コラム

デジタルアーカイブのデメリットと
利活用における課題

  • TOPPAN CREATIVE編集部

デジタルアーカイブは、文化財の保存や、技術・ノウハウ・文化の継承など、さまざまな可能性が考えられるデータ活用法として注目を集めています。しかしその一方で、デジタルデータのもつ特徴から考えられる技術的な問題や、運用面での人為的問題なども無視できません。
本コラムでは、デジタルアーカイブを活用する際に解決しておきたい課題点を整理します。



デジタルアーカイブのデメリット・問題点

デジタルデータの特性ともいえる複製のしやすさは、一方で、適切に管理されないと、データの増殖や消失といった安全性に関するリスクを招きます。
また、いつでも誰でもアクセスできるという点からは、データ利用の観点からの課題もあります。

データ保存量が増え続ける

必要なデータを保存していけば、デジタルデータの保存量は増え続けていきます。複製元と複製先の情報を完全一致させたコピーを簡単に作れることも、データ量の増加に拍車を掛けます。
データ保存量の増加はシステムに負荷がかかることはもちろん、どれが最初のデータだったのかわからなくなるなどデータのバージョン管理が難しくなったり、意図しないところにデータが出現してしまったり、巧妙な加工で情報操作されたデータが出回ってデータの信頼性が失われたりするリスクもあります。
知的資源としてデジタルアーカイブの重要性に注目が集まり、データの価値が高まるほどに、こうしたデータの管理が大きな課題となってくるでしょう。


データ消失のリスク

紙など物理的な資料は、劣化や破損の可能性はあるものの、適切な保管をすれば情報そのものが消えてなくなることはありません。
一方、デジタルデータの場合は、システムエラー、保存ディスクの破損、読み取り機械の損傷といったさまざまな問題により、データが読み取れなくなる可能性があります。
また、長期保存を図る場合、デジタル形式が変わってしまい、読み取り機械の互換性がなくなってデータの読み取りが困難になってしまうおそれもあります。
そのほか、複製を作ったつもりでオリジナルに上書きしてしまい、バックアップごとデータがなくなってしまうなど、ヒューマンエラーによる消失も考えられます。

一般公開による地域住民への被害

デジタルアーカイブは、いつでも・どこからでも・誰でも情報にアクセスできるため、情報を不適切に扱う人が増える可能性があります。
たとえば、郷土の風土や文化を紹介する資料をデジタルアーカイブで公開したケースでは、個人所有の古民家や史跡、山林などへ一般の人たちが無造作に立ち入るトラブルが起こっています。
見学と称して勝手に入って水道やトイレを使ったり、断りもなく写真を撮ったり、栽培しているものを持ち帰ったりと、地元の住民に迷惑をかけてしまい、非公開にせざるを得なくなった例もあります。

利用者目線では知識を横に広げることが難しくなる

デジタル情報は、目的をもった検索で知識を深掘りするのには向いていますが、一方で、興味のない情報へのアクセスは難しく、偶然の気づきから新しい発想を広げるチャンスが起こりにくいとされています。
SNSにおけるエコーチェンバー現象(自分の興味や価値観と似た人との交流・共感が進むことにより、特定の意見が増幅して偏っていく状況)といった極端な例までいかなくても、検索時に提示される関連情報だけに頼っていると、偶発的な認識の転換や知識の発展は難しくなっていくでしょう。

デジタルアーカイブ利活用でクリアすべき課題

ここからは、デジタルアーカイブを活用するうえで、解決しなければならない課題についてみていきましょう。


著作権・肖像権の扱い

データが情報提供側の意図しない目的で利用されることを防ぐために、公開する情報の著作権や肖像権などの各種権利については、明記する必要があります。また、閲覧、保存、加工、再配布などのルールも決めておき、運用を徹底させなければなりません。
また、一般の人が写り込んでいる写真や映像、個人情報などの固有の情報の取り扱いについては、公開前に念入りに確認しておきましょう。
デジタルアーカイブ学会では「デジタルアーカイブ憲章」を公開し、行動指針を整理しています。また、肖像権についてはガイドラインを作成しています。


長期保存・長期利用のための管理の仕組み作り

デジタル化は、原資料から情報を分離し、一定の形式のデータにして保存したものを別の読み取り技術で再現させることにより、保存や複製を可能にしています。このため、ハード・ソフトの両側面で情報処理技術が進みすぎると旧来の技術との互換性がなくなり、データが読み取れなくなる危険があります。
また、情報処理技術の歴史は浅く、光学的にどの程度長期保存ができるのかも明確ではありません。特に、オリジナルに近い情報は容量が大きく、破損や読み取りエラーを起こしやすくなる傾向があります。
デジタルデータの長期保存にあたっては、データの情報量と品質のバランス、技術的に読み取り可能な状態を常に確認しつつ、データが消失する事態に備え、物理的印刷でのバックアップなども考慮した、管理の仕組み作りが重要になります。

メタデータの作成

効果的なデジタルアーカイブにするためには、メタデータを作成して検索性を高め、後世にわたって価値を発信できるように整理しておく必要があります。
メタデータとはコンテンツの表題や作者、所有者、タイムスタンプ、カテゴリーや関連キーワード、概要など、情報検索の対象となるデータを要約したデータのことです。画像や動画ファイルにつくタグもメタデータの一種です。メタデータの充実が横断的な情報の検索を可能にし、知識の広がりを助けてくれるのです。
コンテンツのデータ化の際には、このメタデータを丁寧に整理し、コンテンツデータとセットにして長期保存する必要があります。

デジタルアーカイブのデメリットと課題まとめ

デジタルアーカイブはまだ始まったばかりです。ここで紹介したような課題点はあるものの、情報処理と通信技術が飛躍的に進展したICT社会においては、デジタルアーカイブの流れは止まることなく、これからも進化しつづけるでしょう。
デジタルアーカイブがさらに広がれば、企業のブランディングやイメージ戦略といった社外のコミュニケーションのツールとして、また社内教育や情報共有など内部の組織力を高める基盤として、効果的な活用が期待されます。
原資料の状態はさまざまです。デジタル化の方法、データベースの構築方法、メタデータの構造化、運用方法は、組織のもつコンテンツの特性により異なります。目的に沿った最適なアーカイブとなるよう、課題点も意識しながら取り組みを進めていきましょう。

2023.02.17

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