【お客さまインタビュー】
DXにより、町民に親しまれる「黄福(こうふく)タクシー」の事務処理に要する時間が約4分の1に。
「マイナンバーカードを活用したタクシー料金助成制度
(高齢者・交通弱者タクシー補助)」導入事例
岡山県中部に位置し、なだらかな山々と棚田など、四季折々の風景が広がる自然豊かな町、美咲町。名物の卵かけご飯は全国的にも知られています。
美咲町には2014年から、高齢者等の交通弱者がタクシーを利用する場合に、その利用料金の一部を助成する制度があります。
そして2026年1月には、イツモスマイルデジタルソリューションズ株式会社(以下「イツモスマイル」)による自治体向けのデマンド交通システム「まちのクルマアプリ」、TOPPAN株式会社(以下「TOPPAN」)のマイナンバーカードのICチップ空き領域の書き込み・読み取りソリューション、京セラ株式会社(以下「京セラ」)製の車載タブレットを活用し、それまで紙の利用者証で運用していた同制度を、マイナンバーカードを活用したシステムへとアップデートしました。
今回のDXの背景や経緯、導入効果などについて、町長の青野さん、導入〜運用を担うくらし安全課の水島さん、河村さん、石原さんにお話を伺いました。
| 岡山県美咲町 人口:12,274人(2026年2月末現在) 担当部署:くらし安全課 マイナンバーカードによるタクシー料金助成制度導入時期:2026年1月 ![]() |
豊かな自然と美味しい米・卵に恵まれた町で行政に求められること
ーはじめに、美咲町がどんな町なのか、魅力や特徴をお聞かせください。
青野町長:美咲町は久米郡中央町、旭町、柵原町の3町が合併して誕生した町で、誕生から21年になります。古くから稲作を中心とした農業が盛んな地域で、脈々と受け継がれてきたこの町の棚田が、「日本の棚田百選」に二つ選ばれているというのは、美咲町の豊かな自然の象徴でもありますし、農作物や食の象徴でもありますし、またこの地に暮らす人々の勤勉さの象徴でもあると思います。
稲作と並んで養鶏も盛んで、日本最大級の養鶏場があり人口の10倍の鶏がいて、東京にも出荷されているブランド卵もあります。美咲町にとって卵は、もはや単なる特産品を超えた存在で、「卵」「黄色」「しあわせ」をテーマにパレードやダンスが繰り広げられる「たまごまつり」というお祭りも毎年開催しています。
ー今回取材させていただくタクシー料金助成制度が「黄福タクシー」と名付けられているのも、卵に由来するのですか?
青野町長:はい、「幸福」の「幸」を卵のイメージの「黄」に置き換えてネーミングしたものです。
そんな豊かな自然と美味しい米・卵に恵まれた美咲町ですが、平地が少ない典型的な中山間地域※ですので農業の生産効率という面では厳しいものがあり、棚田ではいまだに稲を手植えしているところもあります。日本各地の中山間地域の御多分に漏れず、美咲町でも農業の担い手不足や高齢化が進行し、人口の減少が進んでいます。そうした中、いかに町民の皆さんの生活を維持・充実させていくのかが我々に問われていることであり、今回のプロジェクトもその一環です。
※農業地域類型区分のうち中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域
ーあらためて「黄福タクシー」とはどのような制度なのか教えてください。
水島さん:自家用車を所有していなかったりバス停から遠いといった事情で交通に不便を感じておられる66歳以上の高齢者や障害のある方などの移動手段を維持するためにタクシー料金の一部を助成する制度で、2014年から運用を開始しました。「黄福タクシー」とは特定のタクシー会社の名前ではなく、民間のタクシー事業者5社にご参加いただいている制度の名称です。地域内(旧町単位)では片道350円、町内利用では片道最大1,000円の負担で利用でき、町外利用では片道1万円までは半額となります。アンケートでは利用者の9割以上から好評をいただいていて、全国の自治体からも視察にいらしていただくような制度になっています。
町民の皆さんにもすっかり定着し、親しまれています。今ではみなさんこのサービスを「タクシー料金助成制度」とは言わずに「黄福タクシー」と呼んでいますね。
庁内で共有されていた、事業者・行政双方の「課題」
ー今回の「黄福タクシー」のマイナンバーカードを活用したDXは、全国的に見てもまだ例の少ない先駆的な取り組みだと思います。きっかけは何だったのでしょうか?
また導入までに「壁」を感じられたことはありましたか?
青野町長:マイナンバーカードについては、まずは普及させることに追われていたというのが正直なところで、技術的なところはわからないことも多かったのですが、職員の努力と町民の皆さんの協力もあって比較的順調に普及が進み、マイナンバーカードを活用した町政のDX推進への基盤は整いつつありました。そんな中で2024年に東京で自治体・公共機関に向けた「活性化」「業務効率化」につながる製品・サービスの展示会が開催されるのを知り、くらし安全課の職員に視察してくるよう指示したのがきっかけになります。
河村さん:その展示会に赴き、色々なソリューションを見ていたところ、私が公共交通を担当していたこともあり、イツモスマイルさんの「まちのクルマアプリ」に関心を持ちました。そして「まちのクルマアプリ」が美咲町と似た中山間地域である徳島県神山町で導入されているという実績を知り、神山町のご担当者さまのお話も聞くことができて、これこそ美咲町に必要なシステムだと直感しました。
マイナンバーカードの活用については私も少し不安があったのですが、イツモスマイルさんが私たちと同じ目線を持って、課題を自分ごとととらえて相談に乗ってくれましたのが心強かったです。
「黄福タクシー」は広く町民の皆さんに認識していただけるサービスに成長していましたが、タクシー事業者さん、行政、それぞれの事務作業にかなりの時間とコストがかかっていたことと、ミスも頻発していたことは庁内でも課題として共有されていましたので、特に大きな壁を感じることもなく、スムーズに導入が決まりました。
むしろ「まちのクルマアプリ」の導入が決まってから運用を開始するまでのシステム構築のほうが大変でしたね。
イツモスマイル、TOPPAN、京セラ 3社の技術を集結したDX
ーシステム全般はイツモスマイルさん、タブレット(申請受付時・車載利用)は京セラさん、マイナンバーカードのICチップ空き領域の機能利用(申請受付時のタブレットでの書き込み・車載タブレットでの認証)はTOPPANの技術が盛り込まれたDXなのですね?
河村さん:はい、自分たちだけでは到底完成できない仕組みづくりでしたので、イツモスマイルさん、TOPPANさん、京セラさん、皆さんのおかげでどうにか運用開始に漕ぎ着けることができました。
始まったばかりのサービスですので、町民の皆さんの利便性にどのくらい貢献があったかといったデータ分析はこれからになりますが、DX推進の「成功例」として同じ悩みを持つ他の自治体さんにも波及するようになればと思っています。
右:京セラ製のタクシー専用端末機。利用登録済みのマイナンバーカードをかざすと乗降が記録されます。
ー町民の皆さんへの告知はどのようにしたのですか?
石原さん:昨年10月くらいから広報誌でお知らせしていたのをはじめ、町中の告知放送を使ったり、地域のケーブルテレビでお伝えしたほか、利用登録のある方には事前にハガキで利用者証のマイナンバーカードへの移行の案内を送りました。ご高齢の方の利用が多い制度ですので、各自治会に出向いて周知のお願いもしました。
内容や受け付け方法についてお問い合わせがあることは想定していましたので、コールセンターも設置し、我々くらし安全課と共に問い合わせ対応しました。
その甲斐あって1月8日の受け付け初日に230人以上の登録者さんがいらして、窓口に長蛇の列ができて驚いたのを覚えています。約3,000人の登録者のうち、現時点で既に1,800人以上が移行されています。
水島さん:他の地方でも同様かと思いますが、美咲町も高齢者の運転免許保有率は高く、自分で運転するので「黄福タクシー」は利用していない方もいらっしゃいます。ですがいずれ免許を返納する時のことなどを考えて、お知らせを受けたこの機会にマイナンバーカードで「黄福タクシー」の利用ができるよう、登録だけでもしておこう、と考えられた方も多かったようです。
実際にマイナンバーカードで「黄福タクシー」を利用された方からは、マイナンバーカードは保険証にもなるので、「黄福タクシー」で病院に行く時はマイナンバーカード1枚持てば良くなった、といった声も届き始めています。
河村さん:また「(紙の利用者証で)黄福タクシー」は利用しているけどマイナンバーカードはまだ持っていない、という方も数名いらして、この機会にとマイナンバーカードを取得してくださいました。そうした促進にも役立ったという見方もあるかと思います。
ー「黄福タクシー」に参加しているタクシー事業者さんとの連携はスムーズに進みましたか?
石原さん:はい。先ほどの話にもありましたが、「黄福タクシー」はタクシー事業者さんにとっても多くの事務作業が生じるものでしたので、デジタル化にはみなさん前向きに協力してくださいました。運用開始時にはイツモスマイルさんが現場に帯同してくださったこともあって、大きなトラブルなくスタートできました。
水島さん:実際に利用者さんを乗せ、マイナンバーカードで乗降記録操作を行うのはタクシー運転手さんですので、タクシー事業者さんのご協力無しには前に進まない話ですが、事前の説明の段階からイツモスマイルさんがタクシー事業者さんを細かくフォローしてくれました。実は車載器をタブレットにすることにしたのもそうしたコミュニケーションから生まれたアイデアだったんです。当初は車載器はスマホを使う予定だったのですが、画面は大きい方がいいというタクシー事業者さんの声を取り入れた結果、画面上でマイナンバーカードを読み取ることができ、わかりやすいUIを持つ京セラさんのタブレットを使用することになりました。
エクセルによる管理が不要に
ー事務作業は実際どのくらい軽減されたのでしょうか?
石原さん:従来は、利用者さんがどこで乗ってどこで降りて、という記録を一件一件、毎月合計1,000件以上をエクセルで管理していたのですが、導入したシステムでは運行実績がGPSから取得できますし、レシートの紙保管が不要になったことをはじめ、利用者突合や精算など運用に係る業務が大幅に軽減しました。事務に要する時間は4分の1程度になったと感じています。
ーすごい導入効果ですね。「黄福タクシー」以外に、いま美咲町で検討中のDXのプランが他にもあればお聞かせください。
水島さん:町民の日常生活に寄り添う民生委員さんの身分の担保にマイナンバーカードを活用する仕組みづくりや介護認定に係る事務の効率化など、町長を筆頭とした「DX推進本部」では現在18のDXプランを推進中です。マイナンバーカードはそれらのプランのキーになる存在だと思っています。
「黄福タクシー」に参加しているタクシー事業者、有本観光バス株式会社様にて
ーマイナンバーカードによる乗降記録が始まって数ヶ月が経ちますが、ドライバーの皆さま、そして利用者さまからの反応はいかがでしょうか?
有本さん:導入当初には何件か、読み取り時のエラーを発生させてしまいましたが、今では車載器のタブレットの操作にも慣れ、紙の利用者証による運用時に比べてスムーズに乗降記録ができるようになってきました。手間も時間も短縮できますのでお客さまからも好評です。我々も役場に送る記録の作成にかかっていた手間が無くなり、以前は翌月の半ばまでお待たせしていた月次の送信も翌月初すぐに送れるようになりました。
今回のプロジェクトに参加した各社のコメント
イツモスマイルデジタルソリューションズ株式会社
青木 孝之さん:本事業に関しては、美咲町様及び事業者の方々の「黄福タクシー制度」利用者に対しての住民ファーストの姿勢に感銘を受け進行しました。当社システムによる業務効率化を実現することで生み出された時間を、更なる住民サービス向上へ還元できるようシステム運用からサポートをいたします。今回の導入システムは「まちのクルマアプリ」をバージョンアップし、マイナンバーカード空き領域を活用したチケット機能(本人確認、個人毎の割引設定、デジタルチケット等)が追加されました。美咲町様での交通DX業務効率化モデルをパイロットケースとし、同じような悩みを抱える全国の公共交通のリ・デザインに貢献してまいります。
京セラ株式会社
圃中 成一郎さん:本取り組みを通じ、マイナンバーカード空き領域を活用した市民サービスDXの可能性を実感するとともに、地域社会における交通弱者支援や地域交通の活性化に貢献できたことを大変光栄に思います。
京セラは今後も、モバイル端末を起点に、より安全・安心と利便性を両立する製品・サービスの提供を通じて、自治体DXの進化に貢献してまいります。
TOPPAN株式会社
情報ソリューションBU セキュアDX事業部 セールスエンジニア本部 企画部 第二チーム 花田 孝之さん:美咲町様の推進力と事業者様の協力があっての施策実現だと考えています。
当社はマイナンバーカードの利活用について多方面での展開を支援しています。今後も引き続き自治体施策のDX推進においてお役に立てられたらと考えています。
自治体におけるマイナンバーカードのカードAP(ICチップの空き領域へのアプリケーション搭載)の事例は全国的にみてもまだ少ない中、住民の利便性向上、社会参加促進のためにタクシー補助制度のDX化を成功させた美咲町役場。ご高齢の住民の多い同町にとって、紙(利用者証)からデジタル(マイナンバーカード)への切り替えには少なからず抵抗もあったのではと取材前に予想していたのですが、スムーズに切り替えが進んでいることがうかがえました。そこには、くらし安全課の皆さまの尽力はもちろん、青野町長の「未来を見据えた町づくり」というお考えとこれまでの施策が住民の皆さまに浸透していることによる、町と住民の信頼関係が感じられました。
TOPPANはこれからも、マイナンバーカードの積極的な活用につながるソリューションを提供してまいります。
※所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。
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2026.05.18
