コラム

建築業とSDGsの関係性
ミラノサローネで見られたサステナブルへの取組み事例もご紹介

国連サミットで掲げたSDGs(持続可能な開発目標)は、17のゴールと169の具体的な目標で構成されています。SDGsへの取り組みがどの業界でも進められており、建築業も例外ではありません。

ただ、どのような取り組みでSDGsに貢献すればいいのでしょうか。今回は、SDGsと建築業の関係性について、メリットやデメリット、リスク、取り組み事例を交えて解説します。


◎◎

<目次>

■SDGsとは
■SDGs建築ガイドとは
■建築業とSDGsの関係性
■建築業におけるSDGsに取り組むメリット
■ 建築業におけるSDGsに取り組まない場合のリスク
■ 世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」で見られたサステナブルへの取組み事例
■ まとめ


■SDGsとは

SDGs(持続可能な開発目標)とは、国連が2015年8月に国連サミットにおいて全会一致で採択した2030年までにより良い世界を目指す国際目標です。「飢餓をゼロに」「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「気候変動に具体的な対策を」といった17のゴールと、169の具体的な目標から成り立っています。

これらのゴールは、地球上の誰一人として取り残さないように、先進国・発展途上国を問わずすべての国が協力して達成することが期待されており、日本にでも積極的な取り組みを求められているのです。

また、持続可能な開発とは、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義づけられています。現代の世代の利便性や経済成長を優先するあまり、環境破壊や経済格差によって、将来の世代が不利益を被るような開発は避けなければなりません。

■ SDGs建築ガイドとは

「SDGs建築ガイド(17の国連SDGsに対する建築ガイド)」とは、国際建築家連合が策定した、建築業界がSDGsのゴールを達成するための指針です。このガイドは、17のゴールそれぞれに関して、建築業がどのような取り組みができるかをまとめています。

例えば「建築環境で、飢餓をゼロに」について、「建築環境は、現在のエコ・システムを保全し、食糧生産のための面積を保全、拡大することを優先するプランニング、ランドスケープ・デザイン、複合建築によって食糧供給を確保することに貢献できる」としています。その事例として、デンマークの「インパクト・ファーム」やアメリカの「ミシガン・アーバンファーミング運動」などを紹介しました。

SDGs建築ガイドを通じて、建築業がSDGsに対する自らの貢献を明確にし、より持続可能な社会の実現に向けた第一歩としているのです。

■ 建築業とSDGsの関係性

建築業や建設業界では、安全な建物の設計と施工が求められ、環境への影響を最小限に抑えることが不可欠です。例えば、エネルギー効率の高い建物の設計や再生可能エネルギーの利用は、環境負荷を低減し、持続可能な都市を実現するための重要な活動です。また、安全な労働環境の確保や災害に強い建築物の設計も、SDGsの目標に一致しています。

企業はSDGsを取り入れることで、社会的責任を果たしながら、長期的なビジネスの安定と成長を図ることができます。SDGsは、未来のビジネス戦略において欠かせない要素です。

SDGsの目標の中には、建築業と関係性が強いものもあれば、関係性が薄いものも存在します。関係性が強いゴールであるほど、建築業が貢献できる度合いも大きくなります。

具体的には、以下の面でSDGsの目標と密接に結びついています。

項目

目標

関係性が強い理由

目標7

エネルギーをみんなに そしてクリーンに

エネルギー効率の高い建築設計や再生可能エネルギーの利用は、クリーンなエネルギーにつながる

目標8

働きがいも経済成長も

長時間労働が課題とされる建築業で、働き方改革による労働環境の整備は必須である

目標11

住み続けられるまちづくりを

自然災害に強い建築物や、誰もが快適に住める都市計画といった面で持続可能な住環境に貢献できる

目標12

つくる責任、つかう責任

建築資材に廃材を利用する「リサイクル建築」や建物の改修や再生を行う「リノベーション」を通じて、資源の効率化を図る

目標15

陸の豊かさを守る

国際や地産木材の利用によって、森林資源の活性化に貢献できる。また、土砂災害を防ぎ、生物多様性を守ることも可能

このように、建築業界がSDGsの目標達成に向けて果たす役割は大きく、それに伴う責任も重大です。SDGsの導入・推進による持続可能な建築への対応が、社会全体の持続可能性に貢献することが期待されています。

◎◎

■ 建築業におけるSDGsに取り組むメリット

建築業界がSDGsに取り組むことは、単に社会的責任を果たすだけでなく、企業にとっても多くのメリットがあります。

以下では、主なメリットを紹介します。

・企業イメージが向上する
・資金調達をしやすくなる
・コスト削減につながる

企業イメージが向上する

SDGsへの取り組みは、企業のイメージを向上させる要因となります。持続可能性に対する意識が高い企業は、消費者や取引先からの信頼を得やすくなり、ブランド価値が向上します。

近年では、「グリーン購入」という新しい消費スタイルも登場しました。グリーン購入とは、製品・サービスを購入する際に、必要性を考え、環境負荷を抑えたものを優先して選ぶことです。環境にやさしい製品・サービスが世界中・さまざまな地域の人々から支持されるようになります。

また、SDGsに対する意識の高い人材に志望してもらえるといった採用面でのメリットも得られるでしょう。特に若い世代では企業のSDGsに対する取り組みを志望動機とする人材もいます。彼らに伝わるよう、SDGsの取り組みを社外に発信することも大切です。

資金調達をしやすくなる

SDGsへの取り組みは、投資家や金融機関からの資金調達を容易にします。

「ESG投資」という観点で、投資を判断する投資家や金融機関が増えています。ESG投資は、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの視点から投資先を評価することです。

ESG投資では、財務情報だけでなく、ESGへの取り組み状況という「非財務情報」も考慮します。ESG投資は、環境・社会・ガバナンスにおける課題の解決につながる投資ですが、同時に十分な投資のリターンを追求します。この点が、寄付や援助との大きな違いです。

また、金融庁は有価証券報告書などにおいて、サステナビリティ情報の開示を求める動きを進めています。

SDGsの取り組みは、ESGに直結する部分も多く、結果として資金調達をしやすくなるでしょう。

コスト削減につながる

SDGsに取り組むことは、長期的なコスト削減につながることもあります。

例えば、建築の最適化により廃材を減らすことは、廃棄物処理コストの削減につながります。また、廃材をリサイクルすることで、新たな建材として再利用可能です。リサイクル材の使用は、建材コストを減らすことも可能です。

また、業務効率化や働き方改革を進めることで、労働時間を最適化し、人件費を抑えられます。コスト面に限らず、従業員満足度を高め、より良い職場環境につながるでしょう。

■ 建築業におけるSDGsに取り組むデメリット

SDGsに取り組むことは多くのメリットがありますが、一方でいくつかのデメリットも存在します。

以下では、主なデメリットを紹介します。

・初期投資が増える
・SDGs基準で、設計・建築が複雑になる
・建築に時間がかかる

断熱材の使用やソーラーパネルの設置など、SDGsに配慮した建築物は、初期コストを増加させるかもしれません。初期投資を回収するまでに時間がかかることを施主に理解してもらう必要があるでしょう。

また、SDGsの基準を満たすために設計・建築が複雑になり、建築自体が難しく、施工に時間がかかる点もデメリットです。業務プロセスが複雑になることでの従業員に負担がかかることも懸念されます。

■ 建築業におけるSDGsに取り組まない場合のリスク

SDGsの取り組みはデメリットがあるものの、もしSDGsに取り組まない場合、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

・市場での競争力の低下
・規制違反のリスク増
・資金調達が困難

建築業界でSDGsへの取り組みが進む中、持続可能な実践を行わない企業は市場での競争力を失いかねません。特に、持続可能性を重視する消費者や取引先からの支持を失うことで、ビジネスチャンスを逃すことも。SDGsに取り組む企業との差は開く一方です。

また、政府や業界が主導してSDGsに関する規制を強化しています。例えば、2024年4月から建築業にも適用される「罰則付きの時間外労働の上限規制」では、これまでより残業時間を減らさなければなりません。このようにSDGsに沿って業務を進めていないと、規制に違反し罰則を受けるといったリスクを高める可能性があります。

前述のように、投資家や金融機関はESG投資を重視するようになりました。こうした動きを無視した場合、投資家や金融機関から評価されず、資金調達が難しくなるかもしれません。企業経営にも関わる重大な問題となるでしょう。

■ 世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」で見られたサステナブルへの取組み事例

サステナブルへの取り組みは、空間をつくる上で重要な要素であるインテリアの世界にも広がっています。
世界最大規模の家具見本市「ミラノデザインウィーク2023」では、材料や製造プロセス面でも環境に配慮した取組みがみられました。

TOPPAN C-lab.では30年以上に渡りミラノデザインウィークの取材を行い、デザイントレンドの定点観測を行っています。
取材を通して見られた、サステナブルへの取組み事例についてご紹介します。

Cassina

Cassina1
photo by Giuseppe De Francesco

新作ソファ「MONCLOUD」は、雲の上に座っているような印象を与える作品です。Cassina LABにより、リサイクルペットボトルの生地、リサイクル・ポリウレタンCIRCULARREFOAM®を使用した循環型社会に配慮された構造に。パトリシア・ウルキオラ氏がデザインを手がけています。

中央にはシャルロット・ぺリアン氏による復刻のローテーブル「TABLE MONTA」が飾られています。30台の限定生産で、アッシュ材に、Nero Marquina(ネーロ・マルキーナ)大理石の天板が特徴です。後方に見えるLEDウォールパネルは、同社のエクレクティックなテイストを反映しています。

Cassina2 photo by Giuseppe De Francesco

アントニオ・チッテリオ氏によるシリーズ「ESOSOFT」に加わった新作ベッドです。Cassina LABとの協業により、ヘッドフレーム部分には大気中の汚染物質を削減するゼロエミッションの空気消毒メカニズムを装備し、浄化ファブリックtheBreath®は清浄な空気の自然循環を促進します。ヘッドパネルには吸音パネルSoundfil®が使用されており、環境にやさしくリサイクルも可能です。

Lema

 Lema photo by Giuseppe De Francesco

ノーム・アーキテクツによる新作「SOFFIO」ソファは、リサイクル可能な素材を使用し、特徴的な構造となっています。グローバル・リサイクルド・スタンダード(GRS)の認証をうけた再生コットン、または再生PETを使ったカバーリングも使用されています。

Arper

Arper photo by Giuseppe De Francesco

Antti Kotilainenにより2013年にデザインされた「AAVA」。「AAVA 02」は、使用後のプラスチックである炭素繊維強化ポリプロピレンで、クラシックなフォルムを実現しています。

■まとめ

今回は、建築業がSDGs(持続可能な開発目標)に取り組む重要性や、ミラノデザインウィークからインテリアでみられるサステナブルへの取組みについてご紹介しました。

SDGsは日本だけでなく、世界の大きなトレンドでもあります。
日々の生活に不可欠な住宅やまちをつくる「建築」と「SDGs」は関連深く、ゼネコンや設計事務所でもさまざまな形でSDGsを踏まえた取り組みが行われています。
建物のリニューアルや建設を検討中の際には、意識してみてはいかがでしょうか。

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2024.10.10

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