コラム

地方自治体の新発想フロントヤード改革・
伴走型支援が実現した
指宿市の段階的行政DXとは

人口3.6万人の鹿児島県指宿(いぶすき)市では、TOPPANの伴走支援を受け、低コスト・低負荷の業務改革「指宿モデル」を実現しました。国のシステムを基盤とすることでコストを抑えつつ、窓口業務時間を削減することに成功しています。限られた予算と人員でも実現可能な、中小規模組織向けのDX推進について、鹿児島県指宿市 総務部 デジタル戦略課の前田 伯さんにお聞きしました。




指宿市 総務部
デジタル戦略課 デジタル政策係 主査

前田 伯 氏


TOPPAN BPO 事業全体をご紹介|TOPPAN

初期投資が重荷。中小組織が直面するDXの現実

―これまで指宿市が抱えていた業務課題について教えてください。

前田氏:指宿市の人口は、3.6万人。人口減少が続く典型的な地方の小都市です。人口減に伴って、職員数も減少傾向にある一方で、業務量は複雑化と多様化の一途をたどっていました。2022年には全庁的なDX推進を掲げましたが、国のシステム標準化対応を同時並行で推進するデジタル戦略課のDX推進担当は、私を含めてわずか2名という体制だったのです。

複雑な窓口業務を少しでも自動化しようとシステム導入を検討しても、財源の壁に直面しました。見積もりをとったところ、初期費用は1,600万円以上。ここに年間のランニングコストものしかかります。4万人に満たない人口の自治体で見込まれる申請件数では採算が合わず、業務改革はしばらく棚上げとなっていました。

―業務委託のサービス自体は様々ありますが、なぜそれらでは解決できなかったのでしょうか。

前田氏:データ分析ツールの導入支援など、部分的な業務委託は実施していました。ただ、一部の工程しか委託できなければ、得られる効果も限定的です。

一方で、仮に予算の問題をクリアして、窓口業務のDXシステムを導入できたとしても、私たちのような中小規模組織にはオーバースペックなのは明らかでした。システム導入後に職員が使いこなせなければ、紙の業務も残り、結果的に二重作業となるリスクが懸念されます。

それに、新たな窓口業務DXを実施しようとしても、現場の職員の方々は日々の業務にプラスの負担となり、作業量的に業務改善を図る余力がありません。またその時点で業務が回っているということは、“今”改革する必要がない状況とも言えます。どうしても後回しになってしまいがちですし、業務のやり方が変化することで新しく覚えることが増えるなど、負担が大きくなることを不安視する声もありました。

「低コスト・低負荷、職員自走」を目指すフロントヤード改革

―TOPPANとともに構築した「指宿モデル」について詳しく教えてください。

前田氏:指宿モデルの特徴は、国が提供する「ぴったりサービス」を最大限に活用していることです。「ぴったりサービス」はマイナポータルに含まれる機能の一つで、自治体の行政手続きを住民が検索し、電子申請やオンライン入力・印刷などの手続きができます。無料で利用できるため、「ぴったりサービス」の活用によってシステム開発にかかるコストを抑える狙いがありました。

しかし、国が開発したぴったりサービスは、使いこなすまでに一定のスキルが必要です。ここにTOPPANさんが独自に開発した「窓口タブレット申請システム」を組み合わせることで、ユーザビリティを飛躍的に向上できました。

自治体の業務改革の成功には、システムを利用する住民・職員のことを考えた運用支援と、人材育成を重視したBPOサービスの存在が重要です。指宿モデルも、単に優れたシステムがあるから実現したのではありません。この両輪により、初期投資を最小限に抑えながら段階的に効果を拡大できる設計になっています。

―DX推進にあたって、具体的にどのような支援が有効でしたか。

前田氏:TOPPANさんには、指宿モデルの実現に向けて多岐にわたるご支援をいただきました。

まず、入力項目が300以上あるような複雑な申請フォームの設計と登録代行は、職員だけでは対応が困難な作業量でしたので、大変助かりました。

それから、業務改革に関する300超のタスクを、デジタル戦略課とTOPPANさんで共有管理していただいたこともありがたかったです。タスクに追われる日々でしたが、優先順位をつけながら着実に実行していく伴走支援があったからこそ、乗り切れたと思います。

年4回行った勉強会も、職員の意識改革という面で重要でした。そもそも「なぜDXが必要か」というマインドセットから実務面まで支援していただき、意識改革とスキル向上を同時に実現できました。

ほかにも、二次元バーコード読み取り速度を改善するなど、現場の声を即座にシステムへ反映していただきました。こうした細やかな対応は、私たちだけでなく現場の各部署からの信頼アップにつながったと思います。

「職員の自走化」を目指した人材育成型の伴走支援

―一般的な業務代行との違いはどのような点にあると思われますか。

前田氏:単純な作業代行ではなく、職員が自らシステムを使いこなせるようになることを目標としていたことです。出発点もゴールも、通常の業務代行とは異なりました。

勉強会の内容もTOPPANさんの思いがこもったものであり、「システムが導入され、稼働すればOK」という考え方とは対極にあります。さらに、簡単な手続きから、少しずつ成功体験を積み重ねられるようなプログラム設計になっているのも特徴的です。徐々に複雑な業務へ展開するため、職員も無理なく受け入れられ、気がつくと一定レベル以上までスキルアップできているんです。このようにして、最終的には外部支援なしで自走できる体制を実現するのだと感心させられました。

―現場に向けた導入支援はご苦労も多かったのではありませんか。

前田氏:デジタル戦略課職員が3週間、コンシェルジュとして窓口で業務を行いました。来庁した住民の方々が迷わないように、どこの窓口へ向かえばよいかをご案内するのがコンシェルジュの役目です。次回からコンビニで発行できる内容もあわせてお伝えすることで、窓口の業務軽減に努めました。

それに、デジタル戦略課が現場へ出ることで見つかった様々な課題をTOPPANさんに共有することで、システムや運用方法を随時改善してもらえました。ここでも、一歩踏み込んだ、成果につながるBPOの価値を感じています。

ほかにも、複数のデジタルツールの使い分けフローを現場職員と共同で作成したほか、YouTube動画で住民に向けた情報発信を行うことで、組織内外の理解を促進することができました。

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投資対効果を最大化する段階的導入アプローチ

―指宿モデルの実現によって得られた成果について教えてください。

前田氏:直接的な数値としては、年間2,053時間の業務時間削減を実現しました。人件費換算で、年間117万円の削減にあたります。申請書記入から受付までの時間でいうと、一部手続きでは従来の約3分の1にまで短縮できました。1件あたりでは秒単位だとしても、年間で何万件という手続きがあることを考えると、非常に大きな効果です。

オンライン申請の手続き数が約2倍に増加し、証明書類のコンビニ交付利用率も、前年同月比で上昇しています。デジタル戦略課の職員がコンシェルジュとして窓口案内を始めた2025年1月から、月ごとに増加が見られました。

こうした成果が評価され、「日本DX大賞2025庁内DX部門」の優秀賞もいただきました。「指宿モデル」が、小規模自治体でも実現可能な事例として認められたことは、大変励みになっています。

―どのような組織に「指宿モデル」が適しているとお考えですか。

前田氏:システムへの初期投資を抑えたい中小規模の自治体・公的機関のほか、職員のITスキルにばらつきがあるケースなど、幅広い組織に応用できる可能性があると思います。

リソースや予算の問題から段階的にDXを進めたい、既存の無料または安価なシステムを有効に活用したいなど、少ないリスクとパワーで少しずつDXを推進させたい組織にも有効ではないでしょうか。

―TOPPANのBPOサービスに対する評価もお聞かせください。

前田氏:ただシステムを提供するのではなく、私たちのような課題のある組織にマッチした伴走型の支援を提供してくれている点がとてもありがたいです。

TOPPANさんは、指宿市だけでなく、北海道から九州まで各地の先進的な自治体や企業に対する支援実績をお持ちです。それらの知見を活かして、最適なソリューションを提案してくれますし、単に型に当てはめるのではなく、現場の声を丁寧に聞き、地域の特性に合わせたカスタマイズやさらなる改善に向けた対応も柔軟に行ってくれる点を心強く感じています。

従来の高コスト・高負荷になりがちなシステム導入では、自組織のITリテラシーの低さから、そのメリットを最大化できないのではと導入をためらうケースもあると思います。伴走型支援なら、受け手の状況に左右されず、確実な成果が期待できます。

―今後の展望について教えてください。

前田氏:今年度は、国が推進している基幹業務システムの標準化を控えていますが、その後は市役所のバックヤード改革にも着手したいと考えています。住民から申請されるデータを基幹システムと自動連携し、完全デジタル化を目指します。実現できれば、さらなる業務効率化、生産性の向上が可能です。

また、指宿市と同じような悩みを持ち、「指宿モデル」を参考にしたいという中小自治体にも積極的に情報を共有していきたいと考えています。

窓口でのタブレット活用の様子

まとめ

指宿市の事例は、限られた予算と人員でも適切な伴走支援パートナーとの協働により、職員が自走可能な中長期的なDX推進モデル「指宿モデル」 が大きな成果を上げられることを実証しました。

TOPPANによる伴走型支援は、単純な業務代行ではなく、業務分析・改善(BPR)のノウハウ とデジタル化推進(DX)のサポートを複合したものです。自治体に限らずDXを推進したい中小規模組織において、このような低コスト・低負荷かつ、職員の主体性を引き出す複合的で拡張性の高い支援のあり方は、持続可能な行政運営体制の構築のために、今後ますます重要性を増していくと考えられます。

業務改革を検討しているがリソースが不足している、何から始めればよいかわからないといった課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。


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2025.10.27