インタビュー・会談

【会談記事】
自治体DXの推進には管理職の意識変容が必須。行政サービスを熟知したTOPPANエッジの考える人材育成研修とは

内閣府は、2048年には日本の総人口が1億人を割り9,913万人程度まで減少すると発表しています。人口減少は地方自治体の運営にも大きな影響を及ぼし、その対策が急務です。

総務省はデジタル技術の活用によって持続可能な行政サービスを提供する次世代の自治体像「スマート自治体」を提唱し、2020(令和2)年には「自治体DX推進計画」を策定しました。人口減少が進む中で行政サービスの質を維持するため、デジタルの活用でどのような取り組みができるのか、各自治体が模索しています。

門真市役所

大阪府門真市さまは、2022(令和4)年に行政DXの専門グループを立ち上げ、全庁を挙げて自治体DXを進めている先進的な自治体です。この取り組みの一環として、2023(令和5)年7月には『管理職向けDX推進人材育成研修(幹部として捉えるDX)』を開催。実施にあたっては、TOPPANエッジがサポートを行いました。

今回は、門真市さまのDX推進の歩みや課題、研修の企画意図などについて、門真市の中村さまと三原さま、そしてTOPPANエッジの大塚、高木で振り返りました。

ゲスト

門真市
企画財政部 ICT推進課 行政DXグループ 課長補佐 中村 賢さん
企画財政部 ICT推進課 行政DXグループ 主査 三原 且規さん


インタビュアー

TOPPANエッジ株式会社
事業推進統括本部 DXビジネス本部 BPM推進部RPAチーム担当部長 大塚 亮一
西日本営業統括本部関西第二営業本部第二部第二チーム 高木 杏輔

※ 所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。


コロナ禍を機に加速した門真市のデジタル活用

大塚:もともと門真市ICT推進課さまでは、どのようなDX関連の取り組みをなさっていたのでしょうか。

三原さん:総務省が掲げるスマート自治体を目指すべく、門真市では2020(令和2)年4月に「スマート自治体検討委員会」という内部組織を立ち上げました。
RPAによる業務自動化、Web会議の整備、オープンデータなど内部向けのデジタル化施策を進めていた時に、新型コロナウイルスの流行が始まったのです。

高木:コロナ禍では、市民生活や経済活動を維持する観点から、さまざまな分野でデジタル活用が広がりを見せましたね。門真市さまではどういう動きがありましたか?

三原さん:給付金のオンライン申請をはじめとする行政手続きのオンライン化など、市民向けサービスに対するデジタル化の波が本格的に到来したと感じました。
2022(令和4)年4月には「デジタル手続き条例」の制定や、オンライン申請システムの導入を実施しています。また、さまざまな領域でのデジタル化を進める中で、単にデジタルツールや環境を整備するだけではなく、使い手の理解を深めるべきだと感じました。



門真市内部におけるデジタル人材の確保・育成の歩み

大塚:当時の組織体制や、デジタル人材の育成についてはいかがでしたか。

三原さん:門真市では以前から各部署に1~2名の「情報化リーダー」を配置していました。ただ、実態としては、「システムなどの初歩的な操作方法などを相談できる人」のような立ち位置でした。

策定された門真市DX推進計画

中村さん2022(令和4)年4月にICT推進課に行政DXの専門グループが設置され、7月に「情報化リーダー」へ向けてDX推進人材育成研修を実施しました。

続く11月には「門真市DX推進計画 」を策定しています。これは市の最上位計画である総合計画を、ICTの側面から推進するような位置づけです。


高木:2023(令和5)年1月には総務省が「自治体DX推進手順書の改定」を公表しました。そちらに沿って、門真市さまもデジタル人材の確保や育成について全体像を整理されたと伺っています。

中村さん:はい。手順書には、①「マネジメントレベル(職階)」と「専門性の高さ」の軸によるデジタル人材の確保・育成の全体像整理、②デジタル分野の専門知識を身につけ、一般職員や専門人材と連携しながら実務の中核を担う「DX推進リーダー」の人物像を明確化する、という二つの重要な視点が示されています。

出典:総務省ホームページ報道資料「自治体DX推進手順書」等の改定−「自治体DX推進手順書の概要」(PDF)より抜粋

これらに伴い「情報化リーダー」は「DX推進リーダー」に呼び名を改め、自治体DXの取り組みを担う立ち位置としました。各部署にはリーダーとサブリーダーが配置されていて、総勢100名ほどになりますね。

高木:ちなみに、サブリーダーはどのような役割を担うのですか?

三原さん:実はここには市長の思いが込められています。
50近くある部署の規模はまちまちで、少ない部署で5名ほど、多い部署だと30名ほどが在籍しています。リーダー1人の力では現場を動かしづらい場面も往々にしてあるため、DXを推し進めるには人数が多い方が良いだろう、補佐役も必要だということで、サブリーダーも配置することになりました。


DX推進委員会の立ち上げで行財政のデジタル化が加速

大塚:「門真市DX推進計画」に基づき、門真市さまは具体的にどのようなことを実践されたのでしょうか。

中村さん:まず着手したのが、DX推進について議論する場を整備することでした。
2020(令和2)年に立ち上げた「スマート自治体検討委員会」は各部局の次長級がメンバーでしたが、より上位の幹部職員、市長や副市長も含めたメンバーでDXについて議論できるよう、2022(令和4)年11月に門真市行財政改革推進本部規程を改正し、DXの取り組みを行財政改革の一環と位置付けた上で、全庁挙げて本市行政のDXを確実かつ強力に推進することとしました。
また、「スマート自治体検討委員会」を「行政DX推進委員会」へ改めました。この背景にも、市長の「これからの行財政改革はDXが必須になる。だからこそ、この会議体で議論したい」という思いがあったのです。

大塚:DXについて行財政に絡めて議論できる場ができ、よりスピーディーなDX推進が可能になったのですね。コロナ禍を経て住民からもオンラインサービスへの要望が高まったと伺いましたが、具体的な取り組みについてはいかがでしょう。

中村さん:主なものとしては、国が指定する行政手続きの「ぴったりサービス 」を使ったオンライン化をはじめ、2023(令和5)年1月には門真市の公式LINEのリニューアルを行いました。
公式LINEについては、それまでは主に新型コロナワクチンの情報を発信するものでしたが、ユーザーが簡単にアクションできるリッチメニューを導入するなど、今はイベントをはじめとしたあらゆる市政情報を発信しています。

門真市公式LINEに配置されている、市ホームページなどのさまざまなページへアクセスできるリッチメニュー

次なる大きな動きとしては、2023(令和5)年6月に「門真市DX推進計画」に基づき①行政手続きのオンライン化、②国が進めるシステム標準化、③会議等のペーパーレス化という三本柱のそれぞれの方針・方向性などを整理し、庁内に示したことです。

高木:DX推進においては業務の標準化が必須となりますが、そもそも自治体業務とは標準化しやすいのでしょうか?

中村さん:基本的に行政の仕事は法律で決まっているため、マニュアルは十分に整備されています。しかし、マニュアルが絶対であるというバイアスがかかりやすく、改革や変化に対して消極的になりがちというジレンマも生じますのでそこが難しい部分です。
実務を担う部署は50近くあり、多くの仕事を抱えながら業務の見直しとなると、一時的に作業量が増えるため、そこでブレーキがかかってしまうことが想像できました。

高木:組織全体の意識を統一するためにも、トップと現場をつなぐ管理職のDX理解が鍵になりますね。


DX推進の大きな鍵を握る管理職向けの研修を実施

高木:総務省が2019(令和元)年に「スマート自治体」を提唱し、今後ますますDX推進に向けた取り組みが各自治体で広がることを見越して、TOPPANエッジ(当時はトッパンフォームズ)では研修メニューの拡充を進めていました。そんな中で、ICT推進課様に提案資料をお持ちしたのは2021(令和3)年8月だったと記憶しています。

※ トッパン・フォームズ株式会社は2023年4月1日付でTOPPANエッジ株式会社に社名を変更。

参考:2024年2月時点でのTOPPANエッジの研修サービスメニューとその位置付け

三原さん:門真市としては、TOPPANエッジさんと特別徴収や給付金関連のDPSで既にお付き合いがありました。会議で顔を合わせる機会はありましたが、ICT推進課として直接のお取引は無かったですね。

※ TOPPANエッジの提供するデータ・プリント・サービスの略。印刷から印字、封入・封かん、発送までを一貫しておこなう。


高木:そうですね。そして弊社に研修のご相談があった当初、門真市さまはEBPMに関する研修を検討されていらっしゃいました。

EBPM (Evidence-based Policy Making/証拠に基づく政策立案)とは
政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること。

三原さん:はい。2022(令和4)年7月の情報化リーダー向け研修を終えた段階で、次はDX推進リーダー向けにEBPMなど特定の分野に絞っての研修と管理職向けの研修を実施した方が効果的だと思いました。

高木:当時はEBPMの重要性がようやく認識され始めたばかりでしたから、そこへいち早くアンテナを張っておられた門真市さまは素晴らしいです。我々にもEBPMについての研修メニューは無かったため、弊社で検討して新たなプログラムを準備しました。

三原さん:その節はありがとうございました。
当初はDX推進リーダーに向けたEBPM研修を検討する中でのご縁から管理職向けの研修を実施することになりました。

大塚:管理職向け研修の講師は、企業情報化協会の経営コンサルタント・横川省三さまにお願いしました。
BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)領域を得意とする方で、打ち合わせの際に「DX推進には、上と下の接続部分となる管理職へのアプローチが重要だ」とおっしゃっていて、まさに門真市さまと考えが合致していました。

三原さん:はい。また、全庁的に実施する大掛かりな研修のため、丸一日など長時間の拘束ができないことや、オンラインではなく対面での研修を希望するなど、TOPPANエッジさんにはかなり融通を利かせていただきました。
限られた時間の中で最大限の学びが得られるよう、TOPPANエッジさん、横川先生と門真市のWeb会議で内容を詰めさせてもらいました。

大塚:横川先生も門真市さまがDX推進に向けて管理職に求めること、当研修で何を身につけて欲しいかを十分理解した上で研修を提供したいということで、入念な事前打ち合わせを行いました。今回は、一般企業向け研修メニュー『経営として捉えるDX』をベースに、他自治体さまの事例紹介を入れるなどして、自治体向けの内容にブラッシュアップしています。

最終的には管理職(課長)を対象としたDXの基礎知識や、DXのステップを具体例で紹介する内容に決定しました。横川先生には、デジタル化を本来の“デジタル・トランスフォーメーション”まで持って行くために管理職としてどう認識を持つべきか、どのような業務運営をする必要があるか、そもそもデジタル化はどこから着手すれば良いのか、管理職としてどんなサポートが必要なのかという点を重点的に話していただきました。

高木:約9カ月かけて一緒に研修準備を進め、2023(令和5)年7月4日の午前と午後の2回に分けて『管理職向けDX推進人材育成研修(幹部として捉えるDX)』の開催に至りました。ところで今回、私どもの提案を選んでくださった理由について、率直にお聞きしてよいでしょうか…?

三原さん:TOPPANエッジさんは自治体業務を理解されているところが大きな理由です。他社の研修にも同様のメニューはありましたが、BPOや給付金など自治体ならではの問題を理解されている会社にお任せしたいと考えました。
また、研修内容について、臨機応変に対応いただけるところも魅力でした。

高木:そうだったんですね、ありがとうございます!

行政改革には中間層のマネジメントが欠かせない

高木:研修を受講された管理職の皆さまからはどのような反響がありましたか?

研修後の受講報告書では多様な意見が寄せられた

三原さん:「DX推進への意欲が生まれた」「所属長としての役割を認識したうえでDX推進メンバーと協議を重ねて取り組みたい」「管理職に期待される分野も分かりやすく説明があった」「自分の課ではどのような業務のICT化を行うことが可能なのか、担当職員とともに模索していきたい」など、前向きな意見が多くみられたのはうれしかったですね。

中村さん:一部ですが、中には「案外簡単な内容だった」という感想もありました。研修テーマが意識改革の比重が大きかったため、既にDXへの関心が高かった方には物足りなかったのかもしれません。このバランスが全庁研修の難しいところではありますね。

私自身も研修に参加して、行政改革は市長からのトップダウンと下からのボトムアップだけではなくて、中間層の役割というのが大切だということを再認識できました。中間層がしっかりマネジメントしていかないと、DX推進のストッパーになってしまう可能性もあるということを、多くの管理職が感じてくれたと思っています。

DX推進リーダーの育成、そして管理職の意識改革を強く進める

高木:最後に、DX推進リーダーに期待することや DX研修についての今後の展望、そしてTOPPANエッジへ期待することをお聞かせください。

三原さん:DX推進リーダーの選定方法や継続的な育成が課題です。どのような方がリーダーにふさわしいのか、また選出の仕方についても模索中です。

大塚:総務省はDX推進リーダーの定義を示してはいますが、具体的なスキルセットまでは定めていません。DX推進にはITツールの操作スキルに加え、業務理解や課題発見能力といった業務改革スキルが必須です。ITスキルと業務改革スキルの両輪を回してDXを推進できるリーダーを育成するために、TOPPANエッジとしても引き続きサポートさせていただきたいと考えています。

中村さん:今回は所属長向けの研修でしたが、さらに職階別の研修もできれば良いですね。

大塚:ぜひよろしくお願いいたします。行政業務は特に前例踏襲が基本で、職員の方々は「業務は変えてはいけない」という意識が根強いというお話もありました。
現場の意識改革を促してボトムアップの動きを活性化させるためにも、管理職の方が果たすべき役割は大きなものがありますね。

中村さん:現場からDXに関する要望やアイデアが上がってきた時に、管理職がブレーキをかけることがあってはならないと思います。またトップからの指示を遂行するためにも、管理職は現場とトップをつなぐ「ハブ」となって機能すべきです。

リーダー育成、管理職の意識改革など、課題は多岐にわたりますが、門真市のDX推進を図っていきたいと考えています。

高木:門真市さまのDX推進を活性化できますよう、TOPPANエッジも引き続き尽力させていただければうれしいです。

本日はありがとうございました!

2024.04.25

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