【会談記事】自治体ごとに異なる帳票も高い読み取り精度でデジタル化。
事務作業の負担を大幅に削減するAI-OCRソリューション
国内最大級の都市銀行である三菱UFJ銀行様では、営業店舗をはじめ所有物件の数も多く、全国の自治体から届く固定資産税や償却資産税などの通知書は膨大な数に上ります。
全行的にDXへの取り組みが進む中にあっても、この帳票処理は人手を介して行われており、業務の効率化が喫緊の課題となっていました。
そこで導入したのが、TOPPANエッジが提供するAI-OCRソリューション。OCRでの読み取りが難しいとされていた準定型帳票に対応した「ABBYY FlexiCapture」を用いて、自治体ごとに異なるフォーマットの通知書から項目を抽出、デジタルデータ化できる環境を整えました。
今回は、本ソリューションを導入するいきさつや開発で苦心した点、実運用の印象などについて、TOPPANエッジの藤田、石田と、固定資産税の処理業務を担当する総務部の皆様で振り返りました。
株式会社三菱UFJ銀行 事業概要:金融業およびその他付帯業務 従業員数:31,756名(2024年3月末現在、単体) ABBYY FlexiCapture導入時期:2023年5月(納税通知書)、2023年8月(課税明細書) |
手入力の入力内容を紙と見比べながらのチェック、負荷の大きさが課題に
藤田:業務効率化のご相談をいただいたのは、今回の「ABBYY FlexiCapture」導入の1年半ほど前でしたね。それまではどのように業務を進めていたのか、改めてお聞かせいただけますか。
中丸さん:毎年4月から6月にかけて、全国の自治体から送られてくる固定資産税と償却資産税の納税通知書から、必要項目を専用のAccessやExcelにデータ入力し、再鑑(※1)を行っていました。総数は600通ほどですが、それぞれに課税明細書がついているので、入力件数にすると約2,000件に上ります。
※1 入力内容のダブルチェック。他の者が行った処理が正しく行われたかどうかを調べ、その正確性を確認すること。
渋谷さん:作成した納税通知書データは、納税処理とファシリティーコストの把握に活用しており、それぞれの用途に応じて入力項目を設定していました。前者に関しては1通につき約20項目ありましたね。
藤田:課税明細書には対象となる物件の住所も記載されています。それらもすべて手入力されていたのですよね。
林さん:はい。また、この業務は住所マスターが入った基幹システムとは別に管理していたため、所在地コードに関しては、目視で確認したマスターのコードを補記した上で入力する形を取っていました。
私は入力の実務を担当する片倉さんをサポートする立場にあったので、作業にかかる負荷の大きさを感じていましたし、なんとか効率化できないかと考えていました。
片倉さん:4月から6月の間はどうしても入力にかかりきりになってしまうことが多く、通常業務と並行してやっていくのはなかなか難しかったです。
藤田:再鑑を担当されている中丸さんと渋谷さんはいかがでしたか。
中丸さん:これはこれで大変で(笑)。
渋谷さん:項目の内容はもちろん、固定資産税か償却資産税か、納付日は間違っていないかというところまで、紙の通知書と入力された内容を一つひとつ見比べながらのチェックになるので、やはり負荷は大きかったですね。
藤田:そうした課題認識が効率化への挑戦につながったわけですね。ところで、今回導入した「ABBYY FlexiCapture 」を知ったのは、ウェルスマネジメント戦略部様の土地評価業務での導入事例だったとか。
林さん:そうなんです。行内の効率化事例をヒアリング調査していたところ、同じ固定資産税の帳票を「ABBYY FlexiCapture」で読み取り、財産診断に活かしている部署があることを知りました。そのソリューションをサポートされていたのがTOPPANエッジさんで。話を聞くほどにわれわれの業務との親和性を感じ、相談させていただきました。
藤田:お話をうかがって、入力と再鑑、そして他システムを参照しながらの作業といったあたりは、デジタルを活用する余白の大きさを感じました。AI-OCRにでき得る限りスクリプトを組み込み自動化させることで、効率も業務の精度も向上できると。そこは提案段階から自信がありました。
400種類の帳票パターンを156まで集約
藤田:今回導入した「ABBYY FlexiCapture」は、書式の異なる帳票を前仕分け無く一括投入したとしても、帳票種類を自動で判定し、必要な箇所のデータを抽出できるところが特長です。ご提案時の印象はいかがでしたか。
中丸さん:ちょうど、業務の効率化をチームで推進しているところでしたので、一番効果が大きい取り組みになるのではという期待感がありましたね。
片倉さん:作業を少しでも効率化できるならすごくいいシステムだなと思いました。
林さん:とはいえ、納税通知書は自治体ごとにフォーマットが異なっていて、件数も多かったので、果たしてそのすべてを「ABBYY FlexiCapture」が読み取れるのか、費用対効果に見合った結果が得られるのかは心配していました。
藤田:確かに営業の立場としても、400種類に及ぶ帳票をきちんと仕分けるというのは困難が予想できました。その点は業務効率を最大化できるよう、開発者である石田と相談を重ねました。
石田:実際の納税通知書をほぼすべて拝見して、正直、これは挑戦のしがいがあるなと(笑)。
単に全400種類の通知書を一つひとつ定義していくとなると、今度は余分なコストを発生させてしまいます。開発においては、コストダウンしつつ、いかに読み取り精度を上げていくかデータ抽出ルールの分析検討に時間がかかりました。
石田:まず、納税通知書と課税明細書の組み合わせの1ページ目に着目して、①1ページ目に納税通知書があるパターン、②1ページ目に課税明細書があるパターン、③納税通知書と課税明細書が混在するパターンの三つに仕分けるルールを導き出しました。
さらに、その三つのグループの中にどれだけ共通化できるパターンがあるかを探し、最終的に156パターンまで絞り込みました。ひな型になる帳票設計ができれば、あとはルールを少し変えながら作成する、という流れで、われわれ開発側としても効率化を図りながら進めてきたわけです。
中丸さん:開発手法としてはアジャイル型で、作ってはテストし、読み取れなければフィードバックして修正、という形でしたね。納品は2023年の5月に納税通知書、8月に課税明細書と2段階に分けさせていただき、実務は8月ごろに業務にあたっている課税明細書からローンチしました。
藤田:実際に運用されてみての印象はいかがですか。
片倉さん:項目が多いこともあって、本当に読み込みができるのか半信半疑のところもあったのですが、一度にかなり大量の帳票を処理したにもかかわらず、すべて読み込めたのは本当に感動しました。特に納税通知書に関してはかなり精度が高かったです。一部、枠線と数字が重なっていてうまく読めないケースはあったのですが、間違っているところはほとんど見受けられませんでした。
石田:ありがとうございます。罫線や地紋がある帳票は、そこに金額などの印字が重なっていると、どうしても正しく文字認識されないことがあります。地紋を制御する機能を強めると、今度は印字が消えてしまうといった具合で、きちんとデータが取れるしきい値を試行錯誤しながら探ってきました。もしうまく読めない場合はご相談ください。
藤田:カラー帳票の課題もありましたよね。
石田:自治体によっては、ドロップアウトカラーという、スキャナーで読み込むと写りにくい色を使用していてOCRで読み込みできない場合があるんですね。記載されている文字列だけを取り込む場合は非常に優れた機能を発揮するのですが、今回のようにAI-OCRを使用する場合はキー・バリュー抽出(※2)でデータ化しているので、キーがドロップアウトカラーだと抽出すべき内容が迷子になってしまうんです。なので、色が見えないところは座標値で取るといった工夫をしました。
※2 カテゴリーのキーワードを発見してその相対位置で読み取り対象を抽出する方法
藤田:現在は毛受さんがメインの担当として業務にあたられているのですよね。印象はいかがでしょうか。
毛受さん:固定資産税の支払処理業務は、本当に限られた時間の中で作業をする必要があるのですが、「ABBYY FlexiCapture」を導入したことによって、今後の業務もスムーズに進むのではないかと期待しています。
毛受さん:また、確かにピンク系の色だったりする帳票は読み取りが難しい場合もありましたが、何回かトライするとうまくいくケースが多かったように感じています。
藤田:ありがとうございます。再鑑に関してはいかがですか。
中丸さん:「ABBYY FlexiCapture」の読み込みが正しく行われたか、読み込んだ情報の正確性については確認をする必要があるため、業務を完全に自動化することはできません。ただ、入力のプロセスが不要になって、読み込んだものを再鑑するだけでよくなったのは大きな成果だと思います。
一つの画面上でチェックできるようになったのも助かっていますね。今までは入力された画面と紙の帳票を突き合わせて見比べていたので。
渋谷さん:今まで目視で紙からデータ化していたところを、すべて「ABBYY FlexiCapture」がやってくれるようになったのはやはり大きいです。所在地コードについても、当初は出力したデータに自分たちの手でコードを補記して管理する形を想定していたのですが、まさか「ABBYY FlexiCapture」で完結できるとは…!非常にうれしい誤算でした。
石田:所在地コードは、行内で利用されている住所マスターを「ABBYY FlexiCapture」のアプリケーションに組み込み、読み取った住所にヒットするコードを従来打ち込んでいたExcelに出力する機能を作りました。作業工数も大幅に削減できたのではないかと。
林さん:石田さんにはご尽力いただきました(笑)。
本格的な運用を開始したばかりなので、現段階ではまだ効率化の実績は出ていないのですが、理論上は年間400時間ほど削減できた形です。
「ABBYY FlexiCapture」導入を足がかりに業務効率化を推進
林さん:最初の依頼から納品までおよそ1年半、TOPPANエッジのお二人にはとても親身に、われわれに寄り添って対応いただきました。開発期間はこちらの要望を聞いていただく機会も多々ありましたが、フランクに会話しながらやり取りできたので、非常に感謝しています。何か困ったことがあれば、すぐにご相談できる関係性が築けたのはありがたかったです。
藤田:こちらこそありがとうございます!社内の開発期間や工数はかなり厳しい局面もありましたが、マスターの取り込みをはじめ、効率化につながる取り組みはできうる限りご提供したい思いがありましたので、積極的に社内調整してクリアーしました。
石田:現時点で感じている課題はありますか?
渋谷さん:そもそも帳票をPDF化する作業そのものが大変ということと、端が切れてしまったりしてしまうなどがあるので、何らかの連続スキャナー機能があると楽になるのでは?と感じています。
毛受さん:通知書によっては4、5枚明細がついているものもあるので、どうしても手間はかかりますね。
石田:今は複合機で作業されていると思いますが、弊社で取り扱っている自治体の納税通知書や課税明細書を高速エントリー可能なスキャナーであれば、オートフィーダーで通すことができます。かなりスピードアップが図れると思いますので、改めてご提案いたしますね。
藤田:ところで、今回の導入前後から、チームで業務効率化を推進しているというお話でしたが、今後はどのような取り組みを視野に入れていますか。
中丸さん:総務部は相当数の所有物件を抱えていて、そこにかかるデータもまた膨大なんですよね。ただ、DXツールをあまり活用しきれていない現状があって、昨年、部内にDX推進プロジェクトチームが立ち上がりました。今後も課題認識を持ちつつ、プロジェクトチーム主導のもとDXを活性化するべく動いていく予定です。
石田:なるほど。本件で取り扱った業務のように不動産には自社物件もあれば、顧客が所有する物件管理もありますよね。TOPPANエッジのソリューションを活用すれば、それらに付随するさまざまな業務帳票や、自治体が発行する帳票をデータ化する際に、お役に立てることがたくさんあると思います。
藤田:これからも、AIを活用したエンジンなど、最適な製品を組み合わせながら業務全体を見える化・標準化して、なおかつ効果が出せるような取り組みをご提案させていただきます。
お困りごとがあれば、ぜひ私どもにお任せください。引き続きどうぞよろしくお願いします。本日はありがとうございました!
※所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。
PDFダウンロード
本記事の内容を、PDFでダウンロードいただけます。
2024.11.05