コラム

非接触な現場で働く人の活躍を応援したい
空中ディスプレイ”La ⁺ touch™”の実用化に向けた開発秘話

  • 新事業開発本部
  • 第二開発部3チーム
  • 代工 康宏

 私たちは、独自の設計により日常の生活で使える空中ディスプレイ”La⁺ touch™(ラプラスタッチ)”を開発しました。特別な設置スペースは必要ありません。従来のディスプレイと入れ替えるだけでいいのです。既存のタッチパネルと同じ感覚で利用できるLa⁺ touch™は様々な業界で注目され、数多く採用されています。


【目次】
○手術現場を目の当たりにして、術者の負荷を減らしたい
○2017年から空中像インタラクションシステムの研究開発に着手
 >第1世代はコンサバ
 >第2世代はプログレ
 >アバンギャルドな第3世代
○非接触ユーザーインターフェース
○社会実装に向けて


○手術現場を目の当たりにして、術者の負荷を減らしたい

 私は、3Dディスプレイの開発を担当していた経緯があります。3Dディスプレイの開発当時は、広範囲なジャンルの企業様にお声がけいただきました。特に医療分野では腹腔鏡手術の支援技術として大学病院や内視鏡メーカーと共同で開発を行っていました。 内視鏡に関しては、既に先端に2眼式で3D撮影ができるものが発表されていました。ですが、内視鏡の映像を劣化が少なく、また低遅延で表示できるディスプレイは当時ほとんどありませんでした。
 弊社の3Dディスプレイは、低遅延で低劣化な3Dの映像表示技術が評価され、実際に手術室にディスプレイを持ち込み、臨床実験を行いました。患者ではないのに手術現場にいるということがとても不思議な感覚だったことを覚えています。
 執刀医は丁寧に手を洗い手袋をした後は術野の汚染防止から手術用器具以外は触れられないことを知りました。内視鏡操作は助手が行い、執刀医と助手の円滑な意思疎通が求められます。この時、私は、「執刀医自身が、何か簡単な操作を非接触で行えれば少しでも負担が減らせるのでは…」と考えました。振り返ると、それが空中ディスプレイ“La⁺ touch™(ラプラスタッチ)”開発のきっかけでした。


○2017年から空中像インタラクションシステムの研究開発に着手

 3Dディスプレイ開発が完了した後、空中像インタラクションシステムを提案し開発担当となりました。開発開始時は、他社の光学素子である直交リフレクターアレイを使用して開発を推進。LCDと直交リフレクターアレイの構成で、そのレイアウトはLCDと直交リフレクターアレイを傾斜して配置するものでした。いざ試作をしてみると、空中に表示される像(以下、空中像)が暗い、空中像以外に不要像(以下、ゴースト像)が発生し視認性が悪い、という課題が明らかになりました。

>第1世代はコンサバ(2017~2019年)

CEATEC2019に第一世代空中ディスプレイを参考出展。

 私たちは、LCDの改善を進めて、独自のLCDモジュールを開発しました。特殊な集光型バックライトを搭載し、改善後のものは改善前と比較して同一消費電力で空中像の輝度5倍を達成。また、独自開発した光学系により、ゴースト像除去を実現し、鮮明ではっきりとした空中像を表現することに成功しました。
 ところが、予想外の弱点が指摘されました。従来のLCDが薄型でフラットであるのに対し、開発した筐体は大きく、また斜めに映像を映し出すものでした。そのため、従来のLCDから置き換えた場合、筐体の形が大きく異なり、置き換えるメリットは少ないというものでした。

ゴースト画像除去技術

>第2世代はプログレ(2019年~2021年)

 設置のしやすさって重要ですよね。大柄になると特別な設置場所の準備が必要です。前述の指摘内容を改善すべく、次のステップで筐体のスリム化に取り掛かりました。目標は、従来のLCDサイズに近づけるというものです。読者の皆さんはどのような手法を考えるでしょうか?私は、これを実現するには、LCDと直交リフレクターアレイを平行に配置するレイアウトしかないと考えました。私たちは、これまで培った光学設計技術を駆使し、直交リフレクターアレイを使用して、正面方向(法線方向)から空中像を視認可能な業界初の薄型筐体を実現しました。奥行は90mm(駆動回路、制御回路込み)までコンパクト化出来ました。

第12回 オートモーティブワールド(2020年)に第2世代空中ディスプレイを参考出展。

>アバンギャルドな第3世代(2021年~現在)

 第2世代ではLCDと直交リフレクターの平行配置により薄型化が実現できました。しかし、ここでも課題が。上下の視野角(空中像の見える範囲)が狭い(±30度)、空中像がぼける、空中像が暗い、というもので私たちが望むスペックを到底満足するものにはなりませんでした。この時すでに直交リフレクターアレイを使用した開発品の性能向上は限界にきていることを感じていました。
 それならばと、光学素子の自社での開発に踏み切りました。先行するメーカーさんから複数の方式の光学素子が提案されており、私たちの目的にかなった特徴のあるものが提案できるのか全く分かりませんでした。ですが、やるしかありません。朝から晩まで思考実験を重ねる日々が続きました。そんなある日、入浴中に“ボ~ッ”としていると閃いたのです、あるアイデアが。
 読者の皆さんの中にもこのような閃きの経験をした方がいらっしゃるのではないでしょうか?余談ですが、脳科学的にも“ボ~ッ”としている時の方がアイデアをひらめきやすくなる事が分かっており、専門用語で『デフォルト・モード・ネットワーク』と呼ばれるそうです。
 さて、この閃いたアイデアを光学シミュレーションで検証最適化~試作評価まで2週間弱で完了。上下視野角はこれまでの2倍以上(上下:±60度以上)に拡大し、高輝度で高精細な空中映像が表現できるようになりました。また、奥行50mm(駆動回路、制御回路込み)という更なるコンパクト化を実現。光学素子とLCDは平行配置なので、空中像の(光学素子からの)表示距離が同一であれば、大画面になっても奥行サイズは変わりません。更には、汎用部品の使用により、コストの抑制にも成功。遂に私たちが望むものが出来ました。

現在の空中ディスプレイを第14、15回 オートモーティブワールド(2022、2023年)に出展。

空中ディスプレイ”La⁺ touch™(ラプラスタッチ)”の進化

○非接触ユーザーインターフェース

 開発開始時は光学方式であるTOF(Time Of Flight)センサーを使用して開発を行ってきましたが、現在では、静電容量方式であるホバーセンサーを搭載したモデルも準備できています。お客さまの用途や条件に対応した、操作性の良い最適なユーザーインターフェースを提供します。


○社会実装に向けて

 現状は非接触が要求される現場の既存機器の置き換えをターゲットに展開しています。量産及び実用化に向けての技術の最適化を行いつつ、見本市や展示会などで先行公開して、ユーザーの反応とユーザーのニーズを探るとともに、開発のきっかけとなった医療現場をはじめ、新たな応用展開も視野に入れ研究開発を推進しています。


※ 「La place」(ラプラス)は、英語の「place」にもあるように、フランス語の定冠詞「la」に「場、空間」という意味の「place」が組み合わさった言葉である。空中ディスプレイ『La⁺ touch™』(ラプラスタッチ)は、空間を直感的に操作できるTOPPAN独自のシステムとして命名しました。

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2024.04.04

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