持続可能な未来を築くマテリアルリサイクルの全貌
地球の気候変動対策が急がれる中、マテリアルリサイクルなどのリサイクル技術が注目を集めています。2023年5月のG7広島サミットでは、2040年までにプラスチック汚染をゼロにする目標が掲げられました。
日本では2022年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法」(通称:プラ新法)により、企業の取り組みが加速しています。例えば化学メーカーでは革新的なリサイクル技術の開発や、AIを活用した効率的な分別システムの導入など、持続可能な社会の実現に向けた動きが活発化しています。
本記事では、最新のマテリアルリサイクル技術と、その未来への展望を詳しく解説します。
【参考資料】プラスチック資源循環戦略の基本原則「3R+Renewable」

1)マテリアルリサイクルの基本とその重要性

1-1)マテリアルリサイクルとは何か?
マテリアルリサイクルとは、使用済みの製品や廃棄物から素材を回収し、新たな製品に再利用するプロセスを指します。例えば、廃プラスチック製品では、プラスチックPETボトルのリサイクルがその代表例です。
マテリアルリサイクルでは、適切に処理された場合、再生品の品質を元の製品に近づけることができるというメリットがあります。また、リサイクルに必要な設備がケミカルリサイクルなどの他の方法に比べて少ないため、製造コストや環境負荷を低く抑えることができます。
【参考資料】代表的なマテリアルリサイクルの工程

1-2)環境保護におけるリサイクルの役割とは
マテリアルリサイクルは、資源の有効活用や環境保護に関する4つのメリットがあります。
●マテリアルリサイクルの4つのメリット
1.石油、石炭、天然ガスなどの化石資源の有効利用
2.温室効果ガスの削減やエネルギーの節約
3.プラスチック廃棄物の削減
4.リサイクル産業の創出
化石資源の有効利用の観点から、マテリアルリサイクルは資源の枯渇を遅らせるために不可欠です。また、限りある石油や石炭などの化石資源を効率的に利用することで、温室効果ガスの削減に寄与します。
また、マテリアルリサイクルは、新たな資源の採掘や製造加工に伴う電力エネルギーの削減にも貢献します。
さらに、マテリアルリサイクルは廃棄物の削減にもその効果を発揮します。廃棄物が適切に処理されずに埋め立てられると、土壌や水質の汚染を引き起こす可能性があります。つまり、リサイクルによる廃棄物の再利用は、埋め立てなどによる環境問題を軽減することができます。
最後に、マテリアルリサイクルは経済的なメリットもあります。リサイクル産業は雇用を創出し、地域経済の活性化に寄与します。そして、リサイクル素材を利用することで、製品価格を抑えることができるため、消費者にとってもメリットがあります。
1-3)マテリアルリサイクルの歴史と発展
日本におけるマテリアルリサイクルは、環境問題への意識の高まりとともに進展してきました。以下に、主要なマイルストーンを示します。(*1)
まず、1980年代から1990年代にかけて、日本は急速な経済成長を遂げる一方で、廃棄物の増加が問題視されるようになりました。この時期、特にプラスチック廃棄物の処理が課題となり、リサイクルの必要性が認識され始めました。
1995年に「容器包装リサイクル法」が制定され(施行は1997年)、これは日本におけるリサイクル制度の基盤を築く重要な法律となりました。この法律は、容器や包装材のリサイクルを促進し、企業に対してリサイクルの義務を課すものでした。これにより、企業や自治体が積極的にリサイクル活動を行うようになり、マテリアルリサイクルが制度的に支援されることとなりました。
2000年代には、マテリアルリサイクルの技術が進化しました。特にPETボトルのリサイクルが注目され、収集・分別・再生処理を経て、新たな製品として再利用されるプロセスが確立されました。
さらに、2020年代に入ると、プラスチック廃棄物問題が国際的な課題として浮上し、日本もその対応を強化する必要性が高まりました。特に廃プラスチックの有効利用の低さや海洋プラスチック問題への対策として、「プラスチック資源循環戦略」が2019年に策定され、2030年までにプラスチック廃棄物の削減とリサイクル率向上を目指す取り組みが進められています。
【参考資料】マテリアルリサイクル向け原料(廃プラスチック)の内訳(2022年)

2)効率的なマテリアルリサイクル方法の最新動向

2-1)最新技術を活用したマテリアルリサイクル方法
近年、環境保護への意識が高まる中、マテリアルリサイクルの効率化が急速に進んでいます。AIと機械学習を用いた選別システムにより、異なる素材の分離精度が向上し、再生材の品質が大幅に改善されました。
具体的な事例としては、有価物回収業者の「AIによる廃棄物選別ロボットの活用」があります。この回収業者の選別システムは、画像による選別、並びに画像データでは選別できない廃棄物を近赤外線スペクトルにより選別する方法です。そして廃プラスチック選別後、AIロボットが廃棄物を仕分ける仕組みとなっています。
【参考資料】AIを活用した廃棄物選別ロボットの事例

2-2)世界各国のマテリアルリサイクル成功事例
世界各国のマテリアルリサイクルの事例は、地域ごとの技術革新や政策の違いを反映しています。以下に、いくつかの国の具体的な取り組みを紹介します。
●日本
日本では、リサイクル率が高いものの、特に廃プラスチックに関しては課題があります。2022年時点での廃プラスチックの実質的な有効利用率は約87%であり、サーマルリサイクル(熱エネルギー回収)が62%(2022年)と多くを占めています。そのため日本ではマテリアルリサイクル(21.8%、2022年)とケミカルリサイクル(3.4%、2022年)の推進が強く求められています。
【参考資料】日本のリサイクル率

PETボトルのリサイクル事例
PETボトル業界では、3R(リデュース、リユース、 リサイクル)推進自主行動計画を進めています。その結果、PETボトルのリサイクル(回収・再資源化)は、「リサイクル目標85%以上の維持」に対し、実際のリサイクル率は86.9%(2022年度)と高い数値を達成しています。また、2022年度の水平リサイクル(ボトルtoボトル)は16.9万トンとなっています。
【参考資料】PETボトルのリサイクル率(2022年度)

●EU
プラスチックのための循環経済報告(Plastics Europe 2024年3月)によると、欧州で新製品や部品に転換されるすべてのプラスチック樹脂のうち、循環型プラスチックが13.5%(730万トン)を占めています。つまり、プラスチック分野では、2030年までに循環型プラスチックを25%にするというロードマップの目標達成に向けて、半分以上を達成しています。
また、リサイクル率が2022年に26.9%(870万トン)に達し、初めて、リサイクルされるプラスチック廃棄物が埋め立て処分される量を上回ったことも明らかになりました。これはプラスチックの循環性という点で重要なマイルストーンになっています。
【参考資料】EUのマテリアルリサイクル率(2021年)

●オーストラリア
オーストラリアでは、PVC Separation Pty Ltdという企業がポリ塩化ビニル(PVC)の分離技術を開発しました。この技術は、2つの溶媒を使用し複数のポリマーを分離することができ、他の材料にも応用可能です。また、同社ではAIソフトを使用して廃棄物の形状や色、包装状態から廃棄物を識別し、高速で分別することを検討しています。
2-3)効率化のための新しいマテリアルリサイクルプロセス
NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の革新的プラスチック資源循環プロセス技術開発事業では、廃プラスチックの適正処理と資源循環を目指しています。特にマテリアルリサイクルにおいては、劣化した廃プラスチックを元の材料と遜色ない品質に再生する技術を開発しています。これにより、2030年度までに約300万トン/年の廃プラスチックを有効利用し、資源循環に貢献することを目指しています。
【参考資料】NEDOの革新的プラスチック資源循環プロセス技術開発事業

注)マテリアルリサイクルは、上図の「②材料再生」であり、廃プラスチックを元のプラスチック材料と遜色ない材料に再生する技術です。NEDOでは、廃プラスチックから再生したプラスチックの劣化原因の解明、及び材料再生・成形加工技術を開発しています。
3)マテリアルリサイクルのメリットとデメリット

3-1)マテリアルリサイクルの環境への影響とその評価
●環境への影響
マテリアルリサイクルは、廃棄物を新たな製品の原料として再利用するプロセスであり、資源の有効活用とエネルギー消費の削減に寄与します。これにより、原材料の採取や新規製品の製造に必要なエネルギー(電力エネルギー等)を大幅に削減し、温室効果ガスの排出の抑制も期待されています。特に、廃プラスチックのリサイクルでは、土壌や水質の汚染を防ぐ効果があります。
●リサイクル評価
リサイクルの効果を評価するためには、リサイクル率や再資源化率が指標として用いられます。日本では「循環型社会形成推進基本法」や「容器包装リサイクル法」などに基づき、リサイクル活動が評価され、少ない資源での生産性向上やゼロエミッションを目指しています。
また、ライフサイクルアセスメント(LCA)を用いて、製品のライフサイクル全体を通じた環境影響を定量的に分析し、マテリアルリサイクルの環境負荷低減効果を明確にします。
3-2)マテリアルリサイクルの経済的な利点とコスト
●経済的な利点
マテリアルリサイクルは、廃棄物から新たな製品を生み出すことができるため、天然資源の消費を抑制できます。これにより、新しい原材料を採掘する必要が減り、資源の枯渇を防ぐことができます。
●コスト面での課題
リサイクル施設の設置や運営には高額な初期投資が必要です。また、分別や洗浄などのプロセスには人件費や設備維持費がかかります。これらのコストは、新規原料から製品を作る場合よりも高くなることがあります。
3-3)マテリアルリサイクルの課題とその解決策
●分別の難しさと技術的課題
リサイクルされた素材は、元の品質を維持できないことが多く、特にプラスチックの場合、熱履歴や異物混入によって物性が低下します。これにより、再利用可能な製品の範囲が制限されるため、リサイクルの効果が薄れます。
また、マテリアルリサイクルには高いコストがかかります。廃棄物の収集、分別、洗浄、再加工など、多くの工程が必要であり、それぞれに人件費や設備投資が伴います。これにより、リサイクルされた製品の価格が新規原料による製品よりも高くなることがあります。
●技術革新と支援策
マテリアルリサイクル技術を向上させることで、上述の品質劣化を抑えることが可能です。例えば、モノマテリアル(単一素材)を使用した製品設計を推進することで、分別作業を簡素化し、高品質な再生プラスチックを得ることができます。
リサイクルプロセス(廃棄物の収集、分別、洗浄、再加工など)の効率化や自動化を進めることで、人件費や設備投資を削減することができます。また、自治体や企業間で協力し合い、リサイクル設備を共有することでコスト負担を軽減することも有効となります。
さらに、日本政府は「プラスチック資源循環促進法」に基づいた、各種補助金などの支援策を実施しています。例えば、経済産業省が実施した「廃プラスチックの資源循環高度化事業費補助金」などがそれに当たります。
4)マテリアルリサイクルを通じた未来への投資

4-1)マテリアルリサイクルしたプラスチックをフィルム化し、再利用
プラスチック廃棄物の削減に向けたマテリアルリサイクルや、メカニカルリサイクルの取り組みが注目を集めています。例えば、メカニカルリサイクルのプロセスでは、使用済みのPETボトルは細かく粉砕され、洗浄により不純物を除去した後、高温・減圧下で処理され樹脂に変わります。
その後、再生したプラスチック樹脂は均一で高品質な薄いフィルム状に加工されます。
再生プラスチックの利用効果は環境面で大きくなります。具体的には従来は焼却や埋め立て処分されていたプラスチックの多くが再び製品として生まれ変わるため、環境負荷の大幅な低減に貢献します。さらに、石油由来の新規プラスチックの生産を抑制し、資源の有効活用を促進します。
この革新的なリサイクル方法は、持続可能な循環型社会の実現に向けた重要な一歩として、産業界からも大きな期待が寄せられています。
【参考資料】PETボトルのリサイクル

4-2)マテリアルリサイクルを使用した持続可能な社会の実現に向けて
環境保護の重要性が叫ばれる現代、資源の有効活用は喫緊の課題となっています。マテリアルリサイクルは、使用済み製品を原料として再利用する手法であり、限りある資源を最大限に活用する方法として注目されています。この取り組みにより、廃プラスチックの削減と新たな化石資源の採掘抑制が可能となり、温室効果ガスなどの環境負荷を軽減します。
持続可能な社会の実現には、企業や個人が一体となってリサイクル活動に参加し、循環型経済システムを構築することが不可欠です。そのためマテリアルリサイクルの推進は、将来世代のための環境保護と資源確保の両立を可能にする重要な取り組みとなっています。
4-3)リサイクル産業の成長と投資機会
マテリアルリサイクル技術の進歩により、リサイクル産業は急速に成長しています。この新興市場のポテンシャルは大きく、アジアなどの発展途上国では、廃棄物管理の改善と資源の有効活用が急務となっています。
この状況は、革新的なリサイクル企業にとって大きなビジネスチャンスを生み出しています。投資の魅力も高まっており、環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からも注目を集めています。
持続可能な事業モデルと高い成長率を兼ね備えたリサイクル企業は、長期的な投資価値を生みだす可能性があります。そのためマテリアルリサイクル市場への投資は、環境保護に貢献しながら、潜在的な高リターンを得られる投資機会となっています。
5)TOPPANの環境に優しい商品事例
マテリアルリサイクル事例としての「メカニカルリサイクルPET軟包装」を以下にご紹介します。TOPPANが開発した「メカニカルリサイクルPETフィルム」は、マテリアルリサイクルの一つである再生PET樹脂を使用したPETフィルムであり、各種パウチの印刷基材として使用されています。
主な特長は、以下となります。
①再生PET樹脂を80%使用
②一般PETフィルムと同等の物性、透明性
③一般PETフィルムに比べ、フィルム製造時のCO2排出量を約24%削減
④厚生労働省のガイドラインに適合し、食品一次容器に使用可能
⑤TOPPAN独自のバリアフィルム「GL BARRIER」タイプは高いバリア性と環境適性を両立
そのため、上述のPETフィルムは、洗顔料などの日用品用途や医薬品、食料品分野などの、環境に優しい製品づくりを推進するお客さまに広く採用されています。
こちらの製品にご興味を持たれたお客さまは、ぜひ当社へお問い合わせをお願いいたします。
(*1)プラスチック循環利用協会 50年史|一般社団法人 プラスチック循環利用協会
https://www.pwmi.or.jp/pdf/pwmi_50year.pdf
(*2)プラスチックの基礎知識(2024)|一般社団法人 プラスチック循環利用協会
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf、p.5、p8
(*3)産業廃棄物処理におけるAI・IoT等の導入事例集|環境省
https://www.env.go.jp/recycle/recycle/waste/R2dounyuujirei.pdf
(*4)PETボトルリサイクル 年次報告書2023|PETボトルリサイクル推進協議会
https://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/2023/2023.pdf、p.1
(*5)プラスチック包装廃棄物のリサイクル率、2021年|ユーロスタット
https://ec.europa.eu/eurostat/statisticsexplained/images/d/d2/Recycling_rate_of_plastic_packaging_waste%2C_2021_%28%25%29_.png
(*6)廃プラスチックをリサイクルする革新的なプロセス技術開発に着手 | ニュース | NEDO|https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101345.html
2024.11.27