感覚マーケティングとは?
効果や事例を紹介
感覚マーケティングとは、五感へのアプローチを駆使して商品・サービスの展開を進めるマーケティング手法です。モノ消費が飽和状態となり、コト消費やネタ消費が主流になっている現在の市場においては、情動へ訴えかける感覚マーケティングは、もはや必須といえるほど重要な立ち位置にあります。
本記事では、感覚マーケティングについて、定義や期待される効果などの概要を解説するとともに、具体的な活用事例を紹介します。今後の企業活動へのヒントとしてください。
感覚マーケティングとは?
はじめに、感覚マーケティングとは何か、定義と注目されている背景をみていきましょう。
五感全体にアプローチするマーケティング手法
感覚マーケティングとは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の「五感」を駆使し、認知や記憶といった脳内の情報処理プロセスに影響を与え、商品・サービスの購買などの行動変容を促すものです。
ミシガン大学のクリシュナ氏による定義では、感覚マーケティングを「消費者の感覚に訴えることによって、彼らの知覚、判断、そして行動に影響を与えるマーケティング」としています。
例えば、高級レストランで食事をする際には、料理のおいしさという味覚のほかにも、盛り付けの美しさやテーブルコーディネートなどの視覚、エントランスで迎え入れられたときの上品なアロマを感じた嗅覚、生演奏の音楽などの聴覚、クロスや食器の質感などの触覚と、五感をフル活用して体験しています。このような体験を効果的に応用したものが感覚マーケティングなのです。
参照:Krishna, A. 2012, “An Integrative Review of Sensory Marketing: Engaging the Senses to Affect Perception, Judgment and Behavior,” Journal of Consumer Psychology, Vol. 22, Issue 3.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1057740811000830
感覚マーケティングの重要性が高まっている背景
感覚マーケティングが重要視されるようになった背景としては、脳の認知の研究の進歩と、市場の競争の激化が挙げられます。
認知の研究については、特に神経科学の分野で、認知や情動などの情報処理が脳内でどのように行われているのかの解明が進んできました。認知行動学などの領域での知見が蓄積されてきています。
また、市場の成熟により商品・サービスの機能が高止まりとなる中、流通の発達によるグローバル化やICTの進展による情報ネットワークの広がりによって、消費者自らが情報を集めて、納得したものを購入するようになってきています。
このため、現在の市場はかつてのブランド力が通じないほど競争が激化し、商品・サービスのもつ機能的価値とは別の訴求ポイントでアプローチする必要が生まれてきました。脳の認知のしくみを応用し、身体的感覚を刺激する情動的訴求ポイントは、現在の市場では必須となりつつあるといえるでしょう。
感覚マーケティングにより期待できる効果
ここからは、感覚マーケティングにどのようなメリットがあるのかをみていきましょう。
ブランドイメージの定着
感覚マーケティングの活用により、ブランドイメージの定着を図ることができます。
例えば、ロゴマークや特徴的な色使いで企業名を想起させるのは視覚によるブランドイメージの定着といえますし、特定の音階を聞くとコンビニやファーストフードを思い出すといったサウンドロゴは聴覚情報によるイメージの定着を図った例です。
特に嗅覚は、記憶を司る大脳辺縁系に直接訴えかけるため、特定の香りを嗅ぐことで関連した記憶を呼び起こす「プルースト効果」が期待できます。嗅覚によるブランディングを狙いとしたコンセプチュアルな香りを「ブランド・セント」といい、戦略的に展開する企業も少なくありません。
ECへ流れがちな顧客を実店舗に引き止める
感覚マーケティングは、顧客が実店舗を訪れる動機づけにも活用することができます。
近年はECの普及が著しいですが、スマートフォンやパソコンを介したECでは、五感のうち、視覚や聴覚による情報しか伝えることができません。触覚、味覚、嗅覚が関わる体験は、依然として実店舗ならではのものです。
五感を駆使した感覚マーケティングでは、「そこに行かなければこの体験はできない」という上質な付加価値として、商品・サービスの差別化を図ることが可能となるのです。
顧客の記憶に残る体験を提供できる
嗅覚は記憶との結びつきが深く、前述したプルースト効果により、ふとした瞬間に記憶が蘇って、もう一度体験したくなるような効果が期待できます。
このような印象に残る体験は、他にないユニークさとして消費者の記憶にとどまり、ブランディングや消費者とのコミュニケーションの強化にも結びついていくでしょう。
顧客の滞在時間の延長
聴覚への刺激も購買行動に変化を与えます。例えば店内BGMがアップテンポなものであれば消費者の気分が高揚することで購入までの時間が短くなり、スローテンポなものであれば滞在時間が長くなることで消費の総額が高くなるなどの効果が報告されています。
また、嗅覚に訴えて滞在時間の延長を図ることもできます。エントランスやホールに、くつろぎを感じさせ、リラックス効果のあるアロマを漂わせることで、落ち着いた空間をつくりだし、滞在時間を伸ばすことが可能です。
参照:Ronald E. Milliman (1982),"Using Background Music to Affect the Behavior of Supermarket Shoppers,"The Journal of Marketing, Vol.46, No.3, pp.86-91
感覚マーケティングの成功例
ここからは、感覚マーケティングを効果的に活用し、ブランディングなどに成功した事例をみていきましょう。
【触覚×味覚】ダンシングクラブ
ダンシング・クラブは、アメリカの海岸地域で大成功を収めたシーフードレストランです。
大きな特徴は、テーブルの真ん中に盛りつけられた海鮮の食材を、手づかみで食べていくという触覚を駆使した食事スタイルです。
触覚からは、硬さや温度、重さ、手触りといった感覚が得られます。手で直接食べるものに触れ、そのまま口に運ぶという行為により、食材の感触が口内だけでなく手からも脳へ伝わるため、より豊かな食味の経験ができるのです。
【嗅覚×触覚×視覚】LUSH
触覚に加え、嗅覚や視覚からも楽しい体験を提供して差別化を図っているのが、化粧品メーカーのLUSHです。店内の空間づくりが特徴的で、果実や野菜、花、はちみつなどの甘い香りを店内に漂わせ、野菜や果物、チーズなどを連想させるカラフルな商品がところ狭しと積み上げられています。
顧客はダイニングテーブルのような商談机で、ジェラートのようなフェイスパックを試したり、肌質の相談を受けて実際に商品を手に塗って、香りや冷たさ、肌への質感を体験できます。
この直接的な体験とともに商品名の由来や機能の特徴を聞くことで、商品の記憶がストーリーとなって定着していくのです。
【嗅覚】ANA
全日本空輸(ANA)では、企業のメインテーマである「Inspiration of JAPAN」というコンセプトに合う天然アロマを独自に展開し、機内や空港のラウンジで提供するおしぼりやハンドソープに用いてブランディングを図っています。
オリジナルアロマは、和歌山県の高野槇(こうやまき)や奈良県の吉野檜(よしのひのき)など、日本文化を感じさせる清涼感あふれる香りに、世界各地から集めた12種類の植物から抽出した香りをブレンドして作られたものです。
ANAで旅行して楽しかった記憶を自宅でも思い出してもらえるよう、アロマオイルやアロマミストも販売されています。
【聴覚×嗅覚】アバクロンビー&フィッチ
若者をターゲットにしたファッションメーカーのAbercrombie & Fitchは、聴覚をうまく活用した感覚マーケティングを行っています。
店内に大音響のダンスミュージックを流すことで、ターゲットユーザーだけが来店したくなる空間を作り出しています。
戦略的に聴覚へ働きかけた販促方法は、若者を中心に多くのリピーターを獲得しており、独自のブランディングが成功したといえるでしょう。
企業ブランディングに感覚マーケティングを取り入れよう
感覚マーケティングは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった「五感」を活用したマーケティング手法です。
TOPPANが提供する「リアルテクスチャ®」では、高度なスキャニングとスクリーン印刷の表面加工技術を駆使し、レザーやデニム、畳などの手触りや、コルクなどの木材の質感、石やゴムといったテクスチャを、見た目だけでなく触感もリアルな体験につながる制作物の作成が可能となりました。印刷物であるため、軽く、大量生産が可能で、環境にも優しいという特徴を持ちながら、まるで本物であるかのような触感があるという不思議な体験ができ、販促活動として好評を博しています。
また、「FRAGRANCE IDENTITY®」では、嗅覚からのアプローチで新しい販促活動をご提案しています。ブランドイメージやコンセプトに沿ったオリジナルの香りを、スコアリングシートで独自の客観的評価も加えて設計、調香します。そして、香料をリーフレットやポスター、冊子、ポストカード、ギフトボックス、サシェ、名刺などさまざまな香り付きアイテムに展開し、顧客体験を特別なものにしていく香りマーケティングの展開をご支援します。
五感をうまく活用した効果的な販促活動について、お気軽にご相談ください。
2023.09.19