コラム

カーボンニュートラルにおけるLCAの活用方法と企業の削減対策とは

2023年12月、気候変動に関する国際会議COP28が開催されました。国際社会では「カーボンニュートラル」を目標に掲げ、各国・各企業がCO₂をはじめとした温室効果ガスの削減に取り組んでいます。「自社でも今後取り組まなければいけない」「どうすればいいかわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、「カーボンニュートラル」とは何か、カーボンニュートラルとLCAとの関係や企業の対策はどのように進めるべきかについて詳しく解説します。

目次
1) カーボンニュートラルとは
1-1) カーボンニュートラルとは何か?
1-2) 2050年カーボンニュートラルの宣言
1-3) カーボンニュートラルのメリットと課題
2) LCAとは
2-1) ライフサイクルアセスメント(LCA)の概要
2-2) カーボンフットプリントとは何か?
2-3) カーボンプライシングとの関係
3) TOPPANの環境への取り組み


1) カーボンニュートラルとは

1-1) カーボンニュートラルとは何か?

カーボンニュートラルとは、温室効果ガス(以下GHGと記載, Greenhouse Gasの略称)の排出量と吸収量を均衡させることを意味します。

もう少し簡単に説明すると、二酸化炭素(CO₂)などのGHGの人為的な「排出量」から、人為的な植林、森林管理などの植物によるCO₂「吸収量」を差し引いて計算したCO₂量が、実質ゼロになることです。

では、ここで示されたGHGとは何でしょうか?太陽の光は、地球の大気を通過し、地表面を暖めます。暖まった地表面は、熱を赤外線として宇宙空間へ放射しますが、大気がその熱の一部を吸収します。これは、大気中に熱(赤外線)を吸収する性質を持つガスが存在するためです。このような性質を持つガスを「温室効果ガス(GHG)」と呼びます。またGHGは、大気中にわずかに存在するガスです。

その成分は、発電所や自動車などから排出されるCO₂、家畜のゲップなどから発生するメタン、窒素肥料の使用時に発生する一酸化二窒素などがあります。また、それ以外にもエアコン・冷蔵庫の冷媒に使用される代替フロンなども温室効果を持っています。

●なぜカーボンニュートラルを目指すのか
将来起こるいろいろな「気候変動」として、気温上昇・海面上昇・干ばつなどが予測されています。このような気候危機を回避するため、いまから「気候変動への対策」に取り組む必要があります。

最近、国内外でさまざまな異常気象による災害が増えています。例えば、2023年の日本では記録的な猛暑が起こり、お米や野菜・果実などの農作物に深刻な被害を与えました。また、熱中症件数(5~9月)は全国で9万1,467人となり、2008年以降2番目に多い数字となりました。(*1)

海外事例としては、2022年6月中旬にパキスタンで起こった豪雨・洪水で3,300万人が被災し、210万棟の家屋が損壊しました。その結果、パキスタン政府は非常事態宣言を行い、国際社会に支援を求めました。(*2)この災害は、「COP28」会議で合意された「富裕国が7億ドルの基金拠出」の根拠にもなっています。

日本の将来予測
図1.日本の将来予測  出典:文部科学省、気象庁(*3)

●CO₂排出量を実質ゼロにするには
CO₂排出量は枯渇性燃料を使ったエネルギーを再生可能エネルギーに置き換えることなどで削減することは可能です。ただ、人間が活動する限り、排出量をゼロにすることは不可能です。

一方で植物を利用した植林や森林の維持管理によるCO₂吸収を吸収量として算出し、排出量と吸収量の合計を正味ゼロにする活動は可能となります。

そこで、環境負荷をCO₂に置き換えて目標を明確化し、その排出量と吸収量の合計をゼロにするカーボンニュートラルという考え方が重要になってきます。

1-2) 2050年カーボンニュートラルの宣言

●2050年カーボンニュートラル宣言とは
2050年カーボンニュートラル宣言とは、地球温暖化対策として世界各国が長期的な取り組みを通りして、2050年にカーボンニュートラルを実現することを宣言したものになります。先進国だけの取組みにとどまらず、発展途上国も含め世界的な規模で実現を目指していきます。

各国での取り組み内容や宣言内容は様々となりますが、各国複数の達成シナリオを描いて取り組んでいます。

以下、日本、EU、米国のそれぞれの取組みを簡単にご紹介します。


●日本政府の取り組み(*4)
2020年10月の臨時国会にて当時の菅総理が「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。これを踏まえ、経済産業省が中心となり、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を公表しています。この戦略には産業・エネルギーの面から成長が期待される14分野の実行計画が含まれています。また、これらの成長戦略に沿った企業の取り組みを後押しする政策ツールとして、予算(グリーンイノベーション基金)、税、金融、規制改革・標準化、国際連携などの政策ツールが提示されています。


●EUの取り組み(*5)
世界に先駆けてカーボンニュートラルを宣言したEUの2050年に向けた環境政策は、気候変動に立ち向かうとともに、公正で革新的なグリーン移行を推進し、全ての人にとってより良い未来を築くことを目指しています。具体的には以下の施策を推進しています。

①2050年までにクライメート・ニュートラル(CO₂だけではなく、メタンや一酸化二窒素など、全てのGHGをゼロにする取り組み)になるという目標を掲げた「欧州グリーンディール」を発表、2030年までにGHGの排出を1990年比で55%削減
②2030年の55%削減目標を達成するための政策パッケージとして、Fit for 55を発表
③気候、エネルギー、土地利用、運輸、税制政策を改めるための包括法案を採択


●米国の取り組み(*6)
米国のバイデン政権は、気候変動対策を重視し、連邦政府の活動全般における排出量を削減しています。また、アメリカのクリーンエネルギー産業と製造業に投資し、クリーンで健康的、レジリエンスの高い社会の形成を目指しています。具体的には以下のような目標や主な施策を掲げています。

①2030年におけるGHGを2005年比で50~52%削減
②2050年排出量ネットゼロ目標を達成する。なお具体的な政策の実施による排出量の削減とともに、カーボンオフセット事業の推進を検討
③交通・電力・水道などに大規模投資を行い、公共インフラをアップグレード

1-3) カーボンニュートラルのメリットと課題

カーボンニュートラルは、温室効果ガス(GHG)の排出量と吸収量を等しくすることで、地球温暖化の抑制を目指します。そのため、カーボンニュートラルを推進するメリットとしては、「地球温暖化対策への貢献」・「環境保護意識が高い企業イメージの構築」・「市場競争力の向上」など多数あります。                                     

一方で、推進するための課題としては、「技術開発やその普及」・「温室効果ガス(GHG)排出量の定量・検証」・「国際協調」などがあります。

日本では、政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、各企業では「電気自動車(EV)の導入」・「再生エネルギーの利用」・「植林」などの他、自社で製造・販売する製品自体の素材や製造方法を見直して、よりCO₂排出量の少ない商品を開発するなど、いろいろな施策が進められています。


2) LCAとは

2-1) ライフサイクルアセスメント(LCA)の概要

LCAとはライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)の略称であり、環境負荷を見える化する手法です。製品やサービスの原料調達から生産・廃棄・リサイクルに至る全てのプロセスを分析し、GHG排出量や環境負荷を算出する方法です。

TOPPANはLCAを用いてパッケージの原料調達から廃棄・リサイクルまでライフサイクル全体の環境負荷を算定しています。

2-2) カーボンフットプリントとは何か?

カーボンフットプリント(以下CFPと記載, Carbon Footprint of Productの略称)とは、LCAの手法を用いて商品やサービスの原料調達から生産・廃棄・リサイクルに至るすべてのプロセスを分析し、GHG排出量をCO₂に換算して表示するものです。(*7)

GHGを評価の対象としているCFPは、気候変動への影響を測定する重要な指標となっています。

カーボンフットプリントの算定の仕方
図2. カーボンフットプリントの算定の仕方 出典:経済産業省、環境省(*7)

2-3) カーボンプライシングとの関係

現在、地球温暖化対策として世界各国がカーボンプライシングに取り組んでいます。

カーボンプライシングとは、CO₂量(カーボン)に値付けする(プライシング)という意味です。その手法の一つとして、炭素税などの排出したCO₂に応じた税金が課される方法がありますが、これは排出者の行動を変化させるための政策です。地球温暖化による気候災害を防ぐため、CO₂などのGHG排出量の削減活動を推進する仕組みです。

地球が温暖化すると台風や豪雨・洪水が増えたり、熱波による熱中症や農作物の不作が増えたりします。大きな気候災害が起こらないようにするため、CO₂を出す企業は、自らCO₂排出量に値付けをして投資判断の指標にしたり、値付けされた金額や税率などのルールに従って、国内外で取引を実施したりすることになります。


●カーボンプライシングの種類
CO₂排出量を金額化する代表的な方法を以下に4つ紹介します。(*8)

① 炭素税
② 排出権取引制度(ETS: Emission Trading Scheme)
③ 国内クレジット取引
④ 炭素国境調整措置(CBAM: Carbon Border Adjustment Mechanism)

それぞれの制度について概要を説明します。

① 炭素税とは
炭素税とは、各国政府がCO₂排出量当たりの税率を設定するものです。現在、スウェーデン、スイスなどのヨーロッパ諸国を中心に導入が進んでいます。日本では2012年に地球温暖化対策税として導入され、CO₂換算で1トン当たり289円が原油、天然ガス、石炭購入時に課税されています。

② 排出権取引制度とは(ETS: Emission Trading Scheme)
排出権取引制度とは、国や企業ごとに定めたCO₂排出枠を取引する制度です。この取引では初めに国や企業毎に排出枠(キャップ)を設定します。その枠を超えて排出した国や企業は、余った枠を持つ国や企業から排出量を購入することができます。

③ 国内クレジット取引とは
国内クレジット取引(Jクレジットなど)とは、CO₂などのGHGの排出削減量や吸収量をクレジットとして発行し、売買可能にする仕組みです。

④ 炭素国境調整措置(CBAM :Carbon Border Adjustment Mechanism)とは
CBAMとは、厳しい気候変動対策をとる国(A国)が、対策が相対的に不十分な国(B国)からの輸入品に対して、炭素コスト分の課金を行うことです。また逆に、A国からB国への輸出に際して、その製造に当たって発生した炭素コストを還付する場合もあります。


●海外のカーボンプライシング導入状況(*9)
カーボンプライシングは、欧米を中心に導入が進んでいます。特に、EUではEU排出権取引制度(EU ETS)が2005年からスタートしました。

EU ETSは世界初の炭素マーケットであり、EU加盟国は2050年にクライメート・ニュートラルの達成を目指しています。

世界銀行によると、これらのカーボンプライシング総額は年々増加しており、特に2021年はEU ETSを含む排出量取引制度の価格高騰に伴い、世界全体で約840億ドルとなっています。

カーボンプライシングの導入国
図3. カーボンプライシングの導入国(2022年4月時点) 出典:経済産業省 資源エネルギー庁(*9)

●なぜ、カーボンプライシングにLCAが必要なのか
LCAは環境負荷を見える化する手法です。LCAを活用することで、CO₂排出量を算定することができます。このCO₂排出量に値付けをすることがカーボンプライシングです。

CO₂排出量に値付けをすることで、CO₂排出量を金銭的価値に置き換えて捉えることができるので、排出者の行動変容を促すことになります。


3) TOPPANの環境への取り組み

企業は、責任ある国際社会の一員として、未来を見据えた地球環境の保全に配慮し、持続可能な社会の実現に貢献することが求められます。カーボンニュートラルを達成するために、LCA を活用してまずは環境負荷を定量化して具体対策に繋げるなど、できることからはじめて、PDCAサイクルを回しながら継続的に対策を進めることが重要です。

2030年の目標や2050年の目標に向けてLCAを活用することで、GHG排出量を削減できます。

TOPPANでは、LCAなどの手法を活用しながら、地球環境の保全に配慮した企業活動を通して、以下の取り組みを推進しています。

① 脱炭素社会への貢献:GHG排出を実質ゼロにする取り組み
② 生物多様性の保全:自然の保全と社会経済活動の両立
③ 資源循環型社会への貢献:廃棄物のゼロエミッション
④ 水の最適利用:最適な水利用と水質汚染防止

特に脱炭素社会への貢献について、具体的な環境への取り組み活動の実績は以下のとおりとなります。

バリアパッケージで81,000トンのCO₂排出量削減

TOPPANは、アルミ箔からの置き換えでCO₂排出量を削減する、透明バリアフィルム「GL BARRIER」を活用したパッケージを市場へ展開しています。2021年度の出荷量からCO₂排出量を算出した結果、アルミ箔を用いたパッケージに比べ、81,000トンのCO₂排出量の削減効果となりました※。
※算定対象は「GL BARRIER」を使用したレトルト食品パウチとモノマテリアル口栓付き食品パウチ。「GL BARRIER」とアルミフィルム(PETフィルム/アルミ箔)との比較。算定範囲はパッケージの原材料、製造、輸送、廃棄。全て国内の製造拠点での生産と想定して算定。

このCO₂排出量の削減効果の算出にもLCAが用いられています。TOPPANは、こういったパッケージのLCAに関わる長年のノウハウを活かして、パッケージのライフサイクル全体でのCO₂排出量の計算システム「SmartLCA-CO₂」を開発しました。このシステムをご導入いただくことで、パッケージのCO₂排出量が簡単に計算でき、企業のCO₂排出量削減のPDCAサイクルを継続してご実施いただけます。


出典:
(*1)ことし5月から9月の熱中症搬送は9万1467人 過去2番目|NHK|ニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231027/k10014239721000.html
(*2)パキスタンの洪水:政府が国連WFPへ緊急対応の支援を要請|国連WFP|
https://ja.wfp.org/stories/hakisutannohongshuizhengfukaguolianwfphejinjiduiyingnozhiyuanwoyaoqing
(*3)日本の気候変動2020(概要)文部科学省、気象庁
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/2020/pdf/cc2020_gaiyo.pdf
(*4)2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html
(*5)欧州委、2050年までに気候中立を目指す新たな政策を公表|Jetro
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/12/2e011eee70f6cdbf.html
(*6)米エネルギー情報局、2050年までのエネルギー展望を公表|Jetro
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/03/9d0fc3bb8bbc3d70.html
(*7)カーボンフットプリント ガイドライン|経済産業省、環境省
https://www.env.go.jp/content/000136177.pdf
(*8)世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済手法のあり方|経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_neutral_jitsugen/pdf/006_02_00.pdf
(*9)カーボンプライシングを巡る動向|資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/1-3-1.html

2024.07.30

新着記事 LATEST ARTICLE
    人気記事 POPULAR ARTICLE
      関連サービス SERVICE