コラム

【カーボンニュートラル建築の取り組み事例】最新技術と脱炭素社会実現に向けたベストプラクティス

カーボンニュートラル・脱炭素化の実現は、私たちがこれからも地球で暮らし続けるために取り組まなくてはいけない課題です。その中でも、多くのエネルギーや資材を使う“建築”の動きは、とても重要な意味を持ちます。

そこで本記事では、「カーボンニュートラル建築」の定義やメリット・デメリット、取り組み事例を紹介します。環境配慮型建築へおすすめの建材も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。


<目次>

■ カーボンニュートラル建築の重要性と定義
■ カーボンニュートラル建築に取り組むメリットとデメリット
■ 建築業・建設業が取り組むべき具体的な施策|設計・施工・現場監理・運用
■ カーボンニュートラル建築の取り組みと事例
■ “TOPPAN”のSDGsに向けた取り組み
■ 環境と人にやさしい不燃化粧パネル「ローバル」
■ まとめ


■ カーボンニュートラル建築の重要性と定義

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を減らすとともに、森林による吸収量を増やして“均衡化させる”、つまりバランスを取る動きを指します。

日本は、2020年10月に2050年までに温室効果ガスの排出をプラスマイナス・ゼロにすることを目標として掲げました。目標実現のため、各産業がそれぞれ独自の取り組みを実践している中、建築・建設業界の動きは重要視されており、近年は「カーボンニュートラル建築」の普及が進んでいます。では、その定義や必要性、法整備・基準について、それぞれ詳しく解説します。

定義

2020年10月に採択された2050年目標に向けて政府は様々な取り組みを実践していますが、2030年時点で見込める達成数値は「2013年比で46%」とその目標達成は決して容易なものではありません。

そこで、建設分野において、官民で協力して取り組まれているものが「カーボンニュートラル建築」の普及です。

カーボンニュートラル建築とは、CO2をはじめとした全ての温室効果ガスについて、「施工・建築の運用における排出量」と、「植林や森林の活性化によって得られる吸収量」を差し引き、その建物が解体されるまでの排出量を実質“プラスマイナス・ゼロ”にすることを目標とした建築物を指します。

法整備と基準

2015年7月に、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(通称:建築物省エネ法)」が制定され、その後2022年に内容が改正されました。

併せて、2021年に採択された「地球温暖化対策計画」と「エネルギー基本計画」により、2050年までに住宅・建築物の半数以上がZEH・ZEB(※)基準の省エネ性能を持つことが目標とされたのです。

※ZEH・ZEB:ネット ゼロ エネルギー ハウス・ネット ゼロ エネルギー ビルディングの略で、どちらも “省エネ”性向上と太陽光発電などによる“創エネ”によってエネルギー消費量を正味ゼロにすることを目標とした建物

これらの法整備により、現在では建築物に対して、以下の点が義務付けられています。

・大規模非住宅建築物に対する省エネ基準適合義務
・大規模非住宅建築物に対する省エネ基準適合性判定義務
・中規模以上の建築物に対する省エネ性能届出義務
・小規模建築物に対する建築士による省エネ性能説明義務

東京都では、カーボンニュートラル建築の実現に向けて、規定の見直しもされています。
・省エネ向上計画の認定(省エネ性の高いプロジェクトに対する容積率特例)
・エネルギー消費性能の表示(性能基準に適合している建築物は、認定を受けるとその旨を表示できる)

■ カーボンニュートラル建築に取り組むメリットとデメリット

カーボンニュートラル建築には、メリットとデメリットの両側面があります。主なメリットは以下の点です。

・地球環境保全への効果(温暖化対策や地球全体の持続可能性向上)
・企業のCSR(社会的責任)の実現
・企業としての姿勢を社会へアピール(企業価値向上)
・経済的効果向上(デカップリング(※)の実現による競合他社との差別化・入札や工事評定におけるインセンティブ付与)

※デカップリング:環境面・経済面の取り組みを切り離し、一定の経済成長や利益を維持しながら、エネルギー消費を減らしていく手法

海外ではカーボンニュートラルへの取り組みが入札時の重要な評価基準となっており、日本でもインフラ整備など公的な建築プロジェクトから有利に働く動きが広まっています。

ただし一方で、カーボンニュートラル建築には、まだ解決できていないデメリットもあります。それは、「コスト面における障壁」です。ただし、今後の建築物、建築・建設業界に関わる企業のGX(※)化は必要不可欠であり、政府も多額の予算を充てて積極的に取り組んでいます。

※GX: Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)の略で、温室効果ガスを排出する化石燃料に頼らず、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーへ転換する取り組みを指し、カーボンニュートラルの軸とされている

そのため、今後は徐々にカーボンニュートラル建築のコストダウンが期待されています。

■ 建築業・建設業が取り組むべき具体的な施策|設計・施工・現場監理・運用

では、具体的に建築・建設業界がカーボンニュートラル建築に向けて実践すべき施策を紹介します。

設計段階での考慮点

・再生可能エネルギーの活用(太陽光発電、風力発電、地熱エネルギーなど)
・高効率断熱化による省エネ性能向上
・自然光や自然風を利用したプランニング
・LCCO2(※)の少ない環境配慮型建築材料の採用
・リサイクル建材やリサイクル可能な素材の採用
・木材の積極的な利用(木造化・内装の木質化における国産材・地域材利用)

※LCCO2:ライフサイクルCO2の略で、製品の製造・輸送・販売・使用・廃棄・再利用までで発生するCO2量

施工・現場監理における考慮点

・現場重機や機械のオール電化(ただし、自然エネルギー由来の電力利用が必須)
・現場事務所の省エネ化(現場照明・重機の省エネ化)
・工程の徹底監理による効率化(人工と材料のロス削減)

建築物の運用・メンテナンスにおける考慮点

・IT・AI技術による効率的な消費エネルギー量の管理やコントロール(BEMS(※)導入・IoT(※)の活用=スマートビルディング化)

※BEMS:Building and Energy Management Systemの略で、室内環境(温度・湿度・空気汚染など)の管理と消費エネルギー量の最適化を図るための管理システム

※IoT: Internet of Thingsの略で、照明・空調などの設備機器を全てインターネット接続させ、適切な状態にコントロールする管理システム

これらの取り組みは“遠い未来のこと”と思われるかもしれませんが、既に大手ゼネコンを筆頭に、様々なプロジェクトへ採用されています。

■ カーボンニュートラル建築の取り組みと事例

ではここで、国土交通省が公表しているカーボンニュートラル建築の事例を紹介します。

高島市役所庁舎

<ポイント>
・Nearly ZEB(※)基準への適合
・地下水・自然風・自然採光利用
・庇・ルーバーによる日射遮蔽
・床スラブ放射熱冷暖房の採用

高島市役所庁舎は、滋賀県下で2番目の面積を有する新生高島市の新しい顔となる市庁舎プロジェクトである。旧新旭町庁舎(平成5年築)を改修整備する「本館」と、新たに増築する「新館」を合築し、新たに高島市庁舎として整備するものである。 新館の整備にあたっては、「高島の豊かな自然をつなぐまちづくりの拠点整備」を基本コンセプトとしつつ、環境配慮型官庁施設の基本理念のもとライフサイクルを通じた地球環境への負荷低減や、最新環境技術を備えたサステナブルな施設整備を目指し、2019年3月、本館とともにZEB Ready 庁舎として全体完成した。省エネルギー化に際しては、安曇川水系からの豊富な地下水、卓越風、自然採光など地域特性を活用した環境技術を導入し、環境負荷削減や将来の維持管理コスト低減が可能な施設とした。

※Nearly ZEB:ZEBの基準には及ばないものの、建築物のエネルギー消費量削減と自然エネルギー利用によって、地球温暖化への影響を最小限に抑える設計手法

美幌町役場新庁舎

<ポイント>
・Nearly Ready(※)基準への適合
・高断熱化による熱負荷低減
・美幌町の気候特性を活かした太陽光利用(日照率が高く降雨量・降雪量が少ない)
・エコボイド(※)採用による煙突効果を応用した効率的な自然換気
・地中熱利用
・庇による日射遮蔽

美幌町役場新庁舎は、旧庁舎の抱える老朽化、バリアフリー対応への不足、業務部門の分散化による町民サービスや行政効率の低下と耐震強度不足による危険性等の問題を解決するとともに、より親しみやすく、今後ますます多様化する住民ニーズに対応できる機能的な庁舎の実現を目的として整備した。 また、美幌町は夏暑く冬寒いという寒暖差の大きな内陸性の気候で、日照率が高く、年間を通じて降雨量・降雪量が少ないという特性を持っている。 新庁舎は、『新時代の環境配慮型庁舎』をコンセプトとし、高断熱化による熱負荷低減や美幌町の気候特性を活かした自然エネルギー利用等を図ることにより、暖房エネルギー消費の多い北海道においてZEB Readyを実現した。

※ZEB Ready:ZEBを見据えて高断熱化と高効率な省エネルギー設備を取り入れる設計手法
※エコボイド:等方性中空球体ボイドとも呼ばれ、コンクリートスラブ内を一部切り欠き、建物の中心吹き抜けを作る設計手法

ジューテック本社ビル

<ポイント>
・中高層ビルにおける木造化(CLTと鉄骨のハイブリッド構造)

木質の燃え止まり層で被覆した純木質耐火集成材を用いた木造部分と、鉄骨造部分を組み合わせたオフィスビルです。

このように、採用する手法は異なりますが、全国各地で環境に配慮したカーボンニュートラル建築の建設が徐々に広がっています。

■ 環境と人にやさしい不燃化粧パネル「ローバル」

TOPPANの「ローバル」は、オレフィンシートを表面材とし、抗ウイルス・抗菌機能をプラスした環境と人に優しく内装制限の対象部位にもご採用いただける不燃化粧パネルです。

環境や人への配慮だけではなく、高い意匠性も「ローバル」の特長です。最新のデザイントレンドを分析して厳選した木目調・石目調・メタル調など45点ものラインナップから、設計デザインのイメージに合うパネルをお選びいただけます。

※抗菌・抗ウイルス仕様の色柄はカタログなどでご確認ください。

また三角形・六角形・矢羽形・風車形など、空間のアクセントとなる異形貼りにも対応しています。

TOPPANでは、アップサイクルを実現した再生複合建材「TOPPANマテリアルウッド」の製造にも取り組んでいます。、空間のトータルデザインを実現するルーバーや造作材もございますので、「環境配慮」「衛生への配慮」、そしてさらに意匠性の高い設計デザインを検討中の方は、ぜひご参考ください。

■ TOPPANのSDGsに向けた取り組み

TOPPANでは、世界中の人々が「心豊かで安全・安心に住み続けられる世界」の実現に向け、グローバルにサステナブルな取り組みを行っています。

【環境】
地産材利用・リサイクル資源の活用を通じて、サステナブルマテリアルの開発・製造に取り組んでいます。

【まち】
Erhoeht-X(エルヘートクロス)技術の活用によって、人々の暮らしにおける安心安全と空間演出を両立できるサポートをしております。

【ひと】
様々なニーズに対応できるヘルスケア・ワーカーケア・コミュニティーの活性化を実現するサポートをしております。

■ まとめ

カーボンニュートラル建築には、省エネ性に関する数値目標はあるものの、実現に向けたアプローチは様々です。建物の用途・コストなどに応じて、取り入れられる手法から採用することが重要と言えるでしょう。

TOPPANでは、環境に配慮したデザイン性を豊かにする建材を開発・製造しております。「環境に優しい建築」を目指している方や、材料選定でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

■ 環境にやさしいTOPPANの建材

2024.09.12

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