株主サービス券電子化で株主の利便性を向上!
TOPPANの「決済ソリューション」が
使い勝手の良い電子株主優待を実現
国内の株価高や長期にわたる低金利などを背景に、日本でも投資に対する意欲が高まってきている。さらに、2024年1月に運用を開始した新NISAによって柔軟な投信運用が可能になったことが、個人を中心とした一般投資家の投資熱を後押ししている。
東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)では、近年個人株主向けの施策に力を入れており、その一環として株主優待制度の利便性向上に取り組んでいる。そこで、TOPPANの「決済ソリューション」を活用し、「株主サービス券の電子化」に挑戦。どのような考えのもと、実際にどのように電子化を進めていったのか、総務・法務戦略部 法務ユニット(法規・株式) 後藤 宏基氏にお話を伺った。
使いたいときに使えない!という状況をなくしたい
自社の魅力をより深く知ってもらうための株主優待制度
JR東日本はその名のとおり、鉄道の会社のイメージが強い。現在、その鉄道を中心とした「モビリティ」に関する事業と、お客さまや地域の皆さまとの幅広い接点を持つ「生活ソリューション」に関する事業の2軸でこれからの経営を支えていこうとしている。市場や経営環境が常に変化する中、持続的に成長可能な組織体制を構築していこうと取り組んでおり、今まさに鉄道以外の事業にも注力しているところだ。そして、持続的成長のためには、自社の投資対象としての魅力をどのように市場に発信していくかも大きな経営テーマとなる。株主に対する優待制度も投資を呼び込むための重要な手段の1つだ。
「株主優待制度により、当社のサービスなどをよりお得にご利用いただけるということが株主の皆さまの保有目的の1つであると認識していますが、その他にも当社事業に対する理解を深めていただくことも重要だと考えています。株主優待を通じて『JR東日本はこんな事業も展開しているんだ!』と感じていただけるよう、さまざまな制度・サービスを企画しています」と、後藤氏は株主優待制度の趣旨について説明する。
紙での運用は株主・企業の双方の機会損失につながる
やはり人気があるのは鉄道運賃の割引だ。また、「鉄道博物館」の入場割引の利用率も高い。「東京ステーションホテル」などの系列ホテルの宿泊優待や、駅ではおなじみの「ベックスコーヒーショップ」、駅そば「いろり庵きらく・そばいち」の割引券・トッピング無料券などもよく利用される。ユニークなサービスとしては、他社との「コラボ株主優待」を提供している点だ。西武ホールディングスおよび東急不動産ホールディングスとそれぞれ包括的連携を行っており、相互の施設利用時に割引が適用できるような株主優待制度を始めている。JR東日本グループ単独ではある程度サービス提供エリアが限定されてしまうが、このコラボによって優待サービスの提供エリアを拡大できる。さらに、連携先企業の株主にも、JR東日本の事業内容や株式に興味を持っていただくことが可能だ。
「株主優待サービスの拡充を図る中、大きな課題となっていたのがサービス券冊子を手元に持っていないと使えない、ということでした。ホテルなど事前に予約が必要なサービスではあまり影響はありませんが、コーヒーショップや駅そばなどは『ふと立ち寄った先で思い出して使いたくなる』サービスです。しかし、サービス券を常時携帯しているとは限りませんので、せっかく使っていただける機会を逃すことにもなりかねません。
加えて、当社グループは、Suicaの電子マネーやポイントサービス「JRE POINT」など、さまざまなサービスをデジタルの形で提供しています。そのような当社が、『なぜ株主サービス券は紙の冊子を通じてのみサービス提供しているのか』というようなご意見を頂いたりすることもありました」と、後藤氏は株主優待サービス提供にかかわる課題をこのように述べた。
全ての株主に冊子を配布するとなると印刷製造コストも相当なものだ。2024年4月に株式分割を行い、今後個人株主を中心に株主が増えていくことを考えると、このままではその分コストが膨らむ。現在約27万人の株主に送付しているので、郵送費もかなりのコストとなっている。
使いやすさにこだわってTOPPANを採択
電子化を実現するためのシステム採択時には、もちろんTOPPAN以外のソリューションも同時に検討した。
「当社と元々お付き合いのあるベンダーさんにも相談してみたのですが、当社の要求を実現するためにはゼロベースでの開発が必要になりコストがかさんでしまいました。今回特にこだわったのが、初期アクセスのシンプルさです。株主の年齢層はかなり幅広く、紙からの運用変更で株主も慣れておられません。当社から送付する冊子の案内に従って、サービスサイトなどへアクセスしていただく必要があるので、最初のアクセスはできるだけシンプルで分かりやすく、というのがポイントでした。他のソリューションでは、初動のアクセスからサービス券にたどり着くまでの動線が複雑になってしまったり、サービス券ごとに違うURLを発行する必要があったりしました。その点TOPPANでは、サービスへの入り口を1つのURLのみにして、そこから使いたい株主サービス券を選択する、という非常にシンプルで使い勝手の良い動線を実現できました。加えて、家族間でのシェアがURLの共有で容易にできることも決め手になりました。株主優待は株主ご本人だけでなく、そのご家族なども利用されているケースが多いためです。」 と後藤氏はTOPPANを採択した理由を語った。
紙との併用を残すことで株主の負担を軽減
株主サービス券の電子化に関しては、1年以上前から準備を始めており、株主へのアンケートなども行ってきた。
「アンケートでは電子化に賛成、または電子版と冊子版との選択が可能なら賛成、という意見が非常に多く、これが電子化に向かって具体的に動き始めたきっかけとなりました。冊子を持って出るのを忘れて、サービス券を使えないままいつの間にか1年が過ぎてしまった、というような声も頂きましたし、冊子版も選べるようにしてほしいとの意見もありましたので、今回ご要望があれば従来のような冊子版もお送りするという選択肢を設けたうえで電子化に踏み切りました」と、電子化への経緯を後藤氏は説明した。
今回の電子化に際しては、参加する店舗や施設などとの調整もポイントの1つになった。店舗側のオペレーションも変える必要があるため、どのような形なら対応可能なのか、TOPPANも交えてじっくり協議した。特に問題になるのが回転の早い店舗だ。システム的な要件と店舗オペレーションの条件の双方を考慮したうえで、できるだけ混乱を招かないよう運用するための調整に多くの時間をかけた。最終的には、テスト環境上で店舗のオペレーションに問題がないか確認したうえで移行した。
電子化によって「株主と時代に求められる優待制度」を実現
マーケティングデータとして活用し本当に支持される株主優待を目指す
今年6月に送付した株主向けの案内から、株主サービス券の電子化に踏み切った(一部のサービス券を除く)。利用方法は前述のとおり非常にシンプルだ。案内に掲載されたQRコード※をスマートフォンなどで読み取ることで電子版株主サービス券のセレクトページを表示。そこから使いたいサービス券の種類を選択する。利用する店舗や施設では、各店舗に設置されているQRコードを読み取るか専用コードを入力、またはJR東日本グループ各種サービスで利用できるクーポンコードやサイトへ遷移する。スマートフォンユーザーであれば、操作に迷うことはあまりないだろう。
※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
「今後特に期待しているのが、マーケティングデータとしての活用です。今までは利用後の紙のサービス券を回収して集計していましたが、そのようなアナログな方法でデータを有効活用するのはなかなか難しいものです。また、これまでは細かな利用状況が分からなかったため、十分なリサーチができずにメニューを設定していたこともありました。しかし、今回の電子化によって、店舗単位で『いつ・どれだけの方』にご利用いただいたのかが把握できるようになります。これにより『本当に支持される株主優待』に向かって優待戦略を考えていくことができるようになります」と、後藤氏は電子化によるメリットを説明した。
懸念されていたコスト負担も、電子化によって軽減される見込みだ。紙のままだと今後の株主増加に伴って、冊子等の印刷・発送数も単純に増え、コスト負担が大きくなる。電子化によって、株主が増えてもIDを付与するだけで原則対応できるため、コスト負担はそれほど大きくならない。電子化によるイニシャルコストがかかるものの、数年程度で十分投資回収できると見込んでおり、今後株主が増えれば増えるほど電子化によるコストメリットは大きくなる。その他にも、同社は「ゼロカーボンチャレンジ2050」※という形でCO2排出量実質ゼロに向けた施策を進めているなど、環境問題にもさまざまな角度から取り組んでおり、今回の紙から電子化の流れは環境保護の観点からも大きな意義がある。
※JR東日本グループ「ゼロカーボン・チャレンジ2050」 https://www.jreast.co.jp/eco/
より時代にマッチした株主優待制度へ
今後は、まず1年間の運用を通して株主の反応も見ながら、さらに電子化を進めていく方向だ。重要なのは、同社のファンでもある株主にいかに支持される優待制度に進化させることができるかだ。同社グループはSuicaやJRE POINTの他にもECサイトである「JRE MALLショッピング」やデジタル金融サービス「JRE BANK」など、今の時代を代表するサービスを展開している。それらのサービスとの連携も今後検討していく。
「今、当社と同じような内容の株主優待制度を提供している鉄道会社さまも多いと思います。しかし冊子形式の紙でサービスを提供しているところが多く、正直時代にマッチしていないと感じつつも、電子化に踏み切る勇気がない、という話もお聞きします。今は株の取引自体もネット取引が主流の時代。当社としては電子化をうまく進めることで、それを少しずつでも将来を見据えて持続的な形に変えていくことができればと思っています」と、後藤氏は株主優待制度の将来像を語った。
2024.08.09