イベントレポート

TOPPANが挑む 成長戦略に呼応する
営業モデルシフト
―現場主導で成果を出す、
 導入から定着のリアルとは―

営業組織を取り巻く環境が大きく変わる中、中期経営計画や事業戦略の転換を受けて、営業のあり方を抜本的に見直す企業が増えています。
TOPPANは、事業ポートフォリオの変化と連動し、営業スタイルを受託型からオファリング型へとシフト中し、ナレッジの型化、AI×SFAによる営業高度化、そして部門横断の仕組みづくりなど、仕組みとカルチャーの両輪を動かしながら変革を進めています。

今回、セールスイネーブルメントAI「ナレッジワーク」を開発・提供し、働く人たちの成果の創出や能力の向上を支援する「株式会社ナレッジワーク様」の2025年11月27日(木)開催のオンラインセミナーにて、TOPPANで営業変革を推進しているビジネストランスフォーメーション事業部 プロデュース本部の秋月が登壇し、「変革をどのように描き推進しているのか、リアルな実践知」を語りました。

受託型営業の限界、営業の属人化、縦割り組織の壁など、日本企業に共通する構造課題と向き合いながら、再現性ある営業モデルの構築に向けて試行錯誤するTOPPANの取り組みが、変革期にある企業のみなさまのヒントになれば幸いです。


〈プログラム〉
Topic1:なぜ今「営業モデルの再構築」が必要なのか?
Topic2:TOPPANが挑む、営業モデルシフトとは
Topic3:営業モデルシフトの中での壁と今後の展望


モデレーター

株式会社ナレッジワーク マーケティング
松本 貴子 氏

人材系ベンチャーにて人事・営業・業務改善に従事したのち、家事代行ベンチャーにてカスタマーサクセス・エンゲージメント強化を通じた事業拡大を推進。その後、教育系スタートアップにて企画実行・オペレーション構築を担う。2024年6月、株式会社ナレッジワーク入社。

スピーカー

TOPPAN株式会社
ビジネストランスフォーメーション事業部
プロデュース本部 本部長
兼 株式会社ONE COMPATH 取締役
兼 株式会社ココラブル 取締役

秋月 健児

経験者採用として凸版印刷へ入社。通信業界や製薬業界の営業を担当して、企業の販促支援や業務改善プロジェクトを多数実施。 2020年からはデジタルマーケティング部門の営業責任者として新たな得意先開拓、ビジネスモデル開発、共創パートナー構築に取り組む。
社内では営業改革プロジェクトに参画し、SFAツールなどの導入を推進。 現在はマーケティングDX領域を中心に企業のビジネス変革の支援を推進。


松本氏:まずは自己紹介をお願いできますでしょうか?

秋月:現在、ビジネストランスフォーメーション事業部という部署のプロデュース本部、いわゆるセールス部隊の責任者を務めております。
私自身は中途でTOPPANに入社し、基本的にずっと営業畑を歩んできました。本日はツール導入といった話よりは、営業組織自体の改革についてお話しできればと思います。
担当領域としては、この後ご説明するTOPPANのマーケティングDX領域の販売を手がけており、主に様々な企業様のビジネス変革をご支援することをテーマとしています。我々TOPPAN自身の営業改革についてお話ししますが、ビジネスとしてはお客様の変革支援を行っている人間だとご理解ください。(補足:パーソナリティとして「iPhoneで仕事する」というタグを挙げています。)

松本氏:自己紹介にある「iPhoneで仕事する」というタグは、今日のテーマである営業モデルシフトを象徴しているように感じました。なぜこのスタイルに行きつかれたのですか?

秋月:シンプルに言うと、手ぶらでどこへでも行きたいからです。デジタルだけで完結するのではなく、リアルな場に行って自身で体験し、それをどうビジネスに組み込むかが大事な時代になっていると思います。そうしたアクティブな動きをする際に、大きなカバンは持ちたくないという思いから、できるだけミニマルにしたいと考えました。
また、テクノロジーの進化により、今やiPhone一つでプレゼンテーションもできますし、移動中に資料のベースを作成することもできる時代です。そうしたこと自体を楽しみながら、仕事をポジティブに捉えることで、このスタイルを実践しています。


Topic1:なぜ今「営業モデルの再構築」が必要なのか?

松本氏:まずTOPPANの会社概要と、なぜ今営業モデルの再構築が必要なのか、その背景についてお話しいただけますか?

秋月:まず、我々の会社について少しご説明します。元々「凸版印刷」という社名でしたが、2023年10月にホールディングス化し、「TOPPAN」へと社名を変更しました。これ自体が、ブランディングも含めた変革の入り口になっています。
我々のビジネスは今年で125年目を迎えます。創業は1900年で、大蔵省の紙幣寮にいたメンバーが、当時の最新技術であったエルヘート凸版法という印刷技術を持ち出して起業したのが始まりです。根本的にはベンチャースピリッツのある企業だと考えています。そこから、強みであるテクノロジーを多角化し、現在に至ります。

秋月:現在の売上高は約1兆7000億円、グループ全体で約5万人の規模です(2025年3月末現在)。事業は大きく3つあり、スマートフォンの部材などを扱う「エレクトロニクス事業」、皆様の消費財パッケージや壁紙などを扱う「生活・産業事業」、そして私が所属する「情報コミュニケーション事業」です。情報コミュニケーション事業は、かつてのカタログやパンフレットといった紙媒体から、現在はデジタルが中心になってきており、その中で様々なサービスを提供しています。また、TOPPANはドメスティックな企業と思われがちですが、グローバル比率はもうすぐ50%に達しようとしており、変革を進めている企業です。

秋月:現在、我々は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と「SX(サステナビリティトランスフォーメーション)」という大きなメッセージを掲げ、社会課題を解決するリーディングカンパニーになることを目指しています。現中期経営計画でも事業ポートフォリオの変革、つまり収益構造をDXやSXといった成長事業へ大きくシフトさせようとしています。本日お話しするのは、このDXの文脈の中、特に「マーケティングDX」という事業領域における営業変革についてです。

秋月:このマーケティングDXを推進するにあたり、我々が提供するビジネスモデルは、DX(顧客理解のためのデータ基盤構築など)、CX(顧客体験の向上)、EX(従業員体験の変革・業務フロー改善)という3つのXを連携させることで、最終的にBX(事業のグロースやコスト最適化など)に繋げるというものです。

秋月:我々はこの領域で、お客様の個人情報をお預かりするビジネスからスタートし、CRMのデジタル化支援、DXブームの中でのデータ基盤構築支援などを経て、現在ではコンサルティングやAI活用といったビジネス変革のご支援まで、事業を変革させてきました。この我々自身の変革のメソッドをお客様に提供しています。

秋月:このようなビジネスモデルの変化の中で出てきた課題が、「受注型の販売モデルからの脱却」です。市場が成熟し、情報が多様化する現代では、強いソリューションさえあれば引き合いが来るという時代ではなくなりました。我々もDXへ移行する中で、個別のDXソリューション提供が主流になってしまい、統合的なプロジェクトが少なく、スケールアップに時間がかかり、営業効率が悪いという課題に直面しています。

そこで目指しているのが、お客様の利益に貢献するための「引き算(コスト効率化・業務効率化)」と「足し算(成長戦略)」をセットで提案するモデルです。
例えば、既存のお取引で我々が深く理解しているお客様の業務に対し、AI活用などでコストダウンや業務効率化(引き算)を提案します。そして、そこで生まれたリソースを、新たな成長戦略(足し算)への投資に繋げていただくのです。この両輪を組み合わせることで、従来のビジネスから脱却し、事業全体に貢献する「オファリング営業」へとシフトしていく。これが、今まさに営業モデルの再構築が必要な理由です。

松本氏:「引き算」と「足し算」をセットでご支援するというお話でしたが、皆様がイメージしやすいように、何か具体的な支援事例を教えていただけますか?

秋月:例えば、我々が店舗の装飾などで既にお付き合いのあるお客様を例にお話しします。多くの店舗では、お客様のLTV(顧客生涯価値)が上がる瞬間である「接客」が非常に重要ですが、一方で人手不足という課題があります。

そこで「引き算」の提案として、まず「店舗DXによる接客キャパシティの最大化」を考えます。人の強みが活きる素晴らしい接客はコア業務として集中していただき、一方で受付処理のようなノンコア業務はDXで補う。また、万引き対策なども、これまでは人が監視していましたが、AIカメラで不審な行動を検知してアラートを出すことで、テクノロジーで代替できます。このように、店舗のキャパシティを最大化するためにノンコア業務にDXを導入することが「引き算」の一例です。これは単に「AIカメラを導入しましょう」というソリューション単体の話ではなく、店舗全体の課題に向き合い、複数のソリューションを組み合わせてフレームとして提案する形になります。



Topic2:TOPPANが挑む、営業モデルシフトとは

松本氏:「TOPPANが挑む営業モデルシフト」について、具体的にどのように再設計し、進められているのか、取り組みについてお話しください。

秋月:従来の受注型モデルから能動的な提案型セールスへ変わる必要性を感じていた時、ナレッジワーク社の書籍『NEW SALES』に出会い、その中で語られていた「ストーリー営業」という考え方に非常に共感しました。我々が目指すマーケティングDXモデルを推進するには、まさにこのようなストーリーを語っていくことが重要だと確信しました。

秋月:その最たるものが、経営層(CXO)に対する「オファリング」です。これは、「お客様の課題に対して仮説を持って商談に臨む」という考え方の最上位概念であり、我々のチャレンジすべき領域です。目指しているのは、先ほど申し上げた「引き算」と「足し算」によってお客様の利益に貢献することを約束する「需要創造型のセールス」です。この実現のために、営業組織の役割分担を見直しました。元々TOPPANは、フロントに立つアカウント営業が単一の印刷事業を売るというシンプルな構図でした。しかし現在では事業が多岐にわたり、一人のアカウント営業が全ての商材を深く理解して売るのは非常に困難です。特に、我々のいるマーケティングDX領域はテクノロジーの進化が速く、専門性が求められます。

そこで、この領域に特化し、統合提案ができる専門性を持った「ビジネスプロデューサー」という役割を創設しました。アカウント営業とビジネスプロデューサーが役割を分担し、連携してお客様にオファリングを行う体制を構築しています。

具体的なステップとしては、
1. アカウントプランの策定: 顧客の収益に貢献できるポイントを見極めます。
2. オファリングシナリオの立案: プランに基づき、利益構造に貢献できるシナリオを考えます。
3. オファリング提案の実行: シナリオに沿って具体的なプランをご提案します。


このプロセスにおいて、特にアカウントプランの策定が重要です。AIで収集できる基礎情報だけでなく、営業活動を通じて「本当に投資したい分野や削減したい対象はどこか」「お客様のコスト構造はどうなっているか」といった、表に出てこない情報を深く理解する必要があります。また、「誰が意思決定をするのか」という人間関係や、「なぜそれをTOPPANがやる必要があるのか」という我々ならではの価値を明確にすることも重要です。これらの情報を整理し、1つの企業様に対して100ページを超えるようなプランを策定し、運用しています。

松本氏:アカウント営業からビジネスプロデューサーへ、という役割定義の変革はかなりドラスティックだと思いますが、進める上での苦労や壁はありますか?

秋月:まさしく様々な課題があります。理屈の上では上手くいくはずでも、私のようなビジネスプロデューサーは、お客様との日々の取引状況をリアルタイムで把握できているわけではありません。そのため、アカウント営業の皆さんと常に会話し、情報のズレをなくす必要があります。
また、営業担当が2人になることは、一歩間違えればビジネスコストの増大に繋がります。ですから、我々がお付き合いのある全社にこの体制を適用するのではなく、戦略的に注力すべきお客様を絞り込んでいます。そのお客様に対しては、アカウント営業とビジネスプロデューサーが共通の目標値を持ち、共に攻める。この「どのクライアントで取り組むべきか?」という選択と集中、そして両者の合意形成が、現在の課題と言えます。

松本氏:AI活用についてもお伺いします。多くの企業がAI導入に苦戦する中、TOPPANではうまく活用されている印象です。その成功の秘訣や、社内浸透のポイントがあれば教えてください。

秋月:成功しているというよりは、チャレンジしているという表現が適切かもしれません。
我々は、社内の業務効率化・高度化のために、TOPPANのマーケティングDX領域で使われるAIを集約した「AIマート」というポータルサイトを構築しています。画像生成やスライド構成といった汎用的なものだけでなく、クリエイティブ制作や開発支援など、業務に特化したAIツールを、社内のリクエストに応じてAIエンジニアが開発・実装し、ポータルを充実させています。

また、「AI社員」という取り組みも行っています。これは、AIによって効率化され、削減できた工数を「1人分の労働力」とみなし、「AI社員が1人増えた」と捉える考え方です。例えば、広告運用のプロセスをAI化することで、どんどんAI社員を増やしていくという目標を立てて取り組んでいます。

成功の秘訣を挙げるとすれば、「ツールありき」ではなく、「業務の中のどこにAIが効くか」を徹底的に見極めている点だと思います。ここを改善すれば非常に効率的になる、お客様にとってはコスト改善に繋がる、というポイントを見極め、そこに最適なAIを導入する。最もROI(投資対効果)に効くところを狙ってAIを入れていく。これを自社でも実践していることが特徴かと思います。



Topic3:営業モデルシフトの中での壁と今後の展望

松本氏:「営業モデルシフトの中での壁と今後の展望」についてお話しください。

秋月:本日お話ししてきたのは「プロセスの変革」ですが、最も重要なのは、それを支える「意識付けやカルチャーの醸成」です。どんなに優れたツールを整備しても、使う側の意識が変わらなければ意味がありません。頭で理解しても、やり方を変えることには必ずカルチャーギャップが生まれます。ですから、次はこのカルチャーをどう作っていくかに向き合う必要があります。

今後の展望としては、
1. 営業プロセスの定着: 現在チャレンジしている変革プロセスの定着と、それを実践するための意識の定着。
2. ビジネスモデルのチェンジ: データを活用するビジネスモデルへの転換。
3. ツール整備: それらを体系化するためのツールの整備。

というステップで進めていくことになると思います。
ただし、ツールの導入には時間がかかるため、3年ぐらい先を見越して、バックキャストで今から必要なツールの整備を並行して進めることも重要です。このあたりは、我々事業部側とホールディングスの企画部隊が議論しながら、より良いものを作っていくべきだと考えています。

2026.01.08