【会談記事】住民税収納業務の作業量が30%軽減!人海戦術頼みの現場を劇的に変えた、AI-OCR技術の融合ソリューション
2020年12月に総務省より発表された「自治体DX推進計画」。デジタル技術やAIを活用して業務の効率化を図り、本来力を注ぐべき行政サービスに人的資源を投入する、という計画の趣旨からもわかるとおり、自治体の多くには、いまだ職員の手を介して進めなければならない業務が存在しています。
課税者が人口の約60%にのぼる東京都中野区さまも、住民税収納業務で発生する手作業を長らく課題とされていました。今回導入されたのは、「AI-OCR」を活用したソリューション。文字を高い認識率でデジタルデータ化できるAI-OCRは、膨大な数の帳票を処理する自治体の大幅な業務改善を可能にするものです。
さらに今回は、異なる二つのAI-OCR技術を融合させることによって、手書き文字も形状の異なる帳票もシームレスに読み取りできるようになり、収納事務にかかる作業の自動化を実現しました。
AI-OCRソリューションを導入するまでの経緯やその課題、導入後の効果などについて、中野区の高津さま、坂本さまと、トッパンフォームズ(現 TOPPANエッジ)の大台、石田で振り返りました。
ゲスト
中野区役所
区民部 税務課 収納係長
高津 麻子さん
区民部 税務課 収納係 主任主事
坂本 悠貴さん
インタビュアー
トッパン・フォームズ株式会社
営業統括本部 東京エリア事業部 第一営業本部 第一部 第二グループ
大台 悠希
企画販促統括本部 ソーシャルイノベーション本部 BPM推進部 第一グループ 担当課長
石田 勝
※ 所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。
※ トッパン・フォームズ株式会社は2023年4月1日付でTOPPANエッジ株式会社に社名変更いたしました。
労働集約型業務の限界を感じる中、「AI-OCR」が一筋の光に
大台:住民税の収納業務と一口にいっても、振替口座や振込口座の口座情報の登録、特別徴収納入済通知書(以下「特徴済通」)の消し込みなど多岐にわたります。中野区さまはこれらを、長らく人海戦術で乗り切ってこられたんですよね。
高津さん:はい。昔ながらのやり方を脈々と続けてきた感じでしたね。
経験上、業務が完了するのはわかっているんですけど、世間では働き方の見直しが進んでいるなか、旧態依然のやり方を何とか改革したいと常々思っていました。
大台:基幹システムに取り込むデータの作成も大きな課題だったんですよね。
高津さん:そうです。職員による手入力に加え、外部の入力業者にパンチデータの作成を委託していました。ただ、外部委託をするにも事前準備がとにかく煩雑で。
坂本さん:外部委託するためにいろいろ事前準備が必要だったのですが、特に大変だったのが口座振替依頼書や口座振込依頼書への補記作業でした。
私は今年度収納係に配属になったので、最初はこういうやり方なんだ、と思っていたんですけど、係長が言うとおり、単純作業の繰り返しを職員が長い時間を割いてやることには疑問を持っていました。
高津さん:口座振替依頼書や口座振込依頼書に手書きされている金融機関名と支店名は、通帳やキャッシュカードに印字されている数字のコードに置き換えてシステムに入力します。
なので入力業者に出す前に、金融機関コードと支店コードを調べて帳票に補記する作業が発生するんですが、それをすべて職員がやっていたんです。そこにかなりの労力を費やしていました。
大台:一枚ずつ手作業で、と考えると気が遠くなります。
高津さん:繁忙期には短期間で数百件を処理しなければならなくて、残業したり、係内の担当以外の職員に応援を頼んだり…とにかくすべてが人海戦術だったんです。作業にかかる収納業務の外部委託を検討したこともありますが、費用対効果の点から実現せず、職員がやらざるを得ない状況が続いていました。
大台:改善策もDX化ではなく、仕事をそっくり別の人に渡せないかという検討だったんですね。
高津さん:そうです。当時はDXという言葉自体の認知度も低く、すぐに飛びつくことはありませんでした。ただ、人力頼みの作業はどう考えても今の時代にそぐわないし、人件費の上昇による委託コストの増額も示唆されていたので、なんとかしなきゃとは思っていました。
そんな中、AI-OCRというものがあると知り、調べていくうちに「これって今の仕事を置き換えられるんじゃないの?」と考えるようになったんです。
機能の異なるAI-OCRを組み合わせ、事務作業の自動化を実現
大台:そもそものご縁は、「AIRPOST」がきっかけでしたね。
・「AIRPOST/エアポスト」とは TOPPANエッジが提供する、住所変更・口座振替をはじめとした金融に関わる諸手続きから、災害時に発生する手続きや行政の手続きまで、生活の中にあふれるさまざまな手続きを、スマートフォンで安全に手間なく完了できるサービス。 |
高津さん:はい。行政の手続きも電子化が進んでいるので、区民サービスの向上やインフラ整備の観点から、Webでの口座振替の申し込みを並行して検討していました。「AIRPOST」についてトッパンフォームズさんに問い合わせた際、会社紹介に「AI-OCR」と記載されているのを発見して(笑)。
それでこちらも相談したところ、「できますよ」と言っていただきました。
石田:口座振替の申し込みの大半、口座振込の申請の全てが、紙での申し込みということでしたので、AI-OCRでデータ化するのが最適であるとの話をしました。
費用対効果を見るため、まずはトライアルでとのご依頼でしたが、こちらとしてもありがたいお話で(笑)。
現状の技術を評価いただく、またとない機会ですから。
大台:ただ、業務フローをうかがっているうちに、新たな課題も見えてきましたよね。
石田:単にAI-OCRで読み込むだけだと、中野区さまが苦労されていたコードを補記する手作業が残ってしまいます。
そこで、まず手書き文字の読み取りが得意な京都電子計算のAI-OCR「AI手書き文字認識サービス」で文字認識をして、ABBYYジャパンの「ABBYY FlexiCapture」というもう一つのAI-OCRで銀行名、支店名を金融機関マスターファイルで照合の上コード変換する。二つのAI-OCRを組み合わせることで業務の完全自動化が図れるのでは?と考えたわけです。
高津さん:AI-OCRとRPAの組み合わせはよく耳にしますが、コストやメンテナンスの面でハードルが高いとも感じていました。それが、RPAを使わずとも目的を達成できるとうかがって。そんな素晴らしいシステムなら、やらない手はないなと思いましたね。
石田:われわれにとっても、こうした融合した形のソリューションは初の試みでしたが、職員さんの業務負担を減らすためにチャレンジしてみようと。例えば、中野区さまの口座振替依頼書では申込者の希望で振替口座を還付金の振込口座として登録できるようになっています。今までは振替口座、振込口座それぞれ別々に登録する必要がありました。そこで、一度で登録業務ができるよう振替口座と併せて振込口座のデータも自動生成する仕組みも作りました。
また情報の多くは個人情報にあたりますので、「AI手書き文字認識サービス」は安全にやりとりできるLGWAN(自治体向けのセキュアな総合行政ネットワーク)上で、「ABBYY FlexiCapture」はオンプレミスの高セキュリティ環境で処理ができるようになっています。
高津さん:私のイメージとしては「魔法の箱」ですね。文字情報を箱に入れる。次に、その箱から出てきたときにはシステムに登録できる状態でデータが整然と並んでいる(笑)。
大台:その後、特徴済通の消込業務についてもご相談いただきましたね。
高津さん:トライアルの予算は口座登録業務の自動化のみが対象でしたが、だんだん欲が出てきて(笑)。特徴済通は非定型帳票で、100種類以上のフォーマットがあるので難しいだろうな、と思いつつ「こちらもAI-OCRでできませんか?」と聞いたらなんと「できます」とお答えいただいて。
大台:ABBYYのFlexiCaptureは活字や非定型帳票に強いAI-OCRですから、併用することで特徴済通もカバーできるんですよね。
高津さん:「こんなことできたらいいのにな」と夢に描いていたことが実現するんだ、と知って、心底驚きました。お二人には「やれないことはありません。やってみましょう」と言っていただき、本当に心強かったです。
トライアルで有用性を実証、外部委託から職員のワンストップ運用へ
大台:トライアルの結果、文字認識率は97%、作業量は約30%の軽減、外部委託コストは25%削減という実績を得ました。
高津さん:この実績を引っ提げて(笑)本導入予算を獲得することができました。
特徴済通のトライアルはしていないんですけど、お話をする中で「これなら大丈夫」という確信を得ましたので、入力業者に委託した場合と比較したランニングコストを出して、一気にスタートさせる形に持っていきました。
大台:コストも大きな課題のひとつでしたね。
高津さん:ビルド&スクラップ(既存業務の抜本的見直し)をしないと、新しいシステムの予算確保は難しいので。最初は端末の購入など、ある程度の初期投資は必要ですが、運用にはさほど経費がかからないので、5年のスパンで見るとAI-OCRの方が費用削減になります。結果的に一連の処理が自動化され、内製化も実現することができました。
大台:品質面はどのような印象を持たれましたか。
高津さん:まず、乱雑な手書き文字や、多種多様なフォント、レイアウトでも正確に読み取る精度の高さに驚きました。加えて、大量の帳票であっても短時間でデータを生成する処理の速さにも圧倒されましたね。
坂本さん:私もびっくりしました。
間違った記入内容も間違った形で認識されるほど文字認識率が高く、精度の高さに驚きました。
石田:もしエラーがあったとしても、該当する帳票の項目にフラグを表示するようにしているので、直接修正できますしね。運用面はいかがですか。
坂本さん:日々の業務に不可欠なシステムになっています。
以前はパンチを依頼するタイミングや時間が決まっていたので、逆算して事前準備をする必要があり、他に優先したい業務があってもできないことがありました。
今は自分のペースで仕事ができるようになって、精神的な負担軽減にもつながっています。
大台:そう言っていただけるとうれしいです。
坂本さん:また運用担当としては、導入後の管理も重要なところです。自治体職員はおおよそ3〜5年で異動があるだけに、いずれ引き継ぎすることを考えれば、あまりに管理方法が難しいと知識も必要になりますし、次の担当者もきちんと理解しなければなりません。そういった意味でも、今回ご提案いただいたAI-OCRはシンプルな仕組みで管理方法も簡単なので安心して利用できています。
大台:職員さんの異動が多いことについても把握していました。
今回帳票ごとに使用手順書を作成させていただき、初めてAI-OCRを使用する職員さんでもこれを見れば使用できるようにしました。システムの更新があった場合は都度使用手順書を更新していく予定です。
石田:われわれの役割は、職員さんが簡単に、かつスムーズにデータを基幹システムに取り込めるよう、業務目線でソリューションを構築することです。その意味で、100種類超のフォーマットがある特徴済通のトライアルを実施していないのは気がかりでした。そこで、とにかくどんなレイアウトの帳票も読み込めるようにしようと、2021年10月から半年間、ひたすら内部でチューニングを続けました。契約に至るかわからない状態での作業だったので、実際に導入できることになってほっとしました(笑)。
大台:石田さんには頑張ってもらいました(笑)。
同じ悩みを抱える全国の自治体にも広げていきたい
大台:今回の取り組みを受けて、中野区さま全体でもDXの機運は高まってきているのでしょうか?
高津さん:今、中野区は現区役所のすぐ近くに新庁舎の建設を進めておりまして、移転を機に区をあげてDXを推進しようということになっていますが、まだ発展途上です。ただ逆にそういう状況だからこそ、私たちの取り組みの汎用性は高くて、他部署にも展開できると思っています。
坂本さん:日々とても助かっていますし、中野区で幅広く活用できたらいいですね。
大台:確かに、税務に限らずさまざまな業務で大きな改善効果が期待できそうです。
高津さん:実現にあたっては、トッパンフォームズさんはご苦労されたところもあったと思うんですけど、お伝えした希望をかなえてくれたことに大変感謝していますし、本当に画期的なシステムだと思います。全国にも同じように、人手不足、業務効率化の課題を抱えている自治体はたくさんあって、しかも仕事はどんどん複雑化・高度化して、新しい制度にも対応しないといけない。業務改善を進めたいと考えていらっしゃる自治体にもっと広がってほしいですね。中野区だけで使うのはもったいない(笑)。
大台:ありがとうございます!私も今回、勉強させていただいたところがたくさんありましたし、同じような課題を抱えた他の自治体にも横展開できればと思います。
高津さん:これからは機械に任せられるところは機械に任せて、私たちは政策立案や対面での住民サービスなど、職員にしかできないコア業務に時間を割くことが重要だと考えています。
大台:その実現のためにわれわれも引き続きサポートさせていただきます。導入して終わり、ではなく、やはり安定的な運用まで責任を持つことがサービスですので。
坂本さん:いつもきめ細かい対応で、ちょっとした質問にも丁寧かつわかりやすく回答していただいているのでありがたいです。
石田:私が所属するBPM(ビジネスプロセスマネジメント)推進部は、お客さまの業務を把握し、どう問題を改善していくか、どうすれば効果が上げられるか常に業務(運用)目線でお客さまに寄り添い、改善策を考えてきました。単なるツールの提供ではなく、今後もさらにお客さまの業務効率化につながる提案ができるよう取り組んでまいります。
高津さん:お二人の話を聞いて、本当にトッパンフォームズさんとご縁ができたことが素晴らしい成果をもたらしたんだと改めて実感しました。今後はいかに活用していくか、どう横展開していくかも考えていきたいので、そういうご相談にも乗っていただけるとうれしいです。
大台:もちろんです!引き続きどうぞよろしくお願いします。本日はありがとうございました。
※ 所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。
※ 写真撮影時にマスクを外していただきました。
※ トッパン・フォームズ株式会社は2023年4月1日付でTOPPANエッジ株式会社に社名変更いたしました。
2023.03.08