カスタマーエンゲージメントサービス コラム

DMの成果向上&ムダ打ち撲滅!
AI活用で進化させるDM施策の最適化

  • マーケティングアナリティクス部
  • 大熊 裕太

デジタルマーケティングが主流となる中でも、「紙のDM(ダイレクトメール)」は、顧客の五感に訴えかける力や、手元に残る保存性、デジタルでは得られない特別感などから、その独自の価値や強みは失われることなく、根強く支持されています。
しかし、多くの企業では、①経験や勘に基づくDM送付顧客抽出の限界(反応率の頭打ち)や、資材高騰と郵便料金の値上げによる費用対効果の低下などの「効果面での課題」、②高い業務負荷、作業の属人化、重大なミスや事故との隣り合わせなどの「運用面での課題」に直面しています。
本稿では、DM施策の抱える課題について整理をした上で、AIを活用した施策最適化の方法と、AI導入のメリットについて解説します。


<目次>
1.DM施策の抱えるよくある課題
2.AIを活用したDM施策最適化
3.DM施策におけるAI導入のメリット
4.おわりに


1.DM施策の抱えるよくある課題

DM施策は、デジタル施策に比べて施策単価こそ高いものの、実際にモノとして顧客の手元に届くため、目にも留まりやすく、デジタル施策よりも高い効果を期待することができる有効な手段のひとつです。しかし、施策実施にあたり、以下のような課題に直面するケースも少なくはありません。

経験や勘に基づくDM送付顧客抽出(ターゲティング)の限界

現状、多くの企業では、性別・年齢などの基本属性情報やRFM分析によって切られた顧客セグメントより、担当者の経験や勘に基づいてDM送付先を選定しています。そのため、多面的な顧客データを活用した、ニーズや意欲の予兆察知まではできていない場合が多く、結果として、反応見込み度の低い顧客にも一律に送付する「DMのムダ打ち」が発生してしまいます。

DM送付タイミングの最適化不足

本来であれば、顧客が最も反応しやすい「ホットな」タイミングでDMを送付することが望ましいですが、実際には、送付企業側の都合に依存している場合が多く、適切な送付タイミングを逃してしまっているケースも少なくはありません。その結果、訴求の効果が大きく損なわれ、施策反応率の低下を引き起こしてしまいます。

パーソナライズ化されていない画一的なメッセージ

DMの内容が画一的でパーソナライズ化されていない場合、受け取った顧客は「自分には関係のない広告」と認識しやすくなり、開封すらされずに捨てられてしまうことがあります。このような事態は、施策の反応率低下を招くのみならず、顧客から「どうでもいい宣伝ばかりする企業」と受け取られてしまい、ブランドイメージの低下につながる恐れもあります。

効果測定の曖昧さと施策改善の難しさ

紙のDMは、開封などの顧客アクションやファネルのボトルネックが把握しづらく、施策の評価や改善が難しいという特性があります。さらに、専用の注文コードやダイヤル、QRコードなど、流入経路が特定できるような仕組みを用意していなければ、追跡ができず、費用対効果の算出すらできない場合もあります。

業務負荷の高さ・作業の属人化

DMの企画から発送までには数多くの工程が存在し、その手作業の割合も大きく、業務負荷が高いのはもちろん、自社のDM送付ルールに則ったリスト管理や、送付NG顧客の厳格な管理など、非常にシビアな業務も伴います。さらに、前述の通り、データに基づくPDCAサイクル運用が難しいため、必然的に、熟練担当者の経験や勘に頼らざるを得ない場面が多くなり、結果として、業務の属人化が生じやすい状況にあります。

コスト高・環境負荷

用紙価格の高騰や郵便料金の値上げにより、DM施策に関わるコストは全体的に増加傾向にあり、これまで以上に費用対効果が重視されるようになってきています。また、施策への反応が期待できない顧客も含めて一斉に大量送付することで、内容を見られることすらなく、そのまま大量廃棄されるケースも多く、紙資源やインキの無駄遣い、配送時のCO2排出増など、環境への影響も課題となります。


2.AIを活用したDM施策最適化

DM施策の要素として、「ターゲット」、「タイミング」、「オファー」、「クリエイティブ」の4つがあります。さらに、DM施策の成功を考えた時に、それぞれの重要度は、「ターゲット」が5割、「タイミング」と「オファー」がそれぞれ2割、「クリエイティブ」が1割といわれており、これを「5:2:2:1の法則」と呼びます。
本章では、AIを活用した各要素の最適化方法について、重要度の高い順に、詳しくご紹介していきます。

AIを活用した「ターゲット」と「タイミング」の最適化(重要度:7割)

AIを活用することで、どの顧客にいつDMを送付すれば反応が得られるか、すなわち、「ターゲット」と「タイミング」を同時最適化させることが可能となります。具体的には、教師あり学習の中の「二値分類」と呼ばれる手法を活用します。たとえば、AIに、施策実施予定月の前年同月(過去)に、商品購入や契約を行った顧客の特徴と、行わなかった顧客の特徴をそれぞれ学習させ、「モデル」と呼ばれる、顧客特徴と結果の関係性を法則化したものを構築します。そして、この「モデル」を用いて、今回の施策対象となる全顧客を、「施策実施予定月に、商品購入や契約を行ってくれるか/くれないか」という2つのグループに分けていきます。これが「二値分類」であり、結果は、「施策実施予定月に、商品購入や契約を行ってくれるグループに入る確率」として返ってきます。この確率が高い顧客(=施策反応高見込み度顧客)にターゲットを絞り込んでDMを送付することで、施策の反応率を高めつつ、ムダ打ちを減らすような「費用対効果の高い施策」を実現することができるようになります。

AIを活用した「オファー」の最適化(重要度:2割)

マーケティングにおいて、施策の成果を最大化させるには、顧客一人ひとりに内容を最適化させた「オファー」を提供することが、基本となります。すなわち、DM施策における「究極の形」は、個々の顧客ごとに内容をカスタマイズする「完全1to1のパーソナライズ」といえます。具体的には、AIによるレコメンデーション(協調フィルタリングやコンテンツベースフィルタリング)とデジタル印刷機によるバリアブル印刷を組み合わせることで、このような1to1のDM施策を実現することができます。また、必ずしも完全な1to1でなくても、類似する顧客同士をグループ化し、そのグループ単位で管理する方法も効果的です。この場合、各顧客グループの特徴に合わせて、グループ単位でオファー内容を出し分けることで、より高い成果を期待することができます。具体的には、教師なし学習の中の「クラスタリング」と呼ばれる手法を活用することで、顧客属性や購買傾向、各種アクションといった多面的な要素を加味した顧客グループを作成することが可能です。

AIを活用した「クリエイティブ」の最適化(重要度:1割)

顧客の「注目」を集め、「興味」を引き、「読みやすさ」と「好ましさ」によって快適に情報を伝え、最終的に「記憶」に残るDMが「優れたクリエイティブ」といえます。実は、これらの要素は、クリエイティブを見た時の脳活動を計測することで、定量的に評価することができます。さらに、ここにAIを組み合わせることによって、「クリエイティブ」の最適化が可能となります。具体的には、AIに、クリエイティブと、それを閲覧した際の脳活動データをセットにして大量に学習させることで、「クリエイティブから脳活動を説明するモデル」を構築します。このようにして作られたモデルを活用し、施策実施前の段階で、複数のクリエイティブ案に対して、「注目」や「興味」、「読みやすさ」、「好ましさ」、「記憶」といった要素がどうなるかを予測・評価します。そして、最も評価の高い案を選択することで、AIによるクリエイティブの最適化を実現させます。


3.DM施策におけるAI導入のメリット

DM施策にAIを導入することで、施策の精度が高まるだけでなく、他にも様々なメリットがあります。詳細については、以下の通りです。

施策反応率・コンバージョン率の向上

AIによって「ターゲット」や「タイミング」、「オファー」、「クリエイティブ」を最適化させることで、顧客にとって「自分ごと」として、よりパーソナルに感じられるDMを届けられるようになり、施策反応率やコンバージョン率の向上を期待することができます。

施策コストの削減

施策反応見込み度の低い顧客へのDM送付を抑えることで、「ムダ打ち」を減らし、反応率の水準を保ちながら、生産や郵送などのコストを削減することができます。また、多くの商品が掲載された厚いカタログではなく、顧客一人ひとりにおすすめの商品だけを抽出したチラシに切り替えることで、紙資源やインキの使用量を削減することも可能です。

パーソナライズ化の実現

顧客一人ひとりをデータで把握し、それぞれに合わせてオファー内容を柔軟に刷り分けることで、きめ細かなマーケティングが可能となり、施策成果やLTV(顧客生涯価値)の向上、ブランドイメージの維持につなげることができます。

業務効率化・属人化解消・教育コスト減

運用業務をAIに任せることで、工数や労力の大幅な削減が可能となり、業務効率化を図ることができます。また、どの担当者が行っても一定の品質水準の結果を得ることができるため、熟練担当者への属人化解消や、その業務にかかる教育コストも削減することができます。

デザインやクリエイティブの科学的評価

これまで、担当者の感性やセンスに依存していたデザインやクリエイティブの分野も、AIの活用によって、客観的に数値化・評価できるようになります。これにより、指標に基づいたPDCAサイクルを回すことができるようになり、より優れたクリエイティブへと、継続的に改善・制作することが可能になります。


4.おわりに

本稿では、デジタルマーケティングが主流となる中で、紙のDMが持つ独自の価値に着目し、企業が直面する効果面や運用面での課題と、解決策として、「AIを活用したDM施策の最適化」について解説しました。
今後、本稿で解説したような、紙のDMとAIの融合により、顧客コミュニケーションがアップデートされ、より大きな成果をもたらすことが期待されるでしょう。

DM施策へのAI導入をご検討されている方は、ぜひ、TOPPANまでお気軽にご相談ください。

2025.09.08

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