労災対策はどうすればいい?
発生原因や具体的な方法を解説
企業や事業者は、労働者の安全衛生を管理する社会的責任があります。
ひとたび死亡災害や重大な健康障害、第三者を巻き込む労働災害(労災)が発生すると、企業の社会的信用が大きく失墜してしまいます。
しかし製造業の現場では、ケガや病気のリスクが数多く存在しているのも事実です。
全国で発生している労災の内、製造業は全体の20%を占め、週あたりの発生件数は約2,000件と言われています。
また、厚生労働省が定める「第14次労働災害防止計画」には「製造業における機械によるはさまれ・巻き込まれの死傷者数を5%以上減少させること」と記載されています。
このような現状であるため、安全衛生責任者や人事教育担当者は、現場環境の改善や労働者の安全教育を行い、労災の発生防止に努めなければいけません。
そこで本記事では、製造業において労災が発生する要因や具体例、効果的な労災対策についてご紹介していきます。

労働災害(労災)とは
労働災害(以下:労災)とは、労働者が業務中に起因して事故に遭い、負傷や病気、障害や死亡することを指します。
労働安全衛生法では、労災を次のように定義しています。
ーー労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること(労働安全衛生法第2条第1項第1号)ーー
企業は事業活動を通じて社会に貢献する役割がありますが、同時に労働者の安全と健康を守る責任もあります。
万が一労災が起きると、労働者は労災保険により一定の補償が受けられます。一方、企業や事業者側は、災害の発生要因を特定し、再発防止を講じる必要があります。
労働災害(労災)の種類
労災の種類は、大きく3つに分けられます。
1. 業務災害・・・業務中に発生した事故や、それが起因で患った病気
2. 通勤災害・・・通勤時に発生した事故
3. 第三者行為災害・・・業務外の第三者を起因とした事故
労災は、通勤や出張、外出時などといった移動中の事故や、共同作業者の不注意による事故なども含まれます。
しかし製造業の労災の中で圧倒的に多いのが「1.業務災害」です。
製造業における労災の代表的なものは、次の通りとなります。
●挟まれ・巻き込まれ
●転倒
●墜落・転落
●動作の反動・無理な動作
●切れ・こすれ
製造業の現場では、様々な工具や化学薬品を使用しています。また、ベルトコンベアやプレス機などの大型設備を導入している現場も数多く存在します。
このように製造業の現場には様々な危険源が潜んでいるため、労災の種類も多岐に渡ります。安全衛生を管理する際は、様々な視点から発生原因を追求しなければなりません。
労働災害(労災)の発生原因
労災は「直接的原因」と「間接的原因」に分けられます。
1.直接的原因
●不安全な状態や環境などの物的原因(不安全な状態)
●不安全行動などの人的原因(不安全な行動)
2.間接的原因
●機械の設計不良などの技術的原因
●安全衛生に関する知識や経験不足
●疾病・疲労などの身体的原因
実際に起こる事故には「1.直接的原因」が関与していますが、その背景には必ず「2.間接的原因」が潜んでいます。
また、厚生労働省の「労働災害原因要素の分析(平成22年)」によると、労働災害が発生する主な原因は、次の通りとなっています。
1. 不安全な行動及び不安全な状態に起因する労働災害:94.7%
2. 不安全な行動のみに起因する労働災害:1.7%
3. 不安全な状態のみに起因する労働災害:2.9%
4. 不安全な行動もなく、不安全な状態でもなかった労働災害:0.6%
労働者の「不安全な行動」に起因する労働災害の割合は、全体の96.4%と大半を占めています。
そのため労災は機械や設備の故障や仕様不良などといった物的要因よりも、ほとんどが人的要因(ヒューマンエラー)によって起きていると考えられます。
製造業における労働災害(労災)の発生事例
●ベルトコンベアの点検中、作業者の確認を怠り設備を稼働。内部で点検していた作業者がコンベアに巻き込まれ死亡。
●ローラー設備に異物が付着。稼働中であったため設備を止めずに対処しようとし、指を巻き込まれ切断。
●有機溶剤保管庫のアース線が劣化により切断。作業者は気付かず保管庫に足を踏み入れたところ静電気により出火。保管場所にいた作業者は重度の火傷を負う。
●カッターを取り扱う工程で作業者は効率を考え一度にまとめて製品を切ろうとし、カッターに無理な力がかかり、勢い余って指を切創。
●エアーホースを外そうとしたところ、ホース内に残圧が残っており、ホースが暴れて目に当たる。
製造業における労災のうち、最も多いのは「挟まれ・巻き込まれ」です。
「挟まれ・巻き込まれ」は、機器に身体の一部や着衣が巻き込まれる災害で、死亡や手足の切断などといった重大災害になりやすい特徴があります。
機械や安全装置の故障などといった接義不良によって起こることもありますが、多くの場合、作業者の操作ミスや確認不足などのヒューマンエラーによって起きています。
また、食品加工業などといった刃物を使う現場では「切創」災害も多く発生しています。こちらも作業者の経験不足や不注意による発生がほとんどです。
労働災害(労災)対策の基本

労働災害の発生を防止するためには、ハードとソフトの両面で対策を講じる必要があります。
●ハード面・・・「モノ」への対策(安全装置の設置など)
●ソフト面・・・「ヒト」への対策(安全教育や安全衛生点検の実施など)
ハード面での労働災害対策事例
●設備の回転部や駆動部に安全カバーを設置する
●有機溶剤取扱い時に、帯電服・帯電履・防塵マスクを着用する
●高所作業時に防護柵や落下防止ネットを設置する
ハード面での対策は物理的に安全な状態を保つため、一定の効果が見込めます。
しかし全ての危険源に対して実施できるわけではありません。
実際のところは、安全装置の設置が困難な場所もあります。また、安全カバーの破損や安全装置の故障なども考えられます。
そのため、ハード面での対策では賄えきれない部分を、ソフト面でカバーする必要があります。
ソフト面での労働災害の対策事例
●転落や落下の危険がある現場に注意を促す看板を設置する
●定期的に過去の災害事例を共有し危険意識を高める
●作業者に正しい作業手順や禁じ手などを伝える
ソフト面での対策は「ヒト」に対して行われるため、汎用性が高く一定量の効果があります。しかし一方で定量化が難しく、労働者によって効果に差が生じます。
そこで現在の製造業の現場では、様々な対策を組み合わせて労働者の安全衛生を守っています。
具体的な労働災害(労災)対策
製造業の現場で行われている代表的な労災対策をご紹介します。
①5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)による職場環境の改善
安全衛生の基本とも言えるのが、5Sの徹底です。
●整理・・・不要なものを捨てること
●整頓・・・いつでも取り出し支える状態にすること
●清掃・・・きれいな状態を維持すること
●清潔・・・整理・整頓・清掃が行き届いた状態であること
●しつけ・・・上記4つのルールが守れるようにすること
5Sが行き届いた状態は、品質や職場環境の向上にも繋がるため、多くの製造現場で取り入れられています。
②KYT(危険予知訓練)の実施
KYT(危険予知訓練)は、作業現場で起こりうる危険を事前に予測し、防止策を考えるための訓練です。
複数人のグループを作り、現場の状況をイラストや写真などで確認しながら「どんな危険があるか」「どう防ぐか」を話し合うことで、安全意識を高めます。
③職場巡視や安全衛生点検の実施
管理者や安全衛生担当者は定期的に現場を見て回り、職場内の危険箇所や労働者の不安全行動がないかを確認します。
設備の状態、作業方法、整理整頓の状況などを確認し、問題があれば改善を指導。安全な職場環境の維持を目指します。
④定期的な安全教育の実施
安全に関する知識や意識を高めるための教育・研修も実施しています。
安全教育では主に事故防止の基本や機械の安全な使い方、緊急時の対応や過去の事例紹介などを行います。
また、安全教育は新入社員だけではなく、現場の労働者全員に定期的に実施することが重要とされています。
作業者全員が「自分ごと」として捉える実体験ベースの労災対策が必要
労災の発生を防ぐには、職場環境の改善だけではなく、労働者自身が安全に対する意識を高める必要があります。
現場に安全柵や安全装置を設置したり、指定保護具を定めたりしても、最終的にそれを正しく使用するかどうかは、労働者個人の判断に委ねられます。
そのため安全教育では、いかに「自分ごと」として認識してもらえるかが重要となります。
一昔前までの安全教育は、テキストや資料を使った座学講習が基本でしたが、近年はデモンストレーションや体験型の安全教育の導入が進められています。
デモンストレーション・体験型安全教育の例
●人の指に見立てた樹脂を鉄板に押し当て切創災害を再現
●安全靴を履いたマネキンの足上に重りを落下させ、重量物の落下による打撲・骨折災害を再現
●滑りやすい床面を再現したサンプルの上を実際に歩いてもらう
また、近年最も注目されているのが、VR(バーチャルリアリティ)を活用した安全教育です。
VR(バーチャルリアリティ)の導入で効果的な労災対策を実現
VR動画では360°全方向が映し出されるため、より没入感のある状態で事故を疑似体験できます。
動画やデモンストレーションと比べて格段にリアリティがあるため、労働者の不安全行動の抑止や、安全意識の向上に大きく貢献します。
当社の取り扱っている「安全道場VR®︎」は、ヘッドマウントディスプレイ型のVR視聴器となります。

視聴器本体には、あらかじめ製造現場で起こりうる事故を再現した映像が収録されており、ゴーグルを付けるだけですぐに視聴ができます。
安全教育コンテンツの例
● カッター切創
● 機械稼働
● 高所落下
● エアブロー清掃
● 機械点検
● 機械清掃
● 可燃性溶剤火災
VR動画を活用した安全教育は、製造現場だけではなく、技術系の資格講習内の安全教育にも導入が進んでいます。
2025.08.05