医療現場の「手作業」を自動化するRFID
〜業務効率化から始まる、医療サプライチェーンDX〜
薬剤師や看護師などの医療従事者が、本来の業務の傍らで器材や薬品の照合・棚卸・問い合わせ対応を1点ずつ手作業で行う―。深刻な人手不足に直面する医療現場において、こうした間接業務の負荷は限界を迎えつつあります。
業務構造そのものの見直しが急務となるなか、注目を集めているのがRFID技術です。「1点ずつ手作業で確認する」業務を「まとめて一括で自動識別する」仕組みへの転換で、手術室・薬剤部・医療機器管理といった医療の各領域で導入実績を積み上げてきました。
本コラムではRFID技術の具体的な事例と、データ活用の先にある医療サプライチェーンの展望をご紹介します。
※本コラムは、2026年7月5日に、国際モダンホスピタルショウ2026 (インターシステムズジャパン株式会社ブース内)で行われたセミナーをもとに構成しています。TOPPANが開発した「EPCIS2.0」対応のSCMシステムには、インターシステムズ製の統合データ処理基盤「InterSystems IRIS Data Platform」をデータベースとして採用しています。
| 岡 正俊 氏 TOPPAN株式会社 情報ソリューションBU IoTソリューション事業部 事業開発統括本部 統括 2002年からRFIDシステム開発に従事。2004年にGS1の活動に参画し、2006年から国際物流におけるRFIDの実証実験において、情報流通基盤の検証や読み取り性能評価・ユースケースの策定に協力。その後、製造業・医療関連でのRFIDシステムの開発・構築に従事し、2012年自動認識システム大賞(群馬大学医学部附属病院さま)を受賞。 近年は製造・医療領域に加え、完成車物流をはじめとするサプライチェーン全体の可視化や、海外市場における現場DX化を推進。GS1国際標準仕様に基づいたRFID・IoTソリューションによるデータ利活用や労働力不足等の社会課題解決に注力している。 |
バーコードとRFID、管理の単位が変わると何が変わるか
RFIDはタグに内蔵されたICチップへ固有のIDを書き込み、電波を用いて非接触で情報を読み取る技術です。身近な例では、大手アパレルブランドのセルフレジのように、商品を入れたままのカゴを専用リーダーに置くだけで全商品が瞬時に識別される仕組みが挙げられます。
バーコードとの違いは、個体を1点ずつ区別して追跡できる点です。品番単位で1点ずつカメラにかざす必要があるバーコードに対し、RFIDは個体ごとに固有IDを持ち、箱や袋の中などの目視で判別が難しい状態であっても、まとめて一括で識別できます。
また、どの器材がどこにあり、いつ使われたかを追跡できるため、医療現場において、照合・棚卸・進捗管理の工数削減と管理精度の向上に直結します。
医療現場でRFIDが使われている3つの場面
現場ごとに抱える課題は異なりますが、「1点ずつ手作業で確認する」という作業負荷は共通しています。ここでは、手術室・インプラント管理・薬剤部、3つの現場における導入事例を紹介します。
作業時間を1/20まで短縮した「手術室キットの入出庫管理」
亀田総合病院さまでは、年間約1.5万件の手術を行っています。一度の手術で120点に及ぶ医療材料をセット組みするケースがあり、従来はバーコードで1点ずつスキャンして照合していました。専任のスタッフが必要なほどの工数で、誤出荷や欠品のリスクも課題でした。
RFID導入後は、セット全体をリーダーの上に置くだけで照合が完了。使用分は読み取るだけで自動で記録されるため、チェックにかかる時間は、バーコード運用の約1/20に短縮されました。また点数管理の精度も向上しています。
亀田総合病院さまの成果をもとに、ほかの病院にも導入が広がっています。
メーカー・病院間の検品工数を削る「インプラントのサプライチェーン管理」
整形外科向けインプラントは種類・形状がさまざまで、目視での判別が難しい器材です。メーカーが多品種を病院に送り、使用分だけ売上として計上される仕組みのため、返却時に1点ずつ品番を確認する作業が発生します。バーコードでの照合は作業者の習熟度によって時間や品質にばらつきが出やすく、返却のたびに負荷が集中する課題がありました。
そこで導入されたのが、ゲート型RFIDリーダーです。器材をゲートにくぐらせるだけで一括読み取りが完了するため、作業品質が標準化されました。担当者を問わず同じ精度・同じ時間で処理できるようになり、検品と売上計上の工数が削減されています。
問い合わせ対応によるタイムロスを減らす「薬剤部の調剤進捗管理」
群馬大学医学部附属病院さまの薬剤部では、処方薬の進捗を確認する電話が1日約40件に上っており、調剤業務を中断せざるを得ない状況が続いていました。
この課題に対し、電話以外の情報共有手段を得る目的で導入されたのが、処方箋にRFIDタグを取り付けて管理するシステムです。調剤→監査待ち→監査完了→払い出し済みの各工程をリーダーが自動で記録するため、進捗を電子カルテ端末からリアルタイムで把握できます。導入の結果、問い合わせ対応が不要となり、薬剤師が本来の調剤業務に集中できるようになりました。
記録から予測へ、RFIDが生む2段階の効果
RFID活用で得られる価値は、導入直後に現れる一次効果と、データの蓄積によって実現する二次効果の2段階に分かれます。
一次効果は、現場における業務の「見える化」と「効率化」です。照合・棚卸時間の削減や、作業進捗のリアルタイム共有・人為的ミスの防止による安全性の向上が該当します。
前述の3つの事例はいずれもこの段階で大きな成果を上げています。
二次効果はデータを活用した「予測と最適化」です。日々の運用を通じて蓄積されたデータをもとに業務量を予測し、人員配置や発注量の事前調整が可能になります。現時点では一次効果から着手するケースが中心ですが、その蓄積が二次効果への土台を作ります。
一気通貫のトレーサビリティへ、医療サプライチェーンの展望
現在、医療業界におけるRFIDの導入は各拠点での活用が先行しており、サプライチェーン全体のデータをつなぐ取り組みは、まだこれからの発展段階にあります。
めざす姿はメーカーの出荷段階でRFIDタグを貼付し、卸・病院・患者へとIDが引き継がれていくことです。
医薬品や医療機器の使用者・使用日時・使用場所が一貫して記録されることで、リコール対応やトレーサビリティの強化にも活用できます。
サプライチェーン全体をIDでつなぐ仕組みの実現を支えるのが、GS1の国際標準規格「EPCIS」です。情報を「いつ・どこで・何が」という共通フォーマットで記録・共有するための規格で、異なる企業・異なるシステム間でもデータをつなぐことができます。特定ベンダーへの依存を避けられる点が、医療業界での普及を後押しする要因のひとつです。
アパレル業界ではすでに一部で実現されており、医療分野でも医療機器の個体管理から先行事例が出始めています。
TOPPANのRFIDソリューションでできること
RFIDの導入効果は、現場環境に適した「高品質なタグ」と、サプライチェーンをつなぐ「データ活用の仕組み」が揃ってはじめて最大限に発揮されます。
TOPPANは、自社での製造技術とグローバル標準のデータ連携基盤を強みに、医療現場の効率化とサプライチェーンの最適化を支援します。
製造から活用まで一貫対応するRFID製造・導入体制
RFIDタグは取り付ける対象の材質(金属や液体など)や設置環境によって通信性能が変わるため、現場の環境に合った設計が導入の成否を左右します。TOPPANは、アンテナ設計から金属面対応・防水仕様といった特殊環境に対応する専用タグの開発までを自社で完結しており、年間数千万枚の製造実績を背景に多様な現場ニーズに対応してきました。
さらに、タグの供給にとどまらず、データ活用基盤の構築まで一気通貫で担える点がTOPPANの特徴です。顧客の規模や用途に応じて、RFIDデータを管理・活用するシステムをカスタマイズ開発する体制も整っています。
トレーサビリティを実現するEPCIS2.0準拠のデータ連携ソリューション
インターシステムズジャパン株式会社との共同開発により、EPCIS 2.0に準拠したサプライチェーン管理システムを提供しています。メーカー・卸・病院間でのものの動きを「いつ・どこで・何が」という共通フォーマットで記録・共有し、企業やシステムをまたいだデータ連携を実現する仕組みです。国際標準に沿ったインターフェースのため既存システムとも接続でき、特定ベンダーへの依存を避けた導入が可能です。手術キット管理・インプラント管理など、医療材料・医療機器の分野での利活用も期待されます。
医薬品の厳格な品質維持に対応する温度管理ソリューション
「オントレイシス®クラウド」
RFIDによるID管理と並び、医薬品の品質を守る温度管理の領域でもソリューションを展開しています。「オントレイシス®クラウド」は、GDP/HACCPに対応した温度管理プラットフォームです。
温度ロガーで収集したデータをクラウドに蓄積し、ブラウザからリアルタイムで確認できます。異常発生時にはアラートを発信する仕組みで、医薬品・再生医療品の輸送や保管における品質維持を実現します。
RFIDを、医療DXの起点に
RFIDは小売業のレジ技術にとどまらず、医療現場の業務効率化とデータ活用の基盤として役割を広げています。手術室・薬剤部・インプラント管理など、導入効果が出やすい現場から始めることが医療DX実現への第一歩です。
さらに、将来的なサプライチェーン全体の連携を見据えるにあたっては、国際標準EPCISに準拠した仕組みで段階的に広げていく道筋が有効です。TOPPANはタグの設計・製造からデータ連携ソリューションまで、一連の課題に対応できる体制を整えています。
タグの選定・検証からシステム構築・データ連携まで、運用に合わせた最適なステップをご提案します。お気軽にご相談ください。
2026.10.30