LCAやCFPの基礎知識と違いをわかりやすく解説
環境関係の用語は略語が多くて分かりにくいですね。最近のテレビや新聞紙上でもLCA、CFP、スコープ3などの言葉が多数使用されています。
2023年、経産省と環境省は、カーボンフットプリントの算定・検証に関する指針となる『カーボンフットプリントガイドライン』を発表しました。(*1)
また、LCAや、CFPの算定、スコープ3の算定などの活動は「自社でどのように取り組めばよいか?」と疑問を持つ方も多くいらっしゃると思います。
この記事では、企業でLCAや、CFP算定、スコープ3算定に関わる方に向けて、用語の意味や違い、及び計算方法について詳しく解説します。
1)LCAとは何か
1-1)LCAとは何か
LCAとは、製品のライフサイクル全体を考慮した環境への影響を定量的に評価する手法です。Life Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント)の略称です。
LCAでは製品やサービスのライフサイクル(原材料調達から、生産、流通、使用、廃棄、リサイクル)に対してどのようなインプット(投入)があり、どのようなアウトプット(排出)があるのかを明確にします。また、その結果から環境への影響がどれ程になるかを見積もることが可能です。
LCAの定義や規格内容は国際規格ISO14040/14044により決められています。しかし、詳細な運用は、それぞれの組織の目的に合わせて行う必要があります。(*2)
1-2)LCAの具体的な進め方
製造業におけるLCAは、ライフサイクル全体の個々のプロセスにわたって、投入する資源や排出する環境負荷を定量的に評価する方法です。また、LCAを実施する場合には、4つのステップを踏む必要があります。
●LCAの4ステップ(*3)
1.目的と調査範囲の設定
LCAの目的と活用方法を明確にし、対象とする製品やサービスの機能や性能を特定します。次いで調査結果を誰にどのように提供し利用するかを決定します。更にライフサイクルフロー図を作成し、算定対象となるプロセスや範囲を明確にします。
2.インベントリ分析
インベントリ分析とは、環境負荷を見える化するための手法です。評価対象とする製品やサービスのライフサイクルの流れを細分化し、各プロセスでのインプット(原材料、エネルギー、燃料など)とアウトプット(大気排出物、川・海などへの排出物、廃棄物など)を定量化、入出力の明細を作成します。
【参考資料】製品ライフサイクルにおけるインプット・アウトプットの流れ
3. 環境影響評価
環境影響評価は、国際規格ISO14040や、経済産業省・環境省のガイドラインに従います。その評価は、温室効果ガス排出量やエネルギー消費量などの指標で示されます。
4. 解釈
環境影響評価の結果に基づき、LCAの目的に沿った解釈を行います。解釈では、製品やサービスの環境負荷低減策の提案や、環境負荷の低さをPRするための情報開示が行われます。
1-3)LCAの特徴と活用方法
企業はLCAにより製品やサービスの環境負荷を把握し、改善活動を主体的に実施できます。本項では、そのLCAの特徴や活用方法を解説します。
●LCAの特徴
▶ 原材料調達から生産・流通・使用・廃棄・リサイクルのプロセスを分析することで、環境負荷のホットスポットを理解できます。
▶ 環境負荷を定量化できるため、他の製品やサービスのデータと比較検討が容易となります。
▶ CO₂排出量による地球温暖化だけでなく、酸性化・生態系破壊・有害化学物質などさまざまな側面から評価が可能です。
●LCAの活用方法
▶自社の製品やサービスが環境に優しいか否かを判断することができます。
▶LCA評価の測定データや取り組みを、ホームページや製品ラベルで公開し消費者にPRすることができます。
2)CFPとは
2-1)CFPとは何か
CFPとは、Carbon Footprint of Product の略称です。 製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るライフサイク ル全体で排出される 温室効果ガス(以下GHGと記載、Greenhouse-gasの略称)の排出量を、 CO₂排出量に換算して表⽰する仕組みです。(*4)
2-2)CFPの取り組みの流れとは
CFPを推進する上での流れは大きく4つのステップに分けられます。以下にその流れの詳細を解説します。(*4)(*5)
●CFP推進の3つのステップ
1. CFPの取り組みや目的の明確化
CFPを推進する自社を取り巻く消費者などのステークホルダーと、自社の関係を見える化します。その上で、CFPに取り組む目的(2050年カーボンニュートラル目標達成など)や、CFPの使用用途(グリーン調達など)を明確に定めます。
【参考資料】自社を取り巻くステークホルダーの明確化
2. 算定対象製品のライフサイクルを構成するプロセスを明確化
算定対象の製品が決定したら、①原材料調達②工場生産③流通・販売④顧客での使用・維持管理⑤廃棄・リサイクルのプロセスの中で、製品がどのように流れるのかを明らかにします。
3. 各プロセスのGHG排出量 (及び除去・吸収量) を計算し、合算
細分化した各プロセスの中で、どの工程でどれくらいのGHG排出量が有るのかLCAを用いて計算します。計算した数値は合算しCFPの算定に活用されます。
具体的には、国際規格ISO14067や「カーボンフットプリントガイドライン(経済産業省、環境省)」に準拠し自社ルールを作成します。その後自社ルールに則ってCO₂排出量を計算します。
【参考資料】製品ライフサイクルの一般的な流れ、及びCFPの算定方法
算定対象とした全てのプロセスの要素(モノ、工程)を列挙することが理想です。一方で、CFP に対する影響が小さく、かつ算定が難しいプ ロセスは計算から除外することもあります。
【参考資料】各プロセスに含まれる具体的な要素の例
2-3)LCAとCFPの違い
LCAやCFPは環境負荷を定量評価するという意味では似た用語です。LCAとCFPの定義と評価対象を表にまとめました。(*4)(*6)
まず一番の大きな違いは、LCAは「評価手法」であるのに対して、CFPは「数値」や「仕組み」である点です。CFPはLCAという手法を用いて算定される数字の一つです。
他には評価対象に違いがあります。CFPはGHGの排出量により地球温暖化を評価するのに対して、LCAは水の消費量や大気汚染など様々な評価に使用されます。
用語 |
定義(参考文献) |
評価対象 |
LCA |
製品ライフサイクル(原材料調達から廃棄/リサイクル)の全体を通したインプット、アプトプット及び潜在的な環境影響のまとめ、並びに評価(JIS Q14040) | 地球温暖化、オゾン層破壊、資源枯渇、酸性化、生態系破壊、騒音・振動などの生活環境課題、砂漠化、生体毒性、有害化学物質、大気汚染、富栄養化、廃棄物、など |
CFP |
製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出されるGHGの排出量をCO₂に換算し、製品に表示された数値もしくはその仕組み(カーボンフットプリントガイドライン_経済産業省、環境省) |
地球温暖化 |
3)スコープ3とは
3-1)スコープ3とは
スコープ3は、原料調達・製造・物流・販売・廃棄などの組織活動に伴う自社以外のCO₂排出量です。具体的には、下図のように自社が製品製造のみに携わっている場合、自社排出のCO₂排出量(Scope1,2)以外の排出量を指します。
現在、サプライチェーンにおけるCO₂排出量が、各社の“勝⼿ルール”で算定された 時代から、“グローバルスタンダード”の登場により、皆が同じルール で算定する時代へ 変わりました。特に英国の環境格付け機関CDP(Carbon Disclosure Projectの略称)による企業環境評価の設問書(スコープ3含む)は、この方式を定着させました。また、CDPのスコープ3開⽰要求は、現在当たり前のように実施されています。(*7)(*8)
3-2)スコープ3の算定方法
サプライチェーン排出量におけるスコープ3は15のカテゴリに分類されます。カテゴリ毎の算定方法は個々の分類により異なります。
排出量の算定には、2つの方法があります。
▶関係取引先から排出量の情報提供を受ける
▶計算により算出する「排出量=活動量×排出原単位」
以下では、後者の方法で算定する進め方について概要を説明します。
●スコープ3のCO₂排出量を計算する方法(*7)(*10)
算定対象範囲を選定後、スコープ3のカテゴリを1~15の分類に分けます。その後、カテゴリ別算定方法に従って、CO₂排出量を計算します。
3-3)LCAとスコープ3の違い
LCAとスコープ3は似た意味をもつ言葉です。LCAとスコープ3それぞれの定義や評価対象範囲について比較し、表にまとめました。(*6)(*7)
LCAとスコープ3の大きな違いは、まず、LCAが「評価手法」であるのに対して、スコープ3は「CO₂排出量の数値」である点です。スコープ3はLCAいう手法を用いて算定される数字の一つです。
他には評価対象に違いがあります。スコープ3はLCA用いて計算する事業活動の中で、GHG排出量の自社以外の部分を評価対象とします。それに対して、LCAはGHG排出量だけでなく、オゾン層破壊・資源枯渇・酸性化などのあらゆる環境負荷を対象範囲にしています。
用語 | 定義(参考文献) |
評価対象 |
LCA |
製品ライフサイクル(原材料調達から廃棄/リサイクル)の全体を通したインプット、アプトプット及び潜在的な環境影響のまとめ、並びに評価(JIS Q14040) | 地球温暖化、オゾン層破壊、資源枯渇、酸性化、生態系破壊、騒音・振動などの生活環境課題、砂漠化、生体毒性、有害化学物質、大気汚染、富栄養化、廃棄物、など |
スコープ3 |
サプライヤーを含む事業活動全体を通して排出されるCO₂から自社での直接排出量(スコープ1)と自社での間接排出量(スコープ2)を除いたもの(グリーン・バリューチェーンプラットフォーム|環境省) | サプライヤーを含む事業活動全体の中での自社以外の部分 |
【参考資料】販売した製品の算定対象年(スコープ3)にて、生涯排出量を計上する例
4)TOPPANのご支援内容
TOPPANは、お客さまの製品やサービスの環境負荷の評価をサポートします。特に、パッケージによるCO₂排出量の削減効果の算出に関するご相談を承ります。
パッケージのCO₂排出量の計算システム「SmartLCA-CO₂」では簡単にライフサイクル全体でのパッケージのCO₂排出量が計算できます。長年幅広い業界にパッケージを供給し、サステナブルなパッケージの開発に取り組んできたノウハウを活かして開発したシステムです。
お気軽にお問い合わせください。
(*1)「カーボンフットプリントレポート」及び「カーボンフットプリントガイドライン」を取りまとめました (METI/経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331009/20230331009.html
(*2)再生可能エネルギー及び水素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン | 地球環境・国際環境協力 | 環境省 (env.go.jp)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/lca/index.html
(*3)ライフサイクルアセスメント|社団法人 産業環境管理協会|研修用テキスト
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/3r_policy/policy/pdf/text_2_3_a.pdf
(*4)カーボンフットプリント ガイドライン|環境省|資料
https://www.env.go.jp/content/000124385.pdf
(*5)カーボンフットプリント ガイドライン (別冊)CFP 実践ガイド|経済産業省、環境省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_footprint/pdf/20230526_4.pdf
(*6)環境マネジメント-ライフサイクルアセスメント-原則及び枠組み|日本工業規格JIS Q 14040:2010 (ISO 14040:2006)
https://kikakurui.com/q/Q14040-2010-01.html
(*7)サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて|環境省|資料
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_all_20230301.pdf
(*8)排出量算定について- グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
(*9)サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて|環境省|資料
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_all_20230301.pdf
(*10)サプライチェーン排出量算定の考え方|環境省|資料
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf
2024.07.30