コラム

ユニバーサルデザインと関係の深い
「ピクトグラム」とは?

  • TOPPAN CREATIVE編集部

ユニバーサルデザインの中には、どんな人でもわかりやすく、一目で理解して正しく行動することができるよう促すピクトグラムという表示方法があります。
ピクトグラムは単なるイラストではなく、言葉に代わる伝達手段として、コミュニケーションツールの役割も担います。
本コラムでは、ピクトグラムの定義や歴史について解説し、代表的なピクトグラムの例も紹介していきます。


ピクトグラムとは

ピクトグラムは、情報の提示や注意の促しといった、情報伝達を図るための視覚表現です。
古代までさかのぼれば、ものや人の形状を模して意味を伝える楔形(くさびがた)文字や、象形文字(ヒエログリフ)、甲骨文字などにも、ピクトグラムとの共通点を見ることができます。

ピクトグラムを活用すると、文字の読み書きができない人でも意味を推察し、直感的に理解することができます。そのためピクトグラムは、街の案内板や、取扱説明書の警告表示などに、文字と併記される形で利用されています。

ピクトグラムの歴史

ピクトグラムの原型とされているのは、1920年代にオーストリアのオットー・ノイラートが開発した「アイソタイプ」です。ノイラートは哲学者でもあり、社会学者・経済学者でもありました。

アイソタイプは、戦争で教育を受けられなかった労働者や、言葉のわからない移民に対し、新しい視覚記号で情報コミュニケーションを図る目的で開発されました。

アイソタイプのような図を用いた絵記号が、直感的な理解を促す伝達手段として国際的に注目を集めるようになるのは、1960年代に入ってからのことです。さらに1980年代以降になると公共施設を中心に広く普及していきました。



ピクトグラムと絵文字の違い

ピクトグラムは、単なるイラストや個人的なやりとりで用いる絵文字とは異なり、どんな条件下で誰が見ても、事前の学習なしに、一目で理解できる記号であることが求められます。

そのため、視認性に優れ、意味の誤認識を起こしにくく、さらには案内板に長期間掲示されても目になじむ公共性に優れたデザインであることなどが、ピクトグラムの条件とされています。

日本では、大きな国際大会など外国人観光客が大勢訪日する機会のたびにピクトグラムの表記が改良され、JIS規格として整備されてきました。今では、公共施設や交通・商業施設、観光・スポーツ施設、安全や禁止・注意・災害防止に関係するものなど、さまざまなピクトグラムが規格となっています。


よく目にするピクトグラム一覧

ここからは、2019年に国土交通省が公表した案内用図記号(JIS Z8210)から、日頃よく目にするピクトグラムをいくつか紹介します。



禁止・注意・防災

禁止・注意・防災にかかわるピクトグラムは、瞬時に状況を理解させ、素早い行動を促すサインです。中には命にかかわるものもあるため、統一したデザインで見やすく掲示する必要があります。

「安全」では、非常時のものは赤をベースに、避難に関するものは緑をベースに、ものや人の行動が図式化されています。

「禁止」では、赤丸に斜めの線を引いたマークを禁止の基本とし、その中に具体的な禁止の行為を図式化したピクトグラムが使われています。

「注意」では、黄色地に黒の枠で描かれた三角形のマークを基本的な注意の形とし、その中に具体的な注意事項を図式化したものがピクトグラムとなっています。

「災害種別」では、黒の四角形の枠内に災害事象を図式化したものが、「洪水・堤防」については、水をイメージさせる青色での表記がピクトグラムとされています。



トイレ

「公共・一般施設」には、人やものの形状が一目でわかるように配置されています。特に、トイレは、男性用・女性用、子ども用、洋式・和式、ベビーチェア付き個室、着替え台やオストメイト用設備など、使う人の特徴に応じた、さまざまなピクトグラムが整備されています。

トイレの他にも、エレベーターやエスカレーター、休憩所、コインロッカー、授乳室やおむつ交換台、優先席などのピクトグラムもあります。

非常口

火災や地震災害など、緊急事態が発生した場合に逃げ出す非常口は、識別性が特に強く求められるピクトグラムです。
現在の非常口のデザインを決めるまでには、識別性のほか、心理テストや照明の実験、煙の中での見え方テストなど、さまざまな審査が行われました。1987年には、日本案がISO 3609(安全標識)に組み込まれ、現在まで国際標準規格として使用されています。

画像引用:バリアフリー:案内用図記号(JIS Z8210)(令和元年7月20日) - 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000145.html


東京五輪に際するピクトグラムの改正

はじめにピクトグラムが整備されたのは1964年に東京オリンピックが開催されたときでした。その後も大きな国際的イベントが行われるタイミングで整備され、JISやISOの規格にも組み込まれながら改良されてきています。
2005年には、経済産業省が「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則規格」(JIS TO103)を制定しています。

さらに2016年にはこのJISに基づいた日本発の国際規格として、提案ISO 19027(絵記号を使用したコミュニケーション支援用ボードのためのデザイン原則)が制定されました。

2017年には、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(2021年開催)に向けた改正で日本規格のJISと国際規格のISOとの整合を図る調整が行われ、新たなピクトグラムが15種類とヘルプマークが追加されています。

ピクトグラムの基礎知識まとめ

ピクトグラムについて、役割や歴史、具体例などを紹介してきました。

ピクトグラムは、単なる絵文字やイラストではなく、言葉に代わるコミュニケーションツールのひとつです。年齢や国籍、状況にかかわらず一目でそれとわかり、事前の学習なしに内容が理解できる記号であることが求められます。

また、重要なピクトグラムはJIS規格やISO規格で表記内容が整備されています。これからユニバーサルデザインで案内表示を作成する際には、そういった規格も参照するとよいでしょう。


TOPPANのユニバーサルデザイン推進

ここからは、TOPPANのUDへの取り組みの歴史をご紹介します。


商品パッケージから始まったUDへの取り組み

TOPPANのUD関連の取り組みは、1995年に商品パッケージの分野でのバリアフリー研究から始まり、ユニバーサルデザインに発展。時代のニーズに応え、社会のイノベーションに貢献したいという想いは、現在にも引き継がれています。


2000年には、全社横断のプロジェクトを発足。情報コミュニケーション領域など幅広い分野でサービス開発をすすめていくことになります。


2001年に『ユニバーサルデザイン考』展を中心とした啓発イベントを開催して以降、『みんなにうれしいカタチ』展など、社会との情報共有の場を設けるとともに、2007年には、キッズデザイン協議会の設立に参画。また、前述した「アクセシブルデザイン」の規格にもノウハウを提供しています。

TOPPANがノウハウを提供した規格
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JIS S 0022 高齢者・障害者配慮設計指針-包装・容器-開封性試験方法
JIS S 0022-3 高齢者・障害者配慮設計指針-包装・容器-触覚識別表示
JIS S 0022-4 高齢者・障害者配慮設計指針-包装・容器-使用性評価方法
JIS S 0025 高齢者・障害者配慮設計指針-包装・容器-危険の凸警告表示-要求事項
JIS S 0032 高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法
JIS S 0033 高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-年齢を考慮した基本色領域に基づく色の組合せ方法
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情報をわかりやすく、魅力的に伝えるために

2009年には、情報媒体でのユニバーサルデザインを追求した「TOPPAN E-UD」を体系化。「見ため」はもちろん、発行の目的に合致した企画なのか、ページ構成や文章表現は理解しやすいか、そもそも「読む気になるか」など、5つの視点で検証できるノウハウを体系化しました。
2018年には、このノウハウを活用した診断・改善提案サービスとして「でんたつクリニック®」をリリース。この記事でお伝えしてきたような広義の意味での情報ユニバーサルデザインを実現するためのソリューションとして、提供しています。
とくにブランディングとの親和性を重視していることが特長で、近年は、ジェンダー・性的多様性への配慮や、発達障害への関心の高まりを受けて注目されることの多い認知特性の多様性への配慮に注力しています。


UDからダイバーシティ&インクルージョンへ

2016年には、「UDコミュニケーションラボ」を開設し、狭義のユニバーサルデザインに限らない「ダイバーシティ&インクルージョン支援」を開始。
「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が普及してきた2020年には、これまでの「UDビジネス」を進化拡張させ「D&Iソリューション」として再構築し、多様なサービスを開発・ご提供しています。

今後は、さらに一歩踏み込んだユニバーサルデザインに関係の深い話題を取り上げていきます。
UDに関する疑問・ご要望などございましたら、お気軽に『CONTACT』からお問い合わせください。

2023.08.04

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