コラム

LCA計算方法の基礎から応用まで | エコ活動の数値化

持続可能な社会の実現に向けて、製品やサービスの環境負荷を定量評価する手法であるLCAに取り組む企業が増えています。LCAでは、どのように環境負荷を定量するのでしょうか?


1)LCAとは何か

1-1)LCAとは何か

LCA(Life Cycle Assessment)とは、原材料(資源採取から原材料製造)から製品の製造・使用・リサイクル・廃棄など、ライフサイクル全体にわたって、投入する資源や排出する物質の環境負荷を定量的に評価する手法です。

LCAは、評価する対象によって大きく二つの種類に大別することがあります。製品を対象として原材料から製品の製造・使用・リサイクル・廃棄までの排出量を評価することを「製品のLCA」といいます。これに対してサプライチェーン排出量(※1)の評価は「組織のLCA」とも呼ばれています。製品のみではなく、対象組織におけるサプライチェーン上の活動を算定することは、企業全体を把握し管理することに繋がります。そのため、「組織のLCA」は企業の環境経営指標や機関投資家のチェックポイントとして注目を集めています。

※1:原料調達・製造・物流・販売・廃棄並びに機械/建物などの資本財・出張・通勤などの事業者の組織活動全体を対象とした温室効果ガス(GHG)排出量

図1. LCAの概要と代表的な温室効果ガス排出量の算定方法(*1)(出典:環境省)

1-2)LCAの国際基準と日本のガイドライン

●LCAの国際基準(*2)
LCA(Life Cycle Assessment)の国際基準としては、ISO14040とISO14044があります。これらの基準は、製品やサービスのライフサイクル全体にわたって環境負荷を定量的に評価する規格です。ISO14040はLCAの原則と枠組み、ISO14044はLCAの実施における技術的要求事項やガイドラインを定めています。

また、LCA適用に関する付属書の提供や、他の環境マネージメント・システムとの関連についても説明されています。

企業は、これらの基準に従って、自社製品の環境負荷を評価し、環境パフォーマンスの改善に取り組むことができます。

●日本のガイドライン(*3)
上述の国際基準の策定や、温暖化対策の推進を積極的に推進するため、環境省と経済産業省は「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する 基本ガイドライン」を公表しています。

事業者が購入する原材料・製品やサービスの製造・輸送に伴う排出量、及び事業者自らの活動に伴う排出量が対象です。さらに事業者が製造・販売した製品・サービスの流通・使用・廃棄などに伴う排出量も算定対象となります。

これらの排出量をサプライチェーンの各段階で算定・把握することにより、サプライチェーンにおける排出量の合計値や、排出削減についてポテンシャルの大きな箇所が明らかになります。その結果、サプライチェーン全体で事業者が効率的な削減対策を実施することが可能となります。

2)LCAの基本的な計算式

2-1)LCAの実施フロー

LCA(Life Cycle Assessment)は、製品やサービスなどにかかわる、原料の調達から製造、流通、 使用、廃棄、リサイクルに至るライフサイクル全体を対象とします。

なお具体的な実施フローは以下のようになります。(*1)

①LCA実施の目的と調査すべき範囲を設定します。
②活動量(製品製造時に投入するモノやエネルギーなどのデータ)を収集・設定します。
③原単位(温室効果ガス排出原単位など)を収集・設定します。
④活動量と原単位から温室効果ガスなどの排出量(CO₂,SO₂など)を計算します。次いで、温室効果ガスなどの排出量から環境などへの影響を検討します。また、前回の数値との比較分析を実施します。
⑤レビューを実施し、④の評価内容が妥当であるか検証します。
⑥温室効果ガス排出量の増減効果などを、製品開発の指標や、ステークホルダーコミュニケ―ションなどに活用します。

以上のLCA評価プロセスを「温室効果ガスに限定した事例」について下記にまとめます。

【参考資料】温室効果ガスに限定したLCA実施事例

図2. LCAの標準的な実施フロー例(温室効果ガスの場合)(*3)(出典:環境省)

2-2)環境負荷の算出方法、基本的な計算式

LCA(Life Cycle Assessment)の計算を進めるには、まず「活動量」と「排出原単位」を明確にする必要があります。具体的な計算方法は次のように行います。(*4)(*5)
①活動量の決定:活動量は、製品やサービスの生産において消費されるエネルギーや資源の量を指します。例えば電気の使用量、貨物の輸送量、廃棄物の処理量、各種取引金額などが該当します。
②排出原単位の決定:排出原単位は、特定の活動量に対してどれだけの環境負荷が発生するかを示す数値です。具体的には、上述の活動量あたりのCO₂やSO₂などの排出量で表されます。例えば電気1kWh使用あたりのCO₂排出量、貨物の輸送量1トンキロあたりのCO₂排出量、廃棄物の焼却1tあたりのCO₂排出量がそれに該当します。
③環境負荷の計算:これらを掛け合わせて、CO₂排出量などの環境負荷を計算します。基本的な式は次の通りです。

【参考資料】環境負荷(例えば、温室効果ガス(GHG))の排出量の計算方法

図3. 代表的な温室効果ガス排出量の算定方法(*1)(出典:環境省)

3)原単位とは?

3-1)原単位の定義と重要性

LCA(Life Cycle Assessment)における「原単位」とは、製品やサービスのライフサイクルにおける環境負荷を定量的に評価するための指標です。(*5)(*7)

具体的には、単位量あたりの環境負荷を表す数値です。例えばCO₂排出量やSO₂排出量などがこれに該当します。この原単位は、LCAの結果を表現する際に、定量的にその環境負荷を判断できるようにします。その結果、個々の環境への影響の比較や改善策の検討に使用できます。

3-2)原単位のデータ収集方法

原単位を一覧にまとめたものは、排出原単位データベースと呼ばれます。有名なデータベースとしては、日本国内では環境省の原単位データベースの他に数種類があります。また海外でも同様に数種類のデータベースが利用されています。

【参考資料】環境省の排出原単位データベース資料(1部抜粋)

図4.排出原単位データベース(*5) (出典:環境省)

3-3)原単位を用いたLCAの事例分析

排出原単位を用いた分析は、環境負荷を正確に評価し、持続可能な製品開発や環境改善策の作成の基礎となります。(*8)
そのためには、環境負荷を計算する前に、自社の事業活動の中身を調べて活動量を明確にすることが重要です。次いで、自社の活動量に合致した固有の排出原単位を選択し、それらを掛け合わせて合計値を計算します。

例えば、排出原単位3kg-CO₂e/kgの樹脂を100kg投入した場合は
(活動量)100㎏×(排出原単位)3kg-CO₂e/kg=(CO₂排出量)300㎏- CO₂e

また、排出原単位0.5kg-CO₂e/kWhの電力を200kWh消費した場合は
(活動量)200kWh×(排出原単位)0.5kg-CO₂e/kWh=(CO₂排出量)100㎏- CO₂e

環境負荷を計算するためには、事前準備として自社の事業に関する活動量の正確な把握と、適切な排出原単位の選択が必要です。そのためには、社内外で使用するエネルギー消費量や、排出物の物質に関する専門知識や評価手法の技術習得が必要となります。

【参考事例】自動車部品に使用する材料の環境負荷

具体的な環境負荷の算出方法を、「自動車に使用する材料」に限って計算した事例で説明します。この場合では、活動量としてポリプロピレンなどの使用材料とその質量(g)を設定します。また、排出原単位として「エネルギー使用量 原単位(電力、灯油など)」に、「各材料製造時の燃料燃焼によって大気中及び水域中に排出される環境負荷物質量 原単位(CO₂,(g/g)NOX(g/g)など)」、「電力生産によって大気中及び水域中に排出される環境負荷物質量 原単位(CO₂(g/Wh), NOX(mg/Wh)など)を掛け合わせて算出します。

具体的な計算方法は、以下のようになります。(*6)

例えば、ポリプロピレン製樹脂80gを使用した場合、活動量80gに以下の2つの原単位を掛け合わせてポリプロピレン製造に必要な電力生産によって排出されるCO₂排出量Aを計算します。

 ①ポリプロピレン製造時のエネルギー使用量原単位0.159(Wh/g)
 ②ポリプロピレンの電力生産によって大気中に排出される環境負荷物質量原単位0.425 CO₂(g/Wh)

また、同じく、活動量80gに原単位を掛け合わせてポリプロピレン製造時の燃料燃焼によって排出されるCO₂排出量Bを計算します。

 ③ポリプロピレン製造時の燃料燃焼により大気中に排出される環境負荷物質量原単位1.002 CO₂(g/g)

こうして得られた電力生産によって排出されるCO₂排出量Aと、燃料燃焼によって排出されるCO₂排出量Bの和が、ポリプロピレンの製造段階におけるCO₂排出量になります。


4)TOPPANでのCO₂排出量算定の事例

4-1)CO₂排出量算定の事例

TOPPANでは、環境に配慮した製品の開発と販売を推進しています。さらに、CO₂排出量の算定を行うことで環境負荷の低減を実現する取り組みも行っています。
にしき食品様の事例では、レトルト食品のパッケージに「レトルト殺菌の条件に耐えうる特殊な耐水加工と新たに開発した耐変色性を上げた用紙の使用によりレトルト対応可能な紙製スタンディングパウチ」を採用いただきました。
この紙製スタンディングパウチは、TOPPANが開発した世界最高水準のバリア性能を持つ透明バリアフィルム「GL BARRIER」を使用し、軟包装全体のフルバリア化を実現しています。内容物の品質保持も実現したパッケージで、紙の比重が包装材全体の中で最も大きいため、「紙製容器包装」に分類され「紙マーク」表記となります。
この製品は、環境に配慮した点や実際のCO₂排出量算定により、一般のアルミ構成のレトルトパウチと比較して包材製造時のCO₂排出量を約17%削減(※2)することが確認されており、環境負荷の低減を実現しています。

※2:当社算定。アルミ箔を使用したラミネート包材との比較。CO₂排出量の算定範囲はパッケージに関わる①原料の調達・製造、②製造、③輸送、④リサイクル・廃棄

4-2)SmartLCA-CO₂の紹介

さらに、TOPPANは、お客さま自身でも、パッケージのCO₂排出量を算定いただけるように、これまで当社が蓄積したLCAのノウハウを積め込んだ、クラウド型パッケージCO₂算定システム「SmartLCA-CO₂®」を商品化しました。

このクラウド型システムを導入いただくことで、LCAの知識がほとんどない初心者の方でも素早く、かつ簡単にCO₂排出量による「環境負荷の見える化」が実現できます。

LCA推進についてお困りの方は、ぜひ弊社へお気軽に問い合わせください。


出典:
(*1)再生可能エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関する LCA ガイドライン|環境省
https://www.env.go.jp/content/900447572.pdf
(*2)ライフサイクルアセスメントの新規格:ISO14040およびISO14044について|Journal of Life Cycle Assessment, Japan
https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/3/1/3_58/_pdf
(*3)サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.6)|環境省・経済産業省
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver.2.6.pdf
(*4)サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて|環境省・みずほ情報総研
https://www.env.go.jp/content/900447572.pdf
(*5)排出原単位データベース|環境省https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html
(*6)LCI 算出ガイドライン|一般社団法人日本自動車部品工業会JAPIA
https://www.japia.or.jp/work/kankyou/lciguideline/
(*7)「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」ウェブサイト|環境省
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/
(*8)サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.4)|環境省
https://www.japia.or.jp/files/user/japia/work/kankyo/LCA/JAPIA_LCI_guidline_Ver200_JP.pdf

2024.07.30

新着記事 LATEST ARTICLE
    人気記事 POPULAR ARTICLE
      関連サービス SERVICE