コラム

2022 年度から本格導入開始!
「教科担任制」~ねらいやメリットを解説

文部科学省は2022 度 4 月から小学校高学年(5年生と6年生)での「教科担任制」を導入し、今年度は教員の加配定員の 950 人増を決定、今後 4 年間で 3800 人の定数改善をめざすと発表しました。兵庫県や横浜市など一部の自治体ではすでに導入が スタートして いる教科担任制が今後、 本格的に 全国に広がる見通しです。
教科担任制によって何が変わるのか、そのねらいや期待されるメリットは何か。小学校教育はどう変化しようとしているのか、詳しく見ていきます。


1. 教科担任制とは
2. 導入の背景とねらい
3. 教科担任制で期待されるメリット
4. 教科担任制のデメリット
5. 今後に向けて

1. 教科担任制とは

「教科担任制」とは、小学校高学年から一部の教科について、その教科を専門とする教員が授業を受け持つ制度です。これまで担任が音楽や図工などの専科以外の授業をすべて行っていたのが、多くの教科で担当教員が変わることになります。その運営のため、義務教育標準法や高校標準法に基づいて算定される公立学校の教員定数に上乗せして、文部科学省が配置する非常勤の教員である「加配教員」が今年度全国で950人増員されたわけです。

一言で教科担任制といっても、「中学校並みの完全教科担任制」「特定教科における教科担任制」「学級担任間の授業交換」「学級担任とのチームティーチング」など、その形式は学級数や目的などによって様々です。
文部科学省は優先的対象教科として「外国語(英語)」「理科」「算数」「体育」を挙げています。

2. 導入の背景とねらい

教科担任制の背景には新学習指導要領に基づく授業の円滑な実施と教員の働き方改革があります。
新学習指導要領に移行し、外国語学習やプログラミングの導入、思考力・表現力・判断力を伸ばす指導が求められるようになり、教科特性に合わせたデジタル教材の活用など、より教科の専門性を発揮した授業が期待されています。
小学校高学年は心身の発達に伴い抽象的な思考力が高まる時期であり、教科の学習内容が高度化するタイミングでもあります。そうした発達段階や教科内容、中学入学に向けた移行準備といった背景を踏まえ、高学年からの導入が推進されています。
また、授業準備の負担の軽減などにより、深刻な長時間労働が問題となっている教員の働き方改革を推進するというねらいもあります。

3.教科担任制のより期待されるメリット

教科担任制には大きく4つのメリットが期待されます。

① 教科専門性・授業の質向上
担当教科の授業を複数クラスで受け持つことで、授業での気づきや反省をすぐに他のクラスの授業に活かすことができ、より深い教材研究や指導法研究が実現することで教科専門性が高まる可能性が期待されています。
先行実施校でのアンケート調査結果では「勉強がわかるようになった」という児童が増え、教材研究の充実で教えることがより楽しくなったという教員の声が挙がるなど、肯定的な反応が多く見られています。

②小・中学間の円滑な接続(中1ギャップの解消)
教科ごとに様々な教員が指導する授業の方式に慣れることで、中学校での学習や生活に順応しやすくなるという効果も見られています。
教科担任制の導入によって担任が常に教室にいるわけではなくなり、児童は様々な教員と関わりながらそれぞれの指導スタイルに合わせて学ぶ必要が求められます。
中学からは学習内容が広がり授業スピードが上がるため、ついていけなくなるケースも見られますが、小学校のうちから授業スタイルに慣れておくことで、中学入学タイミングでのつまずき解消が期待できます。

③多くの教員が関わることで多面的な児童理解につながる
一人の児童に多くの教員が関わるようになることで、児童にとっては相談できる先生が増え、様々な教員から褒められる機会があると自己肯定感や心の安定につながります。また担任と合わないと感じる場合も、逃げ場を失わずにすみます。
教員側も、他の教員と情報共有する機会が増えることで児童を多面的に理解することができ、多様な個性を伸ばすことにもつながります。仮に問題行動を起こす児童がいても、複数の教員が関わることで担任が抱え込むような状況にはならず、解決の糸口をつかみやすくなります。

④教員の負担軽減
教科担任制によって持ちコマ数の軽減や授業準備の効率化につなげることができれば、その分を行事やイベントなどの教育活動準備や教材研究・授業研究に充て、時間外勤務を減らすことにもつながります。実際に高学年担当教員の時間外勤務が、教科担任制導入前後で減少する結果となった事例も見られています。

4.教科担任制のデメリット

教科担任制導入を取り入れることによって生じるデメリットとして、まず1つは時間割の調整が複雑化するという点が挙げられます。従来の学級担任制であれば、行事や突発的な事態等に対応する時間割調整はクラス内で柔軟に行うことができますが、教科担任制の場合、複数の教員、クラスが関わることになるため、調整が複雑になるため、調整の自由度が下がり、実際に調整が難しいケースも出てくることが想定されます。
また、教科担任制では複数のクラスを受け持つため、個々の児童について情報共有することで多面的な理解につながる一方で、情報交換や引継ぎに時間がかかる面もあるため、そういった時間をいかに確保するかという課題も出てきます。関連して、担任クラスの授業時間、関わる時間は減少するため、担任する児童の理解やクラス運営にかけられる時間が少なくなるという問題もあります。
そして、学級担任制のメリットの一つである、複数の教科の学習内容を関連付けることにより教科の枠を越えて豊かな学びを深めることが難しくなる、という点もデメリットとして挙げられます。

5.今後に向けて

教科担任制によって期待されるメリットは多い一方、「クラス運営に時間をかけられない」「時間割調整が複雑」「小規模校での負担増」など、課題があることも見えてきました。
しかし今後のSTEAM教育の強化のための理数学習の充実や、グローバル化対応として外国語学習の強化、デジタルも活用した主体的・対話的で深い学びの実践は避けては通れません。自治体や学校によってまだまだ温度差はあるようですが、メリットも多い教科担任制。導入の目的やメリット・デメリットを理解したうえで、カリキュラムマネジメントを深化させ、学級ではなく「学年担当」としてチームで見守り、指導するという意識で取り組むことが大切です。

2024.02.20

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