データテクノロジー&プラットフォームサービス コラム

サッポロビール×TOPPAN
ファンコミュニティ
立ち上げプロジェクトで見えた
顧客ID統合の必要性と真の価値、成功のための秘訣とは?[後編]

TOPPANと各社との対談で、日本企業のデジタルマーケティングの課題解決と未来を探るシリーズ。今回は、サッポロビール株式会社 マーケティング本部 ビール&RTD事業部でシニア メディア プランニング マネージャーを務める福吉敬氏をお迎えして、TOPPANとの協働プロジェクトから日本企業における顧客ID統合の必要性と実行における課題を紐解き、成功に導くためのプロジェクトマネジメントと、顧客データを正しく活用することの真の価値とは?について、ご紹介します。
※所属企業名・部署名は2022年8月時点


スピーカー紹介

サッポロビール株式会社
マーケティング本部 ビール&RTD事業部
シニア メディア プランニング マネージャー
福吉 敬 氏
TOPPAN株式会社
情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部
デジタルマーケティングセンター データ&テクノロジー本部
システムインテグレーション部 1T
遠山 恵美


【プロジェクトマネジメント】成功に導くコミュニケーションの秘訣とは?

―プロジェクトの進め方について、教えてください。

福吉氏:今回は私の方針として、プロジェクト参加企業はSlackですべてのやり取りを「ラウンドテーブル」と称して、全公開してもらって進めました。会話、スケジュールも必要なデータも全員が見えるようにそこで公開し、「ONE TEAM」として実行しました。さすがにお金の話は個別でしたが(笑)。

遠山:新設するコミュニティサイトとキャンペーンシステムの代理店2社とID統合を担う弊社、お客様の4社で会議体を作り、その中で会話しました。フロント側にどのような要件があり、何がやりたいことなのかの生の声が聞ける、すごく有意義な会議体で、当社としても多くの学びが得られる機会でした。その中でこちら側のできること、できないことをお伝えすると皆で落としどころを見つけて、こうしましょう、と決めていくやり方は、新鮮でした。

福吉氏:これは私が外資系企業のプロジェクトに参画した際に学んだ手法です。あらゆる組織の人が役職のレイヤーも気にせず、フラットにコミュニケーションするメリットは大きい。こうしたプロジェクトで、右から左に情報を流すだけの伝書鳩は要らないんです。間に人をいれず、ニーズとシーズを持つ人同士が直接会話をした方が確実で早いですから。最初は公開の場で話す、データを公開することを嫌がる人もいましたが、次第に慣れますよね。

遠山:通常、ベンダー間で直接やり取りできることはなく、基本的にお客様経由、それも関連部署に調整してからお伝えいただくことがほとんどです。ただ、互いに結論だけ伝えあうと経緯が見えない、意図がわからないので別案も出しにくい、無駄な手戻りも多く発生しがちです。しかし今回はSlackですべてのやり取りが見えることで、齟齬もストレスもなく動くことができ、非常にやりやすかったです。

福吉氏:こういった臨機応変、柔軟にやり方を変える必要があるプロジェクトでは、途中経過やプロセスを見える化することも重要です。メールでやり取りするとどれが最新のファイルかわからなくなるし、CCが入っていないなどの理由で認識から漏れることも多い。このやり方なら、後からプロジェクトに加わる人も遡って確認できる。やり取りが込み入ってくると、自分が発信した情報も忘れることだってありますからね。

遠山:確かにそうですよね。私もしょっちゅう、過去のやり取りを見返していました。今回の進め方は、私もプロジェクトマネジメントする上で、とても勉強になりました。各社が担当する領域の垣根を越えて、知見を持ち寄ってプロジェクトが進められた。今はこうしたことが可能なツールがあり、やろうと思えばできるけど、なかなか実行できないですよね。

福吉氏:デジタルの進化のスピードが速すぎて、これまでのように要件定義書の作成に3か月とかかけてやっていると、完成したときには世の中が変わっています。ですから、KGIとKPIを決めたら、とりあえず走ってみようか、ぐらいの感覚がいいと思います。小さなテストケースをたくさん走らせて、うまくいかなくても目くじら立てるんじゃなくて、だったらこうしてみましょうか、と柔軟に変える方がいい。そのためには意思決定する側である我々も、できるだけ早く決断する必要がありますね。

遠山:今回は、お客様側の意思決定もすごく早くて助かりました。

福吉氏:意志決定する側も、自分がやりたいことを言語化しているのか、そしてそれを社内で共有し、コンセンサスを得ているのかがものすごく重要です。それができていないと、後からひっくり返る事態になります。今回は上長や関連部署もSlackに入ってもらい、メンションしてポイントだけは確認してもらっていました。システム開発においては、社内で理解が得られず、味方がいないとトラブりますからね。

遠山:今回のプロジェクトの実施方法は、当社の仕事の進め方としても参考になりますし、いまの時代に合っていると感じました。本当に皆さん、縄張り意識や押し付けなどもなく、一体感がありました。こうしたツールがある以上、我々ももっとうまく活用していかなければ、と思います。

福吉氏:いい意味でテリトリ意識がなく、同じゴールに向かって皆さんに同じ目線で動いていただけたのは、ありがたかったです。データだけでなく、こうした連携もプロジェクトの成功には欠かせませんね。

―顧客データを移行する上での難しさはいかがでしたか?

福吉氏:お客様に顧客情報を再度入力いただくのは申し訳ないので、登録時に入力いただいたデータをそのまま使うことにはこだわりました。元データの確認から始まりましたが、10年以上蓄積したデータのため当時は入力方式が異なっていたとか、半角全角が混在したり、1フィールドに多くの情報が入力されているなど、形式が揃っていないデータが相当数ありました。そうしたクレンジング作業もTOPPANが既存システムを管理するまた別のベンダーとやり取りして、うまく実施いただけました。

遠山:最終的な新システムへの登録は、当社で実施します。ある程度整備した後、重複データのどちらを正とするかといった名寄せについては、お客様にご判断いただく必要があります。そのフィードバックも通常よりとても早くて、驚きました。

福吉氏:全体の会員数は数十万人。初期に実施した移行人数はまだほんの一部で、現在もまだその作業が続いています。予想外に移行に時間がかかることから、当初はやめる予定だった旧データを使用したメルマガ送付を急遽継続することになるなど、プロジェクト中も状況は日々変わります。そうした事態にもTOPPANは柔軟に対応いただけて、助かっています。

【成果・今後】ファンコミュニティ立ち上げ、将来的にオフラインとの結合も

こうした関係者の努力が実を結び、2022年2月末には第一弾となるYEBISUメンバーズIDへの移行および統合作業が完了。One ID化により、マーケティングにおけるよりきめ細やかなデータ収集と施策の実行、効果測定のための基盤が実現しました。2月25日にはオンラインのファンコミュニティ「YEBISU BEER TOWN(ヱビスビアタウン)」がプレオープン。仮装の街を楽しむような感覚で、ファン同士やメーカーとのコミュニケーションを創出する。今秋には本格オープンとなり、将来的にはファンがビール作りにも携わるようなシーンが想定されています。



―今後の展望をお聞かせください。

福吉氏:今後は、オンラインにオフラインのデータも繋いでいきたいと考えています。例えば、ヱビス発祥の地で歴史と時代を超えたうまさを堪能できる「ヱビスビール記念館」に訪れていただくとIDを照合してロイヤリティポイントに加算していくとか、全国各地でヱビスビールの魅力を楽しめる「ヱビスバー」に来店されたお客様の来店頻度やお好みのメニューなどに応じて最新情報をお届けするであるとか。我々はただ単にビールを売るだけでなく、商品を通じて豊かな時間を提供したいという想いがあります。ビールを通した立体的なサービス提供を行っていきたいですし、それがブランドの価値になると考えています。そのために今後もID統合プラットフォームにさまざまな拡張機能を盛り込みたく、TOPPANのサポートに期待しています。

まとめ

―最後に、同様の課題とニーズを抱えている企業は多いと思いますが、これからどのような取り組みが必要だと考えますか?

遠山:「データやIDを統合するための基盤を作りましょう」という提案では、「必要性は感じるが今のタイミングではない」などの理由で決断に至らないお客様がとても多いのが現状です。こういったプロジェクトを通じて学んだプラットフォームを通じて実現された本当の意味でのゴール、得られる成果をもっとお伝えして、今やるべきだとご理解いただけるようにしたいと考えています。ただ単にデータが連携できます、IDが統合できます、だけだと真の価値をご理解いただけませんよね。

福吉氏:そうですよね。直接販売チャネルを持つメーカー、たとえば自動車業界などでは、こうした仕組みを持つことでもっと見えてくるものがあると思います。その他の業界でも、社内にあるさまざまなデータ、形式が異なっていても営業、経理、調達、物流などのデータがつながることで、派生するサービス提供も含めて、その価値は無限に広がりますよね。それを考えるには、「妄想」することが必要だな、と日々感じています。

遠山:「妄想」ですね。いろんな角度から物事を見ることが難しくて私は苦手なのですが、肝に銘じます(笑)。それこそ我々のお客様業界は金融、出版、インフラ、メーカーなど多種多様で、それぞれに段階や取り組みは異なりますが、最終的なゴールはエンドユーザーである消費者に新たな価値を提供することですからね。

福吉氏:その通りですね。そのために我々は仕組みをどう活用するのかをさらに妄想する必要があるし、TOPPANにはそれをどんどん、実現して欲しいと思います。そしてこの仕組みがどんな価値をもたらすのか、どんな活用の仕方があるのか、こんなことができますよ、をもっと発信してもらって、あらゆる企業にデータを利活用する真の価値を届けて欲しいと期待しています。

―本日は、ありがとうございました。



2023.11.30

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