コラム

ユニバーサルデザインの新しいかたち
~ウィズコロナで変わるハード・ソフトとビジネス機会~

ユニバーサルデザインやユニバーサルマナーが社会に広がり私たちの生活は改善されてきましたが、新型コロナウィルス感染の拡大によって人々の行動が変わり、困ったときに手助けしてくれる人が周囲にいない状況が増えています。
私たちはウィズコロナ時代のユニバーサルデザインについて再考するタイミングにきており、障害者差別解消法も改正されました。
本コラムでは、それらをリスク対応としてではなくビジネス機会と捉えて、ハードとソフトの両面から変化を見つめてこれからの新しいかたちを考える、株式会社ミライロ 代表取締役社長の垣内俊哉様にお話を伺いました。


ideanote 特別号 Well-beingな社会を目指して

ユニバーサルデザインの新しいかたちとは

昨今の障害者を取り巻く環境とは

高齢化社会が進展する中で、新たなイノベーションが生まれています。その中でバリア(障害)をバリュー(価値)に変えていくことができると確信しており、これを株式会社ミライロの理念としています。新型コロナウイルス感染症の拡大によって、障害者のバリアは増大しています。感染を避けるために外出機会が減ったこと、ソーシャルディスタンスにより相互の距離が遠くなってしまったこと、そして「リモートワーク」が視覚・聴覚障害者にとって新たなバリアとなっていることです。ウィズコロナに向けて、これらに対応していかなくてはなりません。

この2030年で障害者を取り巻く環境は大きく変わりました。交通機関などのインフラが整備されましたが、弱者救済、社会貢献という視点ではなく、地域活性化というビジネスチャンスとして捉えていくことが重要です。

2016年、障害を理由とした差別的扱いの禁止と、障害者への合理的配慮を定めた「障害者差別解消法」が施行されました。2021年5月の改正では、企業の努力義務だった「合理的配慮」が民間にも適用されることになり、障害者対応がCSRからコンプライアンスの要件となりました。

日本国内のインフラのバリアフリー化率は世界一と言われています。障害者や高齢者の外出機会が増えることで、学ぶ機会、働く機会が増えて所得も増加し、消費者となって新たなマーケットを創出します。この状況に対して、さらに必要なものがユニバーサルデザイン(UD)で、これが必要な人は約4,000万人いると言われています。一方で、社会の障害者への対応が、無関心か過剰かの二極化していることも事実で、まだ多くの違い(多様性)についての理解が進んでいません。社会には「環境」「情報」「意識」という3つのバリアが存在しており、その解消には、自社における差別解消法の対応状況の現在地を把握し、今後何を変えるべきかを知ることが重要です。

すべての人が利用しやすいように

ユニバーサルデザインとは

そういった状況の中、すぐに着手できるものがユニバーサルデザインです。そもそもユニバーサルデザインとは、「普遍的な」という意味を持つ“ユニバーサル”が示しているように、身体能力の違いや年齢、性別、国籍に関わらず、すべての人が利用しやすいようにつくられたデザインです。

これまでユニバーサルデザインは、医療、介護、福祉などの分野の特殊な知識や技術にとどまっていましたが、これからは誰もが知っていて当たり前のスキルとして捉えるべきです。「ユニバーサルマナー検定」は多くの企業や自治体で採用されていますが、当事者に寄り添うコミュニケーションについて学ぶことで、社内の意識の向上や文化の醸成を促進します。ユニバーサルマナー検定導入後、障害者対応への積極性が大幅に向上したという事例もあり、障害者の積極雇用はESG投資を重要視する投資家へのメッセージとしても有効です。

株式会社ミライロでは、多くの障害者の声を取り入れた製品の開発を進め、「売れる商品」づくりにつなげています。例えばある製薬会社では、パッケージの文字にユニバーサルデザインを採用して読みやすくすることで、高齢者にも喜ばれました。また、障害者対応のDXという側面で、株式会社ミライロは障害者の8割が保有する障害者手帳をスマートフォンで管理できるアプリ「ミライロID」を開発しました。予約や決済、クーポンの配布など、障害者と企業をつなぐ役割を果たし、現在約3,400社に導入いただいています。

障害者対応は、社会貢献からビジネスへと変わる段階にあります。多様な障害に配慮することは、高齢者市場へのアプローチにもつながります。世界的な障害者の市場は約13兆ドル規模と言われていますが、まだ企業が対応している取り組みは5%に過ぎません。SDGsの17目標のうち、障害者に関連するものは9つあり、ダイバーシティ&インクルージョン社会の実現の機運は高まると思われます。多くの企業がこのマーケットを注視しており、多様性に配慮しながら「社会貢献」と「経済活動」を両立した取り組みを始めるチャンスです。

垣内 俊哉(かきうち としや)様

株式会社ミライロ 代表取締役社長
日本ユニバーサルマナー協会 代表理事

【トークセッション】
ウィズコロナで変わるハード・ソフトとビジネス機会

今津:ユニバーサルデザインではまだまだやるべきことがあるなと思いました。特にコロナ禍で環境が変わったと思われることはどのようなことですか?

垣内:まず、通勤が困難だった障害者における「雇用」が良くなったと思います。一方で、視覚・聴覚障害者にとってはコミュニケーションが難しくなったということもあります。

今津:子育て中の方など、リモートワークの方が良いという話も多くありますが、困ることとはどんなことでしょうか。

垣内:今、小売店などのエントランスには消毒液や検温器が置かれていますが、車椅子の障害者にとっては、高さが合わないことが多いです。中には、障害者に配慮して高さを調整している店舗も出てきていて、その二極化が進んでいます。

今津:そういった感度も必要ですね。ミライロ様とはいろいろなお仕事をしていますが、障害者の方たちと接する中で、いろいろな気づきも多くあります。

垣内:今、 SDGs がいろいろなことに寄与していると思います。オリンピック・パラリンピック東京2020 大会を経て、意識が変わってきたこともあります。このタイミングで、障害者向けには本来、こうあるべきという製品を増やしていきたいと思っています。

今津:企業は「社会貢献」という意識を取り払い、「ビジネス」で稼いでいくという発想に転換させていくことが大切ですね。それにしても、「ミライロID」はすごいですね。

垣内:私は6歳の時に障害者手帳を持ちましたが、あまり人前に出したくないものです。これを気兼ねなく見せることができるようにすることが悲願でした。また、これを実現できたのは、この時代だからこそだったと思います。

今津:今のウィズコロナの不便さにDXを掛け合わせて実現したことが素晴らしいですね。技術で解決できることもたくさんありますが、今後、企業がビジネスとしてリスクを減らし、機会を創るためのキーワードはどんなことでしょうか。

垣内:「合理的配慮」ということです。これは「障害者差別法」で掲げられていることですが、場合によっては“法廷に持ち込まれるリスク”があります。それに対しては、現状自分たちが今どこまで対応しているか、今後どのような対応をするかを明らかにして、毅然とした態度をとることが大切です。何もしていないということはリスクになります。例えばウェブアクセシビリティについては、まだ9割の企業が対応していませんから、今取り組めば、多くのファンを獲得することにつながるかもしれない。一人の障害者への配慮が高齢者や子育て層への配慮につながる、小さなアクションが大きな市場に波及する、レバレッジが効くということです。5年、10年先にはみんながやっていますから、そのとき当たり前のこととしてやるのか、今チャンスとして取り組むのかということは大きな違いです。この1年、2年の間に短期的に動いていただきたいと思います。

今津:その通りですね。ESGの取り組みについて投資家が求めていることも、現状を踏まえて目標を設定して、これから何をやるのかを明確にすることです。ユニバーサルデザインについても、その設計をきちんとして、ビジネスのリスクと機会という考え方の中でやっていくことが大切でしょう。

垣内:弊社は関西にありますが、よく言われたのが、「これでいくら儲かるの?」ということです。会社もバリア・バリューという理念を掲げていますが、社員にも障害を「価値」にはしても「武器」にしてはいけないということを言っています。これをやることで、これだけリスクが下がります、コストも下がりますということになって初めて、心だけでなく頭でも理解できるのだと思います。

今津:最後に視聴されている皆様にメッセージをお願いします。

垣内:「先人への感謝」ということを伝えたいと思います。701年に制定された「大法律令」には「班田収受法」があり、口分田を障害者にも分け与えていました。同時に、税も平等に課していました。1300年も前から“多様性”に公平・公正に向き合ってきた日本だからこそ、今、ユニバーサルデザインが実現し、ユニバーサルマナーの普及につながっていると思います。これからも多様性に配慮した日本を、皆さんと一緒にアップデートしていければと思っています。

今津:ミライロ様とはこれからもパートナーシップを組んでやっていくことで、新しい取り組みができるのではないかと楽しみです。ありがとうございました。

垣内 俊哉(かきうち としや)様

株式会社ミライロ 
代表取締役社長
今津 秀紀(いまづ ひでのり)

TOPPAN株式会社
TOPPAN SDGs Unit  
部長

2023.10.03

新着記事 LATEST ARTICLE
    人気記事 POPULAR ARTICLE