【徹底解説】模倣品対策の基礎
~第2回 模倣品により発生する被害と負担~
市場における「模倣品問題」について、俯瞰的視点からの情報提供を目的とした本コラム。第1回は模倣品対策の「方法」についてお伝えしましたが、第2回のテーマは模倣品により発生する「被害と負担」についてお伝えします。
世間一般において、模倣品は「良くないもの」という意識は浸透しているかと思います。しかし、その模倣品による悪影響、特に企業様視点での「被害と負担」についてはあまり体系立てて論じられていません。そのことが、模倣品という大きな社会問題に対して理解を妨げる一因になっており、模倣品対策という考え方の浸透を妨げているように思います。
そこで今回は、模倣品により発生する「被害と負担」を具体的かつ体系的にまとめることで、模倣品による被害規模・影響範囲の大きさを浮き彫りにし、模倣品対策が浸透する一助になることを目指します。
タイムラインに基づく5つのフェーズ
ただ、一概に模倣品による「被害・負担」と言っても、内容は企業や製品で異なり、一様ではありません。特に、模倣品の存在が世間に認知されているか、対策を行っているか、といったファクターで、被害と負担の内容は大きく変わってきます。これらの状況を整理するためには、模倣品の発生から撲滅までのタイムラインを、以下のように5つのフェーズに分けて考える必要があります。
まずは「模倣品が発生していない」状態、これをフェーズ0とします。全ての製品はここからのスタートとなり、可能な限りここに留まるのが企業様にとっても、ユーザーにとっても良い状態ですが、残念ながら企業様も認知できないうちに、次のフェーズに移行してしまうことが多々あります。
続くフェーズ1は、「模倣品が発生しているが、誰も気づいていない」状態です。フェーズ1では模倣品は、企業様から隠れて発生・流通しており、企業様は認知できていません。そのため、このフェーズは際限なく続く可能性を秘めています。企業様が認知していない以上、このフェーズにおける被害は企業様からは不可視のものであり、かつ偽造業者にとってはリスクなく利益を得られるフェーズでもあり、初期段階ながら最も危険なフェーズとも言えます。
フェーズ2は「模倣品が発生しており、発覚している」状態です。このフェーズは、企業が模倣品の存在を認知し、その対策の検討を開始する重要なフェーズです。早期にユーザーに周知を行うことで減らせる被害がある反面、販売への影響や対策コストも発生し始めるため、企業様にとって負担が大きくなりますが、最終的な撲滅を目指すなら避けては通れないフェーズです。
そしてフェーズ3は「模倣品が発生し、対応中」の状態。まさしく模倣品撲滅を目指した「模倣品対策」を行っているフェーズです。模倣品対策の運用に要する費用や人的コストは、模倣品撲滅に向けた必要なコストであるとはいえ、企業様にとっては大きな負担となるでしょう。
最後にフェーズ4「模倣品が発生し、対応完了」の状態。このフェーズは、市場から模倣品が一掃、もしくは十分に対策がされた状態です。しかし、一度発生した模倣品による悪影響の一部は、残念ながらこのフェーズでも消えることは無く、残り続けます。
フェーズ別の被害項目
これら、フェーズ0~4のタイムラインを横軸とし、左から右へ進行するように配置。そして、それらフェーズにおいて発生する具体的な被害・負担項目をマッピングすると以下の図になります。図に沿って、一つ一つの被害・負担項目について説明していきます。
A.販売機会の損失(フェーズ1~3)
模倣品により発生する被害として、まず挙げられるのが正規品の販売機会の損失です。正規品の代わりに模倣品が購入されてしまうことで、正規品の販売機会・売上の損失につながります。
B.イメージダウン(製品・ブランド)(フェーズ1~3)
模倣品であることに気づいていなユーザーは、正規品だと思って購入します。模倣品は正規品より粗悪・低品質であり、それを使い続けて不具合が発生した場合、本来責任のない正規品やブランドのイメージダウンにつながってしまいます。
C.リピーターの減少(フェーズ1~3)
上記Bのイメージダウンから派生する被害項目です。粗悪な模倣品を使って製品に不満を感じたユーザーは、その製品をリピート購入することは無く、正規品を使ってもらえれば永く使い続けていただけたはずのリピーター候補をも失うことになります。たとえ市場から模倣品が無くなったとしても、リピーターとなる筈であったユーザーは戻らない可能性が大きく、模倣品対策完了以降も残る被害項目といえます。
D.事故・健康被害のリスク(フェーズ1~3)
市場に粗悪な模倣品がある限り、その模倣品を使ったことによる事故や健康被害が発生する可能性があります。被害が模倣品によるものであれば企業様の責任ではありませんが、模倣品であることを証明する手段の有無や、もしくは模倣品対策に対する企業姿勢などから、間接的に企業様の責任と判断され、市場の評価を下げるリスクは常に付きまといます。
E.問い合わせ対応コストの発生(フェーズ2~4)
模倣品の発覚後、企業様に発生する負荷として、ユーザーや関係者からの問い合わせへの対応があげられます。ユーザーからは製品が正規品であるか否かの問い合わせが多く寄せられます。ここで、明確な判別方法が無い場合、回収しての確認に及ぶ可能性もあり、現場の大きな負荷となります。また関係者、例えば海外代理店など商流に携わる人々からは、模倣品によって毀損された売上への対処を求められるケースもあります。状況次第では、問い合わせ対応用のコールセンターや専用部署の設置が必要となります。
また、一度模倣品が発生してしまうと、それが市場から無くなったとしても、ユーザーには不安が残ります。そのため、模倣品への問い合わせがゼロになることはありません。
F.イメージダウン(企業)(フェーズ2~4)
模倣品によるイメージダウンは、企業様に対しても発生します。企業が模倣品の存在を認知していながら対策を取っていない、という状態は企業様に対するイメージダウンを招く可能性があります。
G.株価低下のリスク(フェーズ2~4)
昨今では、ユーザーにより直接SNS等で発信・拡散がされた情報が、株価の低下にまで発展した事例もあります。模倣品の存在が拡散されることで、イメージダウンにとどまらず株価にまで影響を及ぼすリスクも考えられます。
H.調査・対策コストの発生(フェーズ3~4)
模倣品への対応においては、模倣品の被害実態調査や対策運用といった形でコストが発生します。これらは模倣品が撲滅されるまで発生するのはもちろん、模倣品が市場から無くなった場合でも、再び現れる可能性に備えて調査や対策は継続的に実施する必要があります。
I.リコールのリスク(フェーズ3)
発生した模倣品において、正規品と明確に区別する方法が無く、かつ使用すると重大な被害が発生する場合、製品そのものがリコールとなるリスクもあります。その場合は、回収費用として莫大な負担が発生します。
以上がフェーズに沿って分類した、模倣品によって企業様に発生する被害・負担となります。
あくまでこれらは一般論としてのまとめになりますので、製品によっては他の悪影響が発生する可能性もありますが、このように情報を整理すると、模倣品による被害や負担は多岐に渡るものであり、対策の必要性が見えてくるかと思います。
ここまでの整理と分析を踏まえ、改めて「模倣品対策」を見直してみると、模倣品対策には、
①模倣品の発生(フェーズ0から1への進行)を防ぐ、「予防」としての模倣品対策
②発生してしまった場合(フェーズ1に突入してしまった場合)のなるべく早く対応完了(フェーズ4)の状態に持っていく「対処」の為の模倣品対策
の2つの観点でとらえられるかと思います。
このように模倣品による被害内容を整理・分析すると、模倣品は「良くないもの」という曖昧な認識にしておいてよいものではなく、明確に企業にとっても消費者にとっても「不当なもの」であると認識を改める必要のあるものだと考えます。
模倣品は、発生しないのが一番良く、また発生した場合は速やかに対応することが大切です。模倣品対策をお考えの企業様は、自社の置かれたフェーズを認識の上、必要な対策の導入を検討していただければと思います。
2024.04.08