サービス・地方創生

大阪・関西万博を支えた
TOPPANの多言語翻訳サービス。
その進化の先に広がる未来

はじめに:言葉の壁は、あなたのビジネスの壁になっていませんか?

大阪・関西万博を支えたTOPPANの多言語翻訳サービスとは?|TOPPAN

ビジネスのグローバル化が進む昨今、「言葉の壁」を乗り越え、コミュニケーションを正確かつスムーズに進められるかどうかはビジネスの成否に大きな影響を及ぼします。その「言葉の壁」を乗り越えるための技術は近年、大きな飛躍を見せており、ビジネスに大いに役立てられます。

2025年4月13日から10月13日まで開催され、世界各国から数多くの人が詰めかけ、大盛況のうちに幕を閉じた「大阪・関西万博(以下、万博)」では、最先端の多言語翻訳技術が「言葉の壁」の課題を解決し、多くの人々のコミュニケーションを支えました。万博が実現した「言葉の壁を超える未来」は、実はすでに私たちの手の届くところに来ています。

本コラムでは、万博で実際に活躍したTOPPANによる多言語翻訳サービスの内容と、そのサービスがどのようにビジネス課題を解決できるか、をご紹介します。

【目次】
■万博で大活躍!TOPPANの多言語翻訳サービスとは
1.「EXPOホンヤク™︎」:来場者とスタッフをつなぐアプリ
2.「EXPOホンヤク™︎ Remote」:ガイドツアーを多言語で
3.「EXPO同時通訳システム」:大規模イベントをサポート
■万博来場者の「声」が拓く未来
■万博の舞台裏:長年にわたる研究開発の成果
■まとめ:万博から未来へ、言葉の壁を取り払う「未来の交流」

万博で大活躍!TOPPANの多言語翻訳サービスとは

大阪・関西万博を支えたTOPPANの多言語翻訳サービスとは?|TOPPAN

万博の会場では、TOPPANによる多言語翻訳サービスが活躍しました。3つのサービスをご紹介します。

1.「EXPOホンヤク™︎」:来場者とスタッフをつなぐアプリ

大阪・関西万博を支えたTOPPANの多言語翻訳サービスとは?|TOPPAN
イラスト提供:2025年日本国際博覧会協会

「EXPOホンヤク™︎」は、来場者や会場スタッフ、公式参加国、民間パビリオン出展者などが無料でダウンロードできるスマートフォン向けアプリで、1対1の会話を、音声とテキストの両方で自動翻訳する機能を備えています。
対応言語は日本語を含む30言語(※)で、音声翻訳は13言語に対応しています。主に会場スタッフが来場者から多言語で問合せを受けた場合の利用を想定して開発をおこないました。本アプリを活用することで、円滑な多言語コミュニケーションが可能となりました。

※30言語の内訳
○音声翻訳およびテキスト翻訳の対応(音声出力可)
13言語
日本語、英語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語、ブラジルポルトガル語、ミャンマー語、スペイン語、フランス語、フィリピン語

○テキスト翻訳の対応(音声出力不可)
17言語
日本語 ⇔ アラビア語、イタリア語、ウルドゥ語、オランダ語、クメール語、シンハラ語、デンマーク語、ドイツ語、トルコ語、ネパール語、ハンガリー語、ヒンディ語、ポルトガル語、マレー語、モンゴル語、ラーオ語、ロシア語
※17言語については、アプリの仕様上、上記13言語との翻訳も設定できるが翻訳技術の精度上、対日本語のみ推奨

本アプリは多言語翻訳サービス「VoiceBiz®(ボイスビズ)」を万博向けにカスタマイズしたものです。「VoiceBiz®」の特徴・強みである「国産の翻訳エンジン」「固有名詞登録」を活かしています。

●「VoiceBiz®」の万博向けのカスタムポイント
1)万博専門用語を登録
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、博覧会協会)と連携して整備した万博関連の地名や会場名称などの専門用語を約1,200語登録し、万博会場での正確かつスムーズな翻訳を可能にしました。

2)翻訳エンジンの増強
本アプリに実装されている国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した高い翻訳精度を誇る国産エンジンを万博向けに増強して提供しました。
開幕前、総来場者数のうち訪日外国人は約350万人と試算されていました。また、来場者に加えて会場スタッフを含めた多くのアプリ利用者が見込まれていたため、クラウドサーバで稼働するエンジンの数を増強しました。これにより多数の翻訳リクエストを処理することが可能となりました。約半年の会期中の総翻訳リクエスト数は150万リクエストを超え、これは「VoiceBiz®(ボイスビズ)」と比べると10倍以上の処理件数となっています。

3)UI改善
来場者が初めて利用する際も迷わず使えるわかりやすいUI設計のほか、会場スタッフ向けの専用機能(定型文機能、会場マップ機能、ドキュメント機能等)の追加を通じて利便性を高めました。

2.「EXPOホンヤク™︎ Remote」:ガイドツアーを多言語で

大阪・関西万博を支えたTOPPANの多言語翻訳サービスとは?|TOPPAN
イラスト提供:2025年日本国際博覧会協会

「EXPOホンヤク™︎ Remote」は、万博会場で行われる博覧会協会主催のガイドツアーやイベントなど、複数の参加者に向けて同時に多言語で説明が必要となる場面で活躍するアプリです。
ガイドツアーやイベントなどの参加者は自分自身のスマートフォンなどから二次元コードでこのアプリにアクセスし、利用したい言語を選択するだけで、ガイドの説明やイベント出演者の発話内容の自動翻訳の結果を確認することが可能となります。自動翻訳の結果は、文字情報として確認できることに加え、音声で聞くことも可能です。また、アプリのマイク入力をONにすることで参加者自身の発話内容を翻訳することも可能です。したがって、参加者の言語でガイドに直接質問することが可能となります。
日本語を含む13言語に対応しています。(日本語、英語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語、ブラジルポルトガル語、ミャンマー語、スペイン語、フランス語、フィリピン語)

本アプリは多言語翻訳サービス「VoiceBiz® Remote」を万博向けにカスタマイズしたもので、「VoiceBiz® Remote」の特徴・強みである「アプリインストール不要」「定型文登録機能」を活かしています。
 
●「VoiceBiz® Remote」の万博向けのカスタムポイント
1)万博専門用語を登録
「VoiceBiz®」と同様、約1,200語の万博専門用語を登録し、会場内での正確かつスムーズな翻訳を可能にしました。

2)音声認識エンジンの強化
音声認識エンジンを強化し、より精度の高い翻訳を実現しました。ガイドツアーでは、ガイドの説明は、長く連続的な発話となります。このようなユースケースに対応するため「VoiceBiz® Remote」では定型文登録機能を提供しています。
ただ、万博会場では、様々な内容のガイド案内が発生することが想定されるため、事前にすべての定型文を準備することはできません。そこで、音声認識エンジンを長い連続発話に対応できるように強化し、認識精度と翻訳精度の向上を実現しました。

3)UI改善
アプリの準備に手間がかかってしまうと、スムーズにガイドをスタートすることができません。ガイドやガイド参加者が迷わずにシステムを起動できるように簡単でわかりやすいUIを意識して改善しています。

3.「EXPO同時通訳システム」:大規模イベントをサポート

大阪・関西万博を支えたTOPPANの多言語翻訳サービスとは?|TOPPAN
イラスト提供:2025年日本国際博覧会協会

「EXPO同時通訳システム」は、協会主催のセミナーやイベントにおける発表やプレゼンテーションの内容を、リアルタイムで同時通訳するシステムです。話者の言葉を同時通訳し、会場のスクリーンやディスプレイなどの投影機器と、参加者のスマートフォンへリアルタイム字幕配信を行います。
日本語から5言語への翻訳(英語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、フランス語)、英語から5言語への翻訳(日本語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、フランス語)に対応しています。

本システムは総務省委託研究開発「多言語技術の高度化に関する研究開発」(以下、本研究開発)の成果を活用し、開発されました。

●総務省委託研究開発の成果
1)自動同時通訳エンジンの活用
従来の音声翻訳システムは、発話と終話のタイミングを利用者自身が指定し翻訳の対象範囲を決定して機械翻訳をおこなっています。(ここではこれを「逐次翻訳」と呼ぶ)
一方、本研究開発の成果である自動同時通訳エンジンを活用した音声翻訳は、「逐次翻訳」では人が指定していた翻訳対象の範囲をエンジンが自動的に判定して機械翻訳をおこないます。(ここではこれを「同時通訳」と呼ぶ)
これにより「逐次翻訳」のように発話と終話のタイミングを指定する必要はなく、発話をし続けるだけで音声翻訳が可能となります。また、「逐次翻訳」に比べて発話から翻訳結果が出力されるまでのタイムラグが短くなり、スムーズな多言語コミュニケーションを実現します。

2)スタンドアロン方式の実装
音声翻訳システムは、音声認識エンジンと機械翻訳エンジンを使用します。これらのエンジンを稼働させるためには高性能なサーバが必要でした。そのため、従来はクラウド上で高性能なサーバ環境を構築し、その上でエンジンを稼働させていました。
近年、AIをPCのローカル環境で稼働させることが可能な処理性能が高いPCが手の届く価格帯で販売されるようになりました。このような外部環境をうけ、自動同時通訳エンジンを高性能PC上で安定稼働させるための研究開発に取り組みました。これをスタンドアロン方式と呼んでいます。
この成果により、インターネット環境がないケースや通信が不安定な環境でも同時通訳を提供することが可能となりました。また、発話内容をクラウドサーバに一時的でも残したくないケース(秘匿性の高い発話など)においても同時通訳を利用することが可能です。

3)誤訳防止のための編集機能(特許登録済み)
音声翻訳システムは、インプット情報として音声を利用します。このため、発話の状況(人混みの中での発話、反響する個室での発話等)や発話の仕方(声の大きさ、話すスピード、活舌の良さ等)によって、その認識精度が変わります。したがって、正しく発話の内容が認識できなかった場合、当然ながら翻訳結果は間違ったものとなってしまいます。
この課題に対し、本研究開発では、音声認識の結果を人間(オペレータ)が編集するための機能の開発・検証をおこないました。また、その機能を利用しやすくするためのユーザインタフェースの開発・検証もおこないました。この研究開発の内容は特許として認められました。(特許番号:特許第7586367号)
この編集機能により、正しい音声認識結果が得られずに誤翻訳となってしまった場合でも即座に訂正することが可能となり、相手に誤った内容が伝わることを防げます。
万博会場で得たフィードバックは、投影用自動同時通訳システム「LiveTra™(ライブトラ)」に反映しています。

万博来場者の「声」が拓く未来

大阪・関西万博を支えたTOPPANの多言語翻訳サービスとは?|TOPPAN

万博会場のスタッフ向けに実施されたアンケート結果からは、本アプリやシステムへの様々なフィードバックが得られました。特に「EXPOホンヤク™」の使いやすさが評価されています。

●評価のポイント
・シンプルで直感的な操作性
・翻訳スピードの速さ
・多言語への対応力

一方で、一部の利用者からは、「起動に時間がかかる」「音声認識が不十分な場合がある」といった課題点も指摘されました。

これらのフィードバックはいずれも貴重なものとして、今後のサービス改善に活かしてまいります。すでに活用を進めており、万博で得られた知見が、より良い製品開発につながっています。

万博の舞台裏:長年にわたる研究開発の成果

大阪・関西万博を支えたTOPPANの多言語翻訳サービスとは?|TOPPAN

万博で活躍したTOPPANの多言語翻訳サービスのうち、「EXPO同時通訳システム」は、総務省委託研究開発「多言語翻訳技術の高度化に関する研究開発」の成果を活用したものです。

●5年間の研究開発の集大成
本研究開発は、自動同時通訳技術の社会実装を目指し、TOPPANを含む9つの企業・団体がコンソーシアムを組成し、2020年度から5年間にわたって推進されたものです。

2021年3月に総務省が発表した「グローバルコミュニケーション計画2025」の推進のため、すでに実用化されている「逐次翻訳」の技術を「同時通訳」の技術にまで高度化し、ビジネスをはじめとした様々な場面での利活用を目指す取り組みです。

TOPPANは、研究代表を担当し本研究開発を積極的に推進してまいりました。また研究開発の成果発表の場として大阪・関西万博をターゲットに見据え、5年間の集大成を万博での社会実装として実現しました。

研究開発を通じて、リアルタイムでの通訳を多言語で同時に行う技術を確立し、コミュニケーションのテンポを損なわないスムーズなやりとりを実現できるようになりました。

●課題と今後の展望
一方、課題も残っています。

音声翻訳システムは、話者の意図を100%理解して翻訳することはできません。そのため、今後は利用者の期待値とシステムが提供可能な価値のバランスをとることが必要です。

技術面では、音声認識のさらなる精度向上が求められます。

・言語識別技術(自動で発話言語を識別する技術)
・音源分離技術(複数人の会話を話者ごとに分離する技術)

これらの技術の活用により、音声認識の精度を向上させることで、翻訳結果の改善が期待できます。

運用面では、シーンに応じた翻訳方式の適切な選択が求められます。

・逐次翻訳:一問一答での翻訳が必要シーン
・同時通訳:連続的な発話の翻訳が必要なシーン

このようにシーンに応じて最適な翻訳や通訳を選択することで、スムーズなコミュニケーションにつながるでしょう。

まとめ:万博から未来へ、言葉の壁を取り払う「未来の交流」

大阪・関西万博を支えたTOPPANの多言語翻訳サービスとは?|TOPPAN

TOPPANの多言語翻訳サービスは、万博という国際的な舞台で「言葉の壁」を超えたコミュニケーションを実現しました。

この万博での実績を踏まえ、また利用者の声を反映し、さらなる進化・開発を目指してまいります。

そして今後、多言語翻訳サービスは、リアル・オンライン双方のビジネス会議、インバウンドシーン(ホテル、観光ガイド、タクシー、レンタカー等)、様々なビジネスシーンでの活用が期待できます。

貴社が求めているビジネスシーンに応じて最適なご提案をいたします。ぜひお気軽にご相談ください。

2025.11.11