イベントレポート

<DATA CAMP 2021>
コンテンツの届け方を、再発明する。
~データ×コンテンツで創る業界横断型DX~

※所属企業名・部署名は2021年3月時点


登壇スピーカー:
株式会社講談社 取締役(広報室・IT戦略企画室担当)兼
株式会社コンテンツデータマーケティング 代表取締役
吉羽 治 氏

株式会社サイバー・コミュニケーションズ メディアグロースディビジョン
ディビジョンマネージャ― 兼 株式会社コンテンツデータマーケティング 取締役
岸岡 勝正 氏

TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部コミュニケーションデザイン本部
カスタマーマーケティング部 部長 兼 株式会社コンテンツデータマーケティング 取締役 
原 徹

出版業界におけるデジタル化の課題と、CDMが目指すメディアの在るべき姿



吉羽:私からは、IDを巡る出版社の課題についてお話しします。そもそも出版社はメーカーであり、これまでB to Cサービスを行ってきませんでした。自ら顧客情報を持たず、第三者にID管理を任せていたため、顧客が誰かわからないという課題もありました。また、出版社の内部は複数の編集部が独立した会社のように機能している特性があり、読者アンケートやメルマガ、Webサイト等のサービスが乱立し、全体のID管理もコスト把握もできないという課題がありました。

講談社は、昨年度Web運用型広告が売り上げの約60%を占め、紙の広告収入を大きく上回りました。こうした環境変化を受けて、今まで以上にデジタルマーケティングが重要性になる中、クッキーレスやIDFA規制強化への対応を迫られ、独自ID取得の必要性を痛感しているというのが、今の状況です。

こうした課題を解決するため、講談社は2017年にIDベースでCRMを構築する「講談社DMP」を立ち上げました。さらに、2019年1月には日本語の自然言語処理技術(AI)を使って電子書籍1万6,000点を解析する実験を実施。同年11月にはWebサイトを解析してターゲティングする「OTAKAD」をリリース。2020年春には、LINE広告の配信最適ツール「reCOMSBI」をリリースするなど、積極的にデジタル化を進めてきました。2020年9月末には「講談社DMP」の頃から一緒に活動してきたTOPPAN様、サイバー・コミュニケーションズ(以下、CCI)様と株式会社コンテンツデータマーケティング(以下、CDM)を設立しました。CDMは共通インフラを構築し、中立性を確保した共通IDを管理・共有し、出版社全体の課題解決への貢献を目指します。


出版業界のDXを拡大する技術と、CDMが提供する課題解決の道筋

先ほどもご紹介しましたが、我々はAIを使って1万6,000点の電子書籍を解析し、特徴語(書籍に含まれる特徴的かつ頻出する重要な単語)を抽出し、似ている本を検出する実験をしました。
その結果、タイトルでは関連性がわからないけれど、中身が似ている本を選び出すことができました。例えば、『興亡の世界史 イタリア海洋都市の精神』と『仮面の島 建築探偵桜井京介の事件簿』という一見、関連のなさそうな推理小説と歴史ノンフィクションが抽出されました。調べてみると、そこにはイタリアの海洋都市を舞台にしている特徴点が抽出されていました。この技術をWebサイトの解析に応用し、Webの訪問データからユーザーの興味を抽出することも可能になりました。これによりユーザーに付与されたタグを元に、同様の興味関心を持つユーザーを抽出するユーザー拡張が可能になり、特定ユーザーへのプロモーションや広告に利用されるようになりました。
このWebページの内容を解析して、ユーザーの関心度の深さを計測する技術を応用して開発した商品が「OTAKAD」です。「OTAKAD」は、講談社が運営する11メディアの記事全文をクローリングし、独自AIで記事の関連トピックを紐付け、ユーザーのコンテンツ嗜好をもとにした広告商品開発を行っており、クライアントさんに高い評価を得ています。

TOPPAN様とCCI様と共同で設立したCDMでは、購買履歴がわからなくても、コンテンツの中身や閲覧者、読者の趣味、趣向を解析してターゲティングすることを目指しており、その武器となるのが日本語の解析技術だと考えています。CDMのミッションは、日本語の自然言語処理を活用して、コンテンツと生活者、読者、ユーザーの出会いを個別最適化することにあります。人とコンテンツの間に立ち両者を結びつけ、出版社個社では対応が難しい課題を中立的立場で解決していきたいと考えています。


パブリッシャーを取り巻くデジマ環境変化と広告事業の目指すべき方向

岸岡:クッキーレス、プライバシーテック、1st Party Data、ポストクッキーなどのバズワードが次々に生まれたことからもわかるように、この1年間でデジタルマーケティングのトレンドは大きく変わりました。特に、大きな注目を集めたのがクッキー規制の流れです。

クッキーとは、パソコンやスマートフォンの閲覧サイトから送られる識別子です。デジタルマーケティングは、この識別子を活用することで、ユーザーがどのページに訪れたかというアクセス履歴を把握できます。Google AnalyticsやDMPによるターゲティング配信もクッキーを使っているため、現状のデジタルマーケティングはクッキーなしに成立しないといっても過言ではありません。なお、デジタルマーケティングで頻繁に使われるクッキーには「1st Party Cookie」と「3rd Party Cookie」があり、今回規制を受けるのは後者です。3rd Party Dataが無効化されると、ドメインをまたいだ計測トラッキングができなくなります。

3rd Party Dataが使えなくなると、以下の3つができなくなります。1つ目がターゲティング広告です。サイト閲覧時に興味を持っているものの広告が追いかけてくる、いわゆるあれです。2つ目がビュースルーコンバージョン、広告効果の計測です。今までは広告を見た方が購入に至ったか否かデータで把握できましたが、ドメインをまたげなくなるので基本的に計測が不可能になります。3つ目が、DMPにおける3rd Party Dataの利用です。自社データでDMPを構築される企業も、大半は3rd Party Dataを利用して補完していると思いますが、その補完ができなくなりデモグラフィックがわからなくなります。

つまり、3rd Party Dataに頼ってデータマーケティング、デジタルマーケティングを展開していた企業やメディアは、今後、根本的に形を変えることを迫られているといえます。今後は1st Party Dataの利活用が重要になりますが、このID情報は個人情報に近いため取り扱いに細心の注意が必要です。また、収集するデータ基盤の構築に相当な投資と運用コストがかかります。しかし、ここをしっかりやらなければ、今後正しいマーケティングができなくなります。


クッキーレス時代のデジタルマーケティングは、パブリッシャーが主導する

クッキーレスの流れはネガティブな側面もありますが、パブリッシャーの皆様にとっては、逆に大きなビジネスチャンスといえます。外部データを連携できなくなることは、収集元以外データを使えなくなることを意味します。つまり、データ収集元がマーケティングの主体者になるのです。今までは広告主様や、広告会社様が保有するデータを前提にしたメディアプランニングの依頼が多かったと思いますが、1st Party Data以外使えなくなると広告主様、代理店様が保有するデータ量は、メディアより圧倒的に少なくなります。つまり、メディアがきちんとDMPを整理すれば、広告主様及び広告会社様への提供価値を飛躍的に高めることができるということです。

しかし、顧客側の要望に応えるには、少なくとも数十万単位のIDを保有していなければなりません。大量のIDを収集するために必要な収益や投資を考えると、広告施策のためだけにIDを集めるのは、割に合わないでしょう。そうなったとき、広告にとどまらないメディアビジネス全体のID活用がますます重要になります。強調させていただきたいのは、こうした動きが進むと、個社の取り組みでは、ニーズに応えられなくなる可能性が高いということです。

今後は業界全体で統一できるところは統一し、スケール感を出していくことが今まで以上に重要になるとの考えから、設立したのがCDMです。CDMを通じて、新しいデジタルマーケティングの目線、形をメディア主体でつくっていきますので、今後の動向にぜひ注目してください。


コンテンツビジネスDXと未来構想

原:私からは「コンテンツビジネスDXと未来構想」をテーマに、CDMのビジョンについてお話しします。ご存じの通り、コンテンツビジネスの環境は大きく変化しました。ペーパーメディアからデジタルメディアへの媒体変化だけではなく、コンテンツの消費者体験はパーソナル化し、NetflixやYouTuberなど新しいコンテンツサプライヤーが台頭し、マネタイズモデルもゲーム、イベント、VOD、オンラインサロンなど、多様化しました。こうした変化の中、事業を伸ばしているのは、いずれもデータを積極的に活用している企業といえます。

これからのメディア・パブリッシャーには、新たな収益源を生み出す2つの方法があります。1つは、既存の収益源(販売・広告)にアドオンする方法です。もう1つは、IDベースでマネタイズポイントを増やす方法です。例えば、サブスクリプション、EC、ファンビジネスなどの方法がありますが、これを自社で完結せずアライアンスによって多様な読者やパートナーとコラボレーションしてビジネス機会を広げる施策が必要です。そのために重要な要素が、環境(システム)、武器(データアナリティクス)、体制(オペレーション)の3つです。

講談社様、CCI様と共同で設立したCDMは、IDベースのマネタイズを成功させる3つのファクターを提供します。それは「データ運用基盤の整備」、「マネタイズモデルの拡大」、「コラボレーション・シナジー」の3つです。以下に、それぞれのファクターを解説します。

第1の「データ運用基盤の整備」は、個人情報も絡むためセキュリティ、コンプライアンス、BCPが完備された基盤を構築することが重要です。また、初期投資の抑制と運用効率化によるROIの最適化も欠かせない要素となります。CDMでは、この領域において講談社さんが編集部のニーズを拾い上げて開発したパブリッシャーに必要な機能を実装した「reCOMSBI」をサービスとして提供します。

第2の「マネタイズモデルの拡大」は、メディアの持つアセットを用いる方法と、コンテンツ販売以外の多様なサービス展開がカギを握ります。例えば、オンラインサロン、ファンビジネス、Eコマース、サブスクリプション、有料メルマガなどのマネタイズ方法が考えられます。ここで重要なのは、それぞれのサービスを単独で行うのではなく、IDベースでデータ連携された状態をつくることです。

第3のファクター「コラボレーション・シナジー」は、これから実現する未来の構想になります。CDMでは、読者IDの基盤や興味データを業界全体で共有して収益機会を相互拡大するとともに、メディア、広告主、流通を巻き込んだ新たなデータ活用ビジネスをつくることを目指します。データをハブとしたコラボレーションを生み出すことは、CDMの重要なミッションのひとつです。

CDMが描く、共通基盤によるデータ連携を核に、新しいコンテンツ市場を形成する未来構想を夢に終わらせないよう、講談社、CCI、TOPPANの3社で力を合わせてまいります。

【参考】



2021.12.03

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