データドリブンマーケティングとは?
実施手順から事例、注意点までを解説
企業のデータ利活用の中でも、特に注目されるデータドリブンマーケティング。今回は「データドリブンマーケティングとは何か」をテーマに、重要性や実現方法などを解説します。具体的に実施する手順や注意点、利用ツールまでわかりやすくご紹介します。
<目次>
1.データドリブンマーケティングとは?
2.データドリブンマーケティングが注目される背景
3.データドリブンマーケティングのメリット
4.データドリブンマーケティングを始める上で意識すべき3つのポイント
5.データドリブンマーケティングの実施手順
6.データドリブンマーケティングを成功に導く組織の作り方
7.データドリブンマーケティングのよくある失敗とその対策
8.データドリブンマーケティングを効率化するツール
9.まとめ
1.データドリブンマーケティングとは?
「データドリブン(Data Driven)」とは「データによって意思決定を行う」こと。データドリブンマーケティングとは、「客観的データに基づいてマーケティング(や経営)を行うこと」に加え、「データの収集・分析・検証する中でPDCAサイクルを回し、成功率の高いマーケティング施策を目指す」というニュアンスも含まれる活動です。
2.データドリブンマーケティングが注目される背景
データを活用したマーケティング自体は、従来から行われてきました。しかし近年、マーケティングを取り巻く環境はさらに複雑・高度化しました。
特にコロナ禍において顧客の購買行動は大きくデジタルシフトが進み、企業はオンラインと対面・店舗での接客の両方を強化し、豊かなサービス体験を提供する必要性がさらに高まるなど、ビジネスを取り巻く環境が大きく変わりつつあります。
同時に、デジタルマーケティングにおける顧客のデータ収集・分析から施策実施のためのツールやプラットフォームも充実してきました。アクセス解析やBI(ビジネス・インテリジェンス)、マーケティング効果測定などのツールが普及。CDP(プライベートDMP)などの活用事例や、位置情報データやPOSデータなどとの連携により、オフラインである店舗などでの顧客行動を見える化できるソリューションの活用事例も存在します。
こうした変化が重なり、いま、データを基に最適なマーケティング施策への投資を可能にするデータドリブンマーケティングが注目されているのです。
3.データドリブンマーケティングのメリット
データドリブンマーケティングのメリットは「日々複雑・高度化する環境の中で、ほんとうに効果的なマーケティング施策を見つけ、それを効率的に継続できること」にあります。
データという明確な指標に従い意思決定することで「属人的な手法からの脱却、担当者の異動や変更などに左右されない」という効果もあります。
そして、データドリブンマーケティングの最大のメリットは「顧客満足度とLTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)を向上し、事業の継続的な成長に貢献する」という点です。なぜなら、データ分析・改善は深い顧客理解につながり、結果として提供サービス(体験)の改善につながるからです。
4.データドリブンマーケティングを始める上で意識すべき3つのポイント
このように多くのメリットが得られるデータドリブンマーケティングですが、実現にはさまざまなハードルがあります。ここからはデータドリブンマーケティングを始める際、意識すべき3つのポイントについて解説します。
ポイント1 | 経営がデータの重要性を理解し、全社一丸となって取り組む
データドリブンマーケティングはデータを活用することが目的ではなく、次のアクションにつながる意思決定を行うことに意味があります。そのため現場レベルではなく、経営層(意思決定者)がデータの重要性と活用への理解を示さなければ、施策を実行に移していくことができません。
そして実行に移すためには、部門ごとで分断されているデータを統合しての分析や、営業やサポート部門など社内の役割分担、時にはカスタマーサクセスといった部門横断型の新規部署の設立なども必要になります。
そのため、データドリブンマーケティングを進めていくためには、経営層が指揮をとり、トップダウンで全社一丸となった体制作りが欠かせません。
ポイント2 | 全体最適化の視点でKPIツリーを開発、ポリシーを策定する
データドリブンマーケティングは、ただ得られるデータをもとに数値の改善を繰り返すだけでは、大きな成果は得られません。
また、全体最適の視点を見失うと、得られるデータを基にした数値の検証〜改善が繰り返されるだけといった「手段の目的化」や、特定施策の数値改善だけに注力してしまう「効果の局所化」などが起こりがちです。
こうしたことを防ぐために、最終目標である「KGI(重要目標達成指標)」を達成するための「KPI(重要業績評価指標)」と、その各KPIを達成するための「施策」をツリー構造で紐づけた「KPIツリー」を設計し、それを自社でデータドリブンマーケティングを実行する上でのポリシーとして定める必要があります。
ポイント3 | データの「可視化」と正しい「解釈」のための人的リソース確保
データは収集しただけでは単なる数値の羅列にしか過ぎません。過去との比較や他のデータとの照合を行うことで、初めて意味を持たせることができます。
例えばWebサイトの改善では単月のアクセス数データのみでは意味がなく、過去数か月を並べ、さらに昨年同時期データと比較することで傾向が把握可能になります。さらにカテゴリ別、ページ別、流入経路ごとのトラフィック数やページごとのコンバージョン率などを掛け合わせて分析することで、初めて改善施策の意思決定を行うことができます。
こうしたデータの「可視化」と正しい「解釈」には、マーケティングやデータ活用に明るい「データサイエンティスト」や「データアナリスト」とよばれる知識やスキルを持つ人材が必要です。企業によっては新たに採用・育成する、もしくは外部パートナーを活用することを検討しましょう。
5.データドリブンマーケティングの実施手順
ここからはデータドリブンマーケティングの実践、データ収集から改善策の実行までの実施手順を、4つのステップに分けて解説します。
ステップ1 | データ収集
まずはなんといってもデータの収集。しかし、やみくもにデータを集めてしまう方法では無駄な工数やコストがかかります。あらかじめ目的と収集する必要のあるデータを明確化して、後述する「アクセス解析ツール」や「アトリビューション分析ツール」などの専用ツールを用いて、データを収集するのが1つ目のステップです。
マーケティングで活用するデータは業界や商材により異なりますが、一般的には顧客の購入履歴・購入に至るまでの経緯・リピート率などの行動データ、そして興味関心・居住地域・家族構成などの属性データなどがあります。また、これらの情報を個人に紐づけて管理する必要があります。オムニチャネル化の進む顧客の購買行動を一意に紐づけるには、サービスやコンタクトポイントを横断した会員ID、CRMなどの整備も必要です。
ステップ2 | データ可視化
さまざまなツールで収集したデータの多くは、そのままでは活用できないことがあります。フォーマットが整理された構造化データの割合はわずかで、その多くは構造定義のない非構造化データです。構造定義のない非構造化データは、活用可能なものに可視化していく必要があります。この際、単なる「データ加工」ではなく、例えば欠損データや定義にない値が入っていたときにどのように補完するか、AIを使う際に予測モデルが高くなるようにいかにデータを投入するか、といったテクニックが必要となります。
ステップ3 | データ分析・改善策の検討
ここまで来るとようやく、データの分析や改善策の検討を行うことができます。しかし、分析から最適な改善策を導き出すには、前述の通り「データサイエンティスト」や「データアナリスト」といった専門人材が必要です。ツールの進化により、ある程度は補助することが可能ですが本格的な推進には人材の育成・採用が欠かせません。
しかし、現在こうしたスキルやノウハウを持つ人材は引く手あまたで不足気味であり、自社での育成には時間やコストもかかります。外部パートナーの活用も併せて検討しましょう。
ステップ4 | 改善施策の実行と検証(PDCA)
そして改善施策の実行と、効果の検証です。施策実施がゴールではなく、その効果を検証して次の施策に活かすまでのPDCAサイクルが、データドリブンマーケティングとなります。PDCAサイクルを回し続けることで、効果の高い施策の抽出と選択、経営資源の集中という効果が実現します。
ただし、工数やコストの兼ね合いで実行が難しい、あるいは経営陣の理解が得られず実行が許可されない施策が出てくる可能性もあります。そのためデジタルマーケティング担当者には、データ分析やマーケティングへの知見だけでなく、ビジネスを推進する意識が必要となります。
6.データドリブンマーケティングを成功に導く組織の作り方
データ活用を全社的に推進するためには、自社の文化や事業フェーズに合った組織体制の構築が不可欠です。ここでは代表的な組織モデルの概要と、それぞれの役割について解説します。
部門横断型の専門チームを設置する
各部署からデータ分析やマーケティングのスキルを持つ人材を集め、専門チームを組成するモデルです。DX推進部署などがこれにあたります。このチームがハブとなり、各事業部の課題解決を支援します。全社的なデータ戦略を一貫して実行しやすい点がメリットですが、現場の状況との乖離が起きないようなコミュニケーションが重要になります。
各事業部門にデータ分析官を配置する
事業部門内に分析担当者を置くことで、より現場に近い視点でのデータ活用が可能になります。特定の商品やサービスに関する深い知見とデータ分析スキルを組み合わせることで、ユーザーのインサイトを素早く施策に反映できるのが強みです。この体制を機能させるには、分析官同士がナレッジを共有し、会社全体の分析レベルを底上げする仕組みづくりもおすすめします。過去の成功経験を共有する場を設けることも有効です。
ハイブリッドモデル
専門チームと各部門の担当者が連携するモデルです。全社的なデータ基盤の構築や高度な分析は専門チームが担い、日常的なデータに基づいた意思決定は各部門が行う、といった役割分担が考えられます。このプロセスを円滑に進めるためには、明確な役割定義が求められます。
7.データドリブンマーケティングのよくある失敗とその対策
データドリブンマーケティングの取り組みは、いくつかの典型的な失敗パターンに陥りがちです。ここでは実際によくある失敗例とその対策について解説します。
目的が曖昧なままツール導入を進めてしまう
「データを活用すべき」という号令のもと、目的や解決したい課題が不明確なまま高機能なツールを導入してしまうケースです。結果としてツールを使いこなせず、費用対効果が見合わなくなります。対策として、まず自社のマーケティング戦略における目的を明確にし、その達成に必要なデータ分析は何かを整理することが重要です。その上で、必要な要件を満たすツールを選定するプロセスを踏むことが失敗を避ける鍵となります。
データの品質が低く分析に活用できない
収集したデータに欠損や重複が多く、そのままでは分析に使えないという問題です。データのクレンジングや名寄せといった地道な作業を軽視すると、分析結果の信頼性が損なわれ、誤った意思決定につながりかねません。対策としては、データ収集の段階でルールを統一し、定期的にデータの品質をチェックする仕組みを構築することが役立ちます。自社サイトからの入力フォームの最適化や、広告データとCRMデータの連携精度の向上も重要です。
分析結果を施策に活かせない
高度な分析を行っても、その分析内容が現場のマーケターや営業担当者に理解されず、具体的なアクションにつながらないケースです。分析担当者と施策実行者の間に認識のズレが生じています。この状況を避けるためには、分析レポートを専門用語の一覧にするのではなく、誰にでも分かる言葉で「何をすべきか」を明確に提示することが求められます。分析チームは、自社のブランドや商品への深い理解も必要不可欠です。
8.データドリブンマーケティングを効率化するツール
ここからは、データドリブンマーケティングを効率的に運用するために役立つツールを紹介します。
ツール1 | CDP(カスタマーデータプラットフォーム)/DMP(データマネジメントプラットフォーム)
こちらはツールというより、顧客データを収集・統合・一元管理・分析してマーケティングに活かすプラットフォームです。顧客データを一元管理するプラットフォームを整備することで、施策の立案、実行、効果測定まで顧客ごとのアプローチを行うことができます。
ツール2 | Web解析ツール
「Google Analytics」に代表される、自社Webサイトへの訪問に関するデータや、Webサイトにおけるユーザの行動データを集計・可視化し分析するためのツールです。リファラー(参照元)、流入ワード、ページビュー(PV)、ユニークユーザー数(UU)、セッション数、行動フロー、離脱率、直帰率、クリック率(CTR)、コンバージョン率(CVR)などが取得できます。
ツール3 | アトリビューション分析ツール
顧客がコンバージョンに至るまでに閲覧したメディアや経路の貢献度を測定することで、マーケティング活動の予算配分などの精度を向上させるためのツールです。コンバージョンに至った直接の効果だけではなく、初回接触や間接効果などを踏まえた改善分析ができます。
ツール4 | BI(ビジネス・インテリジェンス)ツール
膨大なデータを分析、レポーティングすることで経営の意思決定をサポートしてくれるツールです。従来のエクセル、手作業による集計・分析・レポートを効率化します。データの収集・加工・分析・集計、さらにレポーティングなどのアウトプットまでの全工程を担ってくれるものから、アウトプットに特化したものまで、さまざまなツールがあります。昨今は専門的な知識がなくても現場で簡単にデータの可視化、分析ができる「セルフサービスBI」が注目されています。
ツール5 | MA(マーケティングオートメーション)ツール
顧客の行動・属性に合わせたシナリオの実行を自動化し、マーケティングや営業活動を効率化するツールです。MAは、大きく見込み顧客の「獲得」(リードジェネレーション)、見込み顧客の「育成」(リードナーチャリング)、見込み顧客の「評価」(リードクオリフィケーション)の3つの施策における一連の流れを可視化し、自動化します。
ツール6 | CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)
顧客に関するさまざまなデータ(属性、購買履歴など)を一元管理するツールです。顧客との関係性を把握し、漠然となりがちな顧客対応の全体像を可視化します。営業支援、会員・ポイント管理、コールセンター対応や顧客満足度の向上など、さまざまに活用されています。
ツール7 | SFA(セールスフォースオートメーション)
営業支援システムとも呼ばれ、その名の通り商談活動や成約、売上などの営業活動に関するデータを可視化するツールです。営業担当向けの顧客・案件・スケジュール管理機能、営業に関するデータ分析やレポーティングなどマネージャー向けの機能を備えています。
9.まとめ
いかがでしょうか。データドリブンマーケティングのメリットと注意点、実現までのステップとツールについてご理解いただけたでしょうか。精度の高いマーケティング施策の立案には一定量のデータが必要であり、その収集には時間がかかります。集めたデータの分析から施策を立案するためには相応のスキルとナレッジが求められますし、さらにPDCAサイクルを回すノウハウがなければ、その価値は維持・向上できません。
TOPPANはツール提供とプラットフォーム構築にとどまらず、目的に応じた導入から構築支援の各種コンサルティングや、デジタルマーケティングの人材リソースの提供などでも数多くの実績を誇ります。
具体的な活用事例の情報も含めて、データ統合・利活用によるデータドリブンマーケティングの実現をご検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
2025.11.10



