イベントレポート

<DATA CAMP 2021>
BtoBマーケティングのDX推進
~コロナ禍でも好調なセールスリードの作り方~

※所属企業名・部署名は2021年3月時点


登壇スピーカー:
株式会社リーディングソリューション 代表取締役
中田 義将 氏

TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部
コミュニケーションデザイン本部 ビジネスマネジメント部 部長
内田 智宏

Webを通じて引き合いを創り、営業と連携して受注につなげる「Web創注活動」



内田:私からはTOPPANにおけるDXの取り組みをご紹介し、後ほど、B to Bデジタルマーケティングに関する豊富な支援実績を持つ株式会社リーディングソリューションの中田社長に、B to B企業におけるコロナ禍をチャンスに変えた企業と、ピンチに陥った企業、その違いについて考察いただきます。さらに話を膨らませて、本日のテーマ“CHANGE”について、社内に必要な推進力は何か、まで話を広げさせていただきます。

最初に、TOPPANにおけるB to BマーケティングDX推進についてご紹介します。我々は、サービス部門自らWebを通じて引き合いを作り、営業と連携して受注につながる活動を「Web創注活動」と呼んでいます。従来の販売プロセスは、お得意先様から営業にオーダーをいただき、サービス部門にオーダーが行き、営業と一緒にお得意先様へサービスを提供するモデルでした。これに対し、「Web創注活動」は、Webを通じて我々の部門に直接お引き合いをいただき、営業と連携して受注する活動です。

「Web創注活動」では、サービス部門自らがWeb広告やSEO対策、メールマーケティングなどを展開してお得意先様からの集客を図ります。このとき、お問い合わせを待つだけではなく、インサイドセールスを並行して実施し、サービス部門がアポ取りから訪問商談に持ち込む活動も行います。

我々がこうした活動へシフトした背景には、得意先様の調達スタイルの変化があります。ある調査によれば、B to B顧客の74%がWebリサーチから購買活動をスタートさせ、90%のB to B顧客は目当ての企業を見つけるまでに12回も検索しているとのデータがあります。こうしたデータから「なじみの業者より、ネットリサーチ」が常態化していることがわかります。それに加えて、TOPPANが新たに始めたデジタルマーケティング支援サービスを営業がセールスしきれていない事情も背景にあり、「Web創注活動」を始めました。

2017年の取り組み開始以来、「Web創注活動」は順調に問い合わせ件数を増やしてきました。一方、訪問商談の件数は2018年度から19年度にかけて規模を増やし、問い合わせの品質を高める方向へ方針を変え、訪問商談件数を減らしながらも受注件数を増やすことができました。
2019年4−12月期とコロナ禍の影響を受けた2020年の4−12月期の問い合わせ数と訪問商談数を比較すると、問い合わせ数が36%アップしたのに対し、訪問商談化率は48.8%から24.4%と半減しました。なぜこういうことが起きたのか社内で議論した結果、ウェビナーなどを活用した情報収集活動が加速したことや、得意先様のテレワークが進み、社内のちょっとした相談や共有の機会が減少し、協力会社との情報交換の機会も減少した結果、Web検索からのライトな問い合わせ依存度が高まったのではないかと考えました。つまり、我々の問題というより、得意先様の問い合わせスタイルが変わったということです。

その仮説を検証するため、商品の問い合わせの質について前年度と比較しました。すると、Web上で仕様を明確に表記した商品の問い合わせ件数は、38件から51件と増えた一方、「こういった仕様でつくってほしい」といった具体的な問い合わせ件数は27件から23件へ減少していました。具体的な問い合わせ率は低減しましたが、これをもって訪問商談率の半減を説明するのは無理があります。おそらく訪問商談化率が下がった原因は、問い合わせの質が下がっただけではなく、コロナ禍の初期対応においてメールや電話がうまく機能しなかったからだと考えています。

続いては、中田様に世の中のB to B企業はコロナ禍でどのような対応をしたのか。うまくいった企業といかない企業は何が違うのかについて考察いただきたいと思います。


コロナ禍でB to Bマーケティングで成果を上げた企業と上がらなかった企業の違いとは

中田:最近、コロナ禍の状況をお伺いすると「Webからの問い合わせが増えています」、「売上げが過去最高なりました」という企業がいらっしゃる一方で、「案件は増えたけれど、受注率は下がりました」、「成果が上がらず広告予算を凍結されてしまいました」といった企業がいらっしゃいます。その実態を調べるために、弊社のクライアント企業様35社にコロナ禍のB to Bデジタルマーケティングに関する調査を実施しました。結果、約半数が「案件数はコロナで増えた」と回答する一方、受注率は「増えた」が25%、「減った」が40%でした。つまり、コロナ禍で案件数は増えたものの受注率は、会社によって「勝ち負け」が分かれたというのが、実態といえます。

コロナ禍で成果を伸ばした企業と落とした企業の差異を分析した結果、勝敗を分けたのは「マーケティング・ステップ」、「チームづくり」、「ストック量」という3つのポイントが影響していることがわかりました。以下に、その3つのポイントを解説します。

第1のポイントである「マーケティング・ステップ」について、その概念からご説明します。マーケティングには、4つのステップがあります。「1ステップ・マーケティング」は、検索エンジンやWeb広告からWebサイトに見込み客を集客して問い合わせを取り、営業活動につなげる手法です。

「2ステップ・マーケティング」は、検索エンジンやWeb広告から集客して商品ページではなく情報コンテンツ、記事、コラムや事例などに誘導して資料をダウンロードしてもらってリードを取る1ステップと、そこからマーケティングオートメーションで商品を啓蒙し、商品ページへ誘導して問い合わせを引き出し、営業につなげる2ステップで構成されます。

「3テップ・マーケティング」になると、2ステップの最後の段階でも営業にいかず、一度インサイドセールスリストにストックし、リストに上がった企業にインサイドセールスチームがフォローコールして、ホットな見込み客を抽出して営業活動につなげます。

さらなる進化系が「3+1ステップ・マーケティング」です。基本的な考え方は「3ステップ・マーケティング」と同じですが、2ステップ目のマーケティングオートメーションの中から、狙いたい業種や規模を絞り込みターゲットを選定してプッシュでアプローチする活動が付加されます。メールや電話、ウェビナーなどで啓蒙し、営業活動につなげていくインバウンドの発想に、アウトバウンド的アプローチを加えたのが「3+1ステップ・マーケティング」です。マーケティングは、この4段階に分けて考えることができます。

調査データを分析した結果、ステップが増えるにつれて案件数が増加するものの、1ステップの企業でも案件数は極端に減っていないことがわかりました。一方、受注率は、明らかにステップ数が少ないほど悪化し、ステップ数が多いほど向上する傾向が見られました。

このデータから非対面の営業活動は、顧客体験を設計できる企業ほど、成果を出せることが読み取れます。「1ステップ・マーケティング」は、検索から飛んだサイトでいきなり問い合わせに進みますから、顧客接点はWebサイト数ページ分ですが、「3+1ステップ・マーケティング」の場合、何度もメールを発信してアプローチし、インサイドセールスが電話しており、非対面でも顧客接点が非常に多く存在します。このことから、ステップ数が多い企業ほど非対面の顧客体験が仕組み化されているといえます。
ステップ数が少ない企業は、対面営業時の顧客体験設計をそのまま非対面の営業にも適用していることが、受注率が悪化した原因といえます。


デジマ推進チームが一体となって顧客体験をつくりだせるか

2つ目のポイント「チームづくり」について解説します。通常、デジタルマーケティングの推進チームを組織する場合、Webサイトの運用・解析、広告運用、MA運用、インサイドセールス、ライティングなど、各分野の専門家を集めて分業で進める方法が一般的です。しかし、多くのお客様と話した結果、縦割りの分業はうまくいかないことがわかりました。

その理由を2つの事例を使って説明します。まずマーケティングオートメーションを導入して成果を出せなかったベンチャー企業の例です。この企業は成果が上がらない原因は、独学で策定したシナリオの内容と、本数の少なさにあると考え、運営シナリオの本数を増やすことに注力していました。しかし、データを分析した結果、そもそもWebサイトのパフォーマンスが悪いため、Webサイトからマーケティングオートメーションに入ってくる段階で、見込み客の質が低く、メール配信しても成果につながらない状態にあることがわかりました。そこで、Webサイトのパフォーマンスを改善する提案をし、実行した結果、リードの量・質ともに改善して成果が上がりました。

もう1社は、広告成果が頭打ちになっていた事例です。その企業は、成果を上げるには広告運用をもっと細かく実施するなど、運用精度とスピードの向上を図る以外にないと考えていました。しかし、実際の問題は運用ではなく、競合が検索エンジン対策を強化したことで上位を奪われていることが原因だとわかりました。そこで対抗策としてSEOを強化し、検索から入ってきたユーザーをターゲットに広告戦略を再構築した結果、成果を上げることができました。

このように、マーケティングチームが縦割りで動くと原因が見えなくなり、デジタルマーケティングの成果を上げられないことがあります。専門人材でチームを構成すること自体はいいのですが、専門人材が顧客体験の課題を共有し、解決策を一緒に考えられるチームになっていないと成果が上がりません。結論からいうと、全体を俯瞰して課題特定と解決策を考えられるマネジャーがいることと、デジタルマーケティングの専任担当者を配置して、その人が顧客体験を開始点から終了点までちゃんと見ていくこと、そして各専門メンバーが集まって担当分野以外の課題について意見を出し合い、顧客体験の改善を考える会議を定期的に行うこと、こういったことを実践している企業は、コロナ禍でも成果を出せたということです。


受注率の高い企業は、リードとコンテンツの「ストック量」に投資している

3つ目のポイント「ストック量」について説明します。コロナ禍でWeb経由の受注額が減少した企業と、増加した企業を比較した結果、顕著な差が現れたのはリード数でした。それに加えて、コンテンツ数(Webサイトに何ページあるか)が少ない企業は、軒並み受注額が減少していました。一方、受注が増大した企業は、保有リード数、コンテンツ数が非常に多いという差がありました。

保有リード数とコンテンツ量が多ければ、非対面の顧客体験の質を高めることができます。当然5,000件しかリードがなければ5,000人以上の顧客体験は提供できませんが、10万件あれば最大10万人に顧客体験を提供できます。コンテンツは多ければ多いほど、顧客にぴったり合うコンテンツを提供できます。このリード数とコンテンツ量からなる「ストック量」をつくることが、コロナ禍で大きな差を生む原因になっていました。

ただ、リードとコンテンツは、商談に直結するとは限らないため、なかなか投資されにくい面があることも事実です。一般的にデジタルマーケティング施策では、Webサイトの訪問数や問い合わせ件数といった短期的な費用対効果が重視されがちですが、大きな成果を上げるにはリード数とコンテンツ数を正しく評価しなくてはなりません。それに加えて、マーケティングオートメーションで追える人数(保有cookie数)とリピーター数などの資産も評価するべきです。こうしたストックづくりと、短期でパフォーマンスを出す部分にバランスよく投資し、人的リソースを投入していくことが、成果を上げるポイントです。


「成功モデル」をつくれたら「横展開」して成果を全社へ

これからデジタルマーケティングを始める、あるいは、既に展開しているけれどもっと高度化したい企業の皆様に、効果的な取り組み方法をご紹介します。

まずステップ1として、「成功モデル」づくりに集中してください。成果を上げるには、成果を出しやすい新規事業や新市場あるいは新しい顧客体験をつくりやすい新分野を選ぶことや、費用対効果を見つつもリード数、コンテンツ量などの資産増大に向けた投資を同時に進めることが重要です。
成功事例がつくれたら、次はステップ2の「横展開」です。横展開は、成功要因を言語化して凝縮したパッケージをつくる方法をお勧めします。横展開も、新しい顧客体験をつくりやすく成果が出やすい分野から順に進めていきます。一番重要なポイントは、成功モデルをつくったチームが主導して社内に働きかけることです。

成功モデルをつくれても、横展開で頓挫してしまう企業は少なくありません。そこは社内の巻き込みが必要なので、我々のような外部の企業にできることは限られています。そこで、横展開に成功したTOPPANの内田さんに、どのような方法で進めたのかをお聞きしたいと思います。


横展開に必要な仲間づくりは、ロールプレイングゲームのイメージ

内田:社内を動かす横展開について振り返ってみると、我々がやってきたのは「ボトムアップDX」だったと思っています。その実現に、必要不可欠だったのが仲間づくりです。誰もが一様に“CHANGE”したいと思っていますが、単にDXの意義を説いたり、理念や想いを主張したりするだけでは、「それはわかるけど、どうすればいい?」と言うメンバーを巻き込むことができません。

仲間づくりに必要なのは相互理解です。同じ企業でも職種や専門性、職位が違うと、言語も関心も異なり、すれ違いや漏れが起きることがあります。この問題を解消するために、我々はプロジェクト内で情報を整理する「DMAP(Digital Marketing Action Pyramid)」というスキームを作成しました。これはメンバーの相互理解、B to Bデジマ、リテラシー向上のためのツールです。上から戦略・ビジョン、KGI、KPI、マーケ施策、基盤、運用体制とあり、それぞれ上のアクションが目的で下が手段となっています。

例えば、Webサイトから案件を受注したとき、まず何をもって成功とするかという戦略・ビジョンを定めます。次に、目的に資する問い合わせ数のKPI、Webサイトの集客数など具体的な施策を決めます。そこを決めたら、広告費用やサイトの改善施策が見えてきますから、サイト分析やMAのツールを選定でき、運用体制も決まります。このようにすべてを連動させることが成果を上げるポイントです。往々にして上層部はKPI、KGIなどの数字に目が行きがちですし、現場担当者は運用のしやすさに注目しがちです。そういった個別最適化を避けるために、5つのアクションを並べて議論できる「DMAP」が必要だと考えています。

続いて、社内を巻き込んだ事例を2つ紹介いたします。まず営業部門の巻き込みです。2017年に活動を始めた当初、営業が持っている名刺をデータ化してメール配信してストックをつくる活動を提案しました。しかし、一部の部門は、デジタルに置き換わることへの恐れがあったのか、名刺を出すことを断ってきました。その方々のマインドを変えてもらうために「メールローラー活動」という施策を考えました。これは、我々がコンテンツを制作し、営業担当のメールアカウントで得意先にメールを送信してコンテンツへ誘導し、どのくらい問い合わせが取れるかを計測するトライアルでした。トライアルの結果、メールを1回送っただけで、多くの得意先から問い合わせを得ることができました。ここから潮目が変わり、各部門が積極的に協力してくれるようになりました。

当初、経営層はこの施策の成果報告として件数を知りたがりましたが、2回、3回と繰り返すうちに関心が「どういう企業の、どういった職位の方から問い合わせが来たのか」という質にフォーカスをされるようになりました。その反応に合わせ、我々はデジタルマーケティングの運用方針・内容を見直し、進化する経営層の期待に応える成果を出し続けました。

さらに、我々は経営企画本部と連携して、ノーコードで簡単にセールスサイトをつくれるCMSを開発しました。さらに、「CMSで、こういうコンテンツをつくると、こんな問い合わせがきます」という流れを紹介する教育研修プログラムをつくって横展開を始めました。これに今、6部門が参加しており、2021年3月に6サイトが立ち上がる予定です。横展開を成功させるには、サイトやコンテンツも大事ですが、一番重要なのはプロジェクトを推進するリーダーを決めて体制をつくることだと考えています。やり方を変え、行動を変えれば、マインドも変わり、やがてメンバーが推進体制の核となり、セールスサイトが出来上がってくると考えており、今は、そのきっかけづくりを進めているところです。

最後にDXを推進される方へ、私の経験を踏まえた仲間づくりのポイントをお伝えします。私にとって仲間づくりは、ロールプレイングゲームのイメージです。最初「レベル1」のうちは、街をウロウロするしかありませんが、そのうちモンスターが現れ、それを倒すことで経験値が上がります。経験値が上がる中で、仲間と出会い、ときに別れ、行動範囲が広がり、あるとき“宝の地図”を手にする機会が訪れます。“宝の地図”が、手に入ればこっちのものです。

私が言いたいのは、「世界を救う」や「DXを成功させる」といった大きな使命を掲げなくても、取り組みを進め、仲間をつくり、“宝の地図”が見えるところまで自走する、それが大切ではないかということです。

【参考】



2023.04.18

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