エクスペリエンスデザインサービス コラム

なぜ今、ウェルビーイングなのか?

世界的に今、幸せの価値観は大きく転換しています。その背景には、社会が成熟し、グローバル化が進み、人々の価値観や生き方が多様化したこと、社会課題を取り巻く利害関係が複雑化したことがあります。SDGsの流れを受けて、「誰かのためになる」「何かのためになる」という社会貢献の精神が消費行動にも影響を与えるようになってきています。こうした消費行動はミレニアル世代やZ世代に顕著に現れており、彼らにとって消費行動とは、目の前のニーズを満たすだけでなく、自分自身の心が満たされ、他者や社会とのよりよい関係性を築くものなのです。企業においても、商品やサービスを通じて生活者やユーザーがどのような幸せを実現出来るのか、そのためにどのように顧客との関係を築いていくか、根幹から考え直すことが必要になってきています。


そもそもウェルビーイングとは?

「ウェルビーイング(Well-being)」とは、肉体的、精神的、そして社会的に満たされた状態を指す概念であり、単なる病気の回避や身体的健康を超え、個人の総合的な幸福感を追求するものです。

世界保健機関(WHO)憲章の前文でも、「健康とは、身体的、精神的、社会的に完全な良好状態にあることであり、単に病気や虚弱がないことではない」と明記されており、この考え方がウェルビーイングの基礎となっています。


ウェルビーイングの背景

【POINT1】 ポストSDGs:持続可能性からウェルビーイングへの進化

「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた取り組みは、世界中で加速していますが、次なるステージでは、経済や環境のバランスに加え、いかにして人々の幸福感や充実した生活を実現するかが中心的な課題となっています。それが、さまざまな国際機関や企業で提唱され始めている「SWGs(Sustainable Well-being Goals)」であり、「みんなで持続可能なウェルビーイングの状態を目指す」という目標です。経済発展と同時に、社会的な包摂や精神的な充足を追求する必要性がますます高まっており、ウェルビーイングという概念はその文脈で重要な役割を担っています。

【POINT2】 GDP依存の限界:新しい幸福指標への転換

長らく、国や地域の発展を示す最も重要な指標として「GDP(国内総生産)」が用いられてきました。しかし、GDPは経済活動の大きさを示す指標であり、国民の生活満足度や社会的な幸福感を反映しているわけではありません。この限界を克服するため、近年はウェルビーイングを重視した新たな指標に注目が集まっています。OECD(経済協力開発機構)が2011年に発表した「Better Life Index」では、単なるGDP(国内総生産)ではなく、教育、環境、生活満足度など複数の指標を用いたGDW(国内総充実)で国の豊かさを測定しています。この指標が示す通り、経済成長だけでは捉えきれない社会の豊かさを測定するために、新しい幸福指標への転換が世界的な潮流となりつつあります。

【POINT3】 「豊かさ」から「意味」へ:生活者の価値観シフト

物質的な豊かさを求める時代は終わりを迎えつつあります。現代の消費者は、単なる物質的な満足だけでなく、心の充足や社会とのつながり、そして生きる意味を求めるようになっています。この価値観のシフトが、ウェルビーイングという考え方をより強調する結果となっており、企業はこの変化に敏感に対応する必要があります。Deloitteの「Global Consumer Trends 2023」によれば、特に若年層において、物質的な成功よりも精神的な充実感や持続可能性を重視する消費者が増加しています。消費者はブランド選択においても、社会貢献や倫理的な企業活動を行っているかどうかを重要視し、その中でウェルビーイングを支援する企業が高く評価される傾向にあります。この傾向は、ビジネス戦略においても「豊かさ」よりも「意味」を提供することが、企業にとっての競争優位性の鍵となることを示しています。


ウェルビーイングの全体像

ウェルビーイングは、個人の幸福だけではなく、地域コミュニティ、そして社会全体に波及する広範な概念です。例えば、日本においても、スマートシティ構想による街づくりや企業の健康経営が、社会全体としてのウェルビーイング向上に向けた取り組みとして注目されています。こうした外的環境を整えることで、個々人の生活の質を高め、社会全体の持続可能な成長を促進することが期待されています。しかし、現在の市場では、生活者個人が自身のウェルビーイングを自発的に高めるためのサービスやプロダクトはまだ発展途上です。先行する街づくりや企業の健康経営のウェルビーイングはいずれも事業者が主体で、生活者個人は受動的でした。しかし、ウェルビーイングを達成するのは一人ひとりの個人であるという基本原則に着眼すると、生活者が主体的に「自分らしく生きるため」のビジネスに可能性が広がります。
特に、個人の精神的・社会的幸福をサポートする製品やサービスが、今後のマーケットにおいて注目される分野となっていくと考えられます。


なぜ今、ウェルビーイングなのか? 総括

ウェルビーイングが今、特に注目される背景には、社会全体の価値観シフトと持続可能な発展の必要性が挙げられます。
物質的な豊かさに対する追求から、心の充足や社会的つながりの重視へと変わりつつある中で、企業や社会はこの変化に対応し、個人と社会全体のウェルビーイングを実現するための施策を展開していくことが求められます。
また、SDGsの流れを受けて、消費行動は、目の前のニーズを満たすだけではなく、自分自身の心が満たされ、他者や社会とのよりよい関係性を築くものとして変化しつつあります。その中で企業は、商品・サービスが人や社会とどのようなつながりを作り上げ、結果、生活者を幸せにしているか?というウェルビーイング起点でビジネスを捉えることが重要になってきているのです。これからの時代において、ウェルビーイングは単なる流行ではなく、企業の持続可能な成長と社会的責任を果たす上での不可欠な要素となっていきます。


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10月23日(水)に国内最大規模の経済ニュースPFを有すNewsPicksと「~未開のビジネスチャンス~巨大市場としてのウェルビーイング考」を共催いたします。消費者のウェルビーイング向上に携わっている「住友生命保険」「ライオン」「資生堂」の市場開拓者3社をお迎えし、『ウェルビーイングビジネス作りの超リアル』を討論形式でお伝えします 。

2024.10.09

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