TOPPAN データ統合顛末記④
最終回:データ統合がもたらした進化とBtoB企業の未来編
TOPPANのデータ統合プロジェクトを紐解く本シリーズも、いよいよ最終回を迎えました。
①では、TOPPANが抱えていた具体的なビジネス課題とデータ統合への挑戦の始まりについてご紹介。②では、データ統合基盤構築プロジェクトにおける試行錯誤と、そこで見えてきた新たな課題に焦点を当てました。そして③では、データ統合の過程で浮上した「Salesforceのデータ品質」という課題にTOPPANがいかに挑み、データドリブンな営業を目指したのかを詳しく解説しました。
最終回となる④では、これまでの道のりを総括し、TOPPANが得た具体的な成果と今後の展望について、プロジェクトを推進してきた内田氏と三田氏のお二人に語っていただきます。さらに、これからデータ統合に挑むBtoB企業の皆様に向けて、TOPPANの経験から得られた貴重な教訓や、実践的なアドバイスをお届けします。

経営企画本部 経営基盤改革部
情報武装化推進チーム 部長
内田 智宏
BtoBデジタルマーケティング活動を推進し、全社へと展開。
デジマ活動の中で営業における機会損失に課題を感じ、社内全体でデータを見える化すべく、データ統合を進める。

ビジネストランスフォーメーションセンター
マーケティングテクノロジー部 部長
三田 虎史
2001年入社以来ICT領域を担当。2017年頃よりクライアント向けにCDPやMAなどのマーケティング実行基盤の構築・運用を推進し、対応部門のリーダーを担当。社内データ活用に課題を感じ、本プロジェクトでデータ統合を推進。
※肩書は開発当時のものです。
TOPPANにおけるデータ統合プロジェクトの成果
今回のデータ統合基盤の整備で、営業やマーケティングではどのような変化がありましたか?
内田:営業部門においては、これまでなかなかうかがい知ることができなかった潜在的なニーズを、的確に捉えることが可能になりました。これは自分の担当する得意先企業が、当社のどのサービスやコンテンツに興味・関心を持ち、Webページを閲覧しているのかをリアルタイムに把握できるためです。
同じように企画開発部門においても、自分の担当する商品やサービスが、どのような企業や業界に関心を持たれているのかをリアルタイムに把握できることで、アプローチ先や機能の選定など、商品開発に役立つ示唆が得られるようになりました。
その成果を数値で示すことは難しいのですが、実際にデータを活用する営業や開発のメンバーから、『事前にデータを見ていたので、お客さまとの商談時にピンときました』といった、嬉しい声が寄せられています。
データ基盤の整備によって、社内のデータ活用の意識や文化に、どのような変化がありましたか?
内田:これまでは得意先から直接得た情報を元にさらなる情報を収集、案件を発掘することが一般的でした。今回、データ統合基盤を整備して見える化したことで、例えば新規開拓に注力する営業チームから、『データを活用した、新しい営業スタイルを身に着ける必要性に気付いた』との声が挙がりました。
これらの声は、Salesforce活性化プログラムの教育研修にフィードバックして、新規営業開拓の勉強会を開催するなどして定着を図りました。

BtoB企業がデータ基盤を整備する際のポイント
それではここからは、今回の経験を踏まえて、データ基盤構築を実行中、あるいは検討中の企業に向けて、ヒントとなるポイントを伺います。これから「データ統合基盤構築を進めたい」BtoB企業は、まず何から始めるべきでしょうか?
内田:まずは、さまざまな視点での「棚卸し」が必要です。社内のどんなシステムやツールに、どんなデータがあるのか?それらに加えて、誰がどのシステムを利用して、どんな活動をしているのか?その活動の成果は?といった、「業務領域にまで踏み込んだ課題」を明らかにしておくと、統合する意義が明確になって行きます。
データを統合するということは、活動をつなげるということです。そのため、各システムやツールを活用しているステークホルダーを巻き込んで、データだけではなく、「活動」のすり合わせや統合も、必要になってきます。
もっとも、関連部署やキーマンをどのタイミングで巻き込むかはケースバイケースですし、セクショナリズムの壁もあり、なかなか難しい問題です。一つ言えることは、遅すぎるのはよくないが、早ければよいというものでもないということです。
三田:自社内のシステム・ツールとデータの状況の「棚卸し」には、利用・活用の目的および、対象の整理も含まれます。それと並行して、実データの確認を、なるべく早い段階で実施することがポイントです。それによって当社では企業IDの問題やSalesforceのデータ不足など、さまざまな課題が早期に発見できました。
そしてもう1つは、社内の協力体制づくりを意識して行うこと。それが、当社においてデータ統合基盤が「絵にかいた餅」にならなかった、重要なポイントだったように思います。
内田:各システムやツールがどんなデータを持っていそうか?どのように見える化すれば、社内に対してどのような示唆や価値が提示できて、その結果どのような行動喚起ができそうなのか?という、「仮説設計」がとても重要です。
これが先ほどのステークホルダーの巻き込み方にもつながるのですが、この仮説を描いて、その考えに賛同してくれる人をどんどん巻き込んで、仲間を増やしていくのが、オススメのやり方です。
TOPPANではクライアント企業のデータ基盤構築を行う経験も豊富です。その視点から、データ基盤構築でよくある失敗例と、それを回避するためのアドバイスはありますか?
三田:よくあるケースとしては、コストをかけてデータ基盤を構築したものの、実態として各ツールの中に有用なデータがほとんどなかったり、協力してくれる部門が少なくてデータが予定よりも集まらなかったり、ということがあります。これを避けるには、先ほども述べたようにデータをなるべく早いタイミングで事前確認して、並行してデータ元となる各システム・ツールのオーナーを巻き込んだ体制を構築することが重要であると、改めて実感しました。
また、構築したデータ基盤の利用範囲が限定的であったり、一部の人しか利用しなかったりといったケースもよく起こります。「とりあえず集めてみた」「小さな目的のためだけ」とならないためにも、利活用目的の仮説立てが重要なのです。
そしてもう1つ、データ統合基盤の運用が属人化してしまう、あるいは特定パートナーへの依存が高く、その人たちがいなくなると変更・拡大ができなくなる、といったケースも起こり得ます。これは、運用拡大を見据えた体制作りや、予算編成が重要です。
技術選定やパートナー選びの際には、どのようなことを重視すべきでしょうか?
内田:お互いの領域を理解しあえる専門家を集めることが大切です。今回、当社では「何を見せるべきか?誰を巻き込むべきか?」を定める推進者、「どのように見える化すると効果的か?」を考えるBI設計、「どのように設計するか?どのようにデータを連携するか?」を取り仕切るCDP開発、そして「社内の新たなデータ利活用のルールを再規定」する情報セキュリティ、といったユニットでプロジェクトチームを編成しました。
そして、定例会などで密にコミュニケーションして、真の目的を見失わないように進められたことが、成功の要因だったと思います。
データ統合基盤は構築するだけでなく、その後の運用も重要だと思いますが、その点はいかがでしょうか?
内田:その通りです。データを集めて、統合し、価値あるものにする。その結果、新しい活動を喚起することができて、その結果、各ツールで計測できるデータの種類と量が増え、質が高まる。さらにそのことで、データ統合基盤であるCDPに統合されるデータも増え、新たな価値や示唆を提供するという、好サイクルが生まれます。
そしてその中で、各ツールの利用者から『こういうものが見えるようにできないか?』といったアイデアも生まれます。それに応えることがデータ活用の市民権につながりますので、利用してもらうことまでを視野に入れて、プロジェクトを推進する必要があります。
三田:データ統合基盤の構築後も引き続き、見せるデータの信頼性の維持や改善をしなければ、『使えないよね』と、利用者側のモチベーションが下がります。特に営業データは、どうしても元データが「人の入力・登録」に頼る部分がありますので、継続して問題の発見や改善を行う体制がないと、価値を提供し続けられません。
また、近年ではプライバシーの観点から、顧客側から「データを消去して欲しい」といった要求も発生します。当然、企業として適切な管理や対応が求められますので、それに間違いなく、かつ速やかに応えるための仕組み作りも肝要です。

<まとめ> BtoB企業のためのデータ統合基盤構築実践ガイド 成功への9ステップ
①データ利活用に関する仮説立て
・データ基盤を活用してどのような分析や可視化ができるか、それによってどのようなビジネス上の示唆が示せるか、具体的な仮説を立てる。
・この仮説が、データ基盤の設計や必要な機能要件を定義するための基礎となる。
②データ利活用目的の明確化
・上記の仮説を踏まえ、なぜデータ基盤が必要なのか、具体的なビジネス課題や目標を定義する。(例:顧客理解の深化/マーケティング効率の向上/営業活動の最適化)
・データ基盤によってどのような成果を得たいのかを明確にする。
③社内データの棚卸し
・社内に存在する全てのデータソースを洗い出し、データの所在を明確にする。
・データの種類(顧客データ/販売データ/Webアクセスデータなど)、形式(構造化データ/非構造化データ)、量、鮮度、保管場所、管理部門などをリスト化する。
④実データの早期確認
・実際のデータの内容を確認し、データの品質状況(欠損値/誤り/不整合など)や構造上の問題点を把握する。
・データクレンジングや変換の要否、必要な作業量を見積もる。
⑤関係者の巻き込みと協力体制構築
・統合するシステム・ツール利用に関わる部門の担当者を特定し、プロジェクトに参画してもらう。
・各部門のニーズや期待をヒアリングし、データ基盤の目標やスコープについて合意形成を図る。
⑥最適な技術とパートナーの選定
・データ基盤の要件(データの種類/量/処理速度/セキュリティなど)と企業の状況(予算/スキルセットなど)に合わせて、最適な技術(データベース/ETLツール/BIツールなど)を選定する。
・必要に応じて、データ基盤の設計、構築、運用を支援してくれる信頼できるパートナーを選定する。
⑦データ基盤の構築
・選定した技術と設計に基づいて、データ基盤を構築する。
・データの収集、加工、統合、保管、分析、可視化などの機能を実現するシステムを構築する。
⑧データ基盤の運用体制確立
・構築したデータ基盤を安定的に運用するための体制(協議体)を整備する。
・データの品質管理、システム保守、利用者サポートなどの役割分担を明確にする。
⑨継続的なデータ品質改善
・定期的にデータ品質をチェックし、必要に応じてデータのクレンジングや修正を行う。
・ビジネスニーズの変化や新たなデータソースの追加に合わせて、データ基盤を継続的に改善する。

今後の展望と、他社への支援
今後、TOPPANでは現在のデータ統合基盤を、どのように発展させていく予定でしょうか?
内田:まずは引き続き、データの整備と利用の拡大を目指します。現状は見える化に注力していますが、その実現によって営業活動における新たな発見やヒントの獲得にも役立てたい。さらには今後、さまざまな指標の整理や、社内業務の効率化にもつなげていきたいと考えています。
また、データが蓄積すれば、生成AIを活用しての対話形式の問い合わせ対応やアドバイスといったことも可能になるでしょう。リテラシーを問わず、利用する人をさらに拡大できると期待しています。
それでは最後に、本記事をお読みになった方に向けてのメッセージをお願いします。
内田:最近も、とあるBtoB企業のマーケティングご担当者から、『マーケティング部門が一番データに近いところにいるにも関わらず、データ統合までは着手できていない。マーケ部門が推進者となってデータ統合を実現するにはどうすればよいのか?』というご相談を受けました。おそらくこの記事をお読みになっている方々の中にも、同様のお悩みを抱えているご担当者は多いと思います。
ここまでご説明してきた通り、TOPPANは紆余曲折と試行錯誤を重ねて、データ統合を実現することができました。この経験を踏まえて、今後はより一層幅広く、また深いところまでのお客さま支援が可能になったと感じています。
我々もまだ進化の過程ですので、ぜひ多くの方と意見交換できれば嬉しく思います。ぜひお気軽に、お声がけください。

TOPPANのデータ統合プロジェクトは、多くの困難を乗り越え、大きな成果を生み出してきました。本シリーズを通して、その道のりの詳細が明らかとなりました。
TOPPANの挑戦はまだ終わりではありません。データ統合のさらなる進化と、それがもたらす未来の姿、そして同様の課題を抱える多くのBtoB企業への支援にも、ご期待ください。
2025.05.09