コラム

AIはクリエイティブを評価できるのか?
デザイン制作におけるAI活用と
TOPPANのアプローチ

生成AIの急発展とクリエイティブ制作における動き

ChatGPTをはじめ、文章、画像、動画、音声などのさまざまなコンテンツを作り出すことができる生成AI(ジェネレーティブAI)は、その精度向上に向けた取り組みとともに、活用方法や知的財産権が侵害される懸念など、ニュースでもたびたび取り上げられ、私たちの身近な存在となってきています。

クリエイティブやデザインの制作分野においても、Adobe FireflyやMicrosoft Designerなど、大手企業が提供する画像生成AIサービスが登場し、制作現場での実用化も現実的なものとして、ビジネス上の注目度が一気に高まっています。
また、生成AIの登場は、これまでクリエイティブ制作には縁が無かった一般ユーザーでも、自ら手軽にデザイン作成が可能になるため、今後プロ・アマ問わずより多くの人がクリエイティブ制作に関わるようになっていくと考えられます。

例えば広告においては、バナー広告を短時間で作成したり、AIを用いて既存の広告の改善案を出したりすることが実際に行われつつあります。これは効果的な広告を少ない労力で実施することを可能にするための取り組みで、技術の進化により今後もこのような流れが拡大するとみられています。

生成AIは自ら学習することで、さらに精度を増していくなか、より多くの人の手によって、より多くのクリエイティブが生成されていくことが予想されますが、そこから作られたものは本当にユーザーに「伝わる」「届く」ものになっていくのでしょうか。

そこで、TOPPANでは本当にユーザーに「伝わる」「届く」クリエイティブ制作を支援するために、ユーザー(読み手)側のデータを活用するクリエイティブ評価手法を研究し、東北大学と日立ハイテクによる脳科学ベンチャーの株式会社NeUと共同でニューロデザインを開発しました。

クリエイティブの読み手の反応を活用したAI

クリエイティブの読み手となるユーザーを理解するための手段として、ニューロデザインでは、クリエイティブを見たヒトの反応を、脳活動などの生体データとして取得し、それらを活用してクリエイティブを評価しています。

ヒトの行動は「5%の意識的判断」と「95%の無意識的判断」によって決定されるといわれています。

ユーザーがアンケートなどで意識的に回答するような内容(意識的な判断)は、行動決定のほんの一部に過ぎません。その他の95%をも占める無意識の領域を探り、ユーザーをより深く理解するために、脳活動などから取得した生体計測データとアンケート調査結果を組み合わせた分析を行ってきました。

これまでの取り組みでは、生体反応の取得のために会場にヒトを集め計測を行ってきました。計測で取得した生体データは解析などの作業も必要なため、スピード感を求められたり、予算が限られたりするようなクリエイティブ制作の現場では、なかなか活用いただくのが難しい場合もありました。
そこで、これまでに取得してきた生体反応の計測データをAIに学習させることで、実際の生体計測を実施しなくとも、クリエイティブに対するユーザーの反応をAIですばやく予測できるように試行錯誤を繰り返し、この度「ニューロデザイン®︎AI評価」を開発しました。

Webサービスである当サービスは、PCとインターネット環境があれば、どこでもクリエイティブの評価が可能です。また、川島隆太博士率いる株式会社NeUおよび東京都市大学の教授陣とAIの開発を行うことで、脳のより直感的な反応を正確に予測し、客観的に評価することを可能にしています。次項では当サービスにおいて、AIがどのようにユーザーの反応を予測し、定量的に評価しているのか、そのしくみの一部をご紹介します。

ユーザー(読み手)の反応を予測する ―画像特徴量の抽出―

当サービスでは、いくつかのAIを使用して、クリエイティブ(画像)に含まれる特徴量を抽出し、脳活動をはじめとした各種データからユーザー(読み手)の反応をスコア化しています。
それぞれのAIは、どういったクリエイティブにヒトが反応するのかを、実際のデータの蓄積からモデルとして構築しているため、ユーザーの反応を予測できるのです。

ユーザーの反応を精緻に予測するために、例えば、「テキスト部分」と「イラストや写真など」で、AIごとに異なる特徴量として学習・重みづけをしています。
イラストや写真に関する学習項目のひとつとして、人物の顔に関する要素があります。クリエイティブに人物の顔が「含まれるか」「含まれないか」で、そのクリエイティブへの興味の度合いが変動することがわかっています。
そこで当サービスでは、下図のように人物の顔がある場合には、その表情を検知し、感情を読み取るような技術を用いることで、画像の特徴量に重みづけを行っています。

人物自動検出結果 ※Sample

このように、クリエイティブのインプットはひとつでも、多面的な軸から特徴量を抽出し、画像に対して重みづけをすることで、ユーザーの反応予測につなげることが可能となっています。
この特徴量の最適な組み合わせが鍵となり、精度の高い予測を実現することができているのです。

ユーザー(読み手)の反応を定量化する ―クリエイティブを評価する5指標―

クリエイティブを評価する指標として「記憶」「興味」「注目度」「好ましさ」「読みやすさ」という五つの指標を定義し、前出の予測を基に、各指標を以下の手法で定量化しています。

記憶
定義
クリエイティブ素材を見た際に、どの程度思考・情報処理を促しているか≒記憶へ残りやすいか。
定量化方法
ウェアラブルfNIRS装置(HOT-2000, 株式会社NeU)を用いて、情報処理・作動記憶に関連する脳領域(左DLPFC、背外側前頭前野)の脳活動データを基に記憶スコアを算出する。
興味
定義
クリエイティブ素材を見た際に、どの程度興味を持ち自分ごととして捉えているか≒魅力的と感じているか。
定量化方法
ウェアラブルfNIRS装置(同上)を用いて、「興味」に関連する脳領域(VMPFCRMPFC)の脳活動データを基に興味スコアを算出する。
注目度
定義
クリエイティブ素材のどこにどの程度注目が集まるか、そしてその際に見ている人がどの程度見ている内容に関心を持っているか。
定量化方法
アイトラッキングから取得できる視線データと瞳孔径データを用いる。
好ましさ
定義
複数のクリエイティブ素材を見た際に、総合的な見た目・デザインに関して直感的かつ相対的に感じる好ましさ。
定量化方法
二つのクリエイティブ素材から直感的に好ましいと感じる方を選択する二者択一課題(Forced-choice task, FCT)を実施。
読みやすさ
定義
クリエイティブ素材を見た際に感じる直感的な読みやすさ。
定量化方法
直感的な読みやすさを評価させるVASvisual analogue scale)法の主観アンケートを実施。

定量化されたデータと画像特徴量を学習させることで各指標をAIモデル化し、五つの指標のスコアとしてアウトプットすることでAIによるクリエイティブの評価を可能としています。

ニューロデザインAI評価の今後の展望

「ニューロデザインAI評価」は、ユーザー(読み手)の反応をAIによって予測し、定量的な五つの指標でクリエイティブを評価するサービスです。
今後も実際のユーザー行動を組み合わせて分析に用いるなど、当サービスを継続してブラッシュアップしていき、より精度の高いクリエイティブ評価サービスとして、皆さまのお役に立ちたいと考えています。

AI開発協力・記事監修

東京都市大学
情報工学部 教授
桂卓成

2023.12.15

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