【会談記事】和歌山県と取り組んだ動画配信を主軸とした行政DX研修。
職員が行政DXを自分ごとにするためには
行政DXの推進には職員の意識改革、つまり「人が変わる」ことが不可欠です。首長や幹部職員から一般職員までの全職員がDXを正しく理解し、一人ひとりがDXを身近で実践できるものと捉え、自ら実践するマインドを持つことが求められます。

2023(令和5)年と2024(令和6)年の2年間、和歌山県さまは全職員の意識改革の出発点として、TOPPANエッジサポートのもと「行政DXリテラシー向上研修」を実施しました。
今回は、和歌山県さまのDXにおける課題、研修の企画意図や実施内容と、その研修動画の配信手段として導入いただいた「ビジネス動画セルフサービス PIP-Maker®︎(ピーアイピー・メーカー)」について、総務部行政企画局行政企画課の奥西さまと坂本さま、そしてTOPPANエッジの徳野、明渡で振り返りました。

和歌山県 行政DXリテラシー向上研修・PIP-Maker®︎導入時期:2023年6月〜 |
人的側面と技術的側面、DX推進を阻む2つの課題解決を目指す中でたどり着いた研修サービス
徳野:お二人が所属されている行政企画課とは、和歌山県のDX推進においてどのような位置付けの部署かご説明いただけますか。
奥西さん:行政企画課は、行政運営の見直しを図り、県民サービス向上に向けた改革を主導する立場にあり、その一環として行政DXの推進も所管しています。

徳野:2022年11月、前任のご担当者さまに一般財団法人 地方自治研究機構主催の「自治体DX業務改革(BPR)セミナー」を受講していただいたことが、ご縁をいただくきっかけとなりました。セミナーの中で弊社が講演をさせていただきましたが、当時、和歌山県さまにはどのような困りごとがあったのでしょうか。
坂本さん:人的そして技術的といった2つの課題があり、人的課題としては、県庁には何十年も続く慣習が当たり前となり、古いやり方に疑問を持たない状況となってしまっていました。
正直なところ、一般企業の感覚だと時代にフィットしていない慣習も多くあったのです。しかし「もっと良いやり方があるのでは?」と気づき、変えようとするマインドが育たないことには、改革が進まないと感じていたようですね。
次に技術的な課題です。県では情報職というデジタル人材を雇用していたものの、一般職員にはITリテラシーが十分に浸透していませんでした。業務効率化しようとしてもデジタルの知識や技術が不足しているため、改革へのアクションにつながらない状況だったのです。
徳野:マインド面や知識・技術不足に課題感を持たれていた中で、弊社の講演をお聞きいただいたのですね。受講されて、どのような感想を持たれたのでしょうか。
坂本さん:「DXで大切なのはD(デジタル)ではなく、X(トランスフォーメーション)の部分だ」と前任者は常に話していました。DX推進にはITの知識や技術が必要ですが、実際の改革行動につながらなければ意味がありません。
講演では「自分ごとでDX(BPR)を実現する手法」が多くの事例とともに紹介されていて、これなら現場の課題解決につながるのではと期待感を持ち、御社へ入札参加を打診したそうです。

徳野:他社の研修サービスと比較検討される中で、TOPPANエッジへ研修をお任せいただけた決め手はどこにあったのでしょうか。
坂本さん:他社のDX研修は一般的な内容に終始しているものが多く、県職員たちの機運醸成には結びつきにくいと感じたようです。
TOPPANエッジさんの提案内容は、和歌山県庁向けにカスタマイズしながら研修内容を作り込めると感じ、加えて自治体向けの研修実績が豊富な点も安心材料となったと聞いています。
約4,500人の意識改革を目指す動画配信型「行政DXリテラシー向上研修」
徳野:2023年4月の公募型プロポーザルで弊社が落札、5カ月かけて準備を進め、10月から全職員対象の「行政DXリテラシー向上研修」を動画研修として開始しました。
研修の中で実際の業務を題材とする少人数対象の「プロジェクト創出型ワークショップ研修」も行いましたが、全職員向けの動画研修へかなり力を注がれていましたね。

西日本営業統括本部 関西第二営業本部 第四チーム 徳野 和哉
奥西さん:そうですね。通常は職階別に少人数で行う集合研修が多いのですが、DX研修は全職員の約4,500人を対象とした動画研修を主軸としました。DXは特定の部署だけが行うものではないので、職員一人ひとりに当事者意識を持ってほしいと考えたのです。
県職員の中に行政DXに関する機運を醸成するという意味合いからも、人数を絞らないことは意義があったと思います。
坂本さん:例えば、県立図書館や県立病院などに勤務する職員は土日や夜間も仕事に従事しています。どんな勤務形態の県職員でも、都合の良い時間に視聴できる点は大きなメリットでした。
ただ集合研修と比較すると、一人ひとりがどんな状況で視聴しているか把握しづらいことは否めません。質疑応答など、職員の反応をじかに感じられない点が動画研修に関しての課題でした。
明渡:この課題を軽減できるよう、PowerPointで作った資料から動画を作成し、同時に配信管理もできるクラウドサービス「PIP-Maker」をご提案させていただきました。視聴者が参加できるインタラクティブ機能を活用し、途中にクイズやアンケートを入れ、スキップや流し見の防止・視聴ログの確認ができるよう設計しました。
動画研修の課題をある程度カバーできたかと思いますが、その点はいかがでしたか?

事業推進統括本部 DXビジネス本部 公共ビジネス推進部 第二チーム チームリーダー 明渡 正典
坂本さん:「PIP-Maker」で作った研修動画は、クイズに答えないと次へ進まないなど流し見ができない仕組みになっていて良かったです。視聴中に別のWebサイトを見始めると、研修動画が止まったことにも驚きました!

明渡:集合研修と違い、自分のペースやタイミングで視聴できること、紙の資料の配布と違い、確実に時間を使って視聴いただけることは動画研修における大きなメリットです。動画研修に対して職員さまの反応はいかがでしたか。
坂本さん:庁内では動画研修を行う機会が増えているので、職員たちも視聴に慣れてきた印象です。
動画は3時間あったため「長い」という声はありましたね。ただし基礎知識を身につけるには、ある程度時間を割くべきでした。その甲斐あって「DXを難しく考える必要は無い」というメッセージは伝わったと感じています。「考え方次第で自分も業務改革ができると気づいた」という感想も多く寄せられました。
2年目は具体的なアクションを促す内容にブラッシュアップ
徳野:2024年度のDX研修についても、公募型プロポーザルで弊社が落札させていただきました。その節はありがとうございました!
坂本さん:2023年度は和歌山県庁のリアルな事情で、職員が自分ごととして感じられる内容であることを重視しました。
今は行政も企業もDX人材の育成が求められており、他社でもいろいろな研修メニューがありますが、TOPPANエッジさんは1年間の取り組みを通して和歌山県の事情を熟知されており、それが提案に活かされていたこと、県ならではの特殊な要望を十分に理解してくださっていたことが大きかったです。
明渡:ありがとうございます!2023年度の研修アンケートはおおむね好評だったものの、「時間が長い」「難しかった」という声も頂戴したほか、業務に役立ちそうか?の問いに「“将来的に”役立ちそう」という回答が多く、もっと直近の行動を促す内容にすることが必要だと分析しました。
そこで2024年度の動画研修は一般職員・管理職で内容を変えることで1人あたり60分弱にまとめ、知識面は最低限にとどめたほか、ワーク(※)も加え、今アクションを起こそうと思ってもらえる内容を企画いたしました。
※ワーク:実際に手を動かし、体験的に学習すること
奥西さん:2023年度の研修目的はDXの基礎を築くことでした。「こんな便利ツールがあります」「セキュリティはここに気を付けて」といった紹介もあり、ともすれば「DXってすごい!」という感想だけで終わりかねません。そこで2024年度の研修ではもう一段階上を目指し、実践につなげたいとご相談しましたね。

坂本さん:担当者向け研修では、実際のアクションを促す課題解決型ワークを組み込んでいただきました。これがなかなか好評で「業務改革を考えるきっかけになった」という前向きな感想が多くありました。「自分が県民の立場だったらネットから申し込みをしたいのに、なぜこれまでかたくなに電話受け付けだけ行っていたのだろうと気づいた」というような声もありました。
明渡:管理職向け研修では、DXを進めるときの管理職の役割やコーチングについて作成させていただきました。また、担当者が取り組んだワークの結果を共有し、それをきっかけとしてチームで話し合いなどの時間を作ることをお願いしました。
後日、このワークを通してチームでディスカッションを実施予定である課が複数あったことを伺い、とても嬉しかったです。

坂本さん:TOPPANエッジさんから「何を改善したら良くなるのか、それを最終的に考えることは、和歌山県さまにしかできないことです」と言われたのが印象的でした。研修動画には「もっと、なんとかならないか」というフレーズが登場するのですが、その言葉が印象深かったという職員も大勢いたんですよ。
明渡:それは光栄です!組織に長年所属すると、次第に考えが染まっていきがちですよね。だからこそ県職員側と県民側の2つの視点を持って考えてみようというメッセージを込めさせていただきました。
研修後の反響は上々。「PIP-Maker」の現場活用事例も
徳野:2024年度の研修では実際のアクションを促すことを目標としました。
研修後に、DXや「PIP-Maker」についての問い合わせや相談は増えたのでしょうか。
坂本さん:職員からDXに関する相談件数は確実に増えましたね。職員が「PIP-Maker」で作った動画をWebサイトへ掲載して住民向けの情報発信に活用する例もありました。職員は日常的にPowerPointを使うため、他の動画編集ツールに比べて扱いやすいです。
徳野:それはうれしいですね。
「PIP-Maker」なら動画の修正もPowerPointで行え、撮影や録音も不要です。

坂本さん:以前は職員が話す内容を撮影して動画編集していましたが、途中で言い間違えると撮り直しするのが一般的かと思います。ですが「PIP-Maker」は資料の文字をアバターが読み上げてくれますし、変更の際も資料を修正するだけなので、現場で対応できます。
住民向けにも、職員向けにも使いやすいと評判です。
明渡:お役に立てて良かったです。実は今、今回の事例で得られたノウハウを活かし、全国の自治体さまで幅広く活用いただけるよう、全職員向けDX研修のコンテンツを制作しています。
「PIP-Maker」の強みを活かし、担当者ご自身がPowerPointで直接編集できる研修コンテンツを弊社から提供することで、自治体ごとのDXビジョンを取り入れたDX研修動画を全国の自治体さまで効率的に作成・配信することができると考えています。
これは和歌山県さまとのお取り組みが大きな端緒となっています。このような機会をいただき、本当に感謝しています。
「種まき」が完了し、より高度な人材育成やDX実装の機会創出を目指す
明渡:2年のDX研修を振り返られて、職員の皆さまに変化はありましたか?
奥西さん:DXに関する行政企画課への相談件数が増え、リテラシーの底上げや機運の醸成が得られたと実感しています。そして、リスキリングで最も効果的なのは、実務で実際に考えていくことだと思っています。
そのためにも、私たちDX推進部隊が他の課から相談を受け改革案をともに検討すること 、同時に現場でDXを実装する機会が増えるよう働きかけ、人材育成をすることが大切です。併せて、専門的な知識が必要な職員へのサポートも強化したいですね。

坂本さん:本当にそうですね。一方で、知識の底上げはできたものの、まだまだ行動に移せないケースがあるのも事実です。県職員の数は減っているのに行政の仕事は増えているので、業務改革について考える余裕が無いという声も聞こえてきます。今後は、多忙な職員が一歩踏み出すきっかけとなるサポートに取り組みたいです。
人は自分ごととして腹落ちすると行動できると思うので、より実務に落とし込んだワークを企画したり、忙しくても取り組む意義があると実感できる研修プログラムを考えたりしていきたいです。

徳野:研修にとどまらず、他の課題解決についても弊社が力になれる部分は多いと考えています。これからも職員の皆さまが働きやすくなるとともに、住民の方々がより良い行政サービスを受けられるよう、TOPPANエッジも引き続き尽力させていただきます。
本日は、ありがとうございました!
※所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。
※PIP-Maker®は、株式会社4COLORSの登録商標で、撮影と録音不要の音声付き動画作成クラウドサービスです。
※その他記載された製品名などは、各社の登録商標あるいは商標です。
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2025.03.19