ブランドコミュニケーション戦略の
重要性とは
コモディティ化が進み、機能での差別化が困難な市場では、商品やサービスの世界観・ブランド価値をしっかりと構築し、生活者に届けるブランドコミュニケーション戦略がますます重要になってきています。
これからの時代に、どのようなことを意識して、ブランド戦略やコミュニケーションを展開していく必要があるのか。そのヒントを多くの企業のテレビCMやキャンペーンを手掛けてきたクリエイティブディレクターの東畑幸多さんとTOPPANでブランディング施策に携わる服部、藤上との対話から探ってみました。
※掲載の企業名・所属先は2023年1月時点のものです
“らしさ”を見つけることが、 企業の存在意義につながる
服部:今の世の中、機能の差別化だけではモノが売れにくくなっていると感じます。これからの時代は、生活者への提供価値、つまりブランド価値を明確にすることが一層大事になってきていると思います。はじめに、東畑さんはブランディングをどのような活動と捉えていらっしゃいますか。
東畑:企業や事業、商品・サービスいずれも、生活者からのTrust(信頼)とRespect(尊敬)を獲得することが重要で、その入口をつくっていくことがブランディングだと思います。
服部:ブランディングの話となると、企業のミッション・ビジョンやCI※1、VI※2 作成などをイメージされる方もいますが、私も商品・サービスの価値を創出し高めていく取り組み全体がブランディングであると思います。ところで、東畑さんがブランディングをする際に、大事にしている視点はどのようなものでしょうか。
※1 CI:Corporate Identityの略で、企業の理念などを言葉やビジュアルなどで目に見える形にし、社内外に共有すること。
※2 VI:Visual Communicationの略で、ロゴなど視覚的な要素に関する活動のこと。
東畑:パーパス(存在意義)という言葉が最近、使われていますが、企業や商品・サービスの“らしさ”をいま一度見つめ直すことです。その企業や商品・サービスが“らしく生き残る”ために、企業やブランドの存在意義を再発見して、効率だけではなく、意味や価値やLOVEを創り出すことを心掛けています。
服部:確かに、商品やサービスが、世の中に対してどのような意味をもたらすかを発信していかないと、支持が得られないですね。TOPPANでは、特にマーケティングの出口付近を支援する機会が多いので、まずはビジネスの「上流」に立ち戻り、その企業・商品・サービスの独自価値を見いだして、すべての顧客体験や施策に一貫性をもって提供できるよう務めています。
藤上:他企業との差別化のポイントとなる“らしさ”を見つける際、私たちは、生活者と直接触れ合う施策を実行することが多いため、生活者と直接会って“らしさ”を引き出すことを心掛けています。東畑さんはどのように見つけていますか。
東畑:“らしさ”の見つけ方はケース・バイ・ケースです。例えば、「サントリー天然水」ではさまざまな試行錯誤を経て、結果、商品を愛してくれるロイヤルカスタマーの言葉を基軸にコミュニケーションを検討したことがありました。一方でホンダの企業広告では、創業者である本田宗一郎さんのDNAや歴史といった起源を基軸にしたり、まだ歴史が浅い会社のブランディングに携わった際に、社員の方々と対話し、“らしさ”を一つ一つ積み上げながら見つけていくという手法をとることもあります。
服部:東畑さんは企業の課題やその解決の糸口、企業の“らしさ”を発見し、その概念を多くの人が共感する魅力的なブランドストーリーを確立していくことに長けているなといつも感じています。企業や商品によっては、共感価値となる“らしさ”がなかなか見いだせない場合もありませんか。
東畑:そのような場合は、まずみんなが賛同できる「正しいベクトル」を見つけるようにしています。「サントリー天然水」のケースを例にとると、清冽せいれつな南アルプスの空気ごと体に取り込みたいというユーザーの声がコアバリューだと気づいてからは、「大自然」や「人間性を取り戻す」といったベクトルに振ったコミュニケーションを続けてきました。ただ、その「正しいベクトル」をそのまま伝えるだけでは、世の中に伝わっていきません。みんなが賛同できるベクトルに「フェロモン」や「チャーミングさ」などの生活者の心を動かし、注目をひくアイデアを肉付けし、生活者とのコミュニケーションをつくり上げていきます。
服部:なるほど。では、生活者や社会に対する共感性を考える際は、どのような視点が必要でしょうか。
東畑:これからは商品やサービスを社会でどのように役立てていくか、またそういう態度や姿勢なども問われる時代になったと感じます。そのために、企業の歴史を掘り下げたり、逆に今の時代性を考えたり、生活者のインサイトを考えることは基本です。ブランドのこと、ターゲットのこと、世の中のことを考えたうえで、さらに、誰かの強い感動が合わさったときに、人の心が動くコミュニケーションが生み出せるのではないかと考えています。それは商品でもサービスでも同じで、ある開発者のものすごく強い思い入れとか、強い感動みたいな背景がある商品やサービスが、実は長く愛される底力があると実感するときが多々あります。
服部:私たちも施策立案するうえでは、伝わるだけではなく、心が動く、感動するかどうかを意識して取り組んでいますが、それこそが、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を考える際のヒントになるのではないかと思います。実際に感動のエッセンスはどのように探し出していくのでしょうか。
東畑:一例ですが、スタッフそれぞれの人生で感動した出来事や、最近感動したことをもち寄ってブレストを行います。「企画」ではなく、「記憶」をもち寄るのです。ブランディングを考えるうえでは、「ブランド」「生活者」「世の中」の3つの円が重なる部分を考えるのが広告やコミュニケーションの基本だと思いますが、そこにもう1つ、「感動」を加えた4つが重なる部分を大切にしています。それは先述のように、誰もが賛同できる正しいベクトル=「ロジック」と、深く心を動かされるフェロモンやチャーミングさ=「マジック」の両方を兼ね備えることが大事だと考えるからです。
服部:カタチのないブランドというものを社会に浸透させていくには、企業や商品が「どんなブランドになりたいのか」ではもう一歩足りず、「どんな社会にしていきたいのか」といった想いや社会への提供価値を、人が感動・共感したり興味をもったりするブランドストーリーとしてオリジナルの物語で語っていく必要があるということですね。
東畑:ブランディングは単なる「企業都合の目標」ではなく、多くのステークホルダーと共創する「社会目的」になります。ですから、その企業や社会に対して、みんなが賛同できてしっかりと腹落ちする物語を作るのが我々に求められる仕事だと思っています。そしてこれはブランドの存在そのものでもあります。商品やサービス、ブランドコミュニケーションを通して力を与え続けることこそがブランドの存在理由です。
入口と出口を行き来しながら答えを探し、より洗練されたコミュニケーション施策に
藤上:私たちTOPPANはモノづくりから始まった企業ですが、最近は幅広い提案の機会をいただいています。戦略を考えるところから、実際にモノづくりやサービスを売っていくまでの一貫した支援をしているからこそ提案できるコミュニケーションがあるのではないかと自負しています。
東畑:これまではどちらかというと「入口」の話をしましたが、入口を見つけるためにはTOPPANさんが手掛けてきた「出口=アウトプット」を同時に考えることも実はとても重要です。例えば、正しいことだけを積み上げてもチャーミングにはなりませんし、驚きだけ積み上げてもLOVEにはならないし…と、入口と出口を行ったり来たりすることは、意味がないように見えてしっかり意味があります。TOPPANさんの強みは、リテールの最前線と向き合ってきたことによる知見と、もう1つは幅広い業態を網羅していることだと感じています。
服部:私たちは、さまざまな業界の商品・パッケージ制作やプロモーションなどを通じて生活者の実態をよく知るからこそ新たな共感価値を生みだせると思っています。
東畑:企業は自分たちの業態の動きや自社の情報のストックはありますが、それ以外の業界の情報はもっていません。出口のコミュニケーションを最前線で考えてきたからこそ、TOPPANさんがマーケティングの上流に対して提案できることはたくさんあるのではないでしょうか。例えば、今、人が反応するプロモーションの手法を実制作を通じて数多くご存じだと思います。企業間コラボといったファンマーケティングのような提案も行っていますよね。私自身も企業間でのコラボレーション施策を提案したことがあります。それができたのは、その両方の企業の目指す先を熟知しているからです。
服部:多岐にわたる業界知見や生活者の共感認識を活かすことができるからこそ、TOPPANは企業ブランド間のコラボ商品プロデュースや金融業界合併のブランディングなどで強みを発揮できていると思います。企業の垣根を越えて生活者の記憶に残るブランディングを今後も支援していきたいです。
藤上:TOPPANにもリテールだけでなく、イベント、博物館、デジタル施策や、メタバース、BPOに関する知見があるので、さまざまなコラボレーション施策を提案しやすいかと思います。
東畑:TOPPANさんには一人ひとりの生活者の声=データがあると思いますが、データは単なる数字ではなく人の足跡でもあります。足跡を見ることで気づくインサイトや課題がたくさんあるはずです。数字を「お金」と見るのではなく、数字の向こうに「人」がいる。コミュニケーションする相手に想いを馳せる、そんな想像力や視点が、これからの世界には必要だと強く思います。
服部:同感です。デジタルの進化によって施策の選択肢も増えてきましたし、データは企業にとって新しい価値や顧客体験を生みだす大きなリソースになっていくと思います。
東畑:加えてお話をすると、今は多くの企業がDXを推進していて、ルールや体質を変えようと模索しています。世の中が持続可能な資本主義に向けて変わろうとする中、あらゆる企業が存在意義を再定義するタイミングで、「効率」と「幸福」がイコールではないことに気がつき始めています。また、行きすぎた効率化は“らしさ”を失わせます。ソロバンも大切だけど、ロマンも忘れちゃいけない。その両方を意識しながら、企業やブランドと向き合っていく必要があると思っています。
社会と企業が同じゴールを描くことで、良好なブランドが構築できる
服部:最後に、クリエイティブディレクターとして今後目指すところをお聞かせいただけますか。
東畑:実は、2つの気持ちがあります。1つは、広告やコミュニケーションの仕事は、人を夢中にさせる、人の心を動かす仕事であってほしいと思っています。僕は、広告とは「にぎわい」をつくる仕事だと思っていて、ブランドに、テレビCMに、SNSに、店頭に、イベントに、地域に、企業と企業とのリレーションの間に、「にぎわい」をつくっていく。にぎわいができれば、パワーが生まれるし、マネタイズもできると考えています。また、もう1つは、広告やブランディングで実現できることをヒントとして、これまでの経験を若い世代に渡していきたいという気持ちです。
藤上:東畑さんが手掛けられた九州新幹線全線開業「祝!九州」のCMを震災直後に見たとき、ちょっと明るい気持ちになれた経験があります。CMを通して誰かの気持ちを変えたり、多くの人と想いを共有できる仕掛けをつくれる仕事に憧れをもつ人も多いのではないでしょうか。
東畑:ささやかな演出ながらも、その小さな一つひとつが広告やブランディングにおいては大きなヒントになりますよね。僕が携わったサントリーの企業広告で「ぼくたちは、素晴らしい過去になれるだろうか」というコピーがあるのですが、世の中に向けたメッセージであると同時に、サントリーという企業に向けたメッセージでもあります。今、自分がしている一つひとつの行動が、次の世代の人たちにとって意味のあることなのか。その企業で働く人たち、そして、その先にいる生活者の方の気持ちや目線をささやかでもポジティブに変えられたら、うれしいなと思っています。
服部:ブランドコミュニケーションを通して、社会と企業が同じゴールを描き実現したい世の中を目指していくことで生活者との良好なブランド構築ができるということですね。
東畑:世の中、自分の力だけではどうにもならないこともありますが、だからこそ、そこでいかに面白みを見つけられるかどうかがポイントですよね。ブランディングは、その企業の存在意義を見いだして、物語をどう世の中に共有するかが大事です。繰り返しになりますが、それをメッセージだけで共有することは大変難しいものだから、プロデュースからクリエイティブまでの一連の流れで考えることが大切です。
服部:商品が売れにくい時代に、企業や商品・サービスが生活者に選ばれ続けるためには、社会に共感されるようなブランド価値を提供できるかどうかがさらに重要になってくることを改めて感じました。TOPPANは、商品開発や店頭、プロモーションなどの生活者との接点で最適な顧客体験を生みだしてきた経験・強みを活かして、さまざまな企業の「売れ続けるための」ブランド戦略の成功を支援していきます。また、商品・サービス、プロモーションすべてをブランドのタッチポイントと捉え、それらを通して、ブランド力を高めていく良質な顧客体験デザインを今後も提供していきたいと考えています。
東畑 幸多(とうはたこうた) さん クリエイティブディレクター/CMプランナー CMプランナーとして数多くのテレビCMを制作。2009年、クリエイターオブザイヤーを受賞。エグゼクティブ・クリエイティブディレクター職を経て、2021年電通を退社。2022年1月クリエーティブ・ディレクター・コレクティブ(つづく)を設立。ホンダ企業広告「Hondaハート」、サントリー天然水「宇多田ヒカル 水の山行ってきた」、九州新幹線全線開業「祝!九州」などを手掛ける。 |
服部 憲(はっとりけん) 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部 エクスペリエンスデザイン本部 リサーチ&ストラテジー部 課長 ※掲載の企業名・所属先は2023年1月時点のものです |
藤上 真希(ふじかみまき) 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部 エクスペリエンスデザイン本部 ブランドコミュニケーション部 ※掲載の企業名・所属先は2023年1月時点のものです |
2023.01.04