コラム

医師の働き方改革の課題解決策は?
デジタル技術の活用のポイント

国内では働き方改革が進んでいますが、業界によっては課題や進捗度合いに大きな差異があります。医療業界はその改革が遅れている業界の一つで、特に医師の働き方改革が急務となっており、業界全体で改善・施策を行うことが求められています。
今回は、医師の働き方改革を促進する必要がある背景から、課題、解決策まで解説します。特にデジタル技術の活用が解決の鍵をにぎることから、その活用のポイントもご紹介します。


医師の働き方改革の課題

少子高齢化による労働人口の減少や長時間労働の慢性化、育児や介護との両立など働く人のニーズの多様化などの課題を背景に、政府は近年、働き方改革を推進しています。

働き方改革とは、働く人が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための改革です。

例えば家庭で育児や介護の必要のある会社の従業員が、業務と両立ができるように、時短勤務やリモートワーク、育児休業などの柔軟な働き方の制度を設け、選択できる仕組みをつくることなどを指します。

働き方改革を進めるために、各種労働関連法の改正を進める法律として「働き方改革関連法」が施行されています。同法では年次有給休暇の時季指定、時間外労働時間の上限規制、同一労働同一賃金などが取り決められています。

医師の働き方改革の課題

各業界で進められている働き方改革ですが、特に医療機関に従事する医師においては長時間労働の常態化と休日の確保の困難さなどが背景となり、なかなか進まない現状があります。主に、次のような課題があります。

・医師の業務の特性による長時間労働の常態化
医師が長時間労働になりやすい背景として、緊急対応による手術、外来対応などが起因する労働時間の延長が多いという業務の特性が挙げられます。

・医師や医療機関をとりまくさまざまな課題
個々の医療機関における業務や組織のマネジメントの課題や、医師の需要と供給バランスの乱れ、地域医療の連携の困難さ、高齢化の進展に伴い疾病構造が変化し、これに併せて必要な医療・介護ニーズが変化することによる医療・介護連携や、すべての国民が安心して医療が受けられ、医療が守られていくための医療のかかり方など、複数の課題が絡み合って存在しています。これら業界全体の課題が、医師の働き方改革を進みにくくしています。


・医療業界のデジタル化の遅れ
医療業界は、他の産業と比べてデジタル化に遅れを取っています。総務省の2021年3月発表の資料における「業種別のDXの取り組み状況」の統計によると、「医療、福祉」のDXの取り組み状況は約9%に留まっており、他の産業と比べても低い状況です。電子カルテが導入されている医療機関もあるとはいえ、いまだに紙によるアナログな書類のやりとりが残っている医療機関は多く、その分、業務が非効率とならざるを得ない状況があると考えられます。

働き方改革関連法の猶予期間終了

働き方改革関連法は、2019年4月から施行されており、時間外労働の上限規制が行われています。しかし業務内容が特殊である医師については、5年間の猶予期間が設けられていました。猶予期間が終わる2024年3月末が迫っており、医療機関は働き方改革関連法に対応した医師の働き方改革が急務となっています。


医師の働き方改革の課題解決策

現状、医師の働き方改革を進めるために、さまざまな取り組みが行われています。主に次のような課題解決策があります。

医療機関内のマネジメント改革

医療機関の管理体制の面では、医師の出退勤時間の把握や36協定の見直しをすることで対策ができるのではと考えられています。

2024年4月からの医師の時間外・休日労働の上限規制の開始に伴い、 医療機関が届け出る36協定届の様式が新しくなります。勤務医に時間外・休日労働を行わせる場合には、どのような場合に時間外・休日労働をさせることができるのか、対象となる労働者の範囲、対象期間などの必要事項について協定した上で、36協定を所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。例えば、原則となる時間外労働の限度時間である月45時間、年360時間の範囲で、1日および一ヶ月、一年に何時間、延長して労働させられるのか、また労働させることのできる休日数などを取り決めます。

臨時的な特別の事情があることで、原則となる時間外労働の限度時間である月45時間・年360時間を超えて時間外・休日労働を行わせる必要がある場合にはさらに協定した上で届け出る必要があります。業務の内容に応じて協定を改めて行うことが求められています。

また、女性医師が活躍し続けるために、出産期、育児期における勤務体制の柔軟化や復職支援なども行われています。

デジタル技術を活用した効率化や勤務環境改善

デジタル技術の進歩により、業務効率化や勤務環境の改善を推進することも有効です。クラウドサービスを用いて場所問わず業務を柔軟に遂行できるようにしたり、医師の行動をAIで解析し、業務改善提案を行ったりするなどの取り組みが進められています。

地域医療提供体制の見直し

地域医療全体として、医療機関の機能の分化・連携を行ったり、地域内外の各種サービスと連携しながら、大病院に人が集中してしまわないようコントロールする役割を持つ「プライマリ・ケア(※)」の充実などを通して、医師の業務負荷を減らす試みも行われています。

※プライマリ・ケア:地域において、はじめにかかり、総合的に診てくれる医師による医療のこと。大病院での専門医療と相対する医療を指す。

医師偏在対策の推進

医師の地域偏在・診療科偏在が一部の医師の業務を圧迫している現状があることも、働き方改革が進まない要因となっています。医師偏在対策の一つとして、現在・将来人口を踏まえた医療ニーズに基づき、地域や診療科、入院外来ごとの医師の多寡を統一的・客観的に把握できる、医師偏在の度合いを示す指標を導入する取り組みが行われています。


医師の働き方改革へのデジタル技術活用の対策例

医師の働き方改革への対策として、いま、注目を集めているのがデジタル技術の活用です。具体的な対策例を見ていきましょう。

医師の働き方改革へのデジタル技術活用の対策例

デジタル活用による課題抽出の例

医師がどのような状況で働き、どのような課題があるのかを知るためにデジタルを活用して現状把握する取り組みが進んでいます。例えば医療機関において、ウェアラブルデバイスやカメラ、システムログなどを通じて医師の勤務状況を可視化し、業務量や業務の質、肉体的・心理的負荷を分析することで、現状把握・課題抽出を行う取り組みも行われています。

業務スピード向上・業務効率化の例

一般企業と同様に、デジタル技術の業務活用は業務スピード向上・効率化につながり、業務時間の削減につながります。医療機関においては、院内Wi-Fiやネットワークの整備、デジタルデバイスやコミュニケーションツール、オンライン会議システム、RPA(Robotic Process Automation/PC業務を自動化する仕組み)ツールなどの導入、映像コンテンツやウェブサイトの制作などが挙げられます。

TOPPANが提供するサービスのうち、医師の働き方改革に寄与する2つの例をご紹介します。

例1)説明業務のデジタル化
医師の業務の中には多くの説明業務があり、実際の医療提供業務を圧迫している現状があります。こうした課題を受け、TOPPANが保有する最先端のデジタル技術やセキュリティ管理、ID管理のノウハウと、北海道大学病院HELIOSの医療DXや最先端医療開発への取り組みを融合させ「デジタルクローン技術」を開発しました。その技術を活用した「DICTOR™」は医師のデジタルクローンを生成し、患者やその家族に対して医療行為などの説明を行う動画をテキストデータから自動生成し、再生をするサービスです。説明業務の工数を削減できることから、医師の業務効率化につながります。


例2)メディカルコミュニケーションのデジタル化
医療従事者同士や、医療従事者と患者で行われるメディカルコミュニケーションにおいては、正確な情報を伝達し、理解を促進することが必要です。TOPPANではメディカルコミュニケーションにおける医師による業務時間や負荷を軽減するためのツール制作全般を支援する「メディカルコミュニケーションサービス」をご提供しています。例えば医療用医薬品の基本資材の制作、患者向けパンフレットや映像を使ったコンテンツ制作、ウェブサイト構築・運用などを行います。


医師の働き方改革へのデジタル技術の活用のポイント

デジタル技術の活用に当たっては、さまざまな課題が生じると考えられます。その課題と共に、解決するためのポイントを併せて確認していきましょう。

情報セキュリティへの対応

デジタル化を推進するには、ネットワークを通じたデータ通信が必要不可欠であることから、同時に情報セキュリティへの対応も求められます。医療機関の多くは診療系と非診療系・事務系にネットワークを分離していますが、まずは非診療系・事務系からデジタル化を着手し、IT・デジタルツール導入による業務効率化を進めると良いでしょう。

ITリテラシー不足への対応

医療機関においてはITリテラシー不足が懸念されます。デジタルツールを導入する際には、現場がわかりやすく使いやすいシステムを導入するように心がけたり、サービス提供事業者のサポートを確保するようにしたりすることが重要です。
また、医師自身がITリテラシーを高め、積極的にデジタル技術を使って業務効率化を進めることも重要と考えられます。

患者への積極的な情報コミュニケーションの推進

医師が自ら積極的に患者へ情報伝達を行うことも有効です。インターネットやデジタル技術を用いれば、Webやアプリなどを利用した情報発信や理解促進などのコミュニケーションは容易に行えます。より迅速・正確な意思疎通が実現することで、医療の質が上がり、業務効率化も期待できるでしょう。


まとめ

今後は、医師の働き方改革の必要性がさらに増していくと考えられます。課題もさらに浮き彫りになってくることが予想される中、いかに柔軟に新しい体制や技術を取り入れることができるかが課題解決のカギとなってくると考えられます。

TOPPANでは、医師の働き方改革を支援する多方面からのご提案が可能です。お困りのことについて、お気軽にご相談ください。

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2023.10.26

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