステナブル建築のメリット

サステナブル建築の主なメリットを紹介します。

・地球に優しい
・光熱費を抑えられる

地球に優しい

サステナブル建築が地球に優しい理由は、その設計が環境への影響を最小限に抑えることを目的としているからです。

省エネルギー設計、温室効果ガスの排出削減、自然資源の持続可能な利用などを通じて実現できます。このような取り組みは、自然界の生態系ネットワークを保護し、気候変動のリスクを減らすことに直接的に貢献します。

光熱費を抑えられる

サステナブル建築はエネルギー効率に優れた設計で、電気・ガス・水道といった光熱費を抑えられます。

例えば、断熱材を使用したり、自然光が入りやすい窓辺にしたり、ソーラーパネルなどの再生可能エネルギーを導入したりすることで、冷暖房にかかるエネルギー消費量を削減できます。

■ サステナブル建築のデメリット

一方で、サステナブル建築にはいくつかのデメリットも存在します。

・建築までに時間がかかる
・高額な費用が発生する

建築までに時間がかかる

サステナブル建築は、一般的な建築物に比べて建築までの時間が長くなることがあります。

地球・地域・生活の各項目を満たせるように配慮した設計や設備、部材を選ぶ必要があるためです。例えば、リサイクル材料の調達や加工に時間がかかったり、温室効果ガスの削減量を算出したりと手間がかかります。

サステナブル建築が一般的な建築物と比べてどの程度長くなるかは、プロジェクトの規模や地域によるので一概にはいえません。具体的な工期はプロジェクトごとに異なります。

高額な費用が発生する

サステナブル建築では、これまでの建築とは異なる特殊な部材や設備を採用し、また前述のように工期が長くなることで人件費も高くなるため、高額な費用が発生しがちです。

サステナブル建築に用いられる特殊な部材の例は以下になります。

・蛍光灯をリサイクルしたガラス
・FSC認証材(杉やヒノキ、カラマツなど)
・保水セラミック
・粘土で作ったタイル

FSC認証材とは、森林管理協議会(FSC)が「適切に管理した森林から生産された木材」と認めたものです。違法な森林伐採や無計画な植樹ではなく、持続可能な形で生産された木材が該当します。

とはいえ、これらの初期投資は長期的には光熱費の削減や、そこで働く人のパフォーマンス向上、企業ブランドの向上などによって回収できる可能性があるでしょう。

■ サステナブル建築の課題

サステナブル建築が抱える課題の一つは、「既存の建築物と新たに建設される建築物がどの程度サステナブルであるか」を評価するための共通の尺度が存在しない点です。

現在、サステナブル建築の性能を評価するためには、複数の評価指標が用いられています。これらの指標は国や地域、年代によって異なる場合があり、世界全体で統一された基準があるわけではありません。

以下では、代表的なサステナブル建築の評価指標を紹介します。

1988年に米国グリーンビルディング協会によって作成された認証で、立地や水利用効率、材料と資源、室内環境品質などの項目から評価するものです。

1990年にBRE(英国建築研究所)が開発した評価システムです。10のカテゴリーを5段階で評価し、その内容によって認証レベルが決まります。2023年6月時点で、世界93ヵ国、約34,000件が認証されています。

一般社団法人 日本サステナブル建築協会による日本独自の評価システムで、2001年から国土交通省住宅局と産官学共同プロジェクトとしてスタートしました。環境品質や環境負荷、環境性能効率といった側面で評価され、5段階にランク付けされます。

■ 日本のサステナブル建築の事例

日本では、サステナブル建築がいくつも登場しています。

一般社団住宅・建築SDGs推進センターでは、建築物として優れた作品であるとともに建築主、設計者、施工者および利用者の協力により、建築物の計画、生産、運用、廃棄にいたる全ての段階におけるSDGs達成に向けた顕著な取組で、その普及効果が期待されるSDGs建築物を顕彰する「SDGs建築賞(旧サステナブル建築賞)」を主催されています。

以下では、SDGs建築賞を受賞した建築物をご紹介します。

早稲田大学37号館 早稲田アリーナ

「早稲田大学37号館 早稲田アリーナ」は、スポーツアリーナを中心にラーニングコモンなどを内包する地上4階、地下2階の約14,000m2の複合施設で、全体を半分地下に埋めて地中熱を利用した省エネルギーを実現し、屋上部分を緑化して豊かな外部空間を創出している建築です。
学生だけでなく地域にとっての場の形成も考えたコンセプトになっており、その多くがSDGsのゴールが目指すところと合致しています。

省エネルギーについては、地下に埋めたことで断熱性を高め、地中熱を利用していることが特徴であり、そのうえでモニタリングも行い、実績値として高いレベルの省エネルギーを実現されています。 

屋上のデザインについては、緑化された外部空間および隣接するカフェなどによって、学生の憩いの場として利用するだけでなく、地域にも開放されている。緑については、近辺の戸山公園や早稲田のメインキャンパス等の植生との関係を意識して計画されています。

大学の体育館と交流の場の施設として、省エネだけでなく学生や地域の住民に対して快適な空間を創出することに成功しており、プロジェクトで実現した建築とその後の運用が、SDGsの幅広い項目と合致していたことが高く評価されています。

トヨタ紡織グローバル本社

敷地内に土地の記憶を引き継ぐ記念樹、保存樹を中心とした「刈谷の杜」を整備し、セキュリティラインを敷地境界ではなく、建物内に計画することで、敷地そのものがまちに開かれた計画となっています。

1Fエントランスホールの屋上は緑化し、傾斜し南東に開く緑化面から入射するハイサイドライトから採光。この緑化した屋上の景観は2Fミーティングゾーン、屋外テラス席に憩いとうるおいがもたらされています。ハイサイドライトの採光は1Fエントランスホールの天井に吊るしたファブリックスクリーンを通し拡散光をもたらす一方、雨水を利用した水盤に反射する光が南面窓から差し込み、天井のファブリックスクリーンに写り込むことで、自然の揺らぎが感じられる明るい空間となっています。

オフィスの南面ファサードは眺望を確保しながら日射負荷、採光をコントロールするため、糸を紡いだ形状のスクリーンを設置し、特徴的な建物外観を形成している。執務室では生体リズムに合わせて照明を調光・調色するウェルネス制御や、天井面のしみだしパンチングパネルを通した放射空調、床吹き出し空調を導入し、知的生産性の向上と健康増進が図られています。また太陽光・蓄電池エネルギーマネージメントシステムを導入し、証明や空調の制御が行われています。

計画段階からトライアルオフィスの実施や効果測定を通じて、「いつでもどこでも誰とでも働ける環境の構築」を目指し、オフィスフロアではフリーアドレスでありながら、連携しやすい部署の配置、年2回の働き方アンケートなどで改善を図るなど、運用面での取り組みも高く評価されています。

■ まとめ

サステナブル建築は、環境への影響を最小限に抑えることを目的とし、長期的な視点から環境的、経済的、社会的な持続可能性を追求します。

日本でもサステナブル建築が登場しており、記事内でもご紹介したSDGs建築賞は、一般社団住宅・建築SDGs推進センターのwebサイトで確認することができます。ぜひご参考にされてはいかがでしょうか。

■ おすすめのサステナブル建材

2024.06.05

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